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連載「夫婦・パートナー関係」第15回(全5回) 第1回から読む →

いま危険があるときは

差し迫った危険があるときは、警察(110番)へご連絡ください。 けがや体調の急変があるときは救急(119番)です。

配偶者暴力相談支援センターという公的な相談先があります。都道府県が設置する女性相談支援センターなどがこの働きを担っており、市町村も、自ら設けた施設でこの働きを果たすよう努めることとされています。全国共通の短縮番号 #8008(DV相談ナビ)におかけいただくと、お近くの都道府県の配偶者暴力相談支援センターにつながります。 行っていることは、相談と相談機関の紹介、カウンセリング、被害を受けている方とその同伴者の、緊急時における安全の確保と一時保護、自立して暮らしていくための情報提供と援助、保護施設の利用についての情報提供と援助、保護命令の制度についての情報提供と援助です。急いだほうがよい対応が含まれますので、迷っている段階でも連絡して構いません。

⚠️ #8008 の受付時間は、各機関の受付時間内です。都道府県ごとに異なり、24時間ではありません。 また、NTTの固定電話の一部の地域や、一部のIP電話からはつながらないことがあります。その場合は、都道府県または市町村の配偶者暴力相談支援センターへ直接おかけください。

24時間つながる窓口としては、DV相談+(プラス)があります。 電話は 0120-279-889 で、24時間の受付です。チャットでの相談は 12時から22時まで受け付けており、チャットは10か国語に対応しています。毎週日曜の15時から21時までは、男性の被害者向けの専用回線が設けられています。運営は内閣府と、一般社団法人 社会的包摂サポートセンターです。

医療的な相談は、精神科や心療内科でも受けられます。当院で相談できる範囲は、記事の後半に書いています。


先に、この記事が扱わないことを書いておきます。 暴力の場面そのものの描写は書きません。保護命令の要件、離婚の調停、親権や財産の分け方といった法的な手続きの具体も書きません(当院の範囲ではありません)。読んでいて苦しくなったら、途中でやめていただいて構いません。

この記事は、関係改善の話ではありません

夫婦・パートナー関係をテーマにした全15回のシリーズの、最終回です。

ここまでの14回で、このシリーズは関係をよくしていくための工夫を紹介してきました。何を期待しているのかを分けて見ること。不満を頼みごとの形に言い換えること。話し合いの場と決めごとを整えること。相手の過去や、二人の外側にいる人たちとの距離をどう考えるか。

パートナーからの暴力がある場合、これらは当てはまりません。 伝え方を変えれば暴力が止まる、という関係ではないからです。

⚠️ そして、この記事は身体への暴力だけを扱っているのではありません。 ここまでの14回では、暴力や、相手からの強い支配がある関係についてはこの最終回で扱う、と書いてきました。手が出ていなくても、逆らえば怒鳴られる、物に当たられる、口をきかないことで折れるまで待たれる、正しさを盾に責め立てられて従うほかない、昔のことを繰り返し持ち出される、病気を理由に思いどおりに動かされる、頼んでも生活費を渡してもらえない、出かける先をいちいち確かめられる、怖くて向き合えない——そういう形で相手を思いどおりに動かすために力が使われている関係は、この記事の射程に入ります。 手が出ていないから当てはまらない、ということはありません。

もとにした本も、そこをはっきり書いています。お互いの期待をすり合わせていく作業は、暴力があるところではほとんど成り立たない。 脅かされたままでは、思っていることを口に出しきれないからだ——と。原著はこれを、善悪の議論としてではなく、治療の枠組みが立つ土台が失われるという筋道から説明しています。

そのうえで原著は、暴力があるのなら、当然に離れることを考えるべき場面だ、と書いています。

⚠️ ただし、この一文だけを取り出すと意味が変わります。 原著が言っているのは道徳の話ではなく、いま書いた理由づけのほうです。そして、この記事は「別れるべきだ」とは申し上げません。 同時に、「関係を続けるための方法」も示しません。 どの道を選ぶかを決めるのは、ほかの誰でもなくご自身です。

この記事が担当するのは、次の五つです。 責任がどこにあるのか。離れにくくなる仕組みのうち、暴力や強い支配のある関係に固有の部分。自尊心がその関係のなかで削られていくこと。別れたあとのご自身の手当て。そして、お子さんへの説明です。

すでに書かれていることは、繰り返しません。

  • 暴力が長く続いたあとに残っている症状——気持ちの波を抑えられない、自分を傷つけてしまう、意識や記憶が途切れる、慢性的な恥の感覚、人そのものへの警戒——は複雑性PTSDとはにあります。この記事は症状の説明をしません。
  • 自分を責めてしまうこと自体が症状として起きているという説明と、安全のとらえ方を組み直していく回復の道筋対人トラウマとはにあります。
  • トラウマとは何か、思い出したくないことが不意に戻ってくるときの対処はトラウマとは何かに、医療の側がどう構えるべきかトラウマインフォームドケアとはにあります。

危険を作り出しているのは、力をふるう側です

医療の側は、こう見ます

機嫌を損ねないように立ち回れなかったこと。言い返してしまったこと。その場を離れられなかったこと。どれも、暴力の理由にはなりません。

相手が変わるのを待ってしまったことにも、期待してしまったことにも、落ち度はありません。関係をよくしようとしてきたこと自体が、責められる理由になることはありません。

⚠️ ここに書いていくのは、これから使える手立てです。過去にそうしなかった方に落ち度があった、という意味ではありません。

そのうえで、ご自身の側に理由を探してしまうとき

自分が至らなかったから。自分が怒らせたから。自分がもっと気をつけていれば、こうはならなかった——。そう思えてしまうことがあります。

それは、ご自身が何が起きたのかを受け止めるための説明であって、責任の所在とは別のものです。

  • 自分の理解のために——何が起きたのかを自分の言葉で置き直し、これから身を守る手立てを持つ
  • 責任の所在としては——力をふるった側にある

この二つは、同時に成り立ちます。備えを考えることと、自分を責めることは、別のことです。

なお、自分を責めてしまうこと自体が症状として起きているという説明は対人トラウマとはにあります。この記事では、責任がどこにあるのかだけを書きます。

離れにくいのは、決意が足りないからではありません

外から見れば離れるしかないと思える状況であっても、その関係を実際に閉じるのは容易ではない、と原著は書いています。

離れること自体に人の手を借りてよいという話は、前回で扱いました。ここでは、暴力のある関係に固有の部分だけを書きます。

離れようとするときの見え方が偏ることについては、生活の変わり目がつらいときがその仕組みを説明しています。この記事では説明しません。 ここで書くのは、暴力や強い支配のある関係に固有の四つ——恐れ、お金を握られていること、人が減らされていること、相手から言われた言葉が残ること——だけです。

恐れ

原著が難しさの理由として最初に挙げているのは、暴力があるために身が危ないということです。そのうえで、この記事の側から書き添えます。 出ていくと言えば何が起きるか分からない、という状況では、離れる算段を立てること自体が危ないことになります。

ですから、動けていないことは、判断を誤っているということではありません。

そして、原著が別に一段の勧めを置いているのがここです。暴力のある関係については、どういう形であれ専門家を間に入れたほうがよい、と。一人で算段を立てるより、公的な窓口に相談したほうがよい場面です。記事の冒頭に連絡先を置いています。

お金を握られていること

暮らしのお金を渡してもらえない。使い道を細かく管理される。働くことを許されない。手元に貯えを持てない。——これらがあると、離れたあとに暮らしが立つのかどうかを、そもそも見積もれません。

原著が別れをためらわせるものとして挙げている不安は前回に並べました。お金を握られていると、そのどれもが実際に重くなります。

⚠️ 配偶者暴力相談支援センターの働きには、自立して暮らしていくための情報提供と援助が含まれています。 見積もれないところを一人で見積もろうとしなくて構いません。

人が減らされていること

相談できる相手を減らされてきた。連絡のやりとりを見られている。出かける先を確かめられる。——そうやって周りが細くなっていくと、外の目で自分の状況を見ることが難しくなります。

前回に並べた不安のうち、この先ずっと独りなのではないかという心細さは、孤立が進んでいると、実際のこととして迫ってきます。

相手から言われた言葉を、そのまま受け取ってしまうこと

力をふるう側は、一人になったらやっていけない、という類のことを言います。それを本当のことだと思ってしまう。 原著はその背景に、自尊心が低くなっていることを置いています。

⚠️ 原著はこの例を、性別を伴う言い方で挙げています。この記事は、これを性別で決まる話としては扱いません。 言葉の中身も並べません。⚠️ そしてこの記事の側から書き添えると、そう受け取ってしまうのは、繰り返し言われてきたからです。

⚠️ そして、ここは原著と扱いを変えている場所です。 原著は、離れられない背景を掘っていくとご自身の弱いところが見えてくることがある、という枠組みのなかにこれを置いています。この記事は、その使い方をしません。 理由は二つです。一つは、離れられない理由をご自身の側に探す形になるからです。 責任の所在は、前の節に書いたとおりです。もう一つは、原著自身が、この見方を自分を責めるために使わないでほしい、と釘を刺していることです。

自尊心は、その関係のなかで削られていきます

原著が終章に置いている記述で、この記事にとって最も大事なものがあります。

自尊心が低くなっているのは、その人が育ってくる過程で形づくられてきた場合も多い。けれども原著は、それが暴力のある関係のなかでいっそう悪くなっていく、と書いています。 そして——その関係から離れていく過程のなかで、失われていたものは少しずつ戻ってくる。

これは、順番の話として重要です。 自尊心が低いからその関係にとどまっている、という向きだけで読まないでください。その関係にいるあいだ、削られ続けているという向きも、原著が同じ箇所に書いています。そして、戻ってくるのは、そこから離れていく過程のなかでだとされています。この記事の側から言えば、先に自信を取り戻してから動く、という順番ではないということです。

そして、原著が終章ではっきり否定していることが一つあります。繰り返し力をふるってくる相手のもとで、自分の思いを抑え込んだまま合わせていくこと。それは、自分の弱いところを越えることではない——と原著自身が書いています。

暴力による別れのあと、ご自身の手当てを先にする

原著は、第12章の終わりにこう書いています。暴力による別れのときはとくに、親の側が精神の面で傷を負い、うつ病などの心の病を抱えている場合も多い。

そして、続けてこう書いています。親の側が心の病を抱えたままだと、それは子どもの育ちにも及んでいく。だから、専門家を頼って自分の側の手当てを先に済ませるほうが、結果として子どものためになる。

親の心の状態が子育ての場面に表れてくるという経路そのものは、シリーズの第13回で扱いました。ここで書くのは、その順番です。ご自身の手当てを後回しにしないことが、そのまま子どものためになる——というのが原著の言い方です。

原著はさらに、こう書き添えています。いまは心が持ちこたえていると感じられても、一人で子どもを育てていくのは骨が折れることです。 ですから、何もかもを一人で抱えず、任せられることは任せて、困ったときに打ち明けられる相手を持っておく——と。

⚠️ お断りします。これは、そうしてこなかった方に落ち度があった、という意味ではありません。 頼れる相手を減らされてきた場合には、そこから作り直すこと自体が仕事になります。その仕事のほうを、公的な窓口や診察の場でご相談ください。

⚠️ そして、もう一つ大事なお断りです。原著は、ひとり親という家庭の形そのものを問題として扱っていません。 この点は前回にくわしく書きました。この節を、別れると子どもによくない、という結論のために読まないでください。

お子さんに、どう説明するか

原著は、暴力があった場合の子どもへの説明のしかたについて、具体的に書いています。

原著が置いている対比は、「不適切な人格」として説明するのではなく、「病気」として説明するほうがよいというものです。原著が挙げている言い方は、いまは気持ちを抑えることのできない病気の状態にあるのだ、よくなるまでは離れて住もう——という形です。この形のほうが、お子さんの自尊心のためにはよく働くだろう、と原著は書いています。

理由も書かれています。そういう人格の持ち主を親として生まれてきたのだ、という自分自身についての感じ方が、子どもの自尊心を根っこのところで損なうからです。

⚠️ これは、暴力をふるったことを免じるための説明ではありません。 責任の所在は、この記事の前半に書いたとおりです。ここで守られているのは、子どもの自尊心のほうです。

⚠️ そして、これは関係が元に戻ることを見込むという意味でもありません。 原著が示しているのは、子どもに何をどう伝えるかという説明のしかたであって、このあと関係をどうするかは、この説明とは別の話です。

⚠️ そして、別れたあとに相手のことを悪く言い続けないことについては、前回で扱いました。この節が扱うのは、暴力があった場合に固有の説明のしかただけです。

なお、当院の診療対象は18歳以上の方です。お子さんの診療や、保護者のみのご相談はお受けしていません。この記事は、医療情報の紹介としてお読みください。

当院での考え方

暴力のある関係のなかで出てきた症状についてのご相談は、当院で承っています。 眠れない、気分が落ち込む、動悸や食欲の変化が続く、思い出したくないことが不意に戻ってくる、外に出るのがつらい——こうした変化が出ているときは、ご自身の受診としてお話しください。

一方で、当院で行っていないことも書いておきます。

当院では、対人関係療法を含む専門的な心理療法プログラムを提供しておりません。 また、当院には心理士がおらず、カウンセリングも行っていません。カップル療法・夫婦カウンセリング(お二人で来ていただいて行う治療)も行っていません。 そして、トラウマに特化した専門治療(トラウマ焦点化認知行動療法・EMDR など)も行っておりません。 これらをご希望の場合は、実施している医療機関をご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

何があったのかを話さないままでも、受診していただけます。 話したくないことを話す必要はありません。そのうえで、話さないでいることが体調に響いているようなら、そのことのほうを扱えます。

この記事に出てくる相手の方を、診察にお連れいただく必要はありません。 当院では、ご家族のみのご相談はお受けしておりませんが、ご自身の受診としてであれば、ご相談いただけます。 どうするかを決めかねている段階のまま、そのままお話しいただいて構いません。

保護命令の要件、離婚の調停、親権や財産の分け方についてのご相談はお受けできません。 これらは当院の範囲ではありませんので、それぞれの専門の窓口をご自身でお探しいただくことになります(身の安全に関わることは、記事の冒頭にある公的な窓口でご相談いただけます)。

当院では初診の前にWEB問診にご記入いただきます。初診の時間は問診を含めて30分程度、再診はおおむね5分前後をみています。通院の頻度は2週間に一度が基本です。

受診の目安

次のようなときは、一度ご相談ください。ご自身のこととしてお読みください。

  • 相手の機嫌をうかがうことに、一日の大半を使っている
  • 何か言うたびに、あとで何が起きるかを考えて言葉を飲み込んでいる
  • 眠れない、食べられない、体調が続かないという状態が2週間以上続いている
  • 思い出したくないことが、自分の意思とは関わりなく戻ってくる
  • 自分の判断が信用できなくなっていて、何を決めるのにも消耗する
  • 離れたほうがよいと思うのに、そのたびに考えが止まってしまう
  • 自分を傷つけたいという考えが浮かぶことがある

当てはまるからといって、すぐに病気だということではありません。診断は医師が診察のうえで行います。なお、当院の診療対象は18歳以上の方です。

もう一度、安全のことを書いておきます。 いま危険が続いている状況であれば、まず身の安全を確保してください。 差し迫った危険があるときは警察(110番)へ、けがや体調の急変があるときは救急(119番)へご連絡ください。

配偶者暴力相談支援センターへは全国共通の短縮番号 #8008(DV相談ナビ)でつながります(各機関の受付時間内。都道府県ごとに異なります)。24時間つながる窓口は DV相談+(0120-279-889)で、チャットは12時から22時まで、毎週日曜の15時から21時までは男性の被害者向けの専用回線があります。迷っている段階でも連絡して構いません。

通院中の方は主治医に、急を要する場合は救急(119番)にご連絡ください。

まとめ

  • パートナーからの暴力や強い支配がある場合、このシリーズで書いてきた工夫は当てはまりません。 伝え方を変えれば止まる、という関係ではないからです。手が出ていなくても、怒鳴る、口をきかないことで折れるまで待つ、正しさを盾に責める、昔のことを持ち出す、病気を理由にする、お金を握る、出かける先を確かめる——そうやって相手を思いどおりに動かすために力が使われている関係は、この記事の射程に入ります
  • もとにした本も、そこを枠組みから説明しています。お互いの期待をすり合わせていく作業は、暴力があるところではほとんど成り立たない。 脅かされたままでは、思っていることを口に出しきれないからだ、と
  • 原著は、暴力があるのなら、当然に離れることを考えるべき場面だと書いています。⚠️ ただしこの一文だけを取り出すと意味が変わります。この記事は「別れるべきだ」とも「続ける方法がある」とも申し上げません
  • 危険を作り出しているのは、力をふるう側です。 機嫌を損ねないように立ち回れなかったこと、言い返してしまったこと、その場を離れられなかったこと——どれも暴力の理由にはなりません
  • 自分の理解のために何が起きたかを置き直すことと、責任の所在が力をふるった側にあることは、同時に成り立ちます。備えを考えることと、自分を責めることは別のことです
  • 外から見れば離れるしかないと思える状況でも、その関係を実際に閉じるのは容易ではない、と原著は書いています。原著が理由として最初に挙げているのは暴力があるために身が危ないということで、この記事の側から言えば、離れる算段を立てること自体が危ないことになるため、動けていないことは判断を誤っているということではありません
  • お金を握られていると、離れたあとに暮らしが立つのかをそもそも見積もれません。 配偶者暴力相談支援センターの働きには、自立して暮らしていくための情報提供と援助が含まれています
  • 相談できる相手を減らされてきていると、外の目で自分の状況を見ることが難しくなります。 前回に並べた不安のうち、この先ずっと独りなのではないかという心細さも、孤立が進むと実際のこととして迫ってきます
  • 力をふるう側は、一人になったらやっていけない、という類のことを言います。それを本当のことだと思ってしまう。 原著はその背景に、自尊心が低くなっていることを置いています。⚠️ 原著はこの例を性別を伴う言い方で挙げていますが、この記事は性別で決まる話としては扱いません。 そして、そう受け取ってしまうのは繰り返し言われてきたからだというのは、この記事の側からの書き添えです
  • ⚠️ 原著は、離れられない背景を「自分の弱点を見つける手がかり」という枠組みに置いていますが、この記事はその使い方をしません。 離れられない理由をご自身の側に探す形になるためです。原著自身も、この見方を自分を責めるために使わないでほしい、と釘を刺しています
  • 自尊心が低くなっているのは育ってくる過程で形づくられてきた場合も多いけれども、それは暴力のある関係のなかでいっそう悪くなっていく、と原著は書いています。そして、そこから離れていく過程のなかで、失われていたものは少しずつ戻ってくる、と。この記事の側から言えば、先に自信を取り戻してから動く、という順番ではありません
  • 原著は、繰り返し力をふるってくる相手のもとで自分の思いを抑え込んだまま合わせていくことは、自分の弱いところを越えることではないと、はっきり否定しています
  • 暴力による別れのときはとくに、親の側が精神の面で傷を負い、うつ病などの心の病を抱えている場合も多い、と原著は書いています。⚠️ ただし原著は、ひとり親という家庭の形そのものを問題として扱っていません(この点は前回にくわしく書きました)。そして、専門家を頼って自分の側の手当てを先に済ませるほうが、結果として子どものためになる、と
  • 何もかもを一人で抱えず、任せられることは任せて、困ったときに打ち明けられる相手を持っておく、というのが原著の勧めです。⚠️ これは、そうしてこなかった方に落ち度があったという意味ではありません
  • お子さんへの説明について原著が置いている対比は、「不適切な人格」として説明するのではなく、「病気」として説明するほうがよいというものです。理由は、そういう人格の持ち主を親として生まれてきたのだ、という自分自身についての感じ方が、子どもの自尊心を根っこのところで損なうからです。⚠️ 暴力をふるったことを免じるための説明ではありませんし、関係が元に戻ることを見込むという意味でもありません
  • 暴力のある関係のなかで出てきた症状についてのご相談は、当院で承っています。 一方で、トラウマに特化した専門治療(トラウマ焦点化認知行動療法・EMDR など)は行っておりません。 紹介状は必要に応じて作成します
  • 何があったのかを話さないままでも、受診していただけます。 話さないでいることが体調に響いているようなら、そのことのほうを扱えます
  • いま危険が続いているときは、まず身の安全を確保してください。 差し迫った危険は警察(110番)、けがや体調の急変は救急(119番)。配偶者暴力相談支援センターへは全国共通の短縮番号 #8008(各機関の受付時間内。都道府県ごとに異なります)、24時間つながるのは DV相談+(0120-279-889)です。迷っている段階でも連絡して構いません

シリーズの締めに、もとにした本の終章に置かれている一節を引いておきます。

よくなり方に決まった形はなく、初めから答えが用意されているものでもない、と原著は書いています。思いを抑え込んだまま続けることが答えなのではなく、よく考えたうえで別れるほうを選び、不安を抱えたまま、自分で納得できる道を歩き出したときに、はじめて自分に力があると思えた、という方もいる——と。

15回にわたって見てきたのは、相手を変える技ではありませんでした。何を期待していたのかを自分の側で分けて見ること、それを診察の場で言葉にしてみること、そして、どの道を選ぶかは自分が決めてよいということです。

相手に向かって言えない事情があるときに、無理に言葉にする必要はありません。その事情のほうをご相談ください。

そして、安全が脅かされているときには、その手前に置くものがあります。 この記事の冒頭に書いたとおりです。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 水島広子『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係』創元社

公的な相談窓口の名称・電話番号・受付時間・業務内容は、内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センター」および内閣府「DV相談プラス」の記載を 2026年7月30日に確認して記載しています。制度や受付時間は変わることがありますので、実際にご利用になるときは各窓口の案内をご確認ください。

よくある質問

伝え方を工夫すれば、暴力は止まるのでしょうか。

そういう関係ではありません。このシリーズでは、期待を言葉にする、頼み方を変える、話し合いの場を整える、といった工夫を紹介してきましたが、暴力や強い支配がある場合には当てはまりません。もとにした本は、その理由を治療の枠組みから説明しています。お互いの期待をすり合わせていく作業は、暴力があるところではほとんど成り立たない。脅かされたままでは、思っていることを口に出しきれないからです。ですから、工夫が足りないから止まらないのではありません。まず身の安全を確保することが先になります。

自分が怒らせたからだ、自分の対応が悪かったからだ、と思ってしまいます。

危険を作り出しているのは、力をふるう側です。機嫌を損ねないように立ち回れなかったこと、言い返してしまったこと、その場を離れられなかったこと——どれも暴力の理由にはなりません。そのうえで、ご自身の側に理由を探してしまうことがあります。それは、何が起きたのかをご自身が受け止めるための説明であって、責任の所在とは別のものです。何が起きたのかを自分の言葉で置き直し、これから身を守る手立てを持つこと。そして、責任の所在は力をふるった側にあること。この二つは同時に成り立ちます。備えを考えることと、自分を責めることは別のことです。なお、自分を責めてしまうこと自体が症状として起きているという説明は、対人トラウマの記事にあります。

離れたほうがよいと分かっているのに、動けません。

もとにした本は、外から見れば離れるしかないと思える状況であっても、その関係を実際に閉じるのは容易ではない、と書いています。理由は身の危険だけではありません。暴力や強い支配のある関係では、出ていくと言えば何が起きるか分からないという恐れ、暮らしのお金を握られていて動けないこと、相談できる相手を減らされてきたことが重なります。原著は、暴力のある関係については、どういう形であれ専門家を間に入れたほうがよい、と書いています。動けないことは、決意が足りないからではありません。記事の冒頭に、公的な相談先の連絡先を置いています。

当院で相談できるのは、どういうことですか。

暴力のある関係のなかで出てきた、眠れない、気分が落ち込む、動悸や食欲の変化が続く、思い出したくないことが不意に戻ってくる——こうした症状についてのご相談は、当院で承っています。ご自身の受診としてお話しください。一方で、トラウマに特化した専門治療(トラウマ焦点化認知行動療法・EMDR など)は当院では行っておりません。実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。なお、何があったのかを話さないままでも受診していただけます。話さないでいることが体調に響いているようなら、そのことのほうを扱えます。

子どもに、どう説明すればよいのでしょうか。

もとにした本が置いている対比は、「不適切な人格」として説明するのではなく、「病気」として説明するほうがよい、というものです。原著が挙げている言い方は、いまは気持ちを抑えることのできない病気の状態にあるのだ、よくなるまでは離れて住もう——という形です。理由は、そういう人格の持ち主を親として生まれてきたのだ、という自分自身についての感じ方が、子どもの自尊心を根っこのところで損なうからです。これは、暴力をふるったことを免じるための説明ではありません。責任の所在は、力をふるった側にあります。ここで守られているのは、子どもの自尊心のほうです。そして、関係が元に戻ることを見込むという意味でもありません。なお当院の診療対象は18歳以上の方です。お子さんの診療や、保護者のみのご相談はお受けしていません。

男性でも相談できる窓口はありますか。

あります。DV相談+には、毎週日曜の15時から21時まで、男性の被害者向けの専用回線が設けられています(受付の詳細はDV相談+の案内をご確認ください)。この記事は、被害を受ける側を性別で固定していません。なお、配偶者暴力相談支援センターの機能は、都道府県が設置する女性相談支援センターなどが担っています。全国共通の短縮番号(#8008)の案内には男性の被害者についての記載がないため、この記事では利用できると断定しません。ただし、利用できないと書かれているわけでもありません。そして、差し迫った危険のときの警察(110番)と、けがや体調の急変のときの救急(119番)は、性別によりません。#8008は各機関の受付時間内で、都道府県ごとに異なります。24時間ではありません。24時間受け付けているのは DV相談+(0120-279-889)の電話のほうです。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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