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不眠症のイメージ画像

不眠症とは、寝つけない・夜中に目が覚める・朝早く目が覚めるといった夜の症状が続き、そのために日中の眠気やだるさ、集中力の低下など、生活への支障が出ている状態です。夜眠れないことだけでなく、「日中の不調」とセットで考えるのがポイントです。

不眠の悩みはとてもありふれたもので、日本ではおよそ3人に1人が経験し、慢性的な不眠症は10人に1人程度にみられるとされています。女性にやや多く、年齢とともに増えていくことも知られています。眠れないのは心の弱さや気の持ちようの問題ではなく、生活習慣・体・こころの要因が重なって起こる、医療の対象になる状態です。

不眠症は、生活の工夫(睡眠衛生)を土台に、必要に応じて薬物療法などを組み合わせることで、改善が期待できます。このページでは、不眠症の症状のタイプ、原因、診断の目安、治療、うつ病との関係、受診の目安までの全体像をまとめました。気になるところから読んでいただければと思います。

こんなサイン・症状はありませんか

次のような状態が続いていないか、振り返ってみてください。

  • 布団に入っても30分〜1時間以上寝つけない日が続いている
  • 夜中に何度も目が覚め、そのあとなかなか眠れない
  • 起きたい時刻よりずっと早く目が覚めて、二度寝ができない
  • 眠ったはずなのに、ぐっすり眠れた感じがしない
  • 日中に強い眠気やだるさがあり、集中できない・ミスが増えた
  • 「今夜も眠れないのではないか」と、夜が来ること自体が不安になっている
  • 眠るためにお酒を飲むことが増えた
  • 市販の睡眠改善薬を使っても、眠れない状態が続いている

あてはまる項目があるからといって、直ちに不眠症と診断されるわけではありません。一時的なストレスや環境の変化でも、似た状態は誰にでも起こります。ただ、こうした状態が週の半分以上、数週間から数か月続き、日中の生活に影響が出ている場合は、一度ご相談いただくことをおすすめします。

症状の詳しい説明

夜の症状 — 不眠の4つのタイプ

不眠は、眠りのどの段階でつまずくかによって、大きく4つのタイプに分けられます。

  1. 入眠困難(入眠障害): 布団に入ってから眠りにつくまでに時間がかかる。緊張や心配ごとがあるときに起こりやすいタイプです。
  2. 中途覚醒: いったん眠っても夜中に目が覚めてしまい、再び眠るのに苦労する。
  3. 早朝覚醒: 起きたい時刻よりずっと早く目が覚めて、そのあと眠れない。
  4. 熟眠障害: 睡眠時間はある程度とれているのに、眠りが浅く、寝た気がしない。

これらは一つだけでなく、複数が重なって現れることもあります。どのタイプが目立つかは、背景にある原因を考える手がかりになります。詳しくは不眠の3つのタイプと受診の目安の記事で解説しています。

タイプごとに、背景として考えやすいものが少しずつ違います。入眠困難は緊張や心配ごと、寝る直前までの強い光、体内時計の後ろずれと結びつきやすいタイプです。中途覚醒は加齢による眠りの浅さのほか、寝酒、睡眠時無呼吸症候群、痛みや頻尿などの体の要因が隠れていることがあります。早朝覚醒は、精神科の診療では古くからうつ状態に特徴的な眠りの乱れとして知られており、朝方の気分の落ち込みが重なるときは特に注意して診ます。熟眠感の欠如は、眠りを浅くする要因(無呼吸・アルコールなど)のほか、実際には眠れているのに眠れた実感が持てない状態のこともあります。診察で「どのタイプか」を細かくうかがうのは、この見当をつけるためです。

日中の症状

不眠症のつらさは夜だけではありません。眠れない日が続くと、日中の眠気、倦怠感、集中力や注意力の低下、意欲の低下、イライラ、頭が重い感じなどが現れます。仕事や家事でミスが増える、人とのやりとりに余裕がなくなる、といった形で生活に影響が出てきます。

「眠れないこと」自体への不安

不眠が続くと、「今夜も眠れなかったらどうしよう」という心配がふくらみ、布団に入ると逆に目がさえてしまう、という状態になりがちです。眠ろうと頑張るほど緊張して眠れなくなる——この悪循環が、不眠を長引かせる大きな要因と考えられています。この悪循環を断つことが、治療の大切なポイントになります。

眠りには、「眠ろうと努力するほど遠ざかる」という少し不思議な性質があります。眠気は意志の力で呼び寄せるものではなく、体のリズムが整ったときに自然に訪れるものだからです。「明日のために眠らなければ」と時計を何度も確認したり、早い時刻から布団に入って眠れない時間を長く過ごしたりするうちに、「布団=眠れずに焦る場所」という結びつきが体に染みついてしまうことがあります。きっかけのストレスが去ったあとも不眠だけが残るのは、多くの場合この仕組みによるものです。逆にいえば、この結びつきをほどいていくことが回復の道筋になります。

原因・メカニズム

不眠症の原因は一つではなく、いくつかの要因が重なって起こると考えられています。「きっかけ」と「長引かせる要因」を分けて考えると整理しやすくなります。きっかけとなったストレスが過ぎ去ったあとも、眠れないことへの不安や乱れた生活リズムが残ることで、不眠だけが続いてしまうことがあるのです。

生活習慣・環境の要因

  • 夜遅くまでスマートフォンやパソコンの強い光を浴びている(体内時計が後ろにずれ、眠気が出にくくなります)
  • 夕方以降のコーヒー・お茶・エナジードリンクなどのカフェイン
  • 寝酒(アルコールは寝つきを良くしても眠りを浅くします)
  • 就寝・起床時刻が不規則、日中の活動量が少ない、長い昼寝
  • 騒音や暑さ・寒さなど寝室の環境

体の要因

痛みやかゆみ、咳、頻尿などの体の症状や、睡眠時無呼吸症候群・レストレスレッグズ症候群(むずむず脚症候群)といった睡眠に関わる病気が、眠りを妨げていることがあります。また、治療中の病気の薬が睡眠に影響する場合もあります。

こころの要因 — うつ病・不安症との深い関係

不眠は、うつ病や不安症の症状の一部として現れることが少なくありません。特に、朝早く目が覚めてしまう早朝覚醒に、気分の落ち込みや朝のつらさが重なるときは、うつ病が背景にある可能性を考えます。心配ごとが頭の中でぐるぐる回って眠れないときは、不安症が隠れていることもあります。

逆に、不眠が長く続くこと自体が、うつ病の発症や悪化のリスクを高めることも知られています。眠れない状態と気分の不調は、互いに影響し合う関係にあるのです。だからこそ、不眠を「眠りだけの問題」にせず、気分や不安も含めて診ていくことが大切です。この関係については不眠とうつ・不安のつながりの記事で詳しく解説しています。

診断と、似た状態との違い

不眠症(DSM-5では「不眠障害」)の診断では、おおまかに次の点を確認します。

  • 寝つけない・夜中に目が覚める・朝早く目が覚める、などの症状がある
  • 眠る時間や環境が十分あるのに眠れない
  • 週3日以上の不眠が、3か月以上続いている
  • 日中の眠気・疲労・集中力低下など、生活への支障がある

3か月未満の場合は一時的な(短期の)不眠として区別されますが、期間が短くてもつらさが強ければ治療の対象になります。実際の診療では、基準にあてはまるかどうかだけでなく、生活リズム、体の状態、気分や不安、飲んでいる薬などを総合的に確認して判断します。

医師が「眠れない」の背後に見ているもの

精神科の診療では、「眠れない」という訴えをそのまま不眠症と診断することはしません。同じ「眠れない」でも、背後にあるものはさまざまだからです。診察では、おおよそ次のような可能性を順に確かめています。

  • その人に必要な睡眠時間と、眠ろうとしている時間のズレ(8時間眠ろうとして6時間しか眠れないのは、必ずしも病気ではありません)
  • うつ状態や不安の一症状としての不眠(特に早朝覚醒と朝のつらさの組み合わせ)
  • 睡眠時無呼吸症候群・レストレスレッグズ症候群・体内時計のずれなど、別の睡眠の病気
  • 痛み・かゆみ・頻尿などの体の症状や、治療中の病気の薬の影響
  • カフェイン・アルコール・生活リズムの乱れなどの生活要因

特に高齢の方では、複数の科から処方されている薬が眠りや気分に影響していないかの確認が欠かせません。「不眠症の治療」に入る前にこうした仕分けをすることで、睡眠薬では解決しない不眠に睡眠薬だけを重ねてしまうことを避けられます。

うつ病・不安症との違い

前述のとおり、不眠はうつ病全般性不安障害などの症状の一部として現れることがあります。この場合、眠りだけを薬で整えても根本の不調が残ってしまうため、背景にある病気への治療が優先されます。「眠れない」を入口に受診して、その奥にあった気分や不安の不調が見つかることはよくあります。

ほかの睡眠の病気との違い

  • 睡眠時無呼吸症候群: 大きないびきや睡眠中の無呼吸を指摘され、日中の強い眠気がある場合に疑います。睡眠薬だけでは根本の対処になりにくく、専門的な検査が必要になることがあります。
  • レストレスレッグズ症候群: 夕方から夜にかけて脚がむずむずして、じっとしていられず眠れないタイプです。通常の睡眠薬とは治療法が異なります。
  • 概日リズム睡眠・覚醒障害: 体内時計が後ろにずれて、夜眠れず朝起きられない状態です。「眠れない」と「起きられない」がセットのときは、薬より生活リズムと光の調整が中心になります。体内時計のズレと整え方の記事で詳しく解説しています。

加齢による睡眠の変化との違い

年齢を重ねると、睡眠は自然に浅く・短くなり、早寝早起きになっていきます。これは病気ではありません。日中の生活に支障がなければ、睡眠時間の数字を気にしすぎる必要はないことが多いのです。「8時間眠らないと」という思い込みが、かえって不眠の悩みを深くしてしまうこともあります。

治療

不眠症の治療は、生活面の工夫(睡眠衛生)を土台にして、必要に応じて薬物療法を組み合わせるのが基本です。薬だけに頼るのではなく、「薬に頼りすぎなくても眠れる状態」を出口として見据えながら進めていきます。

生活・セルフケア(睡眠衛生)

睡眠衛生とは、眠りを妨げているものを生活のなかから取り除いていく工夫のことです。特別なことを足すというより、眠りの邪魔を引いていくイメージです。

  • 朝起きたらカーテンを開け、太陽の光を浴びる(体内時計が整い、夜の眠気につながります)
  • 起きる時刻をなるべく一定にする
  • 夕方以降のカフェインを控えめにする
  • 夜は強い照明やスマートフォンの画面を控えめにする
  • 寝床は「眠る場所」にして、スマホや考えごとを持ち込まない
  • 眠くなってから布団に入る。寝つけず焦りが強いときは、一度布団を出て落ち着いてから戻る
  • 寝酒はしない

すぐに効果が出なくても、続けることが土台づくりになります。具体的な工夫は睡眠衛生の基本の記事にまとめています。なお、布団にいる時間を意識的に短くするような取り組みは、やり方によっては日中の眠気が強く出ることがあるため、無理せず主治医と相談しながら進めてください。

精神療法(不眠の認知行動療法)

慢性的な不眠に対しては、不眠の認知行動療法(CBT-I)と呼ばれる方法の有効性が知られており、欧米では薬物療法より先に推奨されています。睡眠の記録をつけながら、寝床と眠りの結びつきを立て直し、「8時間眠らなければ」といった眠りへの思い込みをほぐしていく治療です。日本では専門的に実施できる施設がまだ限られていますが、当院でも診察のなかでこの考え方を取り入れ、睡眠記録をもとにした生活の調整や、眠れない夜との付き合い方について助言を行っています。

なお、当院ではCBT-Iの専門プログラムそのものは提供していません。診察のなかでその考え方を取り入れる形になりますので、睡眠日誌をつけていただきながら2週間ごとに経過を確認し、記録をもとに睡眠習慣や眠りへの考え方を一緒に見直していくことがあります。

薬物療法

生活面の工夫だけでは改善が不十分なとき、薬物療法を検討します。睡眠薬にはいくつかのタイプがあります。

  • 依存が生じにくいとされる新しいタイプ: 体内時計に働きかけて自然な眠気を促すメラトニン受容体作動薬や、脳の覚醒システムの働きを抑えるオレキシン受容体拮抗薬があります。当院では、まずこうした依存の少ないタイプから検討することを基本にしています。
  • 従来からあるタイプ(ベンゾジアゼピン受容体作動薬): 脳の興奮を鎮める仕組みで、効果を実感しやすい一方、長く使ううちに「やめようとすると眠れない」状態(常用量依存)が生じたり、ふらつきや翌朝への持ち越しが出たりすることがあります。使う場合は必要最小限にとどめ、やめ方まで見据えて慎重に使っていきます。

大切なのは、長く飲んできた睡眠薬を自己判断で急にやめないことです。急にやめると、反動で一時的に強い不眠(反跳性不眠)が出ることがあります。減らすときは、不眠が落ち着いたことを確認しながら、主治医と一緒に時間をかけて少しずつ進めます。睡眠薬への不安については睡眠薬がやめられないときの考え方と安全な減らし方の記事で詳しく解説しています。

経過と再発予防

強いストレスのあとなどに数日から数週間続く一時的な不眠は、多くの場合、きっかけが落ち着くとともに自然に回復していきます。一方、「眠れないことへの不安」の悪循環に入ってしまうと、きっかけが去ったあとも不眠だけが慢性化することがあります。慢性化した不眠も、睡眠衛生の立て直しと適切な治療によって改善が期待できますので、長年の不眠だからと諦める必要はありません。

改善したあとの再発予防では、次の点が役立ちます。

  • 朝の光と一定の起床時刻など、眠りを支える生活リズムを維持する
  • 「8時間眠らなければ」と数字にとらわれず、日中の調子を目安にする
  • 一時的に眠れない日があっても、「またあの不眠に戻るのでは」と焦りすぎない(数日の波は自然なことです)
  • 睡眠薬を使っている場合は、やめる時期・減らすペースを主治医と相談しながら年単位のゆとりをもって進める

眠れない日が少し続いたとしても、早めに生活リズムを立て直せば、悪循環に入る前に持ち直せることが多いです。

仕事・生活への影響と使える制度

不眠が続くと、日中の眠気や集中力の低下から、仕事の効率が落ちる、ミスが増える、といった影響が出やすくなります。強い眠気があるときの車の運転には特に注意が必要です。また、慢性的な不眠や睡眠不足は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めることも指摘されています。

不眠だけで仕事を長く休むケースは多くありませんが、背景にうつ病などがあり、休養が必要と判断される場合には、診断書を作成して休職を支援することがあります。休職の考え方は休職についてを、休職中の収入を支える傷病手当金についてもあわせてご覧ください。また、通院治療が続く場合には、医療費の自己負担が軽減される自立支援医療制度を利用できることがあります。対象になるかどうかは診察の際にご相談ください。

受診の目安と当院での診かた

次のようなときは、受診をご検討ください。

  • 眠れない日が数週間以上続き、日中の眠気やだるさで生活に支障が出ている
  • 「夜が来るのが怖い」と感じるほど、眠れないこと自体がストレスになっている
  • 寝酒や市販の睡眠改善薬に頼る状態が続いている
  • 大きないびきや睡眠中の無呼吸を指摘された
  • 眠れないことに加えて、気分の落ち込みや強い不安がある

気分の落ち込みが強く、死にたい気持ちが浮かぶようなときは、期間にかかわらず早めに受診してください。すでに通院中の方は主治医に伝えてください。差し迫った状況では、ためらわず救急(119)に連絡してください。

当院では、初診時に「何時ごろ布団に入り、何時ごろ眠れるか」「夜中や早朝に目が覚めるか」「日中の眠気はどうか」といった眠りの様子を具体的にうかがい、生活リズム、カフェインやお酒の習慣、体の状態、気分や不安まで含めて全体を評価します。そのうえで、生活面の工夫と薬物療法をどう組み合わせるかを、ご本人と相談しながら決めていきます。数日分でも簡単な睡眠のメモ(布団に入った時刻・起きた時刻など)があると、診察がスムーズになります。

受診が初めての方は、初めての方へで受診の流れをご案内しています。「不眠症かどうか分からない」「眠れないことを相談していいのか迷う」という段階のご相談でも構いません。

参考文献

よくある質問

どのくらい眠れない日が続いたら受診したほうがよいですか?

週3日以上の不眠が3か月以上続く場合は治療が必要な不眠症の可能性があるとされますが、そこまで待つ必要はありません。眠れない日が数週間続き、日中の眠気やだるさで生活に支障が出ているときは、早めのご相談をおすすめします。

睡眠薬は一度飲み始めるとやめられなくなりませんか?

必ずしもそうではありません。近年は依存が生じにくいとされるタイプの睡眠薬もあり、不眠が落ち着いたあとに主治医と相談しながら時間をかけて減らし、やめられる方も多くいます。自己判断で急にやめると反動でかえって眠れなくなることがあるため、減らし方は主治医と一緒に決めていきます。

眠れないとき、寝酒でしのぐのはよくないのでしょうか?

おすすめできません。アルコールは一時的に寝つきを良くしますが、眠りを浅くして夜中に目が覚めやすくなり、続けるうちに量が増えやすい問題もあります。寝酒に頼る状態が続いているときは、一度ご相談ください。

何時間眠れば十分なのでしょうか?

必要な睡眠時間には個人差があり、年齢とともに自然に短くなっていきます。6時間ほどで日中を元気に過ごせる方もいます。時間の長さそのものより、日中の眠気やだるさで生活に支障が出ていないかを目安にしてください。

この病気で使われることのあるお薬

治療で使われることのある代表的なお薬です。実際にどのお薬を使うか(使わない場合も含めて)は、診察のうえで医師が一人ひとりに合わせて判断します。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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