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連載「心理療法を知るシリーズ」第1回(全9回)

はじめに

「カウンセリングって、結局ただ話を聞いてもらうだけじゃないの?」「お金と時間をかけて、本当に意味があるんだろうか」。受診を考えはじめたとき、そこで立ち止まる方はとても多くいらっしゃいます。思いきって調べてみても、認知行動療法、対人関係療法、精神分析…と専門用語ばかりが並び、「結局どれが自分に合うのか」と、かえって不安が増えてしまうこともあるかもしれません。

その戸惑いは、あなただけのものではありません。心理療法は種類がとても多く、それぞれが少しずつ違う言葉で語られます。初めて触れる方が迷子になるのは、ごく自然なことなのです。

この記事では、来院をご検討中の方に向けて、心理療法(カウンセリング)とはそもそも何か、本当に効果があるのか、種類によって何が違うのかを、できるだけやさしく整理します。あわせて、研究から見えてきた「どの流派かより、共通して効くものがある」という大切な考え方と、相談先を選ぶときの目安もご紹介します。

心理療法(カウンセリング)とは何か

心理療法は、精神療法やカウンセリングとも呼ばれます。ひとことで言えば、専門家との対話を通して、こころの困りごとや生きづらさに対処していく治療のことです。

「話すこと」が中心にはなりますが、ただのおしゃべりではありません。安心して話せる関係のなかで、自分の気持ちや考え、人との関わり方を一緒に見つめ直していく。そうすることで、つらさがやわらいだり、対処の幅が広がったりしていきます。

目指すのは、表に出ている症状をやわらげることだけではありません。気持ちを認めて扱えるようになること、自分を大切に思える感覚を取り戻すこと、人との関わりや日々の生活が少しずつ楽になっていくこと——そうした、その人の全体的な調子の改善までを含めた取り組みです。すぐに効果を約束できるものではありませんが、時間をかけて自分を理解していくこと自体に意味がある、と考えられています。

なお、何が困りごとの背景にあり、どんな治療が適しているのかという見立ては、医師が診察のうえで行います。

「専門プログラム」と「日常診察のなかの精神療法」

心理療法・精神療法という言葉には、実は大きく2つの姿があります。この区別を知っておくと、「どこで何を受けられるのか」がぐっと分かりやすくなります。

1つめは、構造化された専門プログラムとしての心理療法です。認知行動療法や対人関係療法などを、決まった回数・決まった時間(たとえば週1回50分など)で、専門の訓練を受けた治療者と計画的に進めていく形です。一般に「カウンセリングを受ける」というとき、イメージされるのはこちらでしょう。

2つめは、日常の診察のなかに溶け込んでいる精神療法です。精神科医向けの教科書では、外来診療の土台は「支持的精神療法」に置かれる、と説明されます。安心して話せる関係のなかで、気持ちや考えを一緒に整理し、病気や治療について分かりやすく説明し、生活のなかでできる工夫を一緒に考える——短い診察時間であっても、こうした関わりの一つひとつが精神療法の働きを持つ、という考え方です。

実際、診療の教科書には「治療関係づくりは、患者さんが目の前に座った瞬間から始まっている」という趣旨のことが書かれています。挨拶、表情、話すペース、薬の話だけで終わらせず生活上の出来事にも耳を傾けること。そうした積み重ね自体が、治療の一部なのです。

つまり、「カウンセリングは受けていないから、自分は精神療法を受けていない」とは限りません。通院そのものが、薬物療法と精神療法の両方を含んだ治療になっている、と考えていただくのが実際に近いと思います。

代表的な心理療法の種類

心理療法にはたくさんの種類(流派)があり、研究で数えられているだけでも非常に多くの方法が提案されてきました。ここでは、よく耳にする代表的なものを、それぞれが「こころをどう見立てるか」という視点の違いとあわせてご紹介します。

認知行動療法(CBT)——「受け取り方と行動のクセ」を見る

ものごとの受け取り方(認知)や行動のクセに注目する方法です。同じ出来事でも、どう受け取るかによって気持ちや行動は大きく変わります。つらさにつながりやすい考え方や行動のパターンに気づき、少しずつ働きかけていきます。不安や落ち込みに対して広く使われています。

漠然とした苦しさを「身体の反応・考え方・感情・行動・人との関係」に分けて整理し、「ここなら変えられそうだ」という場所を見つけていく——そんな地図づくりのような発想が特徴です。目標も「気分を良くする」といった抽象的なものではなく、生活のなかで確認できる小さな行動に置くことが大切にされます。

対人関係療法(IPT)——「人との関わりと役割の変化」を見る

人との関わりのなかで生じる気持ちのつらさに焦点をあてる方法です。大切な人との別れ、身近な人との意見の食い違い、結婚・出産・転職・退職といった役割の変化。こうした対人関係上の出来事と気分の波は、お互いに影響し合っています。身近な人との関係や役割の変化を整理しながら、こころの状態を立て直していきます。

精神分析的精神療法(力動的心理療法)——「自分でも気づきにくいこころの動き」を見る

いま困っていることの背景にある、自分でも気づきにくい気持ちや、これまでの人との関係の積み重ねに目を向け、自分への理解を深めていく方法です。比較的じっくり時間をかけて取り組むことが多いとされます。

この流派の見立てには、日常にも役立つ視点がいくつもあります。たとえば「防衛」という考え方。人のこころは、つらい感情から自分を守るためのさまざまな工夫(見ないようにする、理屈で固める、正反対に振る舞う など)を、誰でも無意識に使っています。それ自体は病気ではなく、こころが自分を守っている証拠です。問題になるのは、その守り方が固くなりすぎて、生活や人間関係に支障が出ているときです。

また、「人間関係でいつも同じパターンを繰り返してしまう」という悩みも、この流派が得意とするテーマです。幼い頃からの関係の積み重ねが、いまの人との関わり方の「ひな形」になっている——そう考えると、繰り返しの理由を性格の欠点ではなく、理解し変えていける「パターン」として捉え直すことができます。

このほかにもさまざまな方法があります。名前だけ見ると「まったく別物」のように感じられるかもしれませんが、実は後でお話しするように、うまくいっている心理療法どうしには驚くほど共通点が多いことが分かっています。だからこそ、専門的な見立て——どの視点がその人に合うか——は、流派の名前ではなく、その人の困りごとの成り立ちから考えていくものとされています。同じ診断名でも、症状の意味や役立つ関わり方は一人ひとり違うからです。

「どの種類か」より「共通して効くもの」がある

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

心理療法の効果については、長い年月をかけて多くの研究が積み重ねられてきました。その結果、意外なことが分かってきています。「どの治療法を使うか」による効果の差は、思っていたほど大きくないのです。種類の違う心理療法どうしを比べても、おおむね同じくらい良い結果が示される——そういう報告が繰り返しなされてきました。

では、何が効果を支えているのでしょうか。研究者たちは、流派を超えて多くの心理療法に共通する要素こそが、変化の大部分を生み出していると考えています。よく整理されているのは、次の4つの要素です。

  • 治療の外にある力(本人の強みや生活環境):もともとその人が持っている力、まわりの支え、生活のなかでの出来事など。
  • 治療者との関係:安心して話せる、信頼できると感じられる関わり。
  • 本人が持つ希望や期待:「少し良くなるかもしれない」という前向きな気持ち。
  • 具体的な技法:それぞれの心理療法が用いる進め方や工夫。

なかでも特に大きいとされるのが、最初の2つです。

効果の大半を生むのは、あなた自身の力

研究では、心理療法で起こる良い変化のうち、もっとも大きな割合を占めるのは、治療の外にあるその人自身の力と生活環境だと考えられています。これは「カウンセリングに意味がない」という話ではありません。むしろ逆で、変化の主役は治療者ではなく、相談に来たあなた自身である、という見方です。

これまでの心理療法のイメージでは、治療者が主役で、相談に来た人は助けられる側、と描かれがちでした。けれども実際には、その人が持っている強み、これまで困難を乗り越えてきた経験、周囲の支え、生活のなかのちょっとした出来事——そうしたものが治療の結果を大きく左右していることが分かってきています。

治療者との信頼関係が、結果を大きく左右する

次に大きいとされるのが、治療者との関係です。なぜ関係が大切なのか。安心でき、尊重され、理解してもらえていると感じられる場でこそ、人は本当の気持ちを言葉にでき、心理療法がうまく働くからです。

心理学者カール・ロジャースは、効果的な援助に欠かせない治療者の姿勢として、共感(相手の気持ちに寄り添うこと)・尊重(相手を一人の人として大切にすること)・誠実さを挙げました。ここで大切なのは、治療者が「自分は共感している」と思っているかどうかではありません。相談に来た人自身が「分かってもらえている」と感じられるかが問われるのです。

ですから、「この人になら少し話してみてもいいかも」と思えるかどうかは、相談先を選ぶうえでとても大事な手がかりになります。

「話すこと」は、なぜ楽になるのか

「ただ話を聞いてもらうだけで、何が変わるの?」——この疑問には、いくつかの答え方があります。

1つめは、受け止めてもらう体験そのものに力があるからです。 精神分析の分野には、抱えきれない気持ちを誰かがいったん受け止め、抱えられる形にして返してくれることで、こころが落ち着いていく——という考え方があります。赤ちゃんが泣いたとき、養育者が「怖かったね」と受け止めてなだめる関わりが、その原型とされます。大人になっても、混乱した気持ちを安心できる相手に受け止めてもらうと、同じ気持ちが少し扱いやすいものに変わる。これは多くの方が実感として知っていることではないでしょうか。

2つめは、言葉にすることで、気持ちが「眺められるもの」になるからです。 頭の中でぐるぐる回っているあいだ、つらさは自分と一体化していて、全体が見えません。声に出して話すと、それが自分の外にいったん置かれ、「自分はこういうことに傷ついていたのか」と少し距離をとって眺められるようになります。感情は、問題のありかを知らせるアラームのような役割をしているとも言われます。言葉にする作業は、そのアラームが何を知らせているのかを読み取る作業でもあるのです。

3つめは、話すなかで、自分の力や資源に気づけるからです。 先ほどの研究が示すとおり、変化の主役は本人自身です。話しながら「そういえば、あのときは乗り越えられた」「実はもう少し楽な日もあった」と、すでに持っている対処や小さな変化に気づくこと自体が、回復を後押しします。

「話すだけ」に見えて、こうした働きが重なっている——それが、対話が治療になる理由です。

薬と心理療法は組み合わせて使うことも多い

「薬だけ」「話すだけ」と、どちらかに決めなければいけないわけではありません。状態によっては、薬による治療と心理療法を組み合わせて進めていくことがよくあります。

何が適しているかは、症状やその背景、生活の状況によって変わります。診断とそれに基づく治療方針は医師が診察のうえで判断しますので、「薬は飲みたくない」「まずは話を聞いてほしい」といったご希望も、遠慮なくお伝えいただいて大丈夫です。一方的に決めるのではなく、一緒に考えていく形が基本です。

心理療法を受けたいと思ったら——現実的な選択肢

「カウンセリングを受けてみたい」と思ったとき、実際にはどんな道があるのでしょうか。日本の現状をふまえて整理します。

構造化された専門プログラムを受けたい場合は、実施している医療機関や、臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングを提供している機関を探すことになります。専門プログラムは実施施設が限られており、地域や費用(保険適用の条件・自費の場合の料金)も機関によって異なります。どの方法が適しているかの見立てを含めて、まず医師に相談してから探すほうが遠回りになりません。

当院についてお伝えしておくと、当院には心理士が在籍しておらず、心理士によるカウンセリングや、認知行動療法などの専門的な心理療法プログラムは提供していません。本格的な心理療法(専門プログラム)をご希望の場合は、ご自身で実施している医療機関をお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

一方で、ここまで見てきたとおり、精神療法は専門プログラムだけを指すものではありません。当院では、日常の診察のなかで、お困りごとを一緒に整理し、認知行動療法などの考え方を取り入れた助言やセルフヘルプの支援を行っています。「まずは今の状態を診てもらい、自分に何が合いそうか相談したい」という段階でしたら、どうぞそのままご相談ください。専門プログラムが必要と思われる場合には、その旨も率直にお伝えします。

なお、当院ではご家族のみの相談はお受けしていません。ご本人の同意のうえでの診察への同席は可能です。ご本人が受診できない場合の進め方は、地域の公的な相談先または受診を検討している医療機関へお問い合わせください。

受診の目安

次のようなことが続いている場合は、一度ご相談いただくことをおすすめします。

  • 気分の落ち込みや不安が長く続き、日常生活に支障が出ている
  • 眠れない、食欲がない、疲れが取れないといった状態が続いている
  • つらい気持ちを一人で抱え込み、誰にも相談できずにいる
  • 同じ悩みや人間関係のパターンを繰り返してしまう
  • 「カウンセリングを受けてみたいが、自分に合うか分からない」と迷っている

これらに当てはまるからといって、必ず重い状態というわけではありません。診断は医師が行いますので、まずは気軽にお話を聞かせてください。

まとめ

心理療法(カウンセリング)は、対話を通してこころの困りごとに対処していく治療です。精神療法には、構造化された専門プログラムだけでなく、日常の診察に溶け込んだ支持的な関わりという姿もあります。種類はさまざまですが、研究では「どの流派か」よりも、本人自身の力や治療者との信頼関係といった共通する要素が効果を支えていることが分かってきています。つまり、変化の主役はあなた自身であり、「この人になら話してみてもいい」と思える相談先を選んでよいのです。迷いながらでも、一歩を踏み出したそのこと自体が、すでに大きな力になっています。どうぞ安心して、ご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • スコット・D・ミラー/バリー・L・ダンカン/マーク・A・ハブル『心理療法・その基礎なるもの』
  • ナンシー・マックウィリアムズ『ケースの見方・考え方 精神分析的ケースフォーミュレーション』
  • 堀越勝/野村俊明『精神療法の基本――支持から認知行動療法まで』
  • 馬場禮子『改訂 精神分析的人格理論の基礎』
  • 松木邦裕『対象関係論を学ぶ クライン派精神分析入門』

よくある質問

カウンセリングは本当に効果があるのですか?

多くの研究で、心理療法を受けた人は受けなかった人より良い変化を示すことが報告されています。ただし効果には個人差があり、治癒を約束できるものではありません。続けやすい相談先を見つけることが第一歩です。

認知行動療法など、どの種類を選べば一番効果が高いですか?

研究では、治療法の種類による効果の差は思ったほど大きくなく、むしろ治療者との信頼関係や本人の力といった共通の要素が結果を大きく支えるとされています。種類選びに迷いすぎる必要はありません。

薬とカウンセリング、どちらかを選ぶべきですか?

どちらか一方に限らず、状態に応じて組み合わせて使うことも多くあります。何が適しているかは医師が診察のうえで一緒に考えますので、まずはご相談ください。

自分に合う相談先は、どう選べばよいですか?

「この人になら少し話してみてもいい」と思えるかどうかは、大切な目安です。安心して話せそうか、尊重されていると感じられるかを手がかりに選んでよいものです。

春日メンタルクリニックでカウンセリングは受けられますか?

当院には心理士がおらず、カウンセリングや認知行動療法などの専門的な心理療法プログラムは提供していません。専門プログラムをご希望の場合はご自身で実施している医療機関をお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。診察のなかでは、認知行動療法などの考え方を取り入れた助言やセルフヘルプの支援を行っています。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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