福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

デエビゴ(一般名: レンボレキサント)は、不眠症の治療で近ごろまず選ばれることの多い睡眠薬です。「睡眠薬」と聞いて多くの方が心配する「くせにならないか」「やめられなくなるのでは」という点で、従来の薬より安心して使えるタイプ——それがこの薬のいちばんの持ち味です。当院でも、不眠症の薬物療法では、こうした依存の生じにくい薬から検討することを基本にしています。

どんなふうに効く薬か

眠れない夜、脳では「眠る力が足りない」のではなく、目を覚まし続けるためのスイッチが、夜になっても切れないままになっていることが多いのです。体は疲れているのに頭が冴えている——あの状態です。

デエビゴは、この「起こし続けている力」のほうをそっとゆるめる薬です。脳を無理やり眠らせる、いわば気絶させるのではなく、覚醒の手をほどいて、自然な眠気にバトンを渡す。だから効き方はおだやかで、「飲んだ瞬間にストンと落ちる」ような強い感覚はあまりありません。

ここで知っておいてほしいのが、この薬ならではの「効いた気がしない問題」です。以前に強い睡眠薬を使ったことのある方ほど、「あれ、効いてないのでは」と感じやすい。でも数週間して振り返ると、「気づいたら朝だった日が増えた」「夜中に時計を見る回数が減った」——そんな静かな変化に気づく方が多いのです。劇的でないことは欠点ではなく、この薬の本来の姿。そう知っているだけで、早々に見切りをつけずにすみます。

「眠れた感じ」は、思っているほど当てになりません

もうひとつ知っておくと気が楽になることがあります。眠りについての自分の感覚は、案外あてになりません。暗く静かな布団の中で目が覚めていると、ほんの短い時間でもずいぶん長かったように感じられます。眠れない夜を長く重ねてきた方ほど、実際に眠っていた時間を短めに見積もりやすいことが知られていて、検査のうえでは眠れているのに実感が追いつかない、ということも起こります。

つまり「効いた気がしない」の中身は、薬の効き方の話だけとは限らないのです。その夜の感想だけで決めないでください。日中の集中の続き方、夕方まで体が持つかどうか——薬が働いているかどうかは、眠った実感より先に、そういうところに出ます。

どんな人に向くか・ほかの睡眠薬との違い

睡眠薬にはいくつかの系統があり、効き方の強さと依存のしにくさが違います。昔ながらのベンゾジアゼピン系は効果が確実な分、だんだん効きにくくなったり、やめづらくなったり、ふらつきが出やすい薬です。マイスリーなどのZ薬は寝つきに強く翌朝に残りにくい反面、やはり依存の心配が残ります。ロゼレムのような体内時計に働く薬はとてもおだやかですが、効果もマイルドです。

デエビゴはこの中で、自然な眠りに近く、依存が生じにくい位置にいます。だから向いているのは、夜中に何度も目が覚める方、薬にくせがつくのが心配な方、ふらつきや転倒を避けたい高齢の方、そして長年のベンゾジアゼピン系から依存の少ない薬へ切り替えたい方です。同じ仲間のベルソムラと比べると、デエビゴは量の調整の幅が広く、効果の手応えもやや得やすいとされています。逆に「とにかく寝つきだけを強く」という場合は、ほかのタイプが合うこともあります。

同じオレキシンの薬どうしの使い分けは、正直なところ「どちらが強い」という単純な話ではありません。眠りにつくまでの時間や眠れた長さで比べると、大きな差はないとされています。それでも私たちが少しずつ選び分けているのは、細かな個性があるからです。デエビゴは覚醒と睡眠の切り替えそのものに関わる側へ、より強く働く性質があるとされ、純粋に「眠りを整える薬」として使いやすい。量の刻みが細かく、ほかの薬と一緒に一包化しやすいのも、飲み薬が何種類もある方には地味ですが大きな利点です。

高齢の方に選ばれやすいのにも理由があります。年齢を重ねると、覚醒を担う仕組みが数のうえでは減るのに、残ったものが敏感になり、ちょっとしたことで発火しやすくなる——つまり「眠りが細切れになる」方向に体が変わっていく、と考えられています。夜中に何度も目が覚めるという高齢の方の訴えは、意志や気持ちの問題ではなく、この変化の表れであることが多い。だとすれば、覚醒の側をそっと抑えるこの薬の理屈は、その困りごとにまっすぐ噛み合います。

薬の前に、眠れない理由をひとつずつ外していく

睡眠薬は、眠れない理由そのものを取り除く薬ではありません。理由が別にあるなら、そこに手を入れたほうが早いことが多いのです。

体の側に理由が隠れていることがあります

夜中に何度もトイレに起きる、肌がかゆい、どこかが痛む、息が苦しい——こうしたことは、それだけで眠りを細切れにします。とくに見落とされやすいものが二つあります。ひとつは、眠ろうとすると脚が落ち着かなくなる状態です。「むずむず」と呼ばれますが、そわそわする、ちくちくする、布団を蹴り出したくなる、と表現される方もいます。もうひとつは、眠っているあいだに呼吸が止まるタイプの病気で、いびきや日中の強い眠気が手がかりになります。どちらも、ご本人の口からは「眠れません」としか語られないことが多いものです。心当たりがあればお話しください。

いま飲んでいるもののほうに理由があることも

処方薬にも市販薬にも、眠りを妨げる働きをもつものがあります。ぜんそくの薬、一部の血圧の薬、ステロイド、いくつかの抗菌薬などが知られていますし、風邪薬や鎮痛薬、眠気ざましの飲料にはカフェインが含まれていることがあります。サプリメントにも、眠りを浅くする成分を含むものがあります。当院では初診で、服用中の市販薬・サプリメントも確認しています。

薬局で買える「睡眠改善薬」の箱の注意書きには、一時的な不眠に使うものであって不眠症なら使わずに医療機関へ、という趣旨が書かれています。続けて使ううちに効きにくくなりやすいことも指摘されています。すでに使っている方は、その使い方も含めてお聞かせください。

「早く布団に入る」ほど、眠れなくなる

眠れないから早めに横になる——ごく自然な発想ですが、うまくいかないのには理由があります。ふだん眠りにつく時刻の少し手前の数時間は、一日のうちでもっとも寝つきにくい帯だと分かっています。そこに横になれば当然眠れず、「今日も眠れないのでは」という不安が積み上がって、布団が「眠れない場所」として体に覚え込まれていきます。

だから順序を逆にします。起きる時刻のほうを先に決めて動かさず、布団に入るのは眠くなってから。必要な睡眠の長さは年齢とともに短くなるので、若い頃と同じだけ眠ろうとして長く横になっていると、健康な方でも途中で目が覚めます。当院では、不眠症の認知行動療法(CBT-I)の専門プログラムは提供していませんが、診察のなかで睡眠習慣の見直しや考え方の整理など、CBT-Iの考え方を取り入れた助言を行っています。睡眠日誌をつけていただきながら、2週間ごとに経過を確かめる形をとることもあります。なお、布団にいる時間を短くする取り組みは、始めてしばらく眠気やだるさが強まります。自己流で始めず、進め方は診察で相談してください。布団に入る時刻が変われば薬を飲む時刻も変わりますので、そこも一緒に決めましょう。

飲み始めに知っておいてほしいこと

飲むのは布団に入る直前です。ここは意外と大事なポイントで、夕食の直後に飲むと効き始めが弱まることがあります。夕食から時間をあけて、あとは寝るだけ、というタイミングで飲んでください。効果は飲んだその夜から期待できます。

翌朝の眠気・だるさ

正直にお伝えすると、「翌朝にまったく響かない睡眠薬」というものは存在しません。程度の差こそあれ、どの睡眠薬も翌日に何かしらの影響を残しうると考えておくほうが安全です。デエビゴが依存の面でおだやかだからといって、朝の眠気を軽く見てよいわけではありません。

この薬と付き合ううえでいちばん多い実感が、翌朝への「持ち越し」です。飲む時刻が遅い、睡眠時間そのものが短い——そんなときに出やすいので、まず生活の側を見直すと軽くなることがあります。それでも残るなら、量を減らす、薬を変えるなど手はいくつもあります。

添付文書では、この薬を飲んでいるあいだは車の運転など危険を伴う作業を控えることになっています。とくに飲み始めや量を変えた時期、翌朝に眠気が残っているときは危険です。運転が欠かせない生活の方は、薬の選び方から一緒に考えますので、必ず事前にご相談ください。

ここに誤解されやすい点がひとつあります。朝の重さを「眠りが浅かったせいだ」と受け取ると、話は「もっと効く薬を」という方向に流れがちです。ところが実際には、その重さこそが薬の持ち越しであることがあり、その場合に必要なのは足すことではなく減らすことです。朝のだるさは、そのまま言葉にして教えてください。

飲み始める最初の一夜は、翌日に大事な予定のない日を選べると安心です。効きすぎて翌日の仕事に響くと、それだけで薬が怖くなってしまうからです。いつから飲み始めるか迷ったら、診察で一緒に決めましょう。

夢が鮮明になる・金縛りのような感覚

もう一つ、この薬らしい反応が、眠りぎわの夢がやけにリアルになったり、金縛りのような感覚が出たりすることです。覚醒の手をほどいて眠りに移るという仕組み上、夢と現実の境目があいまいになりやすいためで、体に害はありません。ただ「眠るのがこわい」と感じるほどなら我慢は禁物。量の調整や薬の変更で軽くできますので、遠慮なく教えてください。

なぜこの薬でそれが起きやすいのかは、仕組みのほうから説明がつきます。この薬が夜のあいだ邪魔をしている「起こし続ける物質」は、もともと足りなくなると、日中に強い眠気の発作が起きるナルコレプシーという病気につながることが分かっている物質です。つまりこの薬は、覚醒を支える仕組みに夜のあいだそっと蓋をしている。眠りぎわに夢と現実の境目がゆらぐのは、その働きと地続きの出来事だと考えられます。なお、ナルコレプシーやそれに伴う発作を指摘されたことのある方では症状が強まるおそれがあるとされています。診察のときにお伝えください。

食欲や体重の変化

あまり知られていませんが、この系統の薬では、食欲が少し増す、体重が増えるといった報告もあります。多い副作用ではなく、患者さんから訴えられることはまれだと書いている専門書もあります。ただ、この薬が働きかけている仕組みは、もともと「起きて動いて、食べにいく」ことをひとまとめに支える仕組みでもあります。食欲や体重に気になる変化があれば、気のせいと片づけずに教えてください。

めったにないけれど大事なこと

ごくまれに、眠りぎわに実際にはないものが見える・聞こえる、睡眠中に普段しない行動をとる、といった反応が報告されています。気になることがあれば次の診察を待たずご連絡ください。また、重い肝臓の病気がある方には使えないなど、体の状態や飲み合わせによって使えない・量を減らすべき場合があります。持病のある方、ほかの薬を飲んでいる方は、必ず事前にお知らせください。

具体的には、腎臓の働きが大きく落ちている方や、肝臓の働きの落ちかたが軽度から中等度の方では薬が体にとどまりやすく、脳に病気やけがの跡がある方では作用が強く出ることがあります。眠っているあいだの無呼吸や慢性の肺の病気が中等度から重度にあたる方では、長く使ったときの経験がまだ十分ではありません。呼吸の働きがそれ以外の理由で中等度から重度に落ちている方については、使用そのものの経験が十分ではありません。お薬手帳は毎回お持ちください。

やめるとき

デエビゴは、従来の睡眠薬に比べれば依存が生じにくく、やめたときに前よりひどい不眠がぶり返すことも起こりにくいとされています。ただし起こらないわけではありません。ですから、自己判断で急にやめないでください。やめた直後に一時的に寝つきにくく感じても、それは「薬なしで眠れない体になった」ことを意味しません。不眠が落ち着いたのを確かめてから、ペースを相談しながら減らしていきます。

同時に、眠れているからと漫然と続けるのも避けたいところです。当院では「今も薬が必要か」を定期的に一緒に見直します。詳しくは睡眠薬を減らすときの不安との向き合い方睡眠薬がやめられないときの考え方の記事もどうぞ。

薬を飲みながらでも、生活の側の手当てを並行して進めておくことには意味があります。薬だけで夜を組み立てていると、「薬があるから眠れる」がいつのまにか「薬がないと眠れない」に変わり、やめどきを見つけにくくなるからです。逆に、眠りを支える生活の形が戻っていれば、減らす話は自然に切り出せます。減らし方には、量を下げていく形もあれば、飲まない夜を作る形もありますが、どれを選ぶかは体の反応と暮らしの予定次第です。必ず診察で計画を立ててから始めましょう。

生活の中での注意

お酒と一緒に飲むのは避けてください。眠気やふらつきが強まります。寝酒で眠っていた方は、その習慣ごと相談していただければ、切り替え方を一緒に考えます。妊娠・授乳については一律の禁止ではなく、必要性と一緒に考えます。妊娠が分かっても自己判断でやめず、まず相談してください。そして薬だけに頼らないこと——朝の光を浴びる、夕方以降のカフェインを控える、寝る前のスマートフォンを控える。こうした土台があってこそ、薬を減らしていけます。

当院では、妊娠を希望される方・授乳中の方には催奇性を考慮したうえで治療を検討し、過去の病歴をもとに有益性が上回ると判断する場合は最小限の薬物療法を検討することもあります。この薬はごくわずかながら母乳に移ることが確かめられているので、授乳を続けるかどうかも含めて一緒に考えます。

寝酒は、いちばん手ごわい相手です

お酒は寝つきだけは良くします。だから睡眠薬代わりに使う方が本当に多い。ただ、その眠らせる働きが続くのは数時間ほどで、体からお酒が抜けてくる夜の後半には、逆に目が覚めやすくなります。分解の途中でできる物質そのものが、目を覚ます方向に働くためです。

やっかいなのは、続けるうちに同じ量では効かなくなり、量が増えていくことです。体が慣れたところで急にやめると、寝酒を始める前よりひどい不眠が出ます。意志の問題ではなく体の反応です。寝酒を切り上げるときも、ひとりで一気にやらず、段取りを診察で相談してください。

カフェイン・たばこ・朝の光

カフェインは飲んでから脳に届くまで30分ほどかかり、そこから数時間はたらきます。だから寝る前の一杯でも寝つくことはでき、そのあとの眠りだけが浅くなります。夕方以降、できれば眠る4時間ほど前からは控えるのが目安になります。たばこはその逆で、数秒で脳に届いて数時間目を覚まさせます。夜中に起きたときの一服は、そのあとの眠りを遠ざけます。なお、朝の光は室内の照明では足りず、窓辺で外の光を浴びるくらいが必要です。

当院での考え方

不眠の治療で大切なのは、薬を出すことより「なぜ眠れないのか」を一緒に整理することです。寝つきなのか、夜中の目覚めなのか、生活リズムやお酒・カフェインはどうか。そのうえで薬が必要なら、依存の少ないタイプから検討します。処方後は翌朝の眠気を確かめながら量を合わせ、落ち着いたらやめ方まで一緒に考えます。「睡眠薬を飲むこと自体が不安」という方は、薬への依存が怖いときに知っておきたいこともご覧のうえ、その不安ごと診察でお話しください。

参考文献

  • デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg 添付文書(2025年12月改訂・第4版、エーザイ株式会社) — KEGG MEDICUS 参照(2026-07-07)
  • 参考書籍(本文の追記の裏づけ。要約・再構成であり原文の転載ではありません): 『精神診療プラチナマニュアル』『ガイドラインにないリアル精神科薬物療法をガイドする』『精神科治療における処方ガイドブック』『ジェネラリストのための 向精神薬の使い方』『研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義』『対話で学ぶ精神症状の診かた』

よくある質問

飲んでもすぐ眠くならないのですが、効いていないのでしょうか?

デエビゴは意識を強制的に落とす薬ではなく、目を覚まし続けている力をゆるめて、自然な眠気にバトンを渡す薬です。「飲んだ瞬間にストンと落ちる」感覚がないのは、むしろ本来の効き方。気づいたら朝だった、夜中に起きる回数が減った——そんな形で数日〜数週間の単位で振り返ってみてください。物足りなく感じても、自己判断で増やさず診察でご相談を。

飲み続けるとやめられなくなりませんか?

従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬と違って依存が生じにくいタイプで、「くせになるのが怖い」という方にこそ選ばれている薬です。やめたときに前よりひどい不眠がぶり返すことも、従来の睡眠薬に比べれば起こりにくいとされています。ただし起こらないわけではなく、やめる時期とペースは体の反応を見ながら決めたいので、自己判断で急にやめず、一緒に相談しながら減らしましょう。

翌朝に眠気やだるさが残るときは?

デエビゴでいちばん多いのが、この「持ち越し」です。飲む時刻が遅すぎないか、睡眠時間を十分とれているかを見直すだけで軽くなることもあります。それでも続くなら量を減らす、薬を変えるなど手はいくつもあります。なお添付文書では、この薬を飲んでいるあいだは車の運転など危険を伴う作業を控えることになっています。とくに眠気が残っている朝は危険ですので、運転が欠かせない生活の方は必ず事前にご相談ください。

夢がやけにリアルになったり、金縛りのようになるのですが。

この薬に比較的特徴的な反応で、体に害があるものではありません。覚醒をゆるめて眠りに入るという仕組み上、眠りぎわに夢の世界と現実の境目があいまいになりやすいためです。ただ、眠るのがこわくなるほどつらいなら我慢する必要はありません。量の調整や薬の変更で軽くできますので、遠慮なく教えてください。

食後やお酒を飲んだ日に飲んでも大丈夫ですか?

食事の直後に飲むと効き始めが弱まることがあるため、夕食から時間をあけて、布団に入る直前に飲むのが基本です。お酒との併用は眠気やふらつきを強めるので避けてください。寝酒の習慣がある方は、やめ方も含めて診察でご相談いただけます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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