はじめに——「今月はいつもよりひどい」には理由があるかもしれない
毎月おなじようにつらいわけではない、という方は少なくありません。「先月はなんとかやり過ごせたのに、今月は自分でも驚くほど落ち込んだ」「仕事が立て込んでいた月に限って、生理前がひどかった」。こうしたお話をうかがうことがあります。
そして多くの方が、そのあとにこう続けます。「気のせいかもしれませんが」。
この記事でお伝えしたいのは、その実感を支える調査があるということです。ストレスと月経前の不調の強さのあいだに関連があることは、いくつかの研究で報告されています。今月がとくにひどかったことには、あなたの気の持ちようとは別のところに理由があるかもしれません。
先に一つだけお断りします。これは「ストレスのせいなのだから、自分で何とかしなさい」という話ではありません。むしろ逆で、ストレスが月経前の症状に響くという事実は、ひとりで背負うのではなく、診察のなかで一緒に扱うべき情報です。この記事は、それを診察で話すための材料として読んでいただけたらと思います。
なお、PMDD(月経前不快気分障害)にあたるかどうかの診断は医師が行います。そもそもPMDDとは何か、PMS(月経前症候群)とどう違うのかについては、生理前だけ別人みたいになる…それはPMDDかもしれませんをご覧ください。
前の周期のストレスが、次の周期に響くという調査
まず紹介したいのは、米国で行われた疫学調査です。
この調査は、月経周期が正常な女性に協力してもらい、2つの月経周期にわたって、あとから思い出すのではなくその時点ごとに記録していく形(前方視的な方法)で行われました。その結果、前の周期にストレスを抱えていた状態が、次の周期に月経前と月経中に出てくる症状の種類と強さを、どちらもはっきりと押し上げていたことが示されました。
「2つの周期にわたって前向きに追いかけた」という条件が、この調査の要です。あとから記憶をたどって答えてもらう方法では、いま調子が悪い人ほど過去のストレスを強く思い出しやすく、どちらが先だったのかが分からなくなります。時点ごとに記録していけば、ストレスと症状の前後関係をたどることができます。ただしこれも観察された関係であって、原因と結果を確かめたものではありません。
この結果は、日々の実感とは少しずれた形で受け取ったほうがよいかもしれません。つまり、今月の生理前がひどい理由は、今月ではなく先月にあることがある、ということです。
「今月は特別なことは何もないのに、なぜこんなにつらいのか」と感じている方は、先月に何があったかを、いちど振り返ってみる価値があります。
主観的な健康感とストレス感が、症状の強さと関係していた——大学生を対象とした調査
もう一つ、国内の調査を紹介します。ただし、条件が二つあります。対象は女子大学生200名ですので、そのまま全世代の方に当てはまるとは限りません。そしてこちらは一時点での横断的な調査で、あとから振り返って答えてもらう形をとっています。先ほどの米国の調査とは違い、ストレスと症状の前後関係までは分かりません。この二点を頭に置いてお読みください。
この調査で、月経前の不快な症状の強さに統計的に有意に関係していたのは、自分の健康状態をどう感じているか(主観的な健康感)と、自分がどれくらいストレスを感じているか(主観的なストレス感)の二つでした。
さらに参加者を、この二つの組み合わせで4つの群に分けたところ、自分は「不健康」で「ストレスがある」と答えた19名では、「健康・ストレスなし」と答えた122名と比べて、月経前の症状の合計点が有意に高くなっていました。
この群については、もう二点あります。
一つは、朝食を抜くことが多い割合も有意に高かったということです。ただしこれは、同じ群に両方の特徴が見られたという関連であって、朝食を食べれば症状が軽くなるという因果関係を示したものではありません。この記事でも、そう読める形では書きません。
もう一つは、これも「健康・ストレスなし」と答えた122名との比較で、体の症状よりも心理面・社会面の症状のほうが、月経前により強く出ていたということです。この19名の中で心のほうが重かった、という話ではなく、あくまで群と群を比べた結果です。落ち込みやいらだち、人づきあいのしんどさといった側面が、ストレスを感じている状態で重くなりやすい可能性を示しています。
測られたのが検査値ではなく「自分がどう感じているか」だった、という点も覚えておいてください。感じ方どうしを比べているので、この結果だけで因果を言うことはできません。ただ、ご自身の実感が症状の強さと関わりうる以上、それを診察で話していただく意味はあります。
生活の変わり目が引き金になることがある
この特集では、PMDDについて、ストレスが、症状の始まり(発症)、症状が強まること(増悪)、治療中にぶり返すこと(再燃)、そしてよくなったあとにまた出てくること(再発)のいずれにも、大きく関わる要因になると報告されています。
特集のなかでは、当事者の立場から書かれた稿でも、発病のきっかけになりうるものとして、進学、一人暮らしを始めること、就職、転勤、転職、引っ越し、結婚、離婚、出産、家族の介護、親との死別といった、生活上の大きな出来事が挙げられています。
同じ稿では、生活の変化と症状が重なった例も紹介されています。新しい仕事に就いて数か月たったころに症状が始まった、出産のあとから明らかに強くなった、生活が大きく変わった時期と重なっていた——といったお話です。
気をつけたいのは、挙げられている出来事が「悪い出来事」ばかりではないという点です。結婚、出産、就職のように、周囲からは祝福される変化も含まれています。「おめでたいことなのに、どうして自分はこんなに調子が悪いのだろう」と感じて、そのことでさらに自分を責めてしまう方がいます。けれども体にとっては、生活の形が大きく変わったこと自体が負荷になりえます。喜ばしい変化であっても、負荷は負荷です。
PMDDでは、治療中でも落ち着いていても、ストレスで戻ることがある
もう一つ、知っておいていただきたい指摘があります。
PMDDについては、まだ治療を受けていない方でも、すでに薬による治療を受けている方でも、ストレスとなる要因によって症状が強まることがある。そして、薬で症状が落ち着いている(寛解している)方であっても、ストレスをきっかけに再びぶり返すことがある——そう指摘されています。
これは、がっかりさせる話に響くかもしれません。それでも、あらかじめ知っておいたほうがよいことだと考えています。知らないままだと、症状が戻ってきたときに「治療が効かなくなった」「自分の頑張りが足りなかった」と受け取りやすいからです。実際には、治療が効かなくなったのではなく、負荷が増えた時期と重なっている、ということがあります。
原典では、ストレスのもとを避けたり、ストレスへの対処によって症状が軽くなることもある一方で、薬の量を増やす必要が出てくることもある、とされています。どちらが必要な場面なのかは、そのときの状態を診たうえで判断することです。ご自身で薬を止めたり量を変えたりせず、まずは「最近こういうことがあって、また強く出るようになった」と伝えていただくのがいちばん確実です。
体の側で起きていること——自律神経の変化
「気の持ちよう」ではないと言える手がかりが、体の側にもあります。心拍のわずかなゆらぎ(心拍変動)を測って、自律神経の働きを調べた一連の研究です。
- 月経前の不快な症状がない、あるいは軽い方では、自律神経の活動は月経周期によって変わりませんでした。
- PMSの群では、症状が出る黄体後期に交感神経の活動が高まり、副交感神経の活動が下がっていました。ただし、月経が始まればPMSの症状が消えるのに合わせて、自律神経の活動も戻ってくるのではないか、と示唆されています。
- PMDDの群では、他の2群(症状がない・軽い群とPMSの群)と比べて、卵胞期・黄体後期の両方の時期で心拍変動が小さくなり、副交感神経の活動も大きく下がっていました。卵胞期は、本来なら症状が軽くなるはずの時期です。
そのうえで、原典には大切な但し書きがあります。自律神経に見られるこの変化が、PMS・PMDDを引き起こしている直接の原因なのか、それとも月経前のつらさに長く苦しんできた結果としてあらわれているものなのかは、まだはっきりしていない、と明記されているのです。
ですからこれは、「あなたの自律神経が乱れているのが原因です」と言い切れる段階の話ではありません。原因の話としては、まだ分かっていないままです。それでも、月経前のつらさが気持ちの問題ではなく、体の側にも測れる変化として現れうるものだ、ということは言えます。
「ストレスをなくす」は現実的でない——では何ができるか
ここまで読んで、「では、ストレスを減らせばいいのですね」と思われたかもしれません。けれども、多くの方にとってそれは現実的な助言ではありません。仕事も、家族の事情も、介護も、簡単に減らせるものではないからです。「ストレスを減らしましょう」という言葉が、かえってもう一つの負担になってしまうことすらあります。
この記事がお伝えしたいのは、次の二つだけです。
一つめは、つながりを知っておくことです。今月ひどかったことの背景に、先月からの負荷があるかもしれないと知っているだけで、自分を責める材料が一つ減ります。これは小さなことのようで、毎月くり返す症状と付き合ううえでは軽くない違いになります。
二つめは、生活の「変化」を診察で話していただくことです。月経前の症状が強くなったとき、最近生活で変わったことはないか、つらい出来事はなかったか、という点は大きな手がかりになります。そしてこれは、ご本人が話してくださらないと分からない情報です。症状の話だけでなく、その月に何があったかもあわせてお聞かせください。
生活リズムや働き方の調整、症状の記録の付け方といった具体的な工夫については、PMS/PMDDで仕事がつらい 生理前の不調と仕事を両立させる工夫にまとめていますので、そちらをご覧ください。この記事ではくり返しません。
薬は続けたうえで、ストレスの話も診察に持ち込んでほしい理由
ここは誤解が生まれやすいところなので、ていねいに書きます。
PMDDに対しては、SSRIと呼ばれる抗うつ薬を月経前の時期に限って使う間欠療法が、少なくとも海外では第一選択とされています。効果が期待できる、確立した治療です。薬の選択肢についてはPMS/PMDDに低用量ピルは効く?ピルとSSRIなど薬の選択肢を整理をご覧ください。
そのうえで、この特集は薬の役割の範囲についても書いています。薬はPMS/PMDDの症状に働くものであり、ストレスそのものへの対処は、それとは別に考えていく必要がある、という趣旨です。
ただし、これは「薬は効かない」「薬をやめてストレス対処に切り替えればよい」という意味ではまったくありません。原典がこの記述に続けて挙げているのは、むしろ逆の結論です。すなわち、薬物療法を行いながら、そのうえで、ストレスとなる要因によって症状が悪化したり再燃したりしうることを本人に伝え、ストレスへの対処についての情報も提供するなど、日頃から心理教育をしっかり行うことが重要である——というものです。
つまり、薬と心理教育はどちらかを選ぶものではなく、両方が要るということです。薬は続けたうえで、ストレスの話も診察に持ち込んでいただきたい、というのがこの節の趣旨です。飲み方の変更や中止は、必ず医師と相談して決めてください。
なお当院には心理士がおらず、専門的な心理療法プログラムは提供していません。診察のなかでの助言や心理教育が中心となります。本格的な心理療法をご希望の場合、当院では行っていないため、実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。
受診の目安
以下に当てはまるときは、相談を考えてみてください。
- 月経前のつらさの強さが月によって大きく違い、その落差に振り回されている
- 生活に大きな変化があった時期から、月経前の症状が明らかに強くなった
- 治療で落ち着いていたのに、ここ数か月また強く出るようになった
- 「ストレスに弱い自分が悪い」と考えて、自分を責めてしまっている
- 月経が始まっても気分の落ち込みが残る(この場合は月経前増悪(PME)とPMS/PMDDの違いもあわせてご覧ください)
当院の診療対象は18歳以上の方です。初診は問診を含めて30分程度、再診は5分前後を目安にしており、通院の間隔は2週間に一度が基本です。次の診察までのあいだに生活で変わったことがあれば、そのつどお話しください。そのつど短く話していただくほうが、あとからまとめて思い出すより確かです。
なお、死にたい気持ちが強く迫っていて自分を抑えられそうにないなど、差し迫った状況では、通院中の方は主治医に、急を要する場合は救急(119)に連絡してください。
まとめ
- 「忙しい時期ほど生理前がひどい」という実感には、それを支える調査があります
- 月経周期が正常な女性を2つの周期にわたって前方視的に追いかけた米国の調査では、前の周期のストレス状態が、次の周期の月経前・月経中の症状の種類と強さをはっきり増やしていました
- 女子大学生200名を対象とした国内の調査(一時点での横断的な調査)では、症状の強さに有意に関係していたのは主観的な健康感とストレス感でした
- その調査で「不健康・ストレスあり」と自己評価した19名は、「健康・ストレスなし」と答えた122名と比べて、症状の合計点が高くなっていました
- 同じ122名との比較で、体の症状よりも心理面・社会面の症状のほうが月経前に重く出ていました
- 就職・転居・出産・介護・死別といった生活の大きな変わり目が、発病のきっかけになりうると挙げられています。喜ばしい変化であっても負荷にはなります
- PMDDについては、未治療の方でも、薬による治療中の方でも、薬で落ち着いている方でも、ストレスをきっかけに症状が戻ることがあるとされています
- 戻ったこと自体は、あなたの努力不足を意味しません
- 自律神経の変化が測られていますが、それが原因なのか、長く苦しんできた結果なのかは、まだ分かっていません
- 薬はPMS/PMDDの症状に働くもので、ストレスそのものへの対処は別に考えていくことになります
- だからこそ、薬に加えて心理教育とストレスの話が要る、というのが原典の結論です。薬をやめてよいという意味ではありません
当院では、PMDDの診断と治療を行っています。詳しくはPMS/PMDDの症状と治療をご覧ください。
参考にした書籍
この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。
- 『精神科治療学 第39巻3号(2024年3月)特集 実地臨床における月経前不快気分障害(PMDD)』
よくある質問
忙しい時期ほど生理前がひどくなる気がするのですが、気のせいでしょうか。
気のせいと決めつけなくて構いません。月経周期が正常な女性を2つの周期にわたって、その時点ごとに記録する形で追いかけた米国の調査では、前の周期にストレスを抱えていた状態が、次の周期の月経前と月経中に出る症状の種類と強さを、はっきり押し上げていたと報告されています。ただし個人差があり、症状の見きわめは医師が行います。
今月は特別なストレスがないのに、生理前がつらいのはなぜですか。
ストレスの影響が、その周期のうちに出るとは限らないためです。前の周期の負荷が次の周期に響いたという報告があるので、今月ではなく先月に何があったかを振り返っていただくと、手がかりが見つかることがあります。もちろん、ストレス以外の要因が関わっていることもあります。
薬で落ち着いていたのに、また症状が出てきました。治療が効かなくなったのでしょうか。
そうとは限りません。この分野の報告では、薬物療法で症状が落ち着いている方であっても、ストレスをきっかけに再びぶり返すことがあるとされています。効かなくなったのか、負荷が増えているのかは診察で整理していきます。自己判断で薬を中止したり量を変えたりせず、そのまま主治医にお伝えください。
薬を飲んでいれば、ストレスにも強くなりますか。
薬はPMS/PMDDの症状に働くものなので、ストレスそのものへの対処は、それとは別に考えていくことになります。ただしこれは薬が不要という意味ではありません。原典はこの記述に続けて、薬物療法を行いながら、ストレスで症状が悪化・再燃しうることを伝え、対処の情報も届けるといった心理教育を日頃からしっかり行うことが重要だと述べています。
朝食を食べれば生理前の症状は軽くなりますか。
そう言い切れる根拠はありません。女子大学生200名を対象とした国内の調査で、自分を不健康でストレスがあると評価した群では朝食を抜く割合も高かったと報告されていますが、これは同時に見られたという関連であって、朝食が症状を左右するという因果関係を示したものではありません。
ストレスの話を診察でしてもよいのでしょうか。
ぜひお話しください。生活に何か変わったことがあったか、最近つらい出来事があったかという情報は、月経前の症状の見方を大きく変えることがあります。ご本人にしか分からない手がかりですので、症状の話とあわせてお聞かせいただけると助かります。