福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

連載「PMS/PMDDを知るシリーズ」第5回(全8回) 第1回から読む →

はじめに――薬だけが選択肢ではない、けれど

「薬はできれば飲みたくないのですが、ほかに方法はないでしょうか」

月経前のつらさで受診された方から、この質問を受けることがよくあります。もっともな問いだと思います。毎月やってくるつらさに飲み薬以外の手立てがないとしたら、心細い話です。

先に、この記事の立ち位置をはっきりさせておきます。

PMDD(月経前不快気分障害)への対応のなかで、いまのところ最も確立しているのは、SSRIによる薬物療法と、低用量ピルなどのホルモン療法だとされています。この点はPMS/PMDDに低用量ピルは効く?ピルとSSRIなど薬の選択肢を整理で扱いました。

そのうえで、薬以外の方向――なかでも心理療法について、どんな研究があり、どこまで分かっていて、何がまだ分かっていないのかを整理するのがこの記事です。結論を先に言えば、一定の効果は報告されているものの、研究の規模は小さく、「これをやれば治ります」と言い切れる段階ではありません。期待をあおる書き方はしません。そのかわり、限界のほうも省かずにお伝えします。

生物・心理・社会の3つから考えるという枠組み

月経に関わる不調を考えるときによく使われるのが、生物・心理・社会の3つの側面から考える枠組み(bio-psycho-social model、生物・心理・社会モデル)です。1977年にエンゲルという研究者が提唱したもので、人の発達や心身の健康に関わる要因を「生物」「心理」「社会」の3つの側面に分けて整理し、効果的な手立てを考えるための見取り図です。

PMDDに当てはめると、次のように見通せます。

  • 生物の側面:薬による治療や生活の指導によって、症状そのものを消したり和らげたりする
  • 社会の側面:症状によって生じる日常生活の支障に対して、使える制度や周囲の助けを活用し、環境を調整して負担を減らす
  • 心理の側面:月経前にあらわれる落ち込みや不安といった症状に対して、考え方や受け取り方の面から働きかける

大事なのは、この3つのどれもが欠かせないということです。心理の側面に取り組むことは、体の要因を否定することでも、「気の持ちようの問題だ」と言い換えることでもありません。

月経前のつらさと「考えのぐるぐる」

心理の側面から見たとき、月経前の状態にはいくつか特徴的な所見が挙げられています。

PMDDのある女性では、その人のなかで、考えと気分が互いに影響しあう度合いが強く、とくに黄体期の後半になると、同じことを何度も考え続ける「反すう」が否定的な感情を左右する、という結果が示されています。否定的な反すうは月経前に急に増え、月経が終わってからも、おさまるのに時間がかかりやすいという報告もあります。

また、感情に引きずられて衝動的になりやすい傾向と、月経前症状の重さとのあいだには強い関連が指摘されています。PMDDのない健康な女性を対象にした研究でも、感情をうまく立て直すことの難しさが、月経の時期のコントロール感や、不安を感じる出来事に対するコントロール感に影響していたと報告されています。

こうした所見から、反すうを減らし、感情を立て直す力を高めることを目的とした心理的な支援は、PMDDのある女性の負担を軽くするのに役立つのではないかと推測されています。ここは「証明された」ではなく「推測されている」段階だ、という点も添えておきます。

認知行動療法(CBT)で分かっていること

認知行動療法(CBT)は、否定的な考え方や態度への対処を扱う心理療法です。私たちの考え(認知)が感情を作り出し、それが行動に影響する、という見方に立ちます。場面ごとにひとりでに立ちのぼってくる考えや心の映像を「自動思考」と呼び、そこに焦点を当てていきます。

押さえておきたいのはその進め方です。CBTは原則として16回から20回ほど面接を重ね、そこで話し合った内容を実生活のなかで試してみるホームワーク(宿題)を組み合わせて進めていきます。このやりとりを通じて、出来事を事実とは違う形で受け取ってしまう自分の癖に気づき、直していく治療とされています。数回の相談で終わるものではありません。「考え方を前向きにしましょう」といった助言とは別物の、手間と時間のかかる治療だとお考えください。

月経前症状にCBTがどう働くかをまとめた先行研究のレビューでは、グループ形式のCBTでも個人形式のCBTでも、症状の改善が長く続いたと報告されています。

ただし、この2つは向き先が違います。

  • 症状が重い方には、1対1で行う形のCBTが必要だとされています
  • 一方で、グループCBTでピアサポート(同じ悩みを持つ人どうしの支え合い)が得られることには、症状をノーマライズする働きがあると示唆されています。ノーマライズとは、自分に起きていることを「異常なこと」ではなく起こりうる変化として受け止め直せるようになる、という意味です

つまり、症状が重い方にグループの支え合いだけを勧めればよい、という話ではありませんし、逆にグループ形式が個人形式より劣ったものだという話でもありません。役割が違います。

このほか、スマートフォンやインターネットを介して、CBTを土台にしながら生活習慣を見直すための心理教育を行った研究もあり、そこでも症状の重さが和らいだと報告されています。

マインドフルネス療法で分かっていること

マインドフルネスそのものの説明――何をするのか、どんな練習法があるのか、向き不向きはあるのか――はマインドフルネスとは何かにまとめてあります。ここでは、月経前症状に絞って報告されていることだけをお伝えします。

まず、研究で用いられているものの形です。MBSR(マインドフルネスストレス低減法)やMBCT(マインドフルネス認知療法)のように、マインドフルネスを臨床の手立てとして発展させたプログラムは、基本的には週に1度の集まりを8週間続けていく、グループ形式の構造化されたプログラムです。集まりのなかでは瞑想を行い、その体験を参加者どうしで分かち合います。参加者は毎日のホームワークにも取り組み、途中には1日かけて行う時間も組み込まれています。

月経前症状についてのマインドフルネス療法の研究をまとめた文献レビューを見ると、報告されているのは次のような研究です。

  • 参加した人数は、多くが各群20〜40名、最も大きいもので61名という小規模な研究です
  • 参加者の平均年齢は、20歳前後のものから30代後半のものまで幅があります
  • 内容は、週1回のセッションを8回行う集団プログラムが中心ですが、オンラインで2回の導入を受けたうえで、毎日の練習を8週間続けるという形の研究もあります

結果としては、抑うつ、不安、イライラ、気分の変調、対人関係のつらさ、食欲や睡眠の変化といった月経前症状の重さが、比較対象となった群より下がった、あるいは介入の前後で下がった、という報告が得られています。生活の質(QOL)が高かったという報告もあります。

ここで、二つ補足させてください。

ひとつは、規模の話です。 多くが各群20〜40名、最も大きいもので61名という人数は、医学研究としては小さなものです。研究の数もまだ限られています。

もうひとつは、続け方の話です。 上に挙げた研究が確かめたのは、週1回の集まりを8週間続ける、あるいは毎日の練習を8週間続けるといった、決まった形で数週間にわたって取り組む形です。集まって行うプログラムが中心ですが、オンラインで導入したうえで毎日続けるという形の研究もあり、そこにはスマートフォンのアプリを使ったものも含まれます。つまり、アプリかどうかが分かれ目なのではありません。ご自身でアプリなどを使って短い時間から試してみることを止めるものではありませんが、思いついたときに数分だけ行うことは、研究で確かめられた形とは別のもの、と受け取ってください。

なお、マインドフルネスの特性が低い方ほど、月経前症状をより強く訴えたという報告や、PMDDと診断される方は、その基準を満たさない方に比べてこの特性が低かったという報告もあります。ただしこれらは、両者に関連がみられたという内容であって、「マインドフルネスの特性が低いことが症状の原因だ」と示したものではありません。 順序が逆かもしれませんし、別の要因が両方に効いているのかもしれません。ご自身を責める材料として読まないでください。

なぜ効くと考えられているのか

なぜ症状が軽くなるのか、その仕組みは次のように考えられています。

月経前に浮かんでくる否定的な考えを、そのまま事実として受け取るのではなく、現実に照らして客観的に眺める視点を育てる。それによって反すうが減り、感情を立て直す力が高まる。結果として、月経前の落ち込みや不安、怒りをコントロールしやすくなり、症状が軽くなる――という筋道です。

マインドフルネスは、2つの要素からなるとされます。ひとつは、過去や先のことではなく、いま起きている自分の体験へ意図的に注意を向けること。もうひとつは、その体験に良し悪しの判定を加えず、そのまま受けとめることです。前者が高まると感情に気づきやすくなり、後者が高まることで、感情を受け入れる姿勢や立て直しの方法が育つ。この働きが抑うつや不安に作用すると報告されています。

ただし、これらはいずれも「そう考えられている」「そう報告されている」という段階の説明です。

分かっていないこと・限界

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

1. 月経前症状には独自の特徴があり、CBTの効果が安定しにくいとされています。

月経前症状には、ほかの不調とは違う次の3点があります。

  1. 出てくる症状が人によってさまざまで、一貫していないこと
  2. 月経そのものは予測がつき、決まった周期でめぐってくること
  3. 月経それ自体は、体にとって自然で健やかないとなみであり、症状はそこに随伴して生じること

この3点があるために、CBTによる介入では効果が安定しにくい、との指摘があります。

うつや不安といった従来の対象とは異なり、標的を「月経前に生じる否定的な考え」だけに絞って介入することの難しさがある、と考えられています。

2. 「対処が上手なら大丈夫」ではありません。

PMDDのある女性のうち、ふだん好ましい感情の立て直し方を使っている女性は、気分の周期的な変動がかえって強く、黄体期の後半にはより強い気分の悪化がみられて、そうでない女性と似た状態になったという報告があります。

これは、自己流でうまくやりくりしてきた方ほど注意していただきたい所見です。「うまく対処できているはずなのに、生理前だけ崩れてしまう」のは、対処のしかたが下手だからとは限りません。

さらに月経に伴う症状は、考え方の特徴以外にも、性格の傾向、月経に対する見方や性役割のとらえ方、ストレス、セルフケアの力とも関わると示唆されています。症状そのものへの働きかけと並行して、生活を取り巻く要因への支援も必要だと考えられています。

3. 実証研究そのものが不足しており、とくに国内で少ないのが現状です。

心理療法がPMDDにどれだけ効くのかを実際に検証した研究は、国内ではとくに数が少ないというのが現状だと明記されています。質の高い研究の積み重ねがこれから必要だ、という段階です。

心理療法に試す価値がない、ということではありません。ただ、「心理療法をやれば薬は要らない」という読み方だけはしないでいただきたいのです。

「治す」より「うまく付き合う」という方向

もうひとつ、原典が提唱している方向性を紹介します。

それは、症状が出てくること自体を「問題」と受け取るのではなく、月経周期の一部であり、周期のなかで巡ってくる「変化」なのだと受け容れるという考え方です。そのうえで、薬や生活の工夫、周囲の助けといったさまざまな対処を選択肢として持ちながら、月経周期の全体を自分でマネジメントしていく。そういう心理的な構えを育てることが提唱されています。

ここで狙っているのは、症状そのものというより、症状があるという事実によって、症状が出ている時期だけでなく、ふだんから抱えてしまう心理的な負担感のほうです。症状に振り回されないまま日々を過ごせるようになることで、暮らしやすさが増すと期待されています。

その入口として挙げられているのが、月経周期そのものについての理解を深めることです。ホルモンの周期的な変化についての一般的な知識と、自分の周期の実際とを照らし合わせて、体感として分かっていく。記録のつけ方についてはPMS/PMDDで仕事がつらい 生理前の不調と仕事を両立させる工夫月経前増悪(PME)とPMS/PMDDの違いでお伝えしていますので、そちらをご覧ください。

ただし、大事な断り書きがあります。「受け容れる」は「治療をしなくてよい」ではありません。

この方向性は、薬による治療や生活の指導に代わるものではなく、それらの土台の上に加わる選択肢のひとつとして置かれているものです。つらさが強いとき、生活や仕事に支障が出ているときに、受け容れる努力だけで乗り切ろうとしていただく必要は、まったくありません。我慢を勧める考え方ではない、という点を強調しておきます。

当院での扱いと、受診の目安

はっきりお伝えしておきます。

当院には心理士が在籍しておらず、専門的な心理療法プログラム――構造化された認知行動療法や、この記事で紹介したようなマインドフルネスのプログラム――は提供していません。 診察のなかでの助言や心理教育が中心となります。本格的な心理療法をご希望の場合、当院では行っていないため、実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

そのうえで、PMDDそのもののご相談は当院でお受けしています。 症状の整理、ほかの状態との見分け、薬による治療の検討は、精神科・心療内科の診察のなかで扱うことができます。診療対象は18歳以上の方です。

次のようなときは、相談を考えてみてください。

  • 月経前になると、気分の落ち込みやいらだち、不安が強まり、生活や仕事、人づきあいに支障が出ている
  • 自分なりに工夫してきたが、毎月同じところで崩れてしまう
  • 「薬は避けたいが、ほかに何ができるのか分からない」という状態のまま何周期も過ぎている
  • 心理療法を受けたいが、どこで何を受けられるのか見当がつかない

なお、死にたい気持ちが強く迫っていて自分を抑えられそうにないなど、差し迫った状況では、様子を見ずに、通院中の方は主治医に、急を要する場合は救急(119)に連絡してください。

当院の診療内容についてはPMS/PMDDの症状と治療もあわせてご覧ください。

まとめ

  • PMDDへの対応で最も確立しているのは、SSRIによる薬物療法と、低用量ピルなどのホルモン療法です。心理療法は、その土台に取って代わるものではなく、土台の上に加わる選択肢のひとつです
  • 認知行動療法は、グループ形式でも個人形式でも、症状の改善が長く続いたと報告されています
  • ただし症状が重い方には1対1の形が必要とされ、グループ形式のピアサポートには症状をノーマライズする働きがあると示唆されています。役割が違います
  • 認知行動療法は原則16〜20回の面接とホームワークで進める、時間と手間のかかる治療です
  • マインドフルネス療法の研究は、参加人数が多くは各群20〜40名、最も大きいもので61名という小規模なものです。平均年齢は20歳前後から30代後半まで幅があります
  • 対象となったのは、週1回×8週間の集団プログラムや、毎日の練習を8週間続ける形など、続ける構造をもった取り組みです。思いついたときに数分だけ行うのとは別のものだとお考えください
  • マインドフルネスの特性と症状の強さに関連がみられたという報告はありますが、因果関係を示したものではありません
  • 月経前症状の独自の特徴からCBTの効果は安定しにくいとの指摘があり、ふだん上手に感情を立て直している方でも黄体期後半には強く崩れうると報告されています。とくに国内では実証研究が不足しています
  • 症状を月経周期の一部として受け容れ、周期全体を自分でマネジメントするという方向性が提唱されていますが、治療の代わりではありません
  • 当院には心理士がおらず専門的な心理療法プログラムは提供していませんが、PMDDのご相談はお受けしています

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 『精神科治療学 第39巻3号(2024年3月)特集 実地臨床における月経前不快気分障害(PMDD)』

よくある質問

薬を使わずに、心理療法だけでPMDDに対応できますか。

現時点では「心理療法だけで大丈夫です」とは言えません。PMS・PMDDへの対応のなかで最も確立しているのは、SSRIによる薬物療法と、低用量ピルなどのホルモン療法だとされています。心理療法は、その土台に取って代わるものではなく、土台の上に加わる選択肢のひとつという位置づけです。心理療法についても一定の効果は報告されていますが、研究の規模は小さく、とくに国内では効果を実証する研究が不足しているのが現状だと指摘されています。どの方法を選ぶかは、症状の重さや生活への支障をふまえて医師が診察のうえで判断します。

認知行動療法は、どれくらい通うものですか。

認知行動療法は、原則として16回から20回ほど面接を重ね、そこで話し合った内容を日常生活のなかで試してみるホームワークを組み合わせて進める治療とされています。数回の相談で終わるものではなく、時間と手間のかかる取り組みです。「気の持ちよう」を変えるという話ではない、という点はぜひ知っておいてください。

マインドフルネスのアプリを使えば、同じ効果が期待できますか。

アプリかどうかよりも、続け方のほうが大事だとお考えください。月経前症状について報告されている研究の多くは、週に1度の集まりを8週間続けていく構造化されたプログラムです。オンラインで導入したうえで毎日の練習を8週間続けるという形の研究もあり、そこにはスマートフォンのアプリを使ったものも含まれます。共通しているのは、決まった形で数週間にわたって続ける構造があることです。参加人数は多くが各群20〜40名、最も大きいもので61名という規模で、平均年齢は20歳前後のものから30代後半のものまで幅があります。ご自身でアプリを試すことを止めるものではありませんが、思いついたときに数分だけ行うのは、研究で確かめられた形とは別のもの、と受け取っていただくのが正確です。

マインドフルネスが身についていないから、症状が重いのでしょうか。

そうは言えません。マインドフルネスの特性が低い方ほど月経前症状を強く訴えた、PMDDのある方は基準に達しない方より特性が低かった、という報告はありますが、これらは両者に関連がみられたという内容であって、「特性が低いことが症状の原因だ」と示したものではありません。ご自身の努力不足の証拠として読まないでください。

自分なりにうまく気持ちを立て直しているつもりなのに、生理前だけ崩れます。やり方が悪いのでしょうか。

やり方の問題とは限りません。PMDDのある方のうち、ふだん好ましい感情の立て直し方を使っている方でも、黄体期の後半にはより強い気分の悪化がみられ、そうでない方と似た状態になったという報告があります。「対処が上手なら大丈夫」という単純な話ではない、ということです。ご自身を責める材料にせず、診察でそのままお話しください。

こちらで心理療法のプログラムを受けられますか。

当院には心理士が在籍しておらず、構造化された認知行動療法やマインドフルネスのプログラムといった専門的な心理療法は提供していません。診察のなかでの助言や心理教育が中心となります。本格的な心理療法をご希望の場合、当院では行っていないため、実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。PMDDそのもののご相談は当院でお受けしています。

このテーマの記事を探す

症状や困りごとから探し直す

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約