「睡眠薬をいつまで飲み続けるのだろう」「薬がないと眠れない体になってしまったのでは」「そろそろやめたいけれど、やめたらまた眠れなくなりそうで怖い」――。
睡眠薬を服用している方から、診察でとてもよくうかがう言葉です。なかには、誰にも相談せずに自己判断で服用を中断し、かえって眠れなくなって困り果てて来院される方もいらっしゃいます。
まずお伝えしたいのは、「睡眠薬をやめたい」と思う気持ちは、とても自然で健全なものだということです。薬に頼りきりになりたくない、自分の力で眠れるようになりたいという願いは、回復への大切な原動力になります。
同時に、もうひとつ知っておいていただきたい鉄則があります。それは、睡眠薬は「急にやめない」ことです。やめ方を誤ると、一時的に以前より強い不眠が出て、「やっぱり薬がないとだめだ」という誤った結論につながってしまうことがあるからです。
この記事では、睡眠薬を急にやめてはいけない理由、減薬に適したタイミング、安全な減らし方の考え方、減薬を支える生活の工夫を、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。
「やめたい」と思ったら、まず主治医に伝えてください
結論から先にお伝えします。睡眠薬をやめたい・減らしたいと思ったら、自己判断で中断せず、まずその気持ちを主治医に伝えてください。
「やめたいなんて言ったら、先生に悪いのではないか」「まだ飲みなさいと言われそう」と、言い出しにくく感じる方が少なくありません。しかし、睡眠薬を漫然と長く続けるのではなく、必要な期間使って、状態が安定したら計画的に減らしていくことは、医師の側にとっても大切な治療目標です。「やめたい」という相談は、主治医にとって歓迎すべきものであって、失礼なことではまったくありません。
逆に、黙って服用をやめてしまうと、主治医は薬が効いていると思ったまま診療を続けることになり、状態の変化を正しく評価できなくなります。眠れなくなったときにも、それが病状の悪化なのか中断の影響なのか判断がつきにくくなります。減薬は、主治医と情報を共有しながら進めるのがいちばんの近道です。
急にやめてはいけない理由――反跳性不眠と離脱症状
睡眠薬をしばらく続けて服用していると、体がその薬のある状態に慣れていきます。その状態から急に薬をゼロにすると、体が変化についていけず、いくつかの反応が起こることがあります。
反跳性不眠(はんちょうせいふみん)
代表的なのが「反跳性不眠」です。薬を急にやめた直後に、服用を始める前よりもかえって強い不眠が一時的に現れる現象で、リバウンドのようなものと考えると分かりやすいかもしれません。
ここに落とし穴があります。反跳性不眠で眠れなくなった方の多くは、「薬をやめたら眠れなくなった。自分はもう薬なしでは眠れない体なんだ」と受け取ってしまいます。しかし実際には、それはやめ方が急だったために起きた一時的な反応であって、「一生薬が必要」という証拠ではありません。この誤解によって薬をやめることへの恐怖が強まり、かえって薬から離れにくくなってしまうのは、とてももったいないことです。
離脱症状
薬の種類や服用期間によっては、不眠以外にも、不安感、イライラ、そわそわ感、頭痛、吐き気、耳鳴り、光や音への過敏さなどの症状が急な中断のあとに現れることがあります。これらは「離脱症状」と呼ばれ、特に、長く広く使われてきたベンゾジアゼピン系と呼ばれるタイプの薬を長期間服用していた場合に起こりやすいとされています。
大切なのは、こうした反応は意志の弱さや依存的な性格のせいではなく、体の生理的な反応だということです。そして、時間をかけて段階的に減らしていくことで、こうした反応を小さく抑えながらやめていくことができるとされています。だからこそ「急にやめない」が鉄則なのです。
なお、睡眠薬にはさまざまな種類があり、近年は体の慣れや離脱症状が起こりにくいとされるタイプの薬も使われるようになっています。ご自身の薬がどのタイプで、どんな減らし方が向いているかは、診察のなかでご説明します。薬についての基本的な考え方は薬についてのページもご覧ください。
「もう依存しているのでは」という不安について
睡眠薬を続けている方の多くが、「自分はもう薬に依存しているのではないか」という不安を抱えています。インターネットで検索すると不安をあおる情報も多く、「怖くなって急にやめた」という方も少なくありません。
ここは、言葉を整理しておきたいところです。前の項でお伝えした反跳性不眠や離脱症状は、続けて服用していれば体に起こり得る生理的な反応であって、それだけで「依存症」というわけではありません。処方された量を、決められた飲み方で使っている限り、薬を求めて量がどんどん増えていくような状態とは区別して考えられています。
決められた量をきちんと守って眠るために飲んでいて、薬のおかげで不眠そのものは改善している。それなのに、いざやめようとすると眠れなくなったり不調が出たりするために、やめる一歩が踏み出せない――専門的には、この状態を「常用量依存(じょうようりょういぞん)」と呼びます。量を勝手に増やしているわけでも、薬を求めて生活が乱れているわけでもなく、いわゆる「乱用」とは性質が違います。むしろ、まじめに治療を続けてきた方にこそ起こりうる、ごく自然な状態です。ご自身を「薬に溺れている」と責める必要はまったくありません。
「睡眠薬を飲み続けると認知症になる」「8時間眠らないと体に悪い」――週刊誌やインターネットには、こうした不安をあおる情報もあふれています。断定的に書かれた情報ほど、そのまま鵜呑みにしないでいただきたいところです。不安にさせる情報を見つけたときは、その情報をもとに自分で急に薬をやめるのではなく、「こういう記事を読んで不安になった」と主治医に伝えてください。あなたの状態に当てはまるのかどうかを、一緒に整理していけます。
また、ご家族から「薬が習慣になると怖い」「いつまで飲むつもりなのか」と言われて、不安が強まる方もいます。家族の心配はたいてい善意から出たものですが、不眠は気合いや精神力だけで乗りきれるものではありませんし、必要な薬を急にやめることはかえって逆効果になりかねません。家族に言われて揺れたときも、自分だけで結論を出さず、その気持ちを診察で話してください。必要であれば、なぜ今この薬を続けているのか、どう減らしていくのかを、ご家族にも一緒に説明することができます。
もちろん、自己判断で量を増やしてしまう、効かないからと飲む回数が増えている、といった場合は早めに主治医に相談が必要です。しかし「毎晩飲んでいる=依存」と自分を責める必要はありません。不安をひとりで抱えて急にやめてしまうことのほうが、よほどリスクが大きいのです。不安に感じていること自体を、そのまま診察でお話しください。
減薬に向くタイミング、向かないタイミング
睡眠薬の減薬には、「いつ始めるか」がとても重要です。同じ減らし方でも、時期によって成功のしやすさが大きく変わります。
減薬に向いているのは、こんなときです。
- 眠れる状態がしばらく安定して続いている(数週間〜数か月単位で、よく眠れる日が当たり前になっている)
- 不眠のもとになっていたうつ状態や不安、強いストレス状況が落ち着いている
- 仕事や家庭の環境が比較的穏やかで、大きな変化の予定がない
- 生活リズムが整い、睡眠の習慣づくりに取り組む余裕がある
逆に、次のようなタイミングは避けたほうがよいとされています。
- 眠れたり眠れなかったりと、まだ睡眠が不安定な時期
- うつ病や不安症などの治療の途中で、症状がまだ十分よくなっていない時期
- 転職・異動・引っ越し・介護・家族の問題など、大きなストレスの渦中や直前
- 繁忙期など、睡眠が多少乱れると生活に大きく響く時期
「早くやめたい」という気持ちが強いと、眠れるようになってすぐ減薬を始めたくなりますが、土台が固まる前に減らすと、不眠がぶり返して振り出しに戻りやすいのです。急がば回れで、「もう大丈夫」と思ってからもうひと呼吸置くくらいが、結果的に近道になることが多いと感じています。不眠症の治療全体の考え方は不眠症のページでもご紹介しています。
安全な減らし方の考え方――少しずつ、ゆっくり、行きつ戻りつ
具体的な減薬のペースや方法は、薬の種類・服用期間・その方の状態によって変わるため、必ず主治医と個別に計画を立てることになります。ここでは、一般的に共有されている「考え方」をご紹介します。
少しずつ、段階的に減らす
一気にゼロにするのではなく、量を少しずつ減らす、あるいは服用する日を調整するなど、段階を踏んで進めるのが基本です。ひとつの段階を減らしたら、その状態で眠りが安定するまで数週間ほど様子を見て、大丈夫であれば次の段階へ進む――というように、階段を一段ずつ降りるイメージです。
どのくらいゆっくりかというと、長く飲んでこられた方の場合、あくまで目安ですが、「1年かけて半分に減らせたら成功」と考えるくらいのペースが安全だとされています。たとえば、いくつかの種類を飲んでいる方なら、まず種類を一つ減らし、次にまた一つ、というように、年単位で少しずつ進めていきます。「来年の今ごろ、ここまで減らせていたら上出来」――そのくらいの気長さで構いません。
最後の一歩ほど、ゆっくり
減薬は、後半・終盤ほど慎重に進めることが多いとされています。「あと少しだから」と最後を急ぐと、そこでつまずくことがあるためです。ゴールが見えてからこそ、焦らないことが大切です。
うまくいかない日があっても、失敗ではない
減薬の途中で、寝つきにくい日や眠りの浅い日が出てくるのは、ごく普通のことです。1日眠れなかったからといって減薬が失敗したわけではありません。数日の波に一喜一憂せず、1〜2週間の全体の傾向で判断します。つらさが続く場合は、いったん前の段階に戻って立て直し、また時期を見て再挑戦することも、後退ではなく計画の一部です。行きつ戻りつしながら、トータルで減っていけば十分成功です。
「眠れなかったらどうするか」を先に決めておく
減薬中に眠れない夜があったとき、その場の不安で自己判断の増減をしてしまうと、経過が分かりにくくなります。「眠れない日が何日続いたら連絡する」「そのときはどうするか」を、あらかじめ主治医と決めておくと、安心して取り組めます。
薬を減らすことは、「眠る力」を育てることとセットです
睡眠薬の減薬は、薬を引き算するだけの作業ではありません。薬が担っていた部分を、自分自身の「眠る力」で置き換えていくプロセスです。だからこそ、生活面の土台づくりが減薬の成功を大きく左右するとされています。
- 起床時刻をそろえる:眠れた日も眠れなかった日も、朝はなるべく同じ時刻に起き、カーテンを開けて光を浴びます。体内時計が整い、夜の眠気が安定してきます
- 日中に体を動かす:散歩などの軽い運動でかまいません。日中の活動量は夜の眠りの深さにつながります
- カフェインと就寝前のスマートフォンを控えめに:夕方以降のコーヒーや、布団の中での画面は、寝つきを妨げやすいとされています
- 眠くなってから布団に入る:眠くないうちから長く布団で粘ると、「布団=眠れない場所」という条件づけができてしまいます
- 寝酒はしない:アルコールは寝つきを一時的によくするように感じられますが、眠りを浅くし、夜中の目覚めを増やします。薬の代わりにお酒を使うことは、最も避けていただきたい置き換えです
なお、必要な睡眠時間は人それぞれです。「8時間眠らないといけない」と思い込む必要はなく、6時間ほどで十分という方もたくさんいます。年齢とともに眠りが短く、早寝早起きになっていくのも自然なことで、日中の生活に支障がなければ過度に気にしなくて大丈夫です。
こうした工夫は、減薬を始める前から取り組んでおくと、いざ減らし始めたときの支えになります。「薬を減らす準備として、まず生活を整える期間をつくる」という順番で考えていただくとよいでしょう。全部を一度にやろうとせず、起床時刻をそろえることなど、できそうなものから始めてみてください。
また、「眠れなかったらどうしよう」という不安そのものが目を冴えさせてしまう、という悪循環は不眠の大きな要因です。減薬の過程でこうした考え方のくせを扱っていく、認知行動療法的なアプローチが役立つこともあるとされています。取り入れ方は診察のなかで一緒に考えます。
こんなときはご相談ください
睡眠薬とのつきあい方について、次のような状況にある方は、一度ご相談ください。
- 睡眠薬を長く服用していて、やめたい・減らしたい気持ちがある
- 自己判断でやめてみたら眠れなくなり、どうしてよいか分からない
- 以前と同じ量では効きにくくなってきた気がして不安
- 他院で処方された睡眠薬について、今後の方針を相談したい
- そもそも眠れない状態が続いていて、薬を使うべきか迷っている
すでに通院中の方は、まず主治医に「やめたい」という気持ちをそのまま伝えてみてください。当院に通院中の方であれば、診察のなかで減薬の適切な時期や進め方を一緒に考えます。眠れない背景にうつ病や不安症などが隠れていることもあるため、睡眠だけでなく全体の状態を見ながら進めていきます。
なお、減薬中に強い不調が出た場合は我慢せず早めに主治医へ連絡してください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。
まとめ――やめたい気持ちを、安全な計画に変えていきましょう
睡眠薬をやめたいと思うのは自然なことであり、実際、多くの方が適切な手順を踏んで薬を減らし、卒業していきます。ただし、急な自己判断の中断は、反跳性不眠や離脱症状によってかえって「薬がないと眠れない」という誤解と恐怖を生みやすく、遠回りになりがちです。眠れる状態が安定した時期を選び、少しずつ段階的に、行きつ戻りつしながら減らしていく。そして薬の引き算と同時に、生活習慣の工夫で「眠る力」を育てていく――これが減薬の基本の考え方です。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、不眠症の治療とあわせて、睡眠薬の減薬のご相談をお受けしています。「やめたいけれど怖い」「やめ方が分からない」という段階からで構いません。いまの睡眠の状態と薬の内容を整理し、あなたに合ったペースの計画を診察のなかで一緒に考えます。WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。
よくある質問
睡眠薬を自分の判断でやめてはいけないのはなぜですか?
睡眠薬を続けて服用していた状態から急に中断すると、「反跳性不眠」と呼ばれる、以前よりかえって強い不眠が一時的に出ることがあります。また薬の種類によっては、不安やイライラ、体の不調などの離脱症状が現れることもあります。これは意志の弱さではなく体の反応です。やめること自体は多くの場合可能ですが、時期と減らし方の計画が大切なので、必ず主治医と相談してから進めてください。
睡眠薬はずっと飲み続けないといけないのでしょうか?
必ずしもそうではありません。不眠のもとになっていた不調やストレスが落ち着き、眠れる状態が安定してくれば、少しずつ減らして最終的に中止できる方は多くいらっしゃいます。一方で、減らす時期が早すぎると不眠がぶり返しやすいため、「眠れる状態がしばらく安定してから、ゆっくり減らす」のが基本の考え方です。焦らず、主治医と相談しながら進めましょう。
減薬中に眠れない日があったら失敗ですか?
失敗ではありません。減薬の途中で眠りが浅くなる日や寝つきにくい日があるのは、よくあることです。数日単位の波で一喜一憂せず、1〜2週間の全体の流れで判断していきます。眠れない日が続いてつらい場合は、無理に我慢せず、いったん前の段階に戻して立て直すこともできます。行きつ戻りつしながら進めるのが普通の経過ですので、経過は主治医に伝えてください。
決められた量を守って飲んでいても「依存」になるのですか?
薬を求めて量がどんどん増えたり、生活が乱れたりする「乱用」とは別に、決められた量をきちんと守って飲んでいても、いざやめようとすると眠れなくなってやめにくい、ということは起こりえます。これは専門的には「常用量依存」と呼ばれる状態で、まじめに治療を続けてきた方にこそ生じうるものです。意志の弱さやだらしなさではありません。少しずつ減らすことで、安全にやめていける状態です。
家族から「薬はやめたほうがいい」と言われます
ご家族の心配は善意から出ていることがほとんどですが、必要な薬を急にやめると、かえってつらい思いをすることがあります。家族に言われて不安になったら、自分だけで結論を出さず、その気持ちを主治医に伝えてください。必要であれば、なぜ今この薬を続けているのか、どう減らしていくのかを、ご家族にも一緒に説明することができます。
薬を減らすために、生活面でできることはありますか?
薬に頼らずに眠る力を育てる土台づくりが、減薬の成功に大きく関わるとされています。起床時刻をそろえて朝に光を浴びる、日中に体を動かす、就寝前のカフェインやスマートフォンを控える、眠くなってから布団に入る、といった睡眠習慣の工夫が代表的です。寝酒は睡眠を浅くするため、薬の代わりにお酒を使うことは避けてください。詳しくは診察のなかでご相談ください。