生理(月経)が近づくと、決まってイライラする、涙もろくなる、気分がひどく落ち込む、体がだるい——そんな不調を毎月繰り返していないでしょうか。月経前の心と体の不調は「月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)」と呼ばれ、多くの女性が程度の差はあれ経験するものです。
そのなかでも、気分の落ち込みやイライラ、情緒の不安定さといった精神症状が特に強く、仕事・家事・人間関係に大きな支障が出る状態を「月経前不快気分障害(PMDD:premenstrual dysphoric disorder)」といいます。PMDDは、2013年の米国精神医学会の診断基準(DSM-5)で、抑うつ障害群の一つとして正式に位置づけられました。有月経の女性のうち、中等症〜重症のPMSはおよそ5%、PMDDはおよそ1〜2%とされ、決してまれなものではありません。
大切なのは、これらが「気のせい」や「わがまま」「我慢が足りない」といった性格の問題ではなく、月経周期に伴うホルモンの変動が関わる医学的な不調だということです。そして、適切な治療やセルフケアによって、多くの方でつらさをやわらげることが期待できます。このページでは、PMSとPMDDの違い、症状、原因、診断、治療、そして生活面で使える制度までの全体像を整理します。
こんなサイン・症状はありませんか
次のような変化に、心あたりはないでしょうか。
- 生理の数日〜10日ほど前から、イライラや怒りっぽさが強くなる
- 些細なことで家族やパートナーと衝突したり、感情的になったりしてしまう
- 突然悲しくなる、涙もろくなるなど、気分の波が大きくなる
- 強い落ち込みや「自分はダメだ」という気持ちにとらわれる
- 不安や緊張が高まり、落ち着かない
- 集中できない、やる気が出ない、体がだるく眠い
- 過食や甘いものへの渇望、乳房の張り、頭痛、むくみなどが出る
- こうした不調が、生理が始まると数日でうそのように軽くなる
- 毎月同じ時期に、同じような不調を繰り返している
これらにあてはまるからといって、直ちにPMSやPMDDと診断されるわけではありません。似た症状は、甲状腺の病気や貧血、うつ病など別の不調でも起こります。あくまで受診を考えるきっかけ・目安として参考にしてください。とくに「生理が始まると軽くなる」というパターンがはっきりしている場合は、月経周期との関連を一度相談してみる価値があります。
PMSとPMDDの症状
月経前の不調は、体の症状と心の症状の両方にわたります。共通しているのは、症状が月経前(排卵から月経までの「黄体期」と呼ばれる時期)に現れ、月経が始まると軽くなっていく、という時期的な特徴です。
体の症状(身体症状)
下腹部の張りや痛み、腰痛、乳房の張りや痛み、頭痛、むくみ、体重増加、疲れやすさ、眠気などがみられます。月経に関連した片頭痛(月経片頭痛)を伴う方もいます。PMSでは、こうした身体症状が中心になることも少なくありません。
心の症状(精神症状)
イライラや怒りっぽさ、気分の落ち込み、涙もろさ、不安や緊張、集中力の低下、意欲の低下などです。PMDDでは、この精神症状、とくに「気分が急に変わりやすくなる情緒の不安定さ」と「怒り・イライラ」が前面に出るのが特徴です。
PMDDというと「落ち込み」がイメージされがちですが、実際には怒りっぽさや対人関係の摩擦が目立つことも多く、うつ病の「動きが遅くなる・話せなくなる」といった様子とはやや異なる現れ方をすることがあります。ご自身では気づきにくく、周囲との衝突が増えてはじめて「毎月この時期だ」と思い至る方も少なくありません。
原因・メカニズム
PMS・PMDDの原因は、まだ完全には解明されていませんが、月経周期に伴う女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の変動が引き金になり、脳内の神経の働きに影響することが関わっていると考えられています。
とくに、感情の安定に関わる神経伝達物質であるセロトニンや、脳の興奮を抑える働きをもつGABA(ガンマ-アミノ酪酸)の働きが、黄体期のホルモン変動によって不安定になることが、気分の変動や神経の過敏さにつながる、という仮説が有力とされています。これはあくまで研究途上の考え方ですが、「ホルモンの波に対して、脳が敏感に反応してしまう状態」とイメージしていただくと分かりやすいと思います。ホルモンそのものの分泌量が異常に多い・少ないというより、その変動に対する感受性の個人差が関係すると考えられています。
ホルモンと脳、ストレスの関係については、コラム「月経前不快気分障害(PMDD)の発症メカニズム:ホルモンとストレスの関係性」でより詳しく解説しています。
診断と、似た状態との違い
診断では、米国精神医学会の診断基準(DSM-5)を参考にしながら、「どんな症状が」「月経周期のどの時期に」「どの程度の支障を伴って」現れているかを、丁寧にお聞きします。
PMDDのポイントを平易にまとめると、次のようになります。
- 症状が、月経前の時期(黄体期)に現れ、月経が始まると軽くなり、月経後にはほぼ消える、というパターンがほとんどの周期でみられること。
- 「情緒の不安定さ」「強いイライラや怒り」「抑うつ気分・絶望感」「不安・緊張」といった中心的な精神症状が、少なくとも一つあること。
- これに、興味の低下・集中困難・気力低下・食欲の変化・眠りすぎや不眠・「自分をコントロールできない」感覚・体の症状などを合わせて、全体で5つ以上の症状があること。
- その症状が、仕事・学校・家事や人間関係に、はっきりとした支障を与えていること。
なお、症状が月経周期に連動しているかどうかは、記憶だけでは正確に判断しにくいものです。DSM-5でも、少なくとも2周期にわたって症状を前もって記録し確認することが望ましいとされています。実際には、まず暫定的に診断して治療を始めながら、記録で確かめていくことも少なくありません。
PMSとの違い
PMSは、体の症状だけでも診断され、症状の数も問われません。一方PMDDは、強い精神症状が必須で、全体で5つ以上の症状と明確な生活への支障が必要です。おおまかには、PMSの中でも精神症状が重く生活への影響が大きいものがPMDDにあたる、と考えると整理しやすいでしょう。
月経困難症との違い
月経困難症は、月経の「期間中」の下腹部痛や腰痛など、痛みを中心とした不調です。月経「前」に症状が強まるPMS・PMDDとは、つらくなる時期が異なります。両方を併せもつ方もいます。
月経前増悪(PME)との違い
もともとうつ病や不安症、双極性障害などの精神疾患がある方で、その症状が月経前に悪化することを「月経前増悪(PME)」といいます。PMEはPMDDとは区別されますが、症状が重なり合うため見分けが難しいことがあります。実際、月経前の不調で受診する方の中には、PMDDではなく、うつ病などの月経前増悪であるケースも少なくないと報告されています。この違いによって治療の方針も変わるため、丁寧な問診と記録が大切になります。PMEとPMDDの見分け方については、コラム「うつや不安が生理前に悪化する 月経前増悪(PME)とPMDDの違い」で詳しく説明しています。
気分の落ち込みが月経と関係なく続く場合は「うつ病」、気分の高い時期と落ち込む時期を繰り返す場合は「双極性障害」など、ほかの状態との重なりも含めて、診察のなかで見極めていきます。
治療
PMS・PMDDの治療は、症状の内容や重さ、生活への影響、妊娠の希望の有無などに応じて、いくつかの方法を組み合わせて進めます。「どれか一つが正解」ではなく、その方に合うものを一緒に選んでいきます。
薬物療法
精神症状が中心でつらい場合、精神科での第一選択とされるのがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬です。SSRIはセロトニンの働きを整え、PMDDの気分症状をやわらげる効果が期待できます。うつ病で使うよりも少ない量で効くことが多く、飲み始めて比較的早く効果を感じる方もいます。
SSRIには、月経前の時期だけ服用する「間欠投与」と、毎日続ける「連続投与」があります。妊娠を希望していない場合などは、連続して使うほうが効果が高いとされています。効果や副作用を見ながら、飲み方を調整していきます。おおよそ2周期ためしても効果がはっきりしないときは、ほかの方法への切り替えを検討します。
このほか、婦人科では低用量ピル(卵胞ホルモンと黄体ホルモンの配合薬)などのホルモン療法が用いられることもあります。ただし、PMS・PMDDそのものには保険が適用されないことや、血栓症などの注意点があるため、適応や体質を確認したうえで、婦人科と連携して検討します。薬による治療の選択肢の整理は、コラム「PMS/PMDDに低用量ピルは効く?ピルとSSRIなど薬の選択肢を整理」もあわせてご覧ください。なお、薬の減量や中止は、自己判断で急に行うと体調の変化につながることがあるため、無理せず主治医と相談しながら進めてください。
漢方薬
SSRIが使いにくい若い方や、妊娠を希望している方などでは、漢方薬がよい選択肢になることがあります。当帰芍薬散・桂枝茯苓丸・加味逍遥散などが体質や症状に応じて用いられ、SSRIなどで残ったつらさに併用することもあります。体質に合わせて選ぶことが大切なので、医師と相談しながら使います。
精神療法・心理教育
「月経前のこのイライラは、自分の性格のせいではなく、体の仕組みによるものだ」と理解できること(心理教育)は、それ自体が気持ちを楽にし、症状の受け止め方を変える助けになります。あわせて、考え方のクセや対処を見直す認知行動療法の考え方を取り入れることもあります。
生活・セルフケア
- 症状の記録: いつ・どんな症状があったかを月経周期とあわせて記録すると、パターンが見え、対策も立てやすくなります。記録そのものが症状の軽減につながるという報告もあります。
- 生活リズム: 睡眠をしっかりとり、規則正しい生活を心がけることが土台になります。
- 食事・嗜好品: カフェインやアルコール、塩分・糖分のとりすぎを控えめにすることがすすめられます。月経に関連した片頭痛には、マグネシウムやビタミンB6が役立つことがあるとされています。
- 適度な運動・リラックス: 軽い運動やリラックスできる時間を持つことも、つらさをやわらげる工夫の一つです。
セルフケアは治療の代わりではなく、治療と組み合わせて行うものです。やり方に迷うときは、無理せず主治医と相談しながら進めてください。月経前のつらさへの薬に頼らない工夫については、コラム「月経前のつらさに対してできること 〜PMS・PMDDの非薬物療法について〜」でも紹介しています。
経過と再発予防
PMS・PMDDは、月経周期に合わせて症状が現れたり軽くなったりを繰り返す性質があります。治療によって多くの方で症状の軽減が期待できますが、月経がある間は付き合っていく面もあるため、「うまくコントロールしながら、生活への支障を減らしていく」ことが目標になります。
薬物療法については、症状が落ち着いたあとにすぐやめるより、一定期間続けたほうが再発しにくいと考えられています。SSRIを用いた研究でも、短期間で中止した場合より、長めに続けた場合のほうが再発が少なかったと報告されています。いつまで続けるか、どのように減らすかは、症状の安定度や妊娠の希望などをふまえ、主治医と相談しながら決めていきます。
日頃から症状を記録しておくと、調子の崩れる時期を予測して、あらかじめ予定や無理の量を調整することができます。「この時期は少し落ちる」と分かっているだけでも、対処の余裕が生まれます。
仕事・生活への影響と使える制度
PMS・PMDDは、月経前の一定期間に集中して不調が出るため、仕事や家事の効率が落ちたり、欠勤につながったりと、生活への影響が小さくない状態です。中等症以上のPMSやPMDDでは、仕事の生産性の低下や欠勤が増えることが報告されており、本人の努力不足ではなく、症状によるものと理解することが大切です。
まずは、つらい時期に合わせて予定や業務量を調整する、周囲に事情を伝えて協力を得るといった工夫が助けになります。仕事との両立の具体的な工夫は、コラム「PMS/PMDDで仕事がつらい 生理前の不調と仕事を両立させる工夫」で詳しく紹介しています。ご家族やパートナーの理解も大きな支えになります。周囲のサポートについては、コラム「生理前のつらさを家族・パートナーにどう伝えるか」も参考になるかと思います。
症状が重く、働きながらの治療が難しい場合には、療養に専念するために休職という選択肢もあります。休職の進め方や診断書については「休職について」をご覧ください。休職中の生活費の支えとしては、健康保険から支給される「傷病手当金」を利用できる場合があります。また、PMDDは抑うつ障害の一つとして通院治療を続けることがあり、その際の医療費負担を軽くする制度として「自立支援医療制度」の対象になり得ることがあります。医療費の負担が気になる方は、診察時にご相談ください。
受診の目安と当院での診かた
次のような状態が続いているときは、一度、精神科・心療内科への受診をご検討ください。
- 生理前のイライラや落ち込みで、仕事・家事・人間関係に支障が出ている
- 毎月同じ時期に、同じような不調を繰り返している
- 市販薬やセルフケアを試しても、つらさが変わらない
- 生理が始まると症状が軽くなる、というパターンがはっきりしている
- 家族やパートナーとの衝突が増え、自分でもつらいと感じている
こうした不調は、一人で抱え込みやすいものですが、我慢して乗り切るべきものではありません。早めに相談することで、対処の選択肢が広がります。
当院では、まず症状の経過と月経周期との関係を丁寧にお聞きし、ほかの病気の可能性も考えながら診ていきます。そのうえで、薬物療法・漢方・生活の工夫などを、生活状況やご希望に合わせて無理のない形で組み立てます。体の症状が中心の場合や、ホルモン療法が必要と考えられる場合には、婦人科と連携して進めます。
受診の際は、「いつから・どんな症状が・月経周期のどの時期に・どのくらい続いたか」を簡単にメモしてお持ちいただくと、診察がスムーズです。受診の流れは「初めての方へ」をご覧ください。なお、気分の落ち込みが強く、いつもと明らかに様子が違うと感じるときは主治医にご連絡ください。緊急を要する状態が疑われるときは、ためらわず救急(119)を利用してください。
参考文献
よくある質問
PMSとPMDDはどう違うのですか?
PMSは月経前に起こる心と体のさまざまな不調の総称で、多くの女性が経験します。そのうち、強い気分の落ち込みやイライラ・情緒の不安定さといった精神症状が中心で、日常生活に大きな支障が出るものがPMDDです。PMDDは精神科の診断基準(DSM-5)で抑うつ障害群の一つに位置づけられています。
生理前だけ落ち込むのは、うつ病とは違うのですか?
症状が月経前に強まり、生理が始まると数日で軽くなる、というパターンが毎月繰り返されるのがPMDDの特徴です。一年を通じて落ち込みが続くうつ病とは、時期との関係が異なります。ただし、もともとあるうつ病などが月経前に悪化する「月経前増悪」との区別は難しいこともあり、症状の記録をもとに医師が判断します。
何科を受診すればよいですか?
気分の落ち込みやイライラなど精神症状が中心でつらい場合は、精神科・心療内科でご相談いただけます。腹痛や月経の量など体の症状が中心の場合は婦人科が適していることもあります。必要に応じて婦人科と連携しながら治療を進めます。
どんな治療がありますか?
精神症状が強い場合は、SSRIという抗うつ薬が中心的な選択肢とされ、月経前の時期だけ使う方法もあります。このほか、漢方薬、婦人科での低用量ピルなどのホルモン療法、生活リズムの調整やセルフケアを、症状や希望に合わせて組み合わせます。合う方法は人によって異なるため、主治医と相談しながら選んでいきます。
症状を記録しておいた方がよいですか?
はい。いつ・どんな症状が・どの程度あったかを月経の時期とあわせて記録すると、症状が月経周期に連動しているかを確かめる助けになります。記録そのものが症状の軽減につながるという報告もあり、診察の際に状態を伝える手がかりにもなります。
市販薬やサプリメントで様子を見てもよいですか?
症状が軽い場合、市販薬やサプリメントで対処されている方も少なくありません。ただし、気分の落ち込みやイライラで仕事や人間関係に支障が出るほどの症状が毎月繰り返されている場合は、治療によって和らげられる可能性がありますので、自己判断で我慢を続けるより一度ご相談いただくことをおすすめします。使用中の市販薬やサプリは、診察時にお知らせください。
仕事を続けながら治療できますか?職場にはどう伝えればよいですか?
多くの方が働きながら治療を続けています。治療で症状が和らぐと、月経前の時期の仕事のしづらさも軽くなることが期待できます。職場への伝え方に決まりはありませんが、症状の時期がある程度予測できる特徴を活かし、負担の大きい業務の時期を調整するなどの工夫ができる場合もあります。伝えるかどうかも含め、症状や職場の状況に応じて診察でご相談ください。
薬は毎日飲み続ける必要がありますか?
治療法や症状の程度によって異なります。薬によっては毎日続ける方法のほか、症状の出る月経前の時期だけ服用する方法がとられることもあります。どの薬をどのような飲み方で使うかは、症状の記録やライフスタイル、妊娠のご希望などをふまえて判断しますので、自己判断で飲み方を変えず、診察のなかで医師とご相談ください。
家族やパートナーに理解してもらうには、どうすればよいですか?
月経前の心身の変化は外からは見えにくく、「性格の問題」と誤解されてつらい思いをされる方が少なくありません。症状には体の仕組みが関わっており、時期がある程度予測できることを共有すると、周囲も対応しやすくなります。症状の記録を一緒に見てもらうのも一つの方法です。ご家族やパートナーの同席でのご相談も可能ですので、ご希望があればお申し出ください。
この病気で使われることのあるお薬
治療で使われることのある代表的なお薬です。実際にどのお薬を使うか(使わない場合も含めて)は、診察のうえで医師が一人ひとりに合わせて判断します。