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連載「PMS/PMDDを知るシリーズ」第3回(全8回) 第1回から読む →

はじめに

「生理前になると、いつも以上に気分が沈んでつらい」「もともと通院しているうつや不安が、月経前の数日だけぐっと悪くなる気がする」——そんな経験はありませんか。

月経前に心や体の調子が崩れる女性は少なくありません。よく知られているのは「PMS(月経前症候群)」や「PMDD(月経前不快気分障害)」ですが、実はもうひとつ、見落とされやすい状態があります。それが「月経前増悪(PME)」——もともと持っているうつ病や不安症などの症状が、月経前に悪化するという状態です。

「生理前だけ調子が悪い」のと、「いつもある不調が生理前にもっとひどくなる」のとでは、似て見えても背景がちがいます。そして、どちらなのかによって、相談すべき内容や治療の進め方も変わってきます。

「気のせいかもしれない」「わがままに思われるかも」と一人で抱え込んでしまう方もいますが、これは医学的にきちんと知られている現象であり、あなただけが悩んでいるわけではありません。この記事では、月経前増悪(PME)とは何か、PMDDとどう違うのか、そして自分で見分けるヒントになる記録のしかたまで、できるだけわかりやすくお伝えします。

月経前増悪(PME)とは――もともとの不調が生理前に強まる状態

月経前増悪(げっけいぜんぞうあく)は、英語の premenstrual exacerbation の頭文字をとって「PME」とも呼ばれます。もともと持っている心の病気や体の病気の症状が、月経前の時期に悪化する状態のことです。

たとえば、うつ病で治療を受けている方が「生理前の数日だけ、ふだんよりずっと気分が落ち込む」と感じる。不安症の方が「月経前になると不安や緊張がぐっと強まる」と気づく。こうしたものがPMEにあたります。

PMEは、決してめずらしい現象ではありません。精神科治療学のPMDD特集によると、うつ病では半数以上の女性が月経前の悪化を経験したという報告があり、双極症(躁うつ病)、パニック症や全般不安症などの不安症、強迫症、摂食障害など、実に多くの心の病気で月経前の悪化が報告されています。心の病気だけでなく、片頭痛やぜんそく、てんかんといった体の病気でも、月経前に症状が強まることが知られています。

ここで大切なのは、PMEは「新しく月経前にだけ起こる病気」ではなく、「すでにある不調が、月経前というタイミングで強まる」という考え方だという点です。月経前の数日が過ぎて月経が始まると、症状は「消える」のではなく、もとの状態へと戻っていく傾向があります。

実際、月経前の不調で医療機関を受診する女性のなかには、独立した月経前の病気というより、もともとのうつ病などが月経前に悪化していた、という方が一定数いると報告されています。それだけ身近で、けれども気づかれにくい状態なのです。

PMEとPMDDは似て見える――見分けの核心は「生理が始まった後」

PMEとよく混同されるのが、PMDD(月経前不快気分障害)です。PMDDは、月経前の時期に強い気分の不安定さ、イライラや怒り、抑うつ、不安などがあらわれ、月経が始まると軽くなっていく状態で、現在は抑うつ症のグループに含まれる病気と位置づけられています。

PMEとPMDDは、どちらも「月経前に気分の不調が強まり、月経とともに楽になる」という見え方をします。そのため、症状だけを見て区別するのはとてもむずかしいことがあります。

両者を分ける一番のポイントは、「月経前以外の時期がどうか」、言いかえると「生理が始まった後、どこまで良くなるか」です。

  • PMDD:ふだん(排卵前の卵胞期など)は症状がほぼなく安定していて、月経前の時期にだけ強い不調があらわれる。月経が始まると症状は軽くなり、月経が終わるころには「すっかり元どおり」に近い状態まで戻る。
  • PME:もともと一か月を通して何らかの不調があり、それが月経前にさらに悪化する。月経が始まると悪化した分は落ち着くが、症状が「消えてスッキリする」わけではなく、ベースの不調は残ったままになる。

つまり、「生理前だけ」つらく、生理が来ると症状がリセットされるのがPMDD、「いつもの不調が生理前にもっとつらくなる」だけで、生理が来てもベースのつらさは続くのがPME、というイメージです。

実は、PMDDの診断基準そのものに「うつ病など他の精神疾患の単なる月経前の悪化ではないこと」という条件が含まれています。つまり、PMEだけの場合はPMDDとは診断しない、というのが医学上の約束事です。とはいえ実際の臨床では、抑うつ気分や気分の不安定さが症状の中心になると、PMEなのかPMDDなのか、あるいは両方が重なっているのか、判断に迷うことも少なくありません。両者が合併している方も一定数いると報告されています。これは専門家でも慎重に見きわめるところで、最終的な診断は医師が行います。

なぜ見分けが大切なのか――治療の方向が変わることがある

「どちらでも、つらいことに変わりはないのでは」と思われるかもしれません。けれども、PMEかPMDDかによって、治療の考え方が変わることがあります。

たとえば、PMDDと考えられる場合には、月経前の症状そのものを標的にした治療(お薬や生活の工夫、婦人科的な治療の検討など)が中心になります。薬による治療の選択肢については、PMDDに低用量ピルは効く?薬での治療の選択肢を整理もあわせてご覧ください。

一方、PMEの場合は、土台にあるもともとの病気の治療を整えることが優先されます。うつ病のPMEなら、うつ病の治療そのものを見直すことが月経前のつらさの軽減にもつながります。

とくに注意したいのが、双極症(躁うつ病)の月経前増悪です。双極症では月経前に気分の症状が悪化する方が多いと報告されており、その見え方は「生理前に気分が大きく崩れる」という点でPMDDとよく似ています。しかし、双極症の抑うつに対して抗うつ薬だけで治療すると、気分の高ぶり(躁転)や気分の波の悪化を招くおそれがあることが専門書でも指摘されており、気分安定薬を中心とした治療が基本になります。もし双極症のPMEを「PMDDだけ」と誤解してしまうと、治療の方向がずれてしまう可能性があるのです。「月経前の不調」の背景に何があるかを丁寧に見ることが、遠回りのようでいちばんの近道になります。

また、心の病気以外の要因が隠れていることもあります。甲状腺の機能の低下や貧血などは、だるさや気分の落ち込みに似た症状を起こすことがあり、月経のある女性では特に見落とせない視点です。片頭痛や月経困難症(生理痛が強い状態)が重なっている場合や、ホルモン剤の使用を始めてから気分の症状が出てきた場合も、それぞれ整理して考える必要があります。必要に応じて血液検査で確認していきます。婦人科での評価が必要と判断した場合は、受診先をご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

なぜ生理前に悪化するのか――黄体期とホルモンの変化

では、なぜうつ病や不安症は月経前に悪化しやすいのでしょうか。鍵になるのが「黄体期(おうたいき)」です。

月経周期は、おおまかに排卵までの「卵胞期」と、排卵後から月経までの「黄体期」に分けられます。このうち黄体期、とくに月経の直前にかけては、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが大きく変動する時期です。

月経前の不調は、ホルモンの「量そのもの」が問題というより、ホルモンが変化することに体が敏感に反応してしまうことと関わっていると考えられています。実際、この時期にはうつ病をはじめ、さまざまな病気の症状が強まりやすいことが知られています。

心の面では、気分の落ち込みやイライラ、不安、緊張が強まりやすくなります。興味深いことに、うつ病の方の月経前の悪化では、気分そのものよりも、睡眠の乱れや食欲の変化、強い疲れといった体の不調が目立ちやすいと報告されています。「気持ちの問題」ではなく、ホルモンの波が背景にある体の反応なのだ——そう理解すると、自分を責めすぎずにすむかもしれません。

なお、ここで挙げた背景はあくまで一般的な傾向です。ホルモンと気分の関係は複雑で、まだわかっていないことも多く、研究が続けられている段階です。

症状を月経周期に沿って記録すると見分けやすくなる

PMEとPMDDを見分けるうえで、決め手になるのが「毎日の記録」です。

実は、PMDDの正式な診断には「少なくとも2回の月経周期にわたって、症状を前もって毎日記録して確認すること」が求められています(記録がそろう前に、暫定的に診断して治療を始めることは認められています)。国際的な月経前の不調の診断の枠組みでも、「前方視的に(=後から思い出すのではなく、その日その日に)最低2周期記録すること」が基準に含まれています。

なぜ「毎日つける」ことがそれほど重視されるのでしょうか。後から「先月の生理前はどうだったか」と思い出して振り返る方法では、記憶があいまいになったり、いま現在の気分に引きずられたりして、実際の症状のパターンを正確に捉えにくいからです。だからこそ、その日のうちに短くメモしておく「リアルタイムの記録」が、診断の世界では標準とされています。

むずかしく考える必要はありません。手帳やスマートフォンのアプリ、カレンダーで、

  • その日の気分や不安・イライラの強さ(0〜10などの簡単な点数でもよい)
  • 睡眠、食欲、体の症状(眠れたか、食べすぎたか、だるさや痛みなど)
  • 月経が始まった日・終わった日

の3点を、1日1〜2行でよいので、2〜3か月(月経周期でいうと2周期以上)続けてみてください。専用の記録用紙やアプリもありますが、「症状・強さ・生理日」が並んでいれば、形式は自由で構いません。

しばらく続けると、自分の不調が「月経前の時期に集中して、月経が始まると楽になり、月経後はほぼ症状がない」パターンなのか、「一か月を通してずっとあって、月経前にさらに強まる」パターンなのかが、グラフのように見えてきます。前者ならPMDDが、後者ならPME(もともとの不調の悪化)が考えやすくなります。

この記録は、受診したときに医師が状態を整理する大きな助けになります。診察室では、つい「生理前がつらくて…」とだけ伝えてしまいがちですが、記録があれば「いつ、どのくらい」がひと目で伝わります。見分けそのものは医師が行いますので、記録は「正確に分類するため」というより、「事実をありのまま持っていくため」のものと考えていただいて大丈夫です。うまくつけられない日があっても、途切れ途切れでも、あるだけで価値があります。

婦人科と精神科、どちらに相談すればよい?

月経前の不調は、婦人科と精神科の「あいだ」に位置する悩みでもあり、どちらを受診すべきか迷う方が多いテーマです。専門家のあいだでも、PMSは主に婦人科、PMDDは精神科の側から定義されてきた経緯があり、両者の線引きは実はクリアカットではないとされています。

目安としては、次のように考えていただくとよいと思います。

  • 腹痛・乳房の張り・頭痛など体の症状が中心なら、まず婦人科へ。
  • 気分の落ち込み・イライラ・不安など心の症状が中心なら、精神科・心療内科へ。
  • すでに心の病気で通院中の方は、まず今の主治医に「月経前に悪くなる」ことを伝えてください。PMEの評価は、ふだんの状態を知っている主治医がもっとも行いやすいからです。

どちらの科を選んでも間違いではありません。大切なのは、どの診断名に当てはまるかよりも、いまのつらさが軽くなることです。婦人科と精神科の両方の視点が必要になることもあります。当院で診ていて婦人科での評価や治療が適していると判断した場合は、受診先をご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

当院(精神科・心療内科)でも、月経前の気分の不調やPMEのご相談をお受けしています。なお、当院には心理士が在籍しておらず、専門的な心理療法プログラムは提供していません(診察のなかでの助言・心理教育が中心です)。また、診療対象は18歳以上の方です。

女性のライフステージと気分――月経前・産後・更年期

女性は、月経や妊娠・出産、更年期(閉経期)といった、男性にはない大きなホルモンの変化を経験します。なかでも「月経前」「産後」「更年期」という三つの時期は、気分の不調があらわれやすいことが知られています。

  • 月経前:この記事で扱ってきた、PMSやPMDD、そしてPME(もともとの不調の月経前増悪)があらわれやすい時期です。
  • 産後:出産後の一時的な気分の落ち込み(マタニティ・ブルーズ)や、産後うつ病があらわれることがあります。
  • 更年期:ホルモンの変化にともなって、気分の落ち込みや不安が出やすくなることがあります。

これらはいずれも、ホルモンの大きな変動が背景にある時期だという共通点があります。さらに、こうした時期に重なって、もともとの不調が月経前に悪化することもあります。「自分の弱さ」ではなく、女性の体に起こる自然な変化と関わっている――そう知っておくだけでも、少し気持ちが楽になるのではないでしょうか。

つらさを感じたときは、「どの時期の、どんな不調なのか」を一緒に整理してくれる場所として、医療機関を頼っていただければと思います。

受診の目安

以下に当てはまるときは、相談を考えてみてください。

  • 月経前になると、気分の落ち込みやイライラ、不安が強まり、生活や仕事、人付き合いにつらさを感じる
  • もともと治療中のうつや不安が、月経前に決まって悪化する
  • 「生理前だけ」なのか「いつもの不調が悪化している」のか、自分では区別がつかず困っている
  • 月経前のつらさが毎月くり返され、見通しが立たずに気持ちが落ち込む
  • つらさを記録してみたが、どう受け止めればよいかわからない

なお、死にたい気持ちが強く迫っていて自分を抑えられそうにないなど、緊急性が高いと感じるときは、記録や見分けを待たず、通院中の方は主治医に、急を要する場合は救急(119)に連絡してください。

まとめ

月経前増悪(PME)は、もともと持っているうつ病や不安症などの不調が、月経前に悪化する状態です。月経前だけに不調が出るPMDDとは見え方が似ていますが、「生理が始まると症状がほぼ消えてスッキリするか」「ベースの不調が残るか」という違いがあり、どちらなのかによって治療の力点も変わってきます。とくに双極症の月経前悪化をPMDDと取り違えると治療の方向がずれる可能性があるため、丁寧な見きわめが大切です。

黄体期のホルモン変動が背景にあること、症状をその日のうちに2周期以上記録すると見分けの決め手になること、そして月経前・産後・更年期という女性のライフステージが気分と関わること——これらを知っておくと、自分の状態を整理しやすくなります。見分けや診断は医師が行いますので、一人で抱え込まず、毎日の記録を手がかりに、どうか早めにご相談ください。

当院では、PMDDの診断と治療を行っています。詳しくはPMS/PMDDの症状と治療をご覧ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『精神科治療学』第39巻第3号 特集「実地臨床における月経前不快気分障害(PMDD)」(星和書店)
  • 『気分症群』(講座 精神疾患の臨床 第1巻、中山書店)

よくある質問

月経前増悪(PME)とPMDDは何が違うのですか。

PMDDは、ふだんは安定していて月経前の時期だけに強い気分の不調があらわれる状態です。一方PMEは、もともとうつ病や不安症などの心の病気を持っている方で、その症状が月経前に悪化する状態をいいます。『生理前だけ』なのか『普段からの不調が悪化』なのかが大きな違いで、見分けは医師が行います。

生理前に気分が落ち込みやすいのは、なぜですか。

排卵後から月経までの『黄体期』は、女性ホルモンが大きく変動する時期です。この変化に体が敏感に反応することで、気分の落ち込みやイライラ、不安が出やすくなると考えられています。うつ病や不安症など、もともとの不調がこの時期に悪化しやすいことも知られています。

自分がPMEなのかPMDDなのか、どう確かめればよいですか。

毎日の気分や体調を月経周期に沿って2〜3か月ほど記録すると、症状が『月経前だけ』なのか『一か月を通してあって月経前に強まる』のかが見えやすくなります。その記録を持って受診すると、医師が見分けの助けにできます。

もともとうつ病で通院中ですが、生理前の悪化も相談していいですか。

もちろんです。月経前に悪化することを伝えていただくと、治療の進め方を考えるうえでとても役立ちます。『生理前だけ特につらい』という情報は、ご本人にしかわからない大切な手がかりです。遠慮なくお話しください。

産後や更年期の気分の不調も、関係があるのですか。

月経前・産後・更年期は、いずれもホルモンが大きく変動し、気分の不調があらわれやすい時期という共通点があります。それぞれ対応の考え方は異なりますが、つらいときはどの時期であっても相談していただいて大丈夫です。

月経前の不調は、婦人科と精神科のどちらに相談すればよいですか。

どちらでも構いません。腹痛や乳房の張りなど体の症状が中心なら婦人科、気分の落ち込みやイライラなど心の症状が中心なら精神科・心療内科が相談しやすい入口です。すでに心の病気で通院中の方は、まず主治医に月経前の悪化を伝えてください。婦人科での評価や治療が適していると判断した場合は、婦人科の受診をおすすめします。受診先はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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