福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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連載「夫婦・パートナー関係」第15回(全15回) 第1回から読む →

いま危険があるときは

差し迫った危険があるときは、警察(110番)へご連絡ください。 けがや体調の急変があるときは救急(119番)です。

公的な相談先としては、配偶者暴力相談支援センターがあります。全国共通の短縮番号 #8008(DV相談ナビ)におかけいただくと、お近くの都道府県の配偶者暴力相談支援センターにつながります。相談と相談機関の紹介、カウンセリング、被害を受けている方とその同伴者の、緊急時における安全の確保と一時保護、自立して暮らしていくための情報提供と援助、保護施設や保護命令の制度についての情報提供と援助までを行っている窓口です。急いだほうがよい対応が含まれますので、迷っている段階でも連絡して構いません。 #8008 の受付は各機関の受付時間内で、都道府県ごとに異なり、24時間ではありません。NTTの固定電話の一部の地域や、一部のIP電話からはつながらないことがあり、その場合は都道府県または市町村の配偶者暴力相談支援センターへ直接おかけください。

24時間つながる窓口としては、DV相談+(プラス)があります。 電話は 0120-279-889 で、24時間の受付です。チャットでの相談は12時から22時まで(10か国語対応)、毎週日曜の15時から21時までは、男性の被害者向けの専用回線が設けられています。

医療的な相談は、精神科や心療内科でも受けられます。当院で相談できる範囲は、記事の後半に書いています。

この記事は、関係改善の話ではありません

夫婦・パートナー関係を扱う全15回のシリーズの最終回です。ここまでの14回では、期待を分けて見たり、不満を頼みごとに言い換えたり、話し合いの場を整えたりする方法を扱ってきました。パートナーからの暴力や強い支配がある場合、これらは当てはまりません。 脅かされたままでは思っていることを口に出しきれず、期待をすり合わせる土台が成り立たないからです。

ここでいう暴力は、身体への暴力だけではありません。手が出ていなくても、逆らえば怒鳴られる、物に当たられる、口をきかないことで折れるまで待たれる、正しさを盾に責め立てられて従うほかない、昔のことを繰り返し持ち出される、病気を理由に思いどおりに動かされる、頼んでも生活費を渡してもらえない、出かける先をいちいち確かめられる——そうやって相手を思いどおりに動かすために力が使われている関係は、すべてこの記事の射程に入ります。 手が出ていないから当てはまらない、ということはありません。

この記事は「別れるべきだ」と決めるものでも、「関係を続ける方法」を示すものでもありません。扱うのは、責任の所在、離れにくくなる仕組み、自尊心が削られていくこと、別れたあとのご自身の手当て、お子さんへの説明です。暴力が長く続いたあとに残る症状は複雑性PTSDとはに、自分を責めてしまうこと自体が症状として起きることは対人トラウマとはにあります。

危険を作り出しているのは、力をふるう側です

機嫌を損ねないように立ち回れなかったこと。言い返してしまったこと。その場を離れられなかったこと。どれも、暴力の理由にはなりません。 相手が変わるのを待ってしまったことにも、期待してしまったことにも、関係をよくしようとしてきたこと自体にも、落ち度はありません。

それでも、自分が至らなかったから、自分が怒らせたから、自分がもっと気をつけていれば——そう思えてしまうことがあります。それは、何が起きたのかをご自身が受け止めるための説明であって、責任の所在とは別のものです。 何が起きたのかを自分の言葉で置き直し、これから身を守る手立てを持つこと。そして、責任の所在は力をふるった側にあること。この二つは、同時に成り立ちます。 備えを考えることと、自分を責めることは、別のことです。

離れにくいのは、決意が足りないからではありません

外から見れば離れるしかないと思える状況でも、その関係を実際に閉じるのは容易ではありません。 離れること自体に人の手を借りてよいという話は前回に書きました。暴力や強い支配のある関係では、次の四つが動くことを難しくします。

恐れ

出ていくと言えば何が起きるか分からない状況では、離れる算段を立てること自体が危険になります。 動けていないことは、判断や決意が足りないということではありません。だからこそ、一人で算段を立てず、公的な窓口や専門家を間に入れてください。連絡先は記事の冒頭にあります。

お金を握られていること

生活費を渡されない、使い道を管理される、働くことを許されない、貯えを持てない。こうした状況では、離れたあとの暮らしが立つかを見積もること自体が難しくなります。 前回に挙げた不安も重くなります。配偶者暴力相談支援センターでは、自立して暮らすための情報提供と援助も受けられます。

人が減らされていること

相談相手を減らされ、連絡や外出を確かめられていると、外の目で自分の状況を見ることが難しくなります。 孤立が進むほど、この先ずっと独りなのではないかという心細さも、現実のこととして迫ります。

相手から言われた言葉を、そのまま受け取ってしまうこと

一人ではやっていけない、という類の言葉を繰り返されると、本当のことのように感じられます。背景には、その関係のなかで自尊心が低くなっていることがあります。離れられない理由を、ご自身の側に探す必要はありません。 責任の所在は、前の節に書いたとおりです。

自尊心は、その関係のなかで削られていきます

自尊心の低さは、育ってくる過程で形づくられてきた場合も多いものです。けれども、暴力のある関係のなかでは、それがいっそう悪くなっていきます。 そして、失われていたものは、その関係から離れていく過程のなかで、少しずつ戻ってきます。

これは、順番の話として重要です。自尊心が低いからその関係にとどまっている、という向きだけではなく、その関係にいるあいだ、削られ続けているという向きがあります。そして戻ってくるのは、そこから離れていく過程のなかでです。先に自信を取り戻してから動く、という順番ではありません。

もう一つ、はっきり書いておきます。繰り返し力をふるってくる相手のもとで、自分の思いを抑え込んだまま合わせていくこと。それは、自分の弱いところを越えることではありません。

暴力による別れのあと、ご自身の手当てを先にする

暴力による別れのときはとくに、親の側が精神の面で傷を負い、うつ病などの心の病を抱えている場合も多いものです。親の側が心の病を抱えたままだと、それは子どもの育ちにも及んでいきます。ですから、専門家を頼って、ご自身の手当てを先に済ませるほうが、結果として子どものためになります。 親の心の状態が子育ての場面に表れてくるという経路そのものは、シリーズの第13回で扱いました。ここで大事なのは、その順番です。

いまは心が持ちこたえていると感じられても、一人で子どもを育てていくのは骨が折れることです。何もかもを一人で抱えず、任せられることは任せて、困ったときに打ち明けられる相手を持っておくこと。 頼れる相手を減らされてきた場合には、そこから作り直すこと自体が一つの仕事になります。その仕事のほうを、公的な窓口や診察の場でご相談ください。なお、ひとり親という家庭の形そのものが問題なのではないことは、前回に書いたとおりです。

お子さんに、どう説明するか

暴力があった場合の子どもへの説明のしかたについて、もとにした本は具体的な形を挙げています。「不適切な人格」として説明するのではなく、「病気」として説明する。 いまは気持ちを抑えることのできない病気の状態にあるのだ、よくなるまでは離れて住もう——という形です。理由は、そういう人格の持ち主を親として生まれてきたのだ、という自分自身についての感じ方が、子どもの自尊心を根っこのところで損なうからです。

これは、暴力をふるったことを免じるための説明ではありません。責任の所在は、この記事の前半に書いたとおりです。守られているのは、子どもの自尊心のほうです。 そして、関係が元に戻ることを見込むという意味でもありません。これは子どもに何をどう伝えるかという説明のしかたであって、このあと関係をどうするかは、別の話です。

なお、当院の診療対象は18歳以上の方です。お子さんの診療や、保護者のみのご相談はお受けしていません。この記事は、医療情報の紹介としてお読みください。

当院での考え方

暴力のある関係のなかで出てきた症状についてのご相談は、当院で承っています。 眠れない、気分が落ち込む、動悸や食欲の変化が続く、思い出したくないことが不意に戻ってくる、外に出るのがつらい——こうした変化が出ているときは、ご自身の受診としてお話しください。

一方で、当院で行っていないこともあります。当院では、対人関係療法を含む専門的な心理療法プログラムを提供しておらず、心理士がおらず、カウンセリングも行っていません。カップル療法・夫婦カウンセリング(お二人で来ていただいて行う治療)も、トラウマに特化した専門治療(トラウマ焦点化認知行動療法・EMDR など)も行っていません。これらをご希望の場合は、実施している医療機関をご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

何があったのかを話さないままでも、受診していただけます。 話したくないことを話す必要はありません。そのうえで、話さないでいることが体調に響いているようなら、そのことのほうを扱えます。この記事に出てくる相手の方を、診察にお連れいただく必要はありません。ご家族のみの相談はお受けしていませんが、ご自身の受診としてであれば、どうするかを決めかねている段階のまま、そのままお話しいただいて構いません。

保護命令の要件、離婚の調停、親権や財産の分け方についてのご相談はお受けできません。これらは当院の範囲ではありませんので、それぞれの専門の窓口をご自身でお探しいただくことになります。身の安全に関わることは、記事の冒頭にある公的な窓口でご相談いただけます。

当院では初診の前にWEB問診にご記入いただきます。初診の時間は問診を含めて30分程度、再診はおおむね5分前後をみています。通院の頻度は2週間に一度が基本です。

受診の目安

次のようなときは、ご自身のこととして、一度ご相談ください。

  • 相手の機嫌をうかがうことに、一日の大半を使っている
  • 何か言うたびに、あとで何が起きるかを考えて言葉を飲み込んでいる
  • 眠れない、食べられない、体調が続かないという状態が2週間以上続いている
  • 思い出したくないことが、自分の意思とは関わりなく戻ってくる
  • 自分の判断が信用できなくなっていて、何を決めるのにも消耗する
  • 離れたほうがよいと思うのに、そのたびに考えが止まってしまう
  • 自分を傷つけたいという考えが浮かぶことがある

当てはまるからといって、すぐに病気だということではありません。診断は医師が診察のうえで行います。なお、当院の診療対象は18歳以上の方です。

いま危険が続いている状況であれば、まず身の安全の確保が先です。差し迫った危険があるときは警察(110番)へ、けがや体調の急変があるときは救急(119番)へ。公的な相談窓口は記事の冒頭に置いたとおりです(#8008 は各機関の受付時間内、24時間つながるのは DV相談+ 0120-279-889)。迷っている段階でも連絡して構いません。通院中の方は主治医にご連絡ください。

まとめ

パートナーからの暴力や強い支配がある場合、伝え方や話し合いの工夫より、まず身の安全の確保が先です。 危険を作り出しているのは力をふるう側であり、離れにくいのは決意が足りないからではありません。恐れ、お金、孤立、繰り返し言われた言葉が、動くことを難しくしています。一人で算段を立てず、公的な窓口や専門家を間に入れてください。

自尊心は、先に取り戻してから動くものではなく、その関係から離れていく過程で少しずつ戻ってきます。よくなり方に決まった形はなく、初めから答えが用意されているものでもありません。よく考えたうえで別れるほうを選び、不安を抱えたまま、自分で納得できる道を歩き出したときに、はじめて自分に力があると思えた、という方もいます。相手に向かって言えない事情があるときは、無理に言葉にする必要はありません。その事情のほうをご相談ください。どの道を選ぶかは、ご自身が決めてよいことです。

そのほか近いところにあるもの —— 複雑性PTSDとは・対人トラウマとは・トラウマとは何か・トラウマインフォームドケアとは・生活の変わり目がつらいとき

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 水島広子『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係』創元社

公的な相談窓口の名称・電話番号・受付時間・業務内容は、内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センター」および内閣府「DV相談プラス」の記載を 2026年7月30日に確認して記載しています。制度や受付時間は変わることがありますので、実際にご利用になるときは各窓口の案内をご確認ください。

よくある質問

伝え方を工夫すれば、暴力は止まるのでしょうか。

そういう関係ではありません。このシリーズで紹介してきた、期待を言葉にする、頼み方を変える、話し合いの場を整えるといった工夫は、暴力や強い支配がある場合には当てはまりません。お互いの期待をすり合わせていく作業は、暴力があるところではほとんど成り立ちません。脅かされたままでは、思っていることを口に出しきれないからです。工夫が足りないから止まらないのではありません。まず身の安全を確保することが先になります。

自分が怒らせたからだ、自分の対応が悪かったからだ、と思ってしまいます。

危険を作り出しているのは、力をふるう側です。機嫌を損ねないように立ち回れなかったことも、言い返してしまったことも、その場を離れられなかったことも、暴力の理由にはなりません。ご自身の側に理由を探してしまうのは、何が起きたのかを受け止めるための説明であって、責任の所在とは別のものです。備えを考えることと、自分を責めることは別のことです。自分を責めてしまうこと自体が症状として起きているという説明は、対人トラウマの記事にあります。

離れたほうがよいと分かっているのに、動けません。

外から見れば離れるしかないと思える状況でも、その関係を実際に閉じるのは容易ではありません。出ていくと言えば何が起きるか分からないという恐れ、暮らしのお金を握られていること、相談できる相手を減らされてきたことが重なるからです。動けないことは、決意が足りないからではありません。暴力のある関係については、どういう形であれ専門家を間に入れたほうがよい場面です。記事の冒頭に、公的な相談先の連絡先を置いています。

当院で相談できるのは、どういうことですか。

暴力のある関係のなかで出てきた、眠れない、気分が落ち込む、動悸や食欲の変化が続く、思い出したくないことが不意に戻ってくる——こうした症状についてのご相談は、当院で承っています。ご自身の受診としてお話しください。トラウマに特化した専門治療(トラウマ焦点化認知行動療法・EMDR など)は当院では行っておらず、実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。何があったのかを話さないままでも受診していただけます。

子どもに、どう説明すればよいのでしょうか。

もとにした本が挙げているのは、「不適切な人格」として説明するのではなく、「病気」として説明する形です。いまは気持ちを抑えることのできない病気の状態にあるのだ、よくなるまでは離れて住もう——という言い方です。そういう人格の持ち主を親として生まれてきたのだ、という自分自身についての感じ方が、子どもの自尊心を根っこのところで損なうからです。これは暴力をふるったことを免じるための説明ではなく、関係が元に戻ることを見込むという意味でもありません。なお当院の診療対象は18歳以上の方です。お子さんの診療や、保護者のみのご相談はお受けしていません。

男性でも相談できる窓口はありますか。

あります。DV相談+(0120-279-889)には、毎週日曜の15時から21時まで、男性の被害者向けの専用回線が設けられています。電話は24時間の受付です。この記事は、被害を受ける側を性別で固定していません。差し迫った危険のときの警察(110番)と、けがや体調の急変のときの救急(119番)も、性別によりません。全国共通の短縮番号(#8008)は各機関の受付時間内で、都道府県ごとに異なります。24時間受け付けているのは DV相談+の電話のほうです。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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