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連載「夫婦・パートナー関係」第2回(全5回) 第1回から読む →

はじめに

いちばん近くにいるはずの相手と、いちばん話が通じない。外の人には自然にできている気遣いが、この相手にだけできない。同じことで何度もぶつかる。夫婦やパートナーとの関係について、そうした行き詰まりを抱えている方がいます。

そういうとき、多くの方は「相性が悪かったのだろうか」「自分に問題があるのだろうか」「相手が変わってしまったのだろうか」と考えます。けれども、この関係には、相性や人柄とは別に、もともと備わっている難しさがあります。

この記事は、夫婦・パートナー関係をテーマにした全15回のシリーズの2回目です。前回のパートナーとの関係が、こころの健康を左右する理由では、この関係がこころの健康と深く結びついていることを見ました。今回は、それほど大事な関係なのに、なぜこんなに難しいのか——その理由のほうを整理します。

先にお断りしておくと、この記事は「特性のせいでうまくいかない」という話ではありません。発達障害の特性が関わるすれ違いについてはパートナーが発達障害かもしれないで扱っています。ここで見ていくのは、特性の有無にかかわらず、この関係にもともとある難しさのほうです。前回と同じく、法律上の夫婦だけを想定しているわけでもありません。事実婚の方、恋人と呼ぶほうが近い関係の方、同性のパートナーの方も含めています(この点は第1回の「この記事で言う『パートナー』」に書きました)。同じ家で暮らしているかどうかも問いません。

うまくいかない理由が関係の構造そのものにあると分かると、自分や相手を責める必要が減ります。この記事のねらいは、そこにあります。

「性格が変わった」と感じるとき

夫婦やパートナーの関係は、たいてい大人になってから始まります。それまでの年月を、二人はまったく別の場所で過ごしてきました。育った家庭のありよう、経験してきたこと、身についた生活の習慣。どれも別々です。感じ方の違いは、そこから生まれます。

この違いに、交際の時期から気づいて丁寧に扱う方もいます。ただ、相手に強く惹かれている時期には、多くの方が相手を最優先にします。好かれたい、一緒の時間をよいものにしたい。そう思って、できるかぎり相手に合わせる。すると、もともとあった違いは表に出てきません。

そして結婚したり、一緒に暮らし始めたりして生活が落ち着くと、合わせるための力の入れ方がゆるみます。行き先の好み、時間の使い方、優先するもの。それまで見えていなかったものが出てきます。

ここで、「あの人は結婚してから性格が変わった」という受け取り方が生まれます。もとにした本の著者は、これを別の角度から見ています。変わったのではなく、相手を最優先にしていた時期のほうがむしろ特別な状態だったのであって、そのあとに出てきたものが、もともとの違いなのだ、という見方です。

ただし、この見方だけで片づけることはできません。著者も、相手への気持ちが本当に失われているのであれば、それはもちろん軽く扱える話ではない、という留保をきちんと置いています。そして、「性格が変わった」という言い方は多くの場合、相手への不満を言い表すために使われる、とも述べています。その言葉が「もう気持ちが残っていない」ということなのか、「合わせるのをやめただけ」ということなのか——それは、外から一律に決められることではありません。

どちらの話であるにせよ、次に見るところは同じです。「変わった」という事実そのものを追いかけるのではなく、いま二人のあいだにある違いは何なのか、その違いのどこが自分にとってつらいのか。そこを見ていくことになります。

共有している時間は、思っているより短い

夫婦・パートナー関係は、いちばん距離の近い関係だと思われています。他の人には見せない面を見せ合っているのも確かです。ところが、「相手は自分のことをどこまで分かっているだろうか」「自分は相手をどこまで分かっているだろうか」と問い直すと、思ったほどではない、ということがよくあります。

理由のひとつは、共有している時間が少ないことです。多くの方は、日中の時間を仕事や社会的な役割のなかで過ごします。二人で同じ仕事をしているのでなければ、その時間、二人は別の場所で別のことをしています。人として何かを学んだり、考え方が変わったりするのも、たいていはその外の場でのことです。同じ家で暮らしていても、日々のなかで本当に共有できているものは、想像よりずっと少ないのです。

子育ては二人で分かち合える経験のように見えますが、実際には分担になっていることが多いものです。同じ「子育て」という言葉を使っていても、それぞれが担っている中身は別です。子どもの何を見ているかも、そこで感じていることも違う。そしてそれを突き合わせないまま、慌ただしく毎日が過ぎていきます。

新婚のころは相性がよいと感じていた二人が、年月のなかでずれてくる。その理由は、相手に合わせていた時期が終わって違いが見えてきたから、というだけではありません。もともと分かち合えているものが少ないのに、その差を埋める働きかけを意識してこなかった——著者は、そちらのほうが大きいと見ています。

ここで大事なのは、これが誰かの怠慢を責める話ではない、ということです。共有が少ないのは、この関係のつくりからくるものです。ではどう埋めていくのか、という具体的な方法は、このシリーズの後の回で扱います。

どこまでが自分の問題なのかが分かりにくい

もうひとつが、自分の領分と相手の領分の見分けがつきにくくなる、という難しさです。

私たちは、近い相手にほど甘えが出ます。遠い間柄の人の前ではできるだけよく振る舞うのに、家では「言わなくても分かってくれる」と思ってしまう。身内であればこそ受け流せることがあるのは確かですが、それが続くと、いちばん近い人だけが自分の悪いところばかりを見ている、という状態にもなります。もともと他人同士である夫婦・パートナー関係では、これはかなり分の悪いことです。

外の人のことはすぐ持ち上げるのに、パートナーを最後にほめたのがいつだったか思い出せない。それどころか、毎日のように責めているかもしれません。いちばん大切なはずの相手に対してそうなっている、というのは、改めて考えると不思議なことです。その背景には、「本当は大切に思っているのだと、相手も分かっているはずだ」という甘えや、「夫婦なのだから」「こちらもさんざん我慢してきたのだから」という前提があります。

さらに、責めることが日常になる理由があります。ほかの間柄なら失礼にあたるはずの「責める」というふるまいが、この関係では「二人の暮らしをよくするためだ」という理由を得てしまうのです。そうなると、別の人格を持つ一人の相手を責めているという感覚が薄れ、自分の一部に発破をかけているような気持ちになります。服装に口を出す、交友関係に口を出す、というのも同じで、距離のある相手には控えることが、パートナーにだけは日常的に行われます。本来なら相手が決めることまで、自分ごとのように感じられてしまう。ここが、この関係の難しいところです。

では、どこからが「責める」なのでしょうか。著者が引いている線は、はっきりしています。「自分はこう感じる」という、自分の側の話として言われているか。それとも「誰が見てもそうだ」という形になっているか。 前者なら、相手は自由に応じることができます。後者になった時点で、それは責めになっている、というのが著者の見方です。この線引きをふまえた具体的な伝え方は、家族や夫婦との『すれ違い』がつらい 役割期待のずれと心理療法で扱っています。

なお、暴力や、相手からの強い支配がある関係は、ここまでの話とは別に考える必要があります。その場合は、言い方の工夫よりも先に、身の安全を確保することが優先されます。無理に伝えよう・交渉しようとせず、通院中の方は主治医に、そうでない方は医療機関にご相談ください。この点はシリーズの最終回でくわしく扱います。

「簡単には壊れないはず」という安心感

最後に、この関係は簡単には壊れないと思われている、ということがあります。

遠い間柄の人とのつながりは、ちょっとしたことで途切れます。それに比べると、この関係はそう簡単には終わらないはずだ、という感覚があります。子どもがいればなおさらですし、いなくても、周囲への説明や生活の変化を考えると、「このままでやっていくしかない」というところに落ち着きがちです。

多くの家庭の毎日は、その上に成り立っています。ところが、見過ごせない出来事が起きると、そこまでの積み重ねがまとめて表に出てきます。いま起きている問題だけでなく、「いつも責められてばかりだった」「気遣ってもらえたことがなかった」という長年ぶんが、一度に問題として持ち出されるのです。

つまり、長く続いているからといって、その関係が安定していることの証拠にはならない、ということです。日々なんとなく回っているようでいて、その実、細いつり合いの上に成り立っていた、という場合もあります。

難しいのは、あなたのせいだけではない

ここまでを並べると、この関係の性質が見えてきます。もともとかなり違う二人が、いちばん近いところで、限られた共有時間のなかで、関係を保っていく。 改めて書き出してみると、難易度の高いことをしているのが分かります。

それなのに、実際には意識して手をかけている方は多くありません。むしろ、一緒になったらもう落ち着いてよい、気を配らないことこそ親しさのしるしだ、というような受け止め方すらあります。「家族なのだから」という言葉が、遠慮をしないことの理由として使われることもあります。

本当は、ずれを埋める手間を意識してかけ続けなければならない関係なのに、見かけのうえで親しく見えるからこそ、いちばん手が抜かれてしまう。 著者は、この関係で起きる問題の多くが、その構造の上に乗っていると見ています。そして前回みたとおり、この関係はこころの健康に大きく関わります。だからこそ、知識を持って意識的に取り組む値打ちがある、というのが本書の立場です。ただしこれは、どんな関係でも続けるべきだという意味ではありません。安全が脅かされている関係は、ここまでの話とは別に考える必要があります。

言い換えれば、うまくいっていないことは、あなたの人柄や努力の足りなさだけの結果ではありません。難しい条件のそろった関係を、そうと知らされないまま続けてきた、ということでもあります。

当院での考え方

当院では、対人関係療法を含む専門的な心理療法プログラムを提供しておりません。また、当院には心理士がおらず、カウンセリングも行っていません。カップル療法・夫婦カウンセリング(お二人で来ていただいて行う治療)も行っていません。 プログラムとしての心理療法をご希望の場合は、実施している医療機関をご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

そのうえで、当院の通常の診察のなかでは、この記事で紹介したような考え方——身近な人との関係を整理する、期待のずれを言葉にする、伝え方を一緒に考える——を取り入れた助言を行っています。

診察への同席については、当院ではご家族のみのご相談はお受けしておりませんが、ご本人が受診され、同席に同意されている場合には、診察に同席していただくことは可能です。ご本人が受診できない状況のときは、公的な相談先や、受診を予定している医療機関へお問い合わせいただく形をご案内しています。

受診の目安

次のようなときは、一度ご相談ください。

  • パートナーとのやりとりのあとに、気分の落ち込みや体の不調が出る日が続いている
  • 同じことで何度もぶつかり、話し合おうとするたびに消耗している
  • 相手を責めてしまう自分が嫌になり、そのことで自分を追い詰めている
  • 眠れない、食べられない、仕事や家事が回らないという状態が2週間以上続いている
  • 関係のことが頭から離れず、仕事や生活が手につかない時間が長くなっている
  • 自分を傷つけたいという考えが浮かぶことがある

当てはまるからといって、すぐに病気だということではありません。診断は医師が診察のうえで行います。なお、当院の診療対象は18歳以上の方です。

当院では初診の前にWEB問診にご記入いただきます。初診の時間は問診を含めて30分程度をみています。

気持ちが差し迫っているとき、体調が急に変わったときは、様子を見ずに、通院中の方は主治医に、急を要する場合は救急(119番)にご連絡ください。

まとめ

  • 夫婦・パートナー関係には、相性や人柄とは別に、もともと備わっている難しさがあります。うまくいかないのは、あなたの努力が足りないからだけではありません
  • 二人は大人になるまで別々の場所で育っています。相手に合わせていた時期が終わると、もともとの違いが見えてきます。 それを「性格が変わった」と受け取ることがあります
  • ただし、相手への気持ちが本当に失われているのなら、それは軽く扱える話ではありません。 原著もこの留保を置いています。どちらの話かを外から一律に決めることはできません
  • 同じ家で暮らしていても、一緒に過ごす時間や経験は思っているより少ないものです。子育てのように分かち合っているように見えることも、実際には分担になっていることが多くあります
  • 近い相手ほど、どこまでが相手の領分なのかが分かりにくくなります。 相手の領分のことが自分の問題のように感じられ、口を出すことが日常になります
  • 「二人の暮らしをよくするためだ」という理由がつくと、責めることが失礼だという感覚が薄れます。 「自分はこう感じる」ではなく「誰が見てもそうだ」という形になったとき、それは責めになっています
  • 簡単には壊れないという安心感も、手を抜かせる背景にあります。 見過ごせない出来事が起きたとき、長年の積み重ねがまとめて表に出てきます。長く続いていることは、安定していることの証拠にはなりません
  • 著者が問題の根底にあると見ているのは、見かけのうえで親しく見えるからこそ、いちばん手が抜かれてしまうという構造です
  • 暴力や強い支配のある関係は、これらとは別に考える必要があります。 言い方の工夫より先に身の安全の確保が優先されます。無理に交渉しようとせず、主治医または医療機関にご相談ください

次回は、関係を変えようとする前に決めておきたいこと——自分は何のために取り組むのか、そしてこの関係をどうしたいのか——を扱います。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 水島広子『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係』創元社

よくある質問

結婚してから相手の性格が変わったように思います。これは気のせいでしょうか。

気のせいだと決めつけることはできません。相手への気持ちが実際に失われているのなら、それは軽く扱える話ではありません。ただ、もとにした本は、交際の時期には相手を最優先にする方が多く、そのあとに現れてくるもののほうが、もともとの違いであることが多い、という見方を示しています。どちらの話なのかは、外から一律に決められるものではありません。

夫婦なのに、相手のことをよく知らない気がします。おかしいでしょうか。

おかしなことではありません。多くの方が日中を別の場所で、別のことをして過ごしています。同じ家で暮らしていても、実際に共有している時間や体験は思っているより少ないものです。長く一緒にいることと、相手をよく知っていることは、そのままつながるわけではありません。

パートナーをつい責めてしまいます。性格の問題でしょうか。

性格だけの問題とは限りません。近い相手ほど、相手を別の人格として扱う感覚が薄れやすく、相手の領分のことまで自分の問題のように感じられてしまいます。そこに「二人の暮らしをよくするためだ」という理由が加わると、責めることが日常になっていきます。仕組みが分かると、責めずに伝える余地が出てきます。

この記事は、発達障害の特性によるすれ違いの話ですか。

いいえ。この記事で扱っているのは、特性の有無にかかわらず、夫婦・パートナー関係にもともとある難しさです。発達障害の特性が関わるすれ違いについては、別の記事で扱っています。

難しい関係だと分かったところで、どうすればよいのでしょうか。

この回は理由の整理までで、具体的な進め方は次回以降で扱います。ただ、うまくいかない理由が関係の構造のほうにあると分かるだけでも、自分や相手を責める気持ちは軽くなることがあります。当院の診察のなかでも、対人関係を整理する、伝え方を一緒に考えるといった助言を行っています。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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