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はじめに

「PMDD なりやすい人」と検索してこの記事にたどり着いた方の多くは、すでに毎月のつらさを抱えていて、「自分の性格のせいではないか」「育ち方に問題があったのではないか」と、どこかで自分を疑っているのではないかと思います。

先に結論の半分をお伝えします。PMDD(月経前不快気分障害)について「こういう人がなる」と言い切れる条件は、見つかっていません。分かっているのは、いくつかの関連と、専門外来の診療のなかで語られている印象までです。そしてそのどれも、あなたの性格や過去が悪かったという話ではありません。

この記事では、何が調査で確かめられていて、何がまだ印象の段階なのかを分けながら、「なりやすさ」について整理します。

「なりやすい」には、3つの別の問いが混ざっています

「PMDDになりやすい人」という言い方には、実は別々の問いが3つ混ざっています。

  1. そもそも発症しやすいか ―― まだ症状のない人のうち、誰に症状が出やすいか
  2. 症状が重くなりやすいか ―― すでに症状のある人のうち、どんなときに重くなるか
  3. いったん治まったあとに再燃しやすいか ―― 治療で落ち着いたあと、どんなときにぶり返すか

世の中の「なりやすい人」の解説は、この3つを区別せずに並べていることが少なくありません。けれども、この3つは意味がまったく違います。たとえば「ストレスで悪化する」は2つめの話であって、「ストレスの多い人がPMDDになる」という1つめの話とは別です。

分けて読むと、ご自身にとって必要な情報も選びやすくなります。まだ診断がついておらず「自分もそうなのだろうか」と調べている方に関係が深いのは1つめ、すでに診断や治療を受けていて「最近ひどくなった」「またぶり返した」と感じている方に関係が深いのは2つめと3つめです。

一方で、この3つをまたいで顔を出す要因もあります。ストレスはその代表で、PMDDの発症・増悪・再燃・再発のどの局面にも大きくかかわると報告されています。

土台にあるのは体の側の仕組みです。PMDDはホルモンの分泌量が異常だから起こるのではなく、月経の周期のなかで起こるホルモンの変動そのものへの反応の強さに個人差があり、反応が強く出る側の体質が関わると考えられています。この仕組みの説明はPMS/PMDDの症状と治療にまとめてありますので、ここでは繰り返しません。この記事では、その先にある「では、どんな人に、いつ出やすいのか」を見ていきます。

いつ始まりやすいか――年齢について分かっていること

年齢については、調査で分かっていることと、診療のなかで語られていることの両方があります。

まず、症状の始まりは初経の直後ではありません。国内の調査では、月経痛が初経から半年ほどで出はじめるのに対して、PMSやPMDDの症状が始まるのは中央値(データを小さい順に並べたときの真ん中の値)で初経の約2年後と、はっきり遅れています。この遅れは、症状がホルモンの変動だけでは説明できないことの傍証ではないか、という見方が示されています。ホルモンの周期的な変動そのものは初経のころから始まっているのに、症状のほうは、部活動や受験のようなそれまでにない負荷が生活にかかりはじめる時期になってから、もともと反応の出やすさをもつ人に現れはじめているのだろう、というのです。

発症の時期については、ほとんどが20歳前後で、なにかのストレスや生活の変わり目のあとに始まっている――そういう発言が、専門家どうしの座談のなかに出てきます。裏を返せば、「10代のころは月経前に何ともなかったのに、社会に出るころから急につらくなった」というのは、めずらしい経過ではなく、むしろよくある始まり方だということです。「初経のころは平気だったのだから月経は関係ないはず」と考えて相談をためらう必要はない、ということでもあります。

高校生を対象にした国内の調査では、PMDDにあたる状態の頻度が、一般の女性を対象にした調査よりも高かったと報告されています。10代だからまだ関係ない、という話ではないわけです。

そして、成人についてはこう分かっています。国内の調査では、20代から40代のあいだで、PMDDの頻度に世代間の差はほとんどありませんでした。 特定の年代だけの状態ではない、ということです。どの年代の方も、「自分の年齢ではPMDDではないはず」と考えて相談を遠ざける必要はありません。この調査の数字は、どのくらいの人が抱えているのかという頻度の話とあわせて「生理前くらいで」は本当か――PMS/PMDDのつらさを数字で確かめるで紹介しています。

なお、10代を対象に含む調査に触れましたが、当院の診療対象は18歳以上の方です。

子どものころの経験との関連――まだ印象の段階の話

検索でこの記事に来られた方が、いちばん気にしているのはこの話かもしれません。ていねいに書きます。

PMDDの専門外来を続けてきた医師の診療経験として、子どものころのつらい経験――親どうしの仲が悪かった、父親にアルコール依存があった、家庭のなかで暴力がふるわれていた、きょうだいのあいだで差別的な扱いを受けた、など――のある方に、PMDDが発症しやすい傾向が見える、という指摘があります。ただし原典は、これを「まだ印象の段階」だとはっきり断っています。調査で確かめられた事実ではなく、多くの患者さんを診てきたなかで見えてきた傾向、という位置づけです。

こうした子ども時代のつらい体験は、専門的にはACE(小児期逆境体験)と呼ばれます。同じ特集の座談会でも、小児期の逆境体験とPMDDには関係がある、母親との確執を抱えていた方が多い印象がある、という発言が出ています。そこに、精神科医の側からこういう応答が返されています。そうした子ども時代の体験は、うつ病の方にも不安症の方にもよくみられるもので、PMDDに特有のものではない、と。つまり、子ども時代のつらい体験は心の不調の広い範囲にかかわる背景であって、「PMDDになる人の条件」ではありません。過去にそうした体験のある方が必ずPMDDになるわけではなく、PMDDのある方に必ずそうした体験があるわけでもありません。

もしあなたに思い当たる体験があったとしても、それは「だから自分はこうなった」と過去に原因を確定させる話ではありませんし、まして、あなたやあなたの育った家庭の落ち度を意味する話でもありません。いま出ている症状は、過去がどうであれ、治療の対象になります。

性格の傾向との関連――性格が原因という意味ではありません

看護師861人を対象にした国内の調査で、PMDDのある群はない群にくらべて、神経症的といわれる性格の傾向が強く、外向的な傾向が弱かったという結果が報告されています。あわせて、ここ最近のストレスが強いと感じているかどうかも、PMDDのあることと関連していました。

ここで立ち止まってください。この調査が示しているのは、あくまで関連です。そういう性格の人がPMDDになる、と読むのは飛躍です。 関連と原因は別のものです。症状が毎月続いているせいで質問への答え方が変わっていた可能性もありますし、別の要因が性格の傾向と症状の両方に影響している可能性もあります。そして何より、同じ性格の傾向をもちながらPMDDにならない方は大勢います。性格を直せば治るという話でも、性格のせいでなったという話でもありません。

考えが同じところをぐるぐる回る「反すう」や、感情の立て直し方と月経前症状との関連、そこへの心理的な支援については、PMS/PMDDに薬以外でできることで詳しく扱っています。そちらの記事でも、これらの関連が「原因の証明ではない」ことを繰り返し確かめていますので、あわせてお読みください。

この調査を行った医師自身は、特集の座談会で、こうした性格の傾向はうつ病になりやすいとされる性格と重なると指摘したうえで、それが土台にあり、そこへ直近の強いストレスが重なることで症状が出やすくなっているのだろう、と推測を語っています。土台という言葉が出てきても、読み方は同じです。性格が原因だという意味ではなく、関連の重なりから立てられた見立てです。そして、進学・就職・結婚・出産といった生活の大きな変わり目が発病のきっかけになりうること、治療中や寛解したあとでもストレスで症状がぶり返しうることは、ストレスとPMS/PMDDの悪化の関係で、喜ばしい変化も負荷になるという点まで含めて詳しく書きました。ここでは繰り返しません。

出産のあとに重くなることがあるか

もう一つ、専門外来の診療経験から語られている印象があります。出産前よりも、産後のほうが重くなりやすい、というものです。これも子ども時代の経験と同じく、原典が「まだ印象の段階」と断っている話で、調査で確かめられた事実ではありません。産後はホルモンの状態も生活のかたちも大きく変わる時期ですから、変わり目に症状が動くという先ほどの構図とも重なります。

産後に気分の不調が出たとき、それが月経再開後の月経前に集中しているのか、時期を問わず続いているのかで、考えるべき状態は変わります。産後のうつなど、PMDD以外の可能性もあります。産後のうつとその見分け方は産後うつとマタニティブルーズの違いにまとめています。「出産してから明らかに変わった」という感覚があるなら、それはご本人にしか分からない大切な手がかりですので、自己判断で決めつけず、受診の際にそのまま伝えてください。

「なりやすさ」に当てはまらなくても、症状があれば相談してかまいません

最後に、この記事の読み方について一つだけ。ここまで挙げてきた年齢・子ども時代の経験・性格の傾向・ストレス・出産は、どれも「当てはまるほど危ない」「当てはまらなければ大丈夫」という条件ではありません。関連の指摘や印象の段階の話を、ご自身をふるいにかける基準として使わないでください。

診断で実際に手がかりにするのは、これらの要因ではなく、症状そのものです。どんな症状が、月経周期のどの時期に出て、月経が始まるとどう変わり、生活にどのくらい響いているか。症状の具体的なチェックと受診の目安はPMDDとは?PMSとの違いと、生理前だけ別人のようになるつらさにまとめています。また、ふだんからある不調が月経前に強まるという形の場合は、PMDDとは分けて考える状態があります。こちらは月経前増悪(PME)とPMS/PMDDの違いをご覧ください。

当院での実際

当院では、月経のある方については、初診前のWEB問診で月経周期と月経前の症状の変化を確認し、必要に応じて診察のなかで掘り下げて伺っています。

診察の結果、低用量ピルなどの婦人科的な治療が適していると判断したときは、婦人科の受診をおすすめしています。紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

なお、消えてしまいたい気持ちが強く迫って自分を抑えられそうにないときは、様子を見ずに、通院中の方は主治医に、急を要する場合は救急(119)に連絡してください。

まとめ

  • 「なりやすい」には、発症しやすさ・重くなりやすさ・再燃しやすさという3つの別の問いが混ざっています
  • 症状の始まりは中央値で初経の約2年後、発症はほとんどが20歳前後と語られています。高校生では一般の女性より頻度が高かった調査がある一方、20代から40代のあいだでは頻度に大きな差がありませんでした。特定の年代だけの状態ではありません
  • 子どものころのつらい経験のある方にPMDDが多いという指摘は、専門外来の「まだ印象の段階」の話です。同じような体験はうつ病や不安症の方にもみられ、PMDDに特有ではありません
  • 神経症的な性格傾向との関連を示した調査はありますが、性格がPMDDを引き起こすという意味ではありません。同じ傾向で発症しない方は大勢います
  • 出産前より産後に重くなりやすいという印象も語られています。産後の不調はPMDD以外の可能性もあるため、決めつけずに相談してください
  • 当院では初診前のWEB問診で月経周期と月経前の変化を確認し、診察で掘り下げて伺っています

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参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 『精神科治療学 第39巻3号(2024年3月)特集 実地臨床における月経前不快気分障害(PMDD)』

よくある質問

子どものころにつらい経験があると、PMDDになるのでしょうか。

必ずなる、という話ではありません。親どうしの不和や家庭内の暴力といった子ども時代の体験のある方にPMDDが多い、という指摘は専門外来の診療のなかから出ていますが、指摘した医師自身が「まだ印象の段階」と断っています。また、同じような体験はうつ病や不安症の方にもよくみられ、PMDDに特有のものではない、という応答も専門家のあいだで返されています。過去の体験がある方が必ず発症するわけでも、発症した方に必ずそうした体験があるわけでもありません。

私の性格が原因でPMDDになったのでしょうか。

性格が原因、とはいえません。PMDDのある方は神経症的といわれる性格の傾向が強く、外向性が弱めだったという調査はありますが、これは両者に関連がみられたという結果であって、性格がPMDDを引き起こすと示したものではありません。同じ傾向をもちながら発症しない方は大勢いますし、症状の背景には、月経の周期のなかで起こるホルモン変動への体の反応が関わっています。この結果を、ご自身の性格を責める理由にしないでください。

PMDDは何歳ごろに始まることが多いのですか。

初経の直後から始まるのではなく、症状の始まりは中央値で初経の約2年後という国内の調査があります。発症はほとんどが20歳前後で、なにかのストレスや生活の変わり目のあとだった、と専門家どうしの座談のなかでも語られています。一方で、20代から40代のあいだでは頻度に大きな差がなかったという調査があり、特定の年代だけの状態ではありません。年齢を理由に「自分は違うはず」と考える必要はありません。

出産してから月経前の不調が重くなった気がします。関係はありますか。

出産前より産後のほうが重くなりやすい、という指摘が専門外来の診療のなかから出ています。ただしこれも印象の段階の話です。産後はホルモンの変化も生活の変化も大きい時期で、月経前の不調のほかに産後のうつなど別の状態も起こりうるため、自己判断で決めつけず、つらさが続くときは受診してご相談ください。

なりやすい条件に当てはまらないのに症状があります。おかしいでしょうか。

おかしくありません。この記事で挙げた年齢・子ども時代の経験・性格の傾向・ストレスは、いずれも「そういう関連がみられた」「そういう印象がある」という段階の話で、当てはまらなければPMDDではない、という条件ではありません。診断は、症状が月経周期のどの時期に出て、どのくらい生活に響いているかで判断します。症状のチェックと受診の目安は別の記事にまとめています。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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