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「マインドフルネスがいいらしい」――雑誌やテレビ、職場の研修、スマートフォンのアプリまで、この言葉を目にする機会は本当に増えました。一方で、「結局、何をすることなのか分からない」「瞑想と何が違うのか」「本当に効果があるのか、それとも流行りものなのか」と、もやもやしたまま聞き流している方も多いのではないでしょうか。

なかには、「不安で頭がぐるぐるして止まらない」「過ぎたことを何度も思い返してしまう」というつらさを抱えていて、藁にもすがる思いでマインドフルネスという言葉にたどり着いた方もいらっしゃると思います。

この記事では、マインドフルネスとは何か、医療の場で用いられているものと流行語としてのイメージの違い、呼吸への注意やボディスキャンといった基本的な練習法、「考えごとから距離を取る」仕組み、そして効果の限界や向き不向きまで、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点から整理してお伝えします。

マインドフルネスとは――「今ここ」の体験に、評価を加えずに気づくこと

マインドフルネスとは、一般に「今この瞬間の体験に、意図的に注意を向け、評価や判断を加えずに、ありのままに気づいている状態」、およびそうした状態を育てる練習のことを指します。

言葉にすると抽象的ですが、逆の状態を考えると分かりやすいかもしれません。私たちの心は放っておくと、「今ここ」にはいません。歩きながら明日の仕事の心配をし、食事をしながら昨日の失敗を思い返し、お風呂に入りながら人間関係の嫌な場面を再生している――体は現在にあるのに、心は過去や未来を行き来している。これが私たちの普段の状態です。

この「心ここにあらず」の状態そのものが悪いわけではありません。計画を立てたり反省したりする力は、人間に備わった大切な能力です。ただ、落ち込みや不安が強い時期には、この能力が同じ心配や後悔を延々と繰り返す「反すう」という形で空回りしやすくなることが知られています。マインドフルネスは、この空回りに気づき、注意を「今ここ」に戻す練習だといえます。

流行語としてのマインドフルネスと、医療で用いられるものの違い

マインドフルネスという言葉は広く使われるようになった分、意味の幅もかなり広がっています。「リラックス法」「集中力アップの仕事術」「幸せになる習慣」といった文脈で語られることも多く、なかには根拠のはっきりしない効能がうたわれている場合もあります。

一方、医療や心理学の分野で用いられているマインドフルネスは、もう少し輪郭のはっきりしたものです。

  • MBSR(マインドフルネスストレス低減法):慢性の痛みやストレスへの対処のために開発された、8週間程度の構造化されたプログラムが元になっています
  • MBCT(マインドフルネス認知療法):MBSRに認知療法の要素を組み合わせたもので、特にうつ病の再発予防の領域で研究が重ねられています。再発を繰り返してきた方の再発予防に役立つ可能性が報告されています

大切なのは、医療の文脈でのマインドフルネスは「気持ちよくリラックスするための方法」ではない、という点です。練習中に退屈や落ち着かなさ、不快な感覚に出会うことも織り込み済みで、快・不快にかかわらず「今の体験に気づく」こと自体を訓練するものです。リラックスは結果としてついてくることはあっても、目的ではありません。この点が、流行語としてのイメージとの一番の違いかもしれません。

基本的な練習法――呼吸への注意とボディスキャン

マインドフルネスの練習には多くの種類がありますが、代表的なものを2つご紹介します。特別な道具は要りません。

呼吸への注意(呼吸瞑想)

  1. 椅子に楽に座り、背筋を軽く伸ばします。目は閉じても、薄く開けて足元を見ても構いません
  2. 呼吸をコントロールしようとせず、自然な呼吸のまま、鼻先やお腹など、呼吸の感覚を一番感じやすい場所に注意を向けます
  3. 息が入ってくる感覚、出ていく感覚を、ただ感じ続けます
  4. しばらくすると、必ず注意がそれます。考えごと、音、体のかゆみ――何かに心が持っていかれます
  5. 「あ、それていたな」と気づいたら、自分を責めずに、そっと注意を呼吸に戻します

まず1日5分程度から始める方法がよく紹介されています。ここで重要なのは、「注意がそれること」は失敗ではないという点です。それたことに気づいて戻す――この一往復こそが練習の本体とされています。筋トレの一回一回のようなものだと考えてください。

ボディスキャン

仰向けに寝るか椅子に座り、足の先から頭のてっぺんまで(順序は逆でも構いません)、体の部位に順番に注意を向けていく練習です。つま先の感覚、足の裏が床に触れている感覚、ふくらはぎ、膝……と、探照灯で体を照らしていくように注意を移していきます。

「何も感じない」部位があってもまったく問題ありません。「感じない、ということに気づいている」ことも気づきのひとつです。体の感覚は常に「今ここ」にしかないため、考えごとの世界から現在に戻ってくるための錨(いかり)として、体の感覚が使われているのです。

このほか、歩きながら足の裏の感覚に注意を向ける「歩く瞑想」、食べ物の味や香りをゆっくり味わう練習など、日常動作を使った方法もあります。

なぜ効くと考えられているのか――反すうから「距離を取る」仕組み

うつや不安に悩む方の多くが経験するのが、反すう――同じ考えが頭のなかでぐるぐると回り続ける状態です。「なぜあんなことを言ってしまったのか」「この先どうなってしまうのか」。考えれば考えるほど答えは出ず、気分だけが沈んでいく。やめたいのにやめられない。この苦しさは、経験した方にしか分からないものがあります。

マインドフルネスが役立つと考えられている理由のひとつは、この反すうとの付き合い方を変える点にあります。

普段の私たちは、頭に浮かんだ考えと自分が一体化しています。「自分はダメだ」という考えが浮かぶと、それを事実として体験し、気分が沈みます。マインドフルネスの練習を重ねると、「今、『自分はダメだ』という考えが浮かんでいるな」と、考えを少し離れたところから眺める視点が育つとされています。これは「脱中心化」と呼ばれる心の構えです。

考えの内容を変えようとしたり、無理に消そうとしたりするのではなく、「考えは考えであって、事実そのものではない」と気づき、川を流れる葉っぱを岸から眺めるように、浮かんでは去っていくのを見送る。この距離感が取れるようになると、反すうの渦に巻き込まれる時間が短くなっていくことが期待されます。MBCTがうつ病の再発予防で研究されているのも、再発のきっかけとなりやすい反すうへの巻き込まれを減らすという発想と関わっています。

ぐるぐる考え続けてしまうつらさの背景に、うつ病全般性不安障害などの治療を要する状態が隠れていることもあります。反すうが強く生活に影響している場合は、練習でなんとかしようとする前に、一度診察でご相談ください。

万能ではありません――向き不向きと注意点

ここまで読んで「やってみようかな」と思われた方にこそ、お伝えしておきたいことがあります。マインドフルネスは万能の方法ではなく、合わない方・合わない時期があるということです。

トラウマのある方は慎重に

つらい体験の記憶を抱えている方では、静かに目を閉じて自分の内側に注意を向けることで、かえって記憶や身体感覚がよみがえり、強い不安や不調につながる場合があることが指摘されています。過去のつらい体験が現在も影響していると感じる方は、自己流で始める前に、主治医や専門家に相談することを強くおすすめします。

症状の強い時期には負担になることも

うつ状態が重い時期には、じっと座っていること自体がつらく、反すうがかえって勢いを増すこともあります。急性期にはまず休養や薬物療法などの標準的な治療を優先し、マインドフルネスは回復してきた段階や再発予防の段階で検討する、という順序が一般的とされています。

「効果がない自分はダメだ」と思わないでください

真面目な方ほど、「集中できない」「続かない」「楽にならない」ことを自分の欠点のように感じてしまいます。合う・合わないは能力の問題ではありません。合わなければ他の方法を探せばよいだけです。

眠気・体調がすぐれないときは無理をしない

練習中に強い苦痛や解離感(現実感が薄れる感じ)が出る場合は中断し、通院中の方は主治医に伝えてください。

治療のなかでの位置づけ――薬物療法・他の心理療法との関係

マインドフルネスは、薬物療法や他の心理療法と対立するものではなく、組み合わせて用いられるものです。

うつ病や不安障害の治療では、症状の程度に応じて、休養、環境調整、薬物療法、認知行動療法などの心理療法的アプローチが土台になります。マインドフルネスは、この土台に取って代わるものではなく、土台の上に加わる選択肢のひとつです。特に、症状がある程度落ち着いた後の再発予防や、ストレスとの長い付き合い方を身につける段階で検討されることが多いといえます。

すでに服薬中の方が「マインドフルネスを始めたから薬をやめたい」と考えるのは、順序としておすすめできません。治療の変更は必ず主治医と相談のうえで進めてください。

当院では、マインドフルネスの8週間プログラムそのものを提供しているわけではありませんが、診察のなかで、反すうや不安への対処のひとつとして基本的な考え方や取り入れ方をお伝えしたり、そもそも今の状態がマインドフルネスを試す段階なのか、まず治療を優先すべき段階なのかを一緒に見立てたりすることができます。眠れない状態が続いている方では、不眠症の治療と並行して生活のなかの緊張を扱うこともあります。

日常でできる小さな取り入れ方

構えて始めなくても、日常のなかでできる小さな練習があります。

  • 1日5分、呼吸に注意を向ける時間を決める:朝の着替えの後、寝る前など、生活の決まった場面にひもづけると続きやすいとされています
  • 「ながら」を一つやめてみる:食事中だけスマートフォンを置いて、味や香りに注意を向けてみる。歯みがきの間だけ、ブラシの感覚に注意を向けてみる
  • 信号待ちや電車の中で、足の裏の感覚を感じてみる:体の感覚は「今ここ」に戻る手がかりになります
  • 反すうに気づいたら、名前をつける:「あ、また『ぐるぐる』が始まったな」と心のなかでラベルを貼るだけでも、考えとの間に少し距離が生まれることがあります
  • アプリや音声ガイドを使ってもかまいません:一人では続かない方は、ガイド付きの音源を使うのも一つの方法です

繰り返しになりますが、やってみて苦痛が強まる場合は無理に続けないでください。

受診の目安――こんなときはご相談ください

マインドフルネスを含むセルフケアの工夫でなんとかしようとする前に、あるいは並行して、次のような状態がある場合は受診をご検討ください。

  • 心配ごとや後悔が頭から離れず、ぐるぐる考え続ける状態が数週間以上続いている
  • 気分の落ち込みや、以前は楽しめたことを楽しめない状態が続いている
  • 不安や緊張が強く、仕事や家事、人付き合いに支障が出ている
  • 寝つけない・途中で目が覚めるなど、睡眠の問題が続いている
  • セルフケアを試しても改善せず、かえって「できない自分」を責めるようになっている
  • マインドフルネスを試したら、つらい記憶や不安が強まってしまった

すでに通院中の方は、まず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。

なお、ご本人ではなくご家族が状態を心配されている場合の受診の進め方については、受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。

まとめ――「今ここ」に戻る練習は、治療の代わりではなく味方です

マインドフルネスは、「今この瞬間の体験に、評価を加えずに気づく」練習であり、呼吸への注意やボディスキャンといった具体的な方法を通じて、反すう――ぐるぐる考え続ける状態――から距離を取る力を育てるものとされています。MBSRやMBCTといった構造化されたプログラムは、うつ病の再発予防などの領域で研究が重ねられています。

一方で、万能ではなく、トラウマのある方や症状の強い時期には向かない場合があること、薬物療法や他の治療の代わりにはならないことも、同じくらい大切な事実です。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、「考えが止まらなくてつらい」「マインドフルネスを試したいが、自分に合うか分からない」「セルフケアだけでは限界を感じる」といったご相談をお受けしています。今の状態に何が必要なのか、診察のなかで一緒に整理していきましょう。WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

よくある質問

マインドフルネスは宗教やスピリチュアルなものですか?

マインドフルネスの源流には仏教の瞑想の伝統がありますが、医療や心理学の分野で用いられているものは、宗教的な要素を取り除き、注意の向け方の訓練として体系化されたプログラムです。代表的なものにMBSR(マインドフルネスストレス低減法)やMBCT(マインドフルネス認知療法)があり、効果や適応が研究の対象になっています。特定の信仰や価値観を求められるものではなく、「今の体験に気づく練習」と考えていただくのが実態に近いといえます。

瞑想をしても雑念ばかり浮かんで集中できません。向いていないのでしょうか?

雑念が浮かぶこと自体は失敗ではなく、むしろ練習の中心とされています。マインドフルネスの練習は「雑念をなくす」ことではなく、「注意がそれたことに気づいて、また呼吸などの対象に戻す」ことの繰り返しです。気づいて戻す、その一回一回が練習になっていると考えられています。何度それても構いません。うまくできている実感がなくても、続けるうちに「考えにのみ込まれる前に気づける」場面が少しずつ増えていくことが期待されます。

マインドフルネスだけでうつ病や不安障害は治りますか?

マインドフルネスは万能の治療法ではなく、単独で薬物療法や他の治療の代わりになるものではありません。うつ病の再発予防などで効果が研究されている領域はありますが、症状が強い急性期には、まず薬物療法や休養などの標準的な治療を優先することが一般的です。マインドフルネスは、治療の土台の上に加える選択肢のひとつと位置づけるのが適切とされています。現在治療中の方は、自己判断で治療を変更せず、主治医とご相談ください。

マインドフルネスをやらないほうがよい人はいますか?

すべての方に合う方法ではないことが知られています。特に、つらい体験(トラウマ)の記憶がある方では、静かに自分の内側へ注意を向けることで、かえって記憶や身体感覚がよみがえり、不安や不調が強まる場合があることが指摘されています。また、症状の強い急性期のうつ状態などでは、練習そのものが負担になることもあります。試してみて苦痛が強まるようなら無理に続けず、通院中の方は主治医に相談したうえで、取り入れるかどうか・どんな形で行うかを決めることをおすすめします。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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