福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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「もう何か月も眠れない。でも、睡眠薬にずっと頼るのは不安」「薬以外に、不眠を治す方法はないのだろうか」――不眠に悩む方から、こうした声をよく伺います。

じつは、不眠症には薬物療法とは別に、CBT-I(不眠症の認知行動療法)という確立された治療法があります。慢性の不眠症に対しては、国内外のガイドラインで治療の柱のひとつとして推奨されており、「薬に頼らない不眠治療」の代表といえる方法です。

この記事では、CBT-Iとはどんな治療なのか、具体的に何をするのか、睡眠薬との関係、そして日本で受けられる場の現実と精神科でできることを、患者さん向けにわかりやすくお伝えします。

CBT-Iとは――不眠を「長引かせている仕組み」に働きかける治療

CBT-I(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia)は、不眠症のために作られた認知行動療法のプログラムです。

不眠が長引くとき、そこには最初のきっかけ(ストレス、環境の変化など)とは別に、不眠を維持してしまう習慣や考え方が育っていることが多いと考えられています。たとえば――

  • 眠れないぶんを取り返そうと、早くから床に入り、遅くまで床にいる
  • ベッドの中でスマホを見たり、考えごとをしたりする時間が長い
  • 「今夜も眠れないのでは」という不安が、床に入ると同時にわいてくる
  • 「8時間眠れないと明日はだめになる」と考えて、ますます焦る

きっかけになったストレスが去っても、こうした習慣と考え方が残っていると、不眠だけが続いてしまいます。CBT-Iは薬で眠気を足すのではなく、この「不眠を維持する仕組み」のほうを数週間かけて解きほぐしていく治療です。効果の現れ方には個人差がありますが、慢性不眠症への効果が多くの研究で確認されており、効果が比較的長続きしやすいことも特徴とされています。

CBT-Iでは何をするのか――代表的な4つの要素

CBT-Iは単一のテクニックではなく、いくつかの要素を組み合わせたプログラムです。代表的なものを紹介します。

1. 刺激制御法――ベッドを「眠る場所」に戻す

眠れない夜を繰り返すうちに、脳の中でベッドが「眠れずに苦しむ場所」として条件づけられてしまうことがあります。刺激制御法は、この結びつきをほどく方法です。

  • 眠くなってから床に入る
  • ベッドでは睡眠以外のこと(スマホ、テレビ、考えごと)をしない
  • 床に入って眠れないまま時間がたったら、いったんベッドを出て、静かなことをして過ごし、眠くなったら戻る
  • 前の晩の眠りに関係なく、朝は毎日同じ時刻に起きる

「眠れないのにベッドを出るなんて」と意外に感じられる方が多いのですが、「ベッド=眠る場所」という結びつきを取り戻すための、CBT-Iの中心的な技法のひとつです。

2. 睡眠スケジュール法(睡眠制限法)――床にいる時間をいったん整理する

眠れない方ほど「少しでも眠れるように」と床にいる時間を長くしがちですが、実際に眠れている時間との差が大きいほど、浅く途切れがちな眠りになりやすいと考えられています。

睡眠スケジュール法では、睡眠日誌をつけて実際に眠れている時間を把握し、床にいる時間をいったんそれに近づけて設定します。最初は「こんなに短くていいの?」と感じる設定になることもありますが、床にいる時間を圧縮することで眠りが凝縮され、ぐっすり感が戻ってきたら少しずつ時間を延ばしていきます。「睡眠制限法」という名前がついていますが、削るのは睡眠ではなく「眠れずに床にいる時間」です。日中の強い眠気が出ることがあるため、本格的に行う場合は専門家の指導のもとで進めるのが安心です。

3. 認知的アプローチ――眠りについての考え方をゆるめる

「8時間眠らなければ健康を損なう」「今夜眠れなかったら明日の仕事は失敗する」――こうした考えは、それ自体が緊張と焦りを生み、かえって眠りを遠ざけます。

認知的アプローチでは、眠りについての思い込みをひとつずつ取り上げ、「本当にそうだろうか」と検討していきます。必要な睡眠時間には個人差があること、一晩眠れなくても翌日まったく機能できなくなるわけではないことなどを確認しながら、「眠らなければ」という力みをゆるめていきます。眠れない夜の頭の中との付き合い方は、眠れない夜に考えるといいことの記事でも詳しく紹介しています。

4. リラクセーション――体の側から緊張を下げる

不眠が続く方は、床に入った時点で体が緊張していることが少なくありません。筋肉を順にゆるめていく漸進的筋弛緩法や、ゆっくりした呼吸法などで、体の側から「眠れる状態」に近づけていきます。

このほか、カフェインや寝酒、光との付き合い方といった睡眠衛生の見直しも、土台としてあわせて行われます(詳しくは睡眠衛生の基本の記事をご覧ください)。

睡眠薬との関係――対立ではなく、組み合わせられる

「CBT-Iか、薬か」の二者択一ではありません。両者は組み合わせることができます。

つらい時期には睡眠薬で当面の眠りを支えながら、並行してCBT-Iの取り組みで「薬以外で眠れる力」を育てていく。そして眠りが安定してきたら、主治医と相談しながら段階的に薬を減らすことを検討する――という順番は、実際によく取られる進め方です。CBT-Iで身についた習慣と考え方は、減薬のときの「受け皿」になりうると考えられています。

注意していただきたいのは、CBT-Iを始めたからといって自己判断で睡眠薬を急にやめないことです。急な中断は、かえって眠れなくなる反跳性不眠などにつながることがあります。減薬の考え方と進め方は、睡眠薬をやめたいときの記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

日本でCBT-Iを受けるには――場は限られるが、道はある

正直にお伝えすると、日本で専門のプログラムとしてCBT-Iを受けられる医療機関は、まだ多くありません。一部の大学病院や睡眠専門の医療機関、臨床心理士・公認心理師のいる施設などで実施されていますが、地域によっては近くに実施機関がないのが現実です。

一方で、CBT-Iに取り組む道は専門機関だけではありません。

  • セルフヘルプの書籍: CBT-Iの考え方にもとづき、睡眠日誌のつけ方からスケジュールの組み方まで自分で進められる一般向けの本が出版されています
  • アプリ: 不眠症向けの治療用アプリや、CBT-Iの要素を取り入れた一般向けアプリも登場しています
  • 診察のなかでの助言: 専門プログラムという形でなくても、精神科・心療内科の診察でCBT-Iの要素(起床時刻の固定、床にいる時間の整理、眠りについての考え方)を取り入れた助言を受けることは可能です

薬以外の選択肢を広く知りたい方は、薬を使わない治療の記事も参考になさってください。

当院での実際

当院では、CBT-Iの専門プログラムを提供しているわけではありませんが、不眠の診療のなかで、睡眠習慣の見直しや眠りについての考え方の整理といったCBT-Iの考え方を取り入れた助言を行っています。

外来では「薬を飲まないとだめですか」というご相談をよくいただきます。薬物療法への不安は率直にお伝えいただいてかまいません。眠れない背景(生活リズム、ストレス、気分の落ち込みなど)を確認したうえで、薬を使う場合・使わない場合それぞれの進め方を一緒に考えます。すでに睡眠薬を飲んでいて減らしたい方も、自己判断で中断せず、診察のなかでご相談ください。

当院の初診は問診を含めて30分程度お時間を取り、通院は2週間に一度を基本としています。睡眠日誌をつけながら2週間ごとに経過を確認していく形は、不眠の治療とも相性のよいリズムだと考えています。

まとめ――「薬だけ」ではない不眠治療の選択肢を知っておく

CBT-I(不眠症の認知行動療法)は、不眠を長引かせている習慣と考え方に働きかける治療法で、刺激制御法・睡眠スケジュール法・認知的アプローチ・リラクセーションなどを組み合わせて行います。睡眠薬と対立するものではなく、併用しながら減薬の土台にしていくこともできます。日本では専門の実施機関は限られますが、書籍やアプリでのセルフヘルプ、診察のなかでの助言など、取り組む道はあります。

不眠が続いてつらいときは、ひとりで抱え込まず医療機関にご相談ください。すでに通院中の方は、睡眠薬や治療方針についてまず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科です。「睡眠薬に頼りきりになりたくない」「薬以外の方法も知りたい」という方のご相談もお受けしています。受診をご希望の方は、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

よくある質問

CBT-I(不眠症の認知行動療法)とはどんな治療ですか?

不眠を長引かせている生活習慣や、眠りについての考え方のくせを見直していく心理的な治療法です。ベッドと「眠れない経験」の結びつきをほどく刺激制御法、床にいる時間をいったん整理する睡眠スケジュール法(睡眠制限法)、「眠れないと明日はだめになる」といった考えをゆるめる認知的なアプローチ、体の緊張をゆるめるリラクセーションなどを組み合わせて行います。慢性の不眠症に対して、薬に頼らない治療の柱として国内外のガイドラインで推奨されています。

CBT-Iを受ければ睡眠薬はやめられますか?

必ずやめられると保証できるものではありませんが、CBT-Iで「薬以外の眠る力」を育てることは、睡眠薬を減らしていくときの土台になりうると考えられています。実際、CBT-Iと計画的な減薬を組み合わせる進め方が研究されています。大切なのは自己判断で急にやめないことです。減薬はぶり返しや反跳性不眠が起こりうるため、主治医と相談しながら段階的に進めてください。

CBT-Iはどこで受けられますか?

日本では、専門のプログラムとしてCBT-Iを実施している医療機関はまだ限られているのが現実です。一方で、CBT-Iの考え方にもとづくセルフヘルプの書籍や、治療用・一般向けのアプリも登場しており、自分で取り組む道もあります。また、専門プログラムという形でなくても、精神科・心療内科の診察のなかでCBT-Iの要素(睡眠習慣の見直しや考え方の整理)を取り入れて助言することは可能です。

睡眠薬を飲みながらCBT-Iに取り組んでもいいですか?

併用は可能です。睡眠薬で当面の眠りを支えながら、並行してCBT-Iの取り組みで眠る力を育て、安定してきたら薬を減らすことを検討する――という進め方は一般的に行われています。薬をやめることを急ぐ必要はありません。いまの薬をどうしたいか、どんな順番で進めるかは、診察のなかで主治医とご相談ください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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