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連載「PMS/PMDDを知るシリーズ」第2回(全8回) 第1回から読む →

「生理前くらいで」と言われるつらさ

「生理前くらいで大げさな」

「みんな多少はつらいものでしょう」

そう言われた経験のある方は、少なくないと思います。もっと苦しいのは、何度も言われるうちに、自分でも「そうかもしれない」と思い込んでしまうことです。実際にはその時期だけ仕事が手につかず、家族に強く当たってしまい、あとで自分を責めている。それでも「甘えではないか」という考えが先に立って、相談する足が止まってしまう。

この記事は、その「大げさではない」を、根拠のある数字で支えるために書きました。

はじめにお伝えしておきます。ここに挙げるのは、集団を比べて分かったことです。ある集団で高い数値が出たからといって、あなたに同じことが起こると決まったわけではありません。そして、PMDDは治療に比較的よく反応する状態だと考えられています。読んで不安を強めるためではなく、「相談してよかったんだ」と思うために使ってください。

PMDD(月経前不快気分障害)そのものの説明は、生理前だけ別人みたいになる…それはPMDDかもしれませんにまとめています。この記事は、その続きとして「つらさの大きさ」に絞ってお話しします。

生活のどこに出るのか

まず、日本国内の調査から見ていきます。2003年から2004年にかけて、20〜49歳の日本人女性1,152名を対象に行われたアンケート調査があります。この調査で、月経前に不安や緊張を感じると答えた方は約69%、いらだちや怒りっぽさは約71%、体の症状は約81%、疲れやすさや元気の出なさは約52%でした。そして、これらのために仕事の能率や創造性、家庭での役割を果たす力が落ちると答えた方が、約50%いました。

ここは条件が大事です。この数字は、軽い症状の方まで幅広く含んだものです。回答した方すべてが治療を必要とする状態だったわけではありません。それでも、月経前の変化が生活の実務に及ぶこと自体は、こうしてはっきり数字に出ています。

睡眠についても、重症のPMSの女性は、症状のない女性と比べて、月経直前の時期の「よく眠れた感じ」が明らかに低かったという報告があります。

PMDDの専門外来を持つ医師は、診察室でよく聞く訴えとして、感情が激しく揺れること、強いいらだち、感情を爆発させたあとに自分の価値を見失う感覚などを挙げています。なかには、自分は別の病気なのではないかと心配して受診される方もいるといいます。

数字で見ると、何が起きているか

もう少し踏み込んだ数字を見ます。

働く女性については、2018年に経済産業省が出した報告があります。女性従業員を対象に、女性だけに起こる健康の問題や、女性に起こりやすい症状のために、職場で困った経験があるかどうかを尋ねたものです。その結果、60%が何らかの形で困った経験があると答えました。内訳でいちばん多かったのは月経困難症などの月経に関連した症状や病気で、次に多かったのがPMSなどでした。この数字は女性従業員全体を対象にしたもので、PMDDの方だけの数字ではありません。

さらに、月経周期を2周期分きちんと記録して重症度を判定した研究があります。この研究では、中等症以上のPMSとPMDDの女性のおよそ70%が、趣味や社会生活、人づきあいに支障を感じていました。(ここでいう「中等症以上のPMSとPMDD」は、中等症から重症のPMSとPMDDをまとめた集団を指します。) これは、症状が軽い方や症状のない女性と比べて高い割合だった、という形で報告されています。「比べて高かった」という部分が大事です。誰にでもある不調の話ではなく、重さによって差がついている、という意味だからです。

同じ研究者による別の検討では、仕事への影響が調べられています。比べたのは、先ほどと同じ2つの集団です。仕事の生産性が落ちていると答えた割合は、症状が重いほうの集団で明らかに高いという結果でした(統計上の指標である調整オッズ比は3.12、その95%信頼区間は1.75から5.57)。オッズ比というのは、ざっくり言えば「その状態になりやすさが何倍か」を表す数字です。ここでは、およそ3倍なりやすかった、と読んでいただければ十分です。

そして、能率が落ちていた日数の平均は、症状が軽い方や症状のない女性が1.1日だったのに対し、中等症以上のPMSとPMDDの女性では5.6日でした。休みが多くなることも、あわせて示されています。

中等症以上のPMSとPMDDの女性では、本来の力が出せない日が、症状の軽い方や症状のない女性のおよそ5倍あった――そう考えると、「生理前くらいで」という言葉が実態とずれていることが分かります。仕事との付き合い方の工夫については、PMS/PMDDで仕事がつらい 生理前の不調と仕事を両立させる工夫をご覧ください。

他の不調と比べたときの重さ

「では、他の病気と比べてどうなのか」という疑問が残ると思います。

ハルブライヒらの研究が、この点を扱っています。この研究が用いたのは、生活の質(QOL)を測るものさしではなく、社会適応の尺度(SAS)でした。仕事、夫婦関係、家族、社会生活や余暇といった場面で、どのくらいうまくやれているかをみる指標です。この尺度を使って、PMDDの女性を、気分変調症の方、慢性に経過している大うつ病性障害の方、大うつ病性障害の方、そして健康な女性と比べています。

結果は二つあります。

ひとつは、PMDDの女性の月経前(黄体期)の社会適応の障害は、うつ病の女性と同じくらい深刻だった、という結論です。ここは正確に受け取ってください。「QOLがうつ病と同じ」ではなく、「社会生活への適応という面で、同じくらい深刻だった」という報告です。

もうひとつは、少し意外に思われるかもしれません。PMDDの方は、症状の出ていない卵胞期(月経後から排卵まで)であっても、健康な女性と比べると、仕事と夫婦関係の2つを除いたすべての項目でスコアが高かった――つまり、うまくいっていない度合いが大きかった、というものです。

ここは読み違えやすいところなので、はっきりさせておきます。症状そのものは、月経が始まるとともに軽くなります。この点はうつや不安が生理前に悪化する 月経前増悪(PME)とPMS/PMDDの違いとはに書いたとおりです。ただ、社会適応という別のものさしで測ると、症状の出ていない卵胞期でも健康な女性との差が残っていた、と報告されている――そういう話です。症状があるかどうかと、社会生活がどのくらいうまくいっているかは、別のものさしです。

なお、質調整生存年(QALY。生活の質を加味した生存年数)という指標で見ても、PMDDでの目減りは、うつ病やパニック症、アルコール依存症と同じくらい大きいという報告があります。

どれくらいの人が抱えているのか

有病率、つまり「どのくらいの割合の人にみられるか」の数字は、調査の基準・対象の年代・調べ方によってかなり幅があります。一つの数字を「これが正解」として覚えないほうがよい領域です。そのうえで、報告されている数字を並べます。

  • 先ほどの国内調査(20〜49歳、1,152名)では、PMDDが1.2%、中等症〜重症のPMSが5.3%。この調査では20代・30代・40代の間に大きな差はありませんでした。
  • 日本の生殖年齢にある女性の人口に当てはめると、中等症〜重症のPMSが約135万人、PMDDが約47万人、合わせておよそ180万人と推計されています。
  • DSM-5では、月経のある女性における12か月有病率を1.8〜5.8%としています。
  • 看護師861人を対象とした国内のアンケート調査では、4.2%にPMDDがみられました。これらを合わせて、月経のある女性のおよそ5%と考えられる、という整理がなされています。
  • 海外では、欧米が3〜8%、東アジアが1.3〜2.8%と報告されています。

東アジアの数字が低い理由は、はっきり分かっていません。指摘されている要因として、PMDDという言葉が十分に知られていないこと、月経前の精神症状への理解が広まっていないこと、文化や宗教的な背景の違い、周囲の目を気にしてつらさを訴えにくいこと、食生活の違いなどが挙げられています。数字が低いことは、つらい人が少ないことと同じではない、という点は覚えておいてよいと思います。

なお、10代を対象に含む調査もありますが、当院の診療対象は18歳以上の方です。

それなのに、治療に届いている人は多くなかった

先ほどの国内調査には、もう一つ重要な結果があります。

この調査で、治療の対象と考えられる中等症以上のPMSとPMDDに該当した方は75名いました。そのうち、実際に治療を受けていたのは5名でした。

ここは条件をはっきりさせておきます。これは2003〜2004年、つまり20年以上前の調査の数字です。その後、日本産科婦人科学会の診療ガイドラインが整備され、治療は当時よりずっと広まっていると考えられます。原典を書いた医師自身も、現在はもっと多くの方が治療を受けられているはずだと期待する形で書いています。

ただ、それでもこの数字が示していることがあります。つらさの大きさと、治療につながる人の多さは、必ずしも比例しないということです。

理由の一つとして、ある研究者はこう指摘しています。この病気は、進行していくものではなく、ずっと続くものでもありません。そのために、顧みられることが少なかった――という見立てです。

もう一つは、医療者側の認知の問題です。精神医学の専門誌でPMDDが特集として組まれたのは、2024年のこの特集が初めてではないか、と編集を担当した医師が書いています。学生のころにこの病名を教わった記憶がない、と話す臨床家がいても無理はない、とも記されています。相談しても十分に取り合ってもらえなかった経験のある方がいるとしたら、それはあなたの伝え方の問題ではなかった可能性があります。

「病気」として認められるまでに、時間がかかった

なぜ認知が遅れたのか。病名の歴史をたどると、事情が見えてきます。

  • 1931年 ― フランクという医師が、15例の女性の月経前の症状を「月経前緊張症」として報告しました。
  • 1953年 ― グリーンとダルトンが、同じような状態をPMS(月経前症候群)と呼び直し、この呼び方が広まりました。
  • 1987年 ― アメリカ精神医学会が定めるDSM-III-Rが、「黄体期後期の不機嫌性障害」という診断名を初めて載せます。ただし本文ではなく付録で、今後の研究が必要な提案段階の分類という扱いでした。
  • 1994年 ― DSM-IVでは、これがPMDDという名称に改められます。それでも位置づけは「今後の研究のための基準案」にとどまりました。
  • 2013年 ― DSM-5で、PMDDが抑うつ障害群のなかに位置づけられ、うつ病などと並ぶ独立した病気として記載されました。

つまり、最初にまとまった報告が出てから、うつ病と並ぶ独立した病気として扱われるまでに、80年以上かかりました。

ある医師は、この空白の期間について次のような趣旨のことを書いています。多くの女性は月経前の感情の不安定さに苦しんできたはずで、周囲の男性もうすうす気づいてはいたが、体の状態として理解されず「そういう性格」として片づけられてきた面がある――と。加えて、月経の話題そのものが口にしにくいものとして扱われてきた歴史も指摘されています。

これは、読者の実感にそのまま重なる話だと思います。「性格の問題」として長く扱われてきたのは、あなたの周囲だけで起きたことではありませんでした。

だから、相談してよい

ここまでの内容を、受診という行動につなげます。

次のようなときは、相談を考えてみてください。

  • 月経前の時期に、仕事や家事の能率が落ちる日が毎月のようにある
  • その時期だけ、人づきあいや家族との関係がうまくいかなくなる
  • 楽しめていたことが、その時期だけ楽しめない
  • 「大げさだ」と言われて、自分でも判断がつかなくなっている
  • 月経が始まると軽くなるのに、次の周期が来るのが怖い

期間が典型と違っても、相談しない理由にはなりません。PMSは「月経前3〜10日の間続く症状」と定義されていますが、これに収まらない経過も書かれています。たとえば、排卵の直後、1〜2日だけ月経前と同じくらい強く症状が出る方もいると報告されています。また、月経周期のうち約2週間にわたって精神的・身体的な苦痛が生じる、という記述もあります。

また、月経前だけでなく普段から不調がある場合は、もともとの病気が月経前に悪化している「月経前増悪(PME)」の可能性もあります。見分け方はうつや不安が生理前に悪化する 月経前増悪(PME)とPMS/PMDDの違いとはにまとめました。治療の選択肢についてはPMS/PMDDに低用量ピルは効く?ピルとSSRIなど薬の選択肢を整理をご覧ください。

PMDDかどうかの診断は医師が行います。この記事の数字は、ご自身で診断をつけるためのものではなく、「相談してよい」と判断する材料として使っていただくものです。

当院では、月経のある方については、初診前のWEB問診で月経周期や月経前の症状の変化を確認し、必要に応じて診察でも伺っています。「生理のことを精神科で話してよいのだろうか」と迷われる必要はありません。

当院の診療対象は18歳以上の方です。通院中の方は、主治医にまずお伝えください。急を要する状態のときは、迷わず救急(119)を利用してください。

まとめ

  • 月経周期を記録して重症度を確かめた研究では、中等症以上のPMSとPMDDの女性のおよそ70%が趣味・社会生活・人づきあいへの支障を感じており、症状が軽い方や症状のない方より高い割合でした
  • 同じ研究者の検討で、能率が落ちていた日数の平均は1.1日に対して5.6日。仕事の生産性の低下もおよそ3倍なりやすいという結果でした(いずれも、軽症・無症状の女性と比べたときの、中等症以上のPMSとPMDDの女性の数字です)
  • 社会適応の尺度(SAS)を使った比較では、PMDDの女性の月経前の障害はうつ病の女性と同じくらい深刻で、症状の出ていない卵胞期でも、仕事と夫婦関係の2つ以外のすべての項目で健康な女性よりスコアが高いという報告があります
  • 有病率は調査によって幅があり、国内で1.2%、月経のある女性のおよそ5%、DSM-5で1.8〜5.8%などと報告されています。一つの数字が正解というわけではありません
  • 20年以上前の国内調査では、治療対象と考えられる75名のうち治療を受けていたのは5名でした。つらさの大きさと、治療につながる人の多さは比例しません
  • 最初のまとまった報告は1931年ですが、PMDDが独立した病気として扱われたのは2013年です。状態は昔からありました。病気として位置づけられるのが遅かっただけです

当院では、PMS・PMDDの診断と治療を行っています。詳しくはPMS/PMDDの症状と治療をご覧ください。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 『精神科治療学 第39巻3号(2024年3月)特集 実地臨床における月経前不快気分障害(PMDD)』

よくある質問

「生理前くらいで大げさだ」と言われます。そうなのでしょうか。

調べられた範囲の数字を見るかぎり、大げさとは言えません。月経周期を2周期記録して重症度を確かめた研究では、中等症以上のPMSとPMDDの女性のおよそ70%が、趣味や社会生活、人づきあいに支障を感じていました。これは症状が軽い方や症状のない方と比べて高い割合です。つらさの受け止め方には個人差がありますが、生活への影響そのものは客観的に測られています。

仕事への影響は、どのくらい調べられているのですか。

同じ研究者による別の検討では、中等症以上のPMSとPMDDの女性は、症状が軽い方や症状のない方と比べて、仕事の生産性が落ちていると答えた割合が明らかに高く、能率が落ちていた日数の平均も、1.1日に対して5.6日と長いという結果でした。欠勤の多さも示されています。いずれも二つの集団を比べた数字で、一人ひとりの結果を予測するものではありません。

PMDDはどのくらいの人が経験しているのですか。

調査の基準や対象の年代によって幅があります。日本国内の20〜49歳の女性を対象とした調査ではPMDDが1.2%、中等症〜重症のPMSが5.3%でした。一方、DSM-5では月経のある女性の12か月有病率を1.8〜5.8%としており、看護師861人を対象とした国内調査では4.2%、これらから「月経のある女性のおよそ5%」と考えられるという整理もあります。海外では欧米が3〜8%、東アジアが1.3〜2.8%と報告されています。

昔はPMDDという病名がなかったのですか。

ありませんでした。月経前の不調そのものは1931年に15例の報告があり、1953年にPMSという呼び方が広まりましたが、PMDDという病名が使われたのは1994年のDSM-IVからで、そのときはまだ「今後の研究のための基準案」という位置づけでした。うつ病などと並ぶ独立した病気として扱われるようになったのは2013年のDSM-5からです。病気として位置づけられるのが遅かっただけで、状態そのものは昔からあったと考えられています。

症状が出る期間が、よく書かれている典型と違います。相談してよいですか。

相談していただいて構いません。PMSは「月経前3〜10日の間続く症状」と定義されていますが、これに収まらない経過も書かれています。たとえば、排卵の直後、1〜2日だけ月経前と同じくらい強く症状が出る方もいると報告されています。また、月経周期のうち約2週間にわたって精神的・身体的な苦痛が生じるという記述もあります。期間が典型と違うことは、相談しない理由にはなりません。PMDDかどうかの診断は医師が行いますので、まずは経過をそのままお話しください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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