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連載「夫婦・パートナー関係」第4回(全5回) 第1回から読む →

はじめに

相談したつもりが、次から次へと対処法を返されて、かえって腹が立ってしまった。あるいは反対に、真剣に考えて答えを出したのに怒られ、何が起きたのか分からなかった。夫婦やパートナーとのあいだでは、こういうことが起こります。

このすれ違いは、どちらかが冷たいから起きているのでも、どちらかが理不尽だから起きているのでもありません。相手を気遣う気持ちの示し方に、二つの違う型があるために起きています。目の前の困りごとを実際に片づけて気遣いを表す形と、心の内を汲んでもらって気遣いを受け取る形です。

先に、いちばん大事なところを置いておきます。この二つに優劣はありません。 ここを外すと、この話はすぐ「気持ちを聞くほうが正しい」という説教になってしまいます。そういう話ではありません。

この記事は、夫婦・パートナー関係をテーマにした全15回のシリーズの4回目です。第1回第2回第3回では、この関係とこころの健康のつながり、もともとある難しさ、取りかかる前に決めておきたいことを扱いました。今回からは、実際のすれ違いを型ごとに見ていきます。

ひとつ、扱わないことを書いておきます。すれ違いを「どちらが悪いか」ではなく期待の食い違いとして見るという考え方そのものと、伝え方の基本的なコツは、家族や夫婦との『すれ違い』がつらい 役割期待のずれと心理療法で扱っています。この記事では繰り返しません。ここで見るのは、その手前にある「そもそも何が食い違っていたのか」のほうです。なお、第1回・第2回と同じく、法律上の夫婦だけを想定してはいません。事実婚の方、恋人と呼ぶほうが近い関係の方、同性のパートナーの方も含めています。

相談したはずが、答えが返ってきて腹が立つ

もとにした本が挙げている場面を、こちらの言葉に置き直して紹介します。

片方が、仕事のことで気が重いと話し始めます。慣れない役目を任されそうで、自分にはその力が足りない気がする。任せてくれた人の期待には応えたいし、失敗はしたくない。どうしたものかと思っている——そういう話です。

聞いた側は、真剣に考えて答えを返しました。まず、力をつけられる場所に通ってみてはどうか。すると、忙しいのにそんな時間はない、と返ってきます。では引き受けずに断ってはどうか。そんな身勝手なことは言えない、と返ってきます。それなら深く考えずにやってみればいい、と言うと、今度は、あなたに言っても始まらない、と怒られてしまいました。

答えた側にしてみれば、聞かれたからそのつど考えて答えただけです。なぜ怒られるのかが分かりません。

では、何が起きていたのか。もとにした本の説明はこうです。どうしたらいいだろう、と口にしていても、本当に答えを求めているとはかぎらない。 急に降ってきた話に動揺している気持ちのほうを、いろいろ口に出しながら落ち着けようとしていただけのことがある。そういうときに待たれているのは、大変な話だね、と受け止める言葉や、いつでも話してくれていいという言葉であって、話の中身に切り込む答えではない、というのです。

これはかなりよくある形だとも書かれています。パートナーに話す気になれない理由として、すぐに助言が返ってくるから、を挙げる方は少なくない、というのです。相談のような話し方であっても、聞いてもらえればそれでよいと思っていることが多く、聞いた側が問題を片づけにかかると、そこにずれが生まれます。

逆の側から見ると、こうなります。 聞いてもらえていない、と不満を言われる側にも言い分があります。同じ話が繰り返されるだけで意味があるとは思えない、というものです。もとにした本はこれとは違う立場をとっています。理由はあとの節で見ます。

「気遣い」の示し方が、二通りある

もう一つ、別の場面です。

学校から、子どもがけがをしたという連絡が入ります。片方は仕事の都合をなんとかつけて病院へ向かい、担当の医師をつかまえて、この先どうなるのかを尋ねました。ふつうに養生していれば大丈夫だという返事だったので安心し、付き添っていたもう片方に、心配なさそうでよかった、では仕事に戻る、と伝えます。すると相手は目に涙をためて怒り出しました。

怒られた側には、理由がまるで分かりません。けがは自分のせいではないし、仕事を抜け出して駆けつけ、心配ないと分かるまで確かめて戻ろうとした。どこに落ち度があったのか、見当もつかない。そして、自分だって余裕のないなかでこれだけやったのに、と頭に血がのぼり、思わず大きな声を返してしまいます。

一方、怒った側にも事情がありました。学校の側も病院の人たちも、みな懸命に動いてくれていました。だからこそ、湧いてくる不安をぶつけられる相手がいません。礼を言いながら、その場に立っているしかなかったのです。相手が来るまでは自分が崩れるわけにいかない、と持ちこたえていました。待っていた言葉は、よく持ちこたえたね、心細かったよね、これからは自分もいるから、といった趣旨のものでした。

つまり、二人はどちらも相手を軽んじてなどいません。片方は、実際に起きている困りごとを片づけて気遣いを表しました。もう片方は、自分の心の内を汲んでもらって気遣いを受け取りたいと思っていました。もとにした本は、ここに食い違いの正体があると見ています。どちらにも、相手を傷つける意図はありません。

先ほどの相談の場面も同じです。同じつもりで別々のものを差し出して、どちらにも届かなかった、ということです。

どちらかが正しい、という話ではありません

気遣いの示し方に優劣はありません。

困りごとを実際に片づけてもらうほうが助かる、という方もいます。たとえば自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある場合には、慰めの言葉をかけられるより、いま何にどう困っているのかを言葉にして整理してもらうほうが安心につながりやすいことがある——そういう場面を扱った記事も、サイト内にあります(パートナー・家族がASDかもしれないとき)。逆に、正確に理解してもらうことより、そばにいてもらうことのほうが助けになる場面もあります。どちらが人として正しい、という話ではまったくありません。

もう一つ。この型は、どちらの性別がどちらになる、というものでもありません。もとにした本は、それぞれの型を片方の性別に結びつけた見出しで並べていますが、著者自身が章の最初にはっきり断っています。ここに並ぶのは自分が診療のなかで見いだしてきた型であって、男女の違いを決めつけるためのものではない、と。さらに、そうやって型に当てはめて片づける構えのほうが、相手を分かろうとする努力を手放させ、かえってずれを大きくしている場合も少なくない、とまで書いています。

原著は、こうした特徴が男女それぞれにかなりの幅で分布しているとも書いています。この記事も、逆の組み合わせを例外として扱いません。 同じ人が話題によって入れ替わることもある、という前提で書いています。

そして、これは発達障害の特性の話でもありません。どちらの応じ方が届きやすいかに特性が関わることはありますが、この型そのものは特性の有無で決まりません。

なお、暴力や、相手からの強い支配がある関係には、この記事の話をどれも当てはめないでください。ここでいうすれ違いは、どちらの側も相手を傷つけようとしていない場面のことです。伝え方や受け止め方を工夫するより先に、身の安全を確保することが優先されます。無理に話し合おうとせず、通院中の方は主治医に、そうでない方は医療機関にご相談ください。この点はシリーズの最終回でくわしく扱います。

「どうしてほしいか」を先に確かめる

では、どうすればよいのか。もとにした本が挙げているのは、拍子抜けするほど単純なことです。相談の形で話しかけられたら、何を望んでいるのかを先に聞いてしまう、というものです。考えを言ったほうがよいのか、それとも聞くだけでよいのか。それを確かめてから応じたほうがずれない、というのが著者の言い方です。

これは原著の言っていることではありませんが、話す側から先に言っておいてもかまわないと思います。今日は答えがほしいのではなく聞いてもらいたいだけ——そのひとことで、聞く側は的を外さずにすみます。

ただし、これはこの記事の立場ですが、こうした言い方の工夫を集めるだけでは足りません。大事なのは、そのとき自分が相手に何を待っていたのかに、自分で気づけていることのほうです。話しながら腹が立ってきたら、自分は何を待っていたのだろうと振り返ってみる。期待そのものをどう整理し、どう伝えるかは、役割期待のずれを扱った記事にあります。

ただ耳を傾けてもらうことの意味

「聞くだけでは何も解決しない」と感じる方は多いでしょう。もとにした本は、そこにはっきり答えています。聞いてもらうこと自体に働きがある、というのが著者の説明です。理由は二つ挙げられています。先に断っておくと、これは困りごとを片づける応じ方が誤りだ、という意味ではありません。

(受け止めてもらえること自体が立ち直りを進める、という話は第1回に、心理療法の場で話すとなぜ楽になるのかという説明は心理療法(カウンセリング)とは何か 効果はあるの?種類と選び方の基本にあります。ここで見るのは、原著が挙げている理由のほうです。)

ひとつは、つらい感情の性質です。表に出さずに頭のなかだけに置いておくと、その感情は実際より大きく育ってしまう。 ひとりで考え続けているとそのことで頭が占められてしまい、前に進むための気づきや考えが出てこなくなります。ところが、安心して話せる相手に声に出してみると、その大きさは本来のところまで戻ってきます。ここでいう安心して話せる相手というのは、まさに、ただ耳を傾けてもらう状態のことです。感情が等身大に戻ると気持ちの整理がつき、それまで見えていなかった見方にも気づけます。

もうひとつは、少し意外な理由です。人との間で強い負担を抱えているとき、どれほど自分の側を正しいと言い立てていても、その人が自分の感じ方をまるごと正しいと信じているわけではない、と著者は書いています。心から腹を立てながら、そんな自分を小さいとか未熟だとか思う気持ちも、同時にあるのです。いくらか後ろめたさを感じたまま一人で抱えていると、その後ろめたさに目を向けずにすむように、自分は正しいのだという主張をいっそう強く掲げ続けるほかなくなり、そのぶん自分の感情に縛られていく、というのです。

安心して話せる相手に打ち明けて、つらい思いをしたんだね、と受け止めてもらえると、こう感じていていいのだと思えます。すると、自分の正しさを言い張ることに力を使わずにすみ、結果として感情に引きずられる度合いが下がり、ものごとを少し離れたところから見られるようになる。ただ受け止めながら聞くことには、それだけの力がある、というのが著者の見方です。

逆に、少し口に出しただけですぐ助言が返ってくる、愚痴を言う暇があったら動けばいい、と返されてしまう——そういう場では安心できないので、つらい感情はかえってふくらみかねない、とも書かれています。

受け止めることと、一緒に怒ることは違う

ここで、もとにした本が置いている大事な断りがあります。感じ方を受け止めることは、相手と一緒になって憤ってしまうことではありません。

ひどい目にあった、と怒っている人に対して、そんなことをされたのか、自分が行って話をつけてくる——そこまで本気で憤ってしまうと、話した側はかえって不安になります。怒りを抱えたまま自分の内にとどめていたのには、理由があるからです。近所づきあいや、子ども同士の関係など、そのあとも自分が引き受けていかなければならない間柄がある。そこを一部だけ切り取って乗り込まれると、かえって事態を悪くしかねません。

そうなると、もとの出来事に手が打てていないことに加えて、打ち明けた相手の出方まで自分では抑えられない、という状態になり、不安も負担も倍になってしまいます。ですから、話は、その人自身が扱える範囲に戻すことが大切だ、と書かれています。腹立たしいのはこちらも同じだけれど、それをやると困ることも出てくるだろうから、どうするか一緒に考えよう——そういう返し方です。

そして、多くはもっと手前で足ります。大変だったね、という短いねぎらいだけで足りたと感じる方が多い、と書かれています。ただし、実際に身の危険や被害があるときは別です。抱え込まずに、主治医や医療機関にご相談ください。

なお、本当に代わりに動くことが必要だと考えるなら、その結果まで自分で引き受けられるようにしておくこと、と著者は付け加えています。日々その人づきあいを担っているのは相手のほうだからです。

当院での考え方

当院では、対人関係療法を含む専門的な心理療法プログラムを提供しておりません。また、当院には心理士がおらず、カウンセリングも行っていません。カップル療法・夫婦カウンセリング(お二人で来ていただいて行う治療)も行っていません。 プログラムとしての心理療法をご希望の場合は、実施している医療機関をご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

そのうえで、当院の通常の診察のなかでは、この記事で紹介したような考え方——身近な人との関係を整理する、期待のずれを言葉にする、伝え方を一緒に考える——を取り入れた助言を行っています。何のために取り組むのかがまだ決まっていない段階でも、そのままお話しいただいて構いません。

診察への同席については、当院ではご家族のみのご相談はお受けしておりませんが、ご本人が受診され、同席に同意されている場合には、診察に同席していただくことは可能です。ご本人が受診できない状況のときは、公的な相談先や、受診を予定している医療機関へお問い合わせいただく形をご案内しています。

受診の目安

次のようなときは、一度ご相談ください。

  • パートナーに話しても届かないと感じる状態が続き、話すたびに消耗している
  • 話しかけるのをやめてしまった、あるいは話す前から結果が見えて口を開く気になれない
  • やりとりのあとに、気分の落ち込みや体の不調が出る日が続いている
  • 関係のことが頭から離れず、仕事や家事が手につかない時間が長くなっている
  • 眠れない、食べられない、仕事や家事が回らないという状態が2週間以上続いている
  • 自分を傷つけたいという考えが浮かぶことがある

当てはまるからといって、すぐに病気だということではありません。診断は医師が診察のうえで行います。なお、当院の診療対象は18歳以上の方です。

当院では初診の前にWEB問診にご記入いただきます。初診の時間は問診を含めて30分程度をみています。

気持ちが差し迫っているとき、体調が急に変わったときは、様子を見ずに、通院中の方は主治医に、急を要する場合は救急(119番)にご連絡ください。

まとめ

  • 相談したのに対処法が返ってくる、良かれと思って答えたのに腹を立てられる。このすれ違いは、気遣いの示し方に二つの型があることから生まれます。実際の困りごとを片づけて表す形と、心の内を汲んでもらって受け取る形です
  • この二つに優劣はありません。 どちらが人として正しいという話ではなく、片方を正解にすると、この話はただの説教になります
  • 原著は、どうしたらいいだろう、と口にしていても、本当に答えを求めているとはかぎらないと述べています。急な出来事に動揺した気持ちを、口に出して落ち着けようとしている場合があるからです
  • 子どもの怪我の場面でも、駆けつけて見通しを確かめた側と、不安をぶつける先がないまま持ちこたえていた側の、どちらにも相手を傷つける意図はありませんでした
  • 原著が挙げている対処は単純です。相談の形で話しかけられたら、何を望んでいるのかを先に確かめる。 なお、話す側から先に言っておいてもかまわない、というのはこの記事の補いです
  • 聞いてもらうこと自体に働きがある、と原著は書いています。つらい感情は頭のなかだけに置くと実際より大きく育つこと、そして一人で抱えていると自分の正しさを主張し続けなければならなくなること、の二つが理由です
  • 受け止めることは、一緒になって憤ることではありません。 代わりに乗り込むと、打ち明けた側はかえって不安になります。話は、その人自身が扱える範囲に戻すこと——これも原著の指摘です
  • この型は性別で決まりません。 この記事は、逆の組み合わせを例外として扱っていません。発達障害の特性による話でもありません
  • 暴力や強い支配のある関係には、この記事の話をどれも当てはめないでください。 相手を思いどおりに動かすために怒りや沈黙が使われている関係は、ここでいうすれ違いとは別のものです。何よりも先に身の安全の確保が優先されます。主治医または医療機関にご相談ください

次回は、不安をそのままぶつけてしまう、つい細かく言ってしまう、お金の使い道が合わない——といった、もう少し込み入ったすれ違いの型を扱います。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 水島広子『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係』創元社

よくある質問

相談したのに対処法ばかり返ってきて腹が立ちます。怒ってしまう自分がおかしいのでしょうか。

おかしなことではありません。もとにした本は、どうしたらいいだろう、と口にしていても、本当に答えを求めているとはかぎらない、と述べています。急な出来事に動揺している気持ちのほうを、いろいろ口に出しながら落ち着けようとしている場合があるからです。そのときに期待しているのは受け止めの言葉のほうで、話の中身に切り込む答えではありません。だから、答えが返ってくると届かなかったように感じられます。

聞くだけでは何も解決しないと思ってしまいます。それでも意味があるのでしょうか。

もとにした本は、聞いてもらうこと自体に働きがある、という立場をとっています。理由は二つ挙げられています。つらい感情は表に出さずにいると実際より大きく育ってしまうので、安心できる相手に声に出すと本来の大きさに戻ること。そしてもう一つは、腹を立てている自分を未熟だと感じる気持ちも同時にあるため、一人で抱えているとその後ろめたさに目を向けずにすむように自分の正しさを主張し続けなければならなくなり、かえって感情から離れられなくなることです。

これは男性と女性の違いの話ですか。

違います。もとにした本は、それぞれの型を片方の性別に結びつけた見出しで並べていますが、著者自身が章の最初に、これは自分が診療のなかで見いだしてきた型であって男女の違いを決めつけるものではない、と断っています。むしろ、そうやって型に当てはめて片づける構えのほうが、相手を分かろうとする努力を手放させ、ずれを大きくしている場合も少なくない、とまで書いています。この記事も、逆の組み合わせを例外として扱っていません。

発達障害の特性によるすれ違いとは違うのですか。

この記事で扱っているのは、特性の有無にかかわらず、二人のあいだで起きる型です。発達障害の特性が関わるすれ違いについては、「パートナー・家族がASDかもしれないとき」という別の記事で扱っています。なお、どちらの記事にも当てはまると感じる場合もあります。当院の診察のなかでも、対人関係の整理や伝え方についての助言を行っています。

暴力や強い支配のある関係でも、同じように考えてよいのでしょうか。

当てはめないでください。安全が脅かされている関係では、伝え方や受け止め方を工夫することよりも先に、身の安全を確保することが優先されます。無理に話し合おうとせず、通院中の方は主治医に、そうでない方は医療機関にご相談ください。この点はシリーズの最終回で扱います。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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