福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

「精神科に行ったら、薬を飲まされるんじゃないか」「できれば薬を使わずに治したい」――受診をためらう理由として、とてもよく聞くお声です。実際、当院の外来でも「薬を飲まないとだめですか?」というご質問は、いちばんと言ってよいほど多くいただきます。

先に結論をお伝えすると、答えは「必ずしも薬が必要とは限りません。ただし、薬を使ったほうがよい場合もあります」です。歯切れが悪く聞こえるかもしれませんが、これは誠実に答えるとそうなる、という種類の質問なのです。

この記事では、薬を使わずに経過をみられるのはどんな場合か、逆に薬をおすすめするのはどんな場合か、その考え方の枠組みをお伝えします。そして何より、「飲みたくない」という気持ちは隠すものではなく、診察で話し合うための大切な材料だということを、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えしたいと思います。

「薬を飲みたくない」のは、おかしなことではありません

まず前提として、精神科の薬に抵抗を感じること自体は、ごく自然な反応です。理由をうかがうと、おおむね次のようなものに整理できます。

  • 依存への不安――「一度飲んだらやめられなくなるのでは」
  • 副作用への心配――「頭がぼんやりする、太る、と聞いたことがある」
  • 自分が変わってしまう感覚への抵抗――「薬で性格や感情を変えられる気がして怖い」
  • 「薬に頼る=負け」という気持ち――「自分の力で乗り越えるべきではないか」
  • ライフイベント上の事情――妊娠を考えている、仕事で車を運転する、など

どれも、頭ごなしに「誤解です」と片付けてよいものではありません。たとえば依存への不安は、薬の種類によっては注意が必要な現実の論点ですし(詳しくは「薬がやめられなくなる」不安への答えで解説しています)、妊娠の予定は処方設計に直結する重要な情報です。

考えてみれば、泳いだことのない人が水を怖がるのは当たり前のことです。それと同じで、これまで縁のなかった薬を前にして「飲んだらどうなるのだろう」「やめられなくなったらどうしよう」と慎重になるのは、ごく当然の心の動きです。また、「依存」という一つの言葉のイメージで、すべての薬をまとめて怖がってしまう必要はありません。精神科で使われる薬はひとくくりにできるものではなく、種類によって性質も、やめやすさも、続け方も大きく異なります。決められた範囲で慎重に使う必要がある薬もあれば、一定期間しっかり続けたうえで、医師と相談しながら段階的に減らしていける薬も多くあります。

つまり「飲みたくない」という気持ちの中身は、治療方針を決めるための情報そのものです。だからこそ、我慢して黙って飲むのでも、黙って飲まないのでもなく、理由ごと診察で話すことに価値があります。

薬を使わずに経過をみられる場合――軽症・要因が明確・支障が限定的

では、どんな場合に「薬なし」の選択肢がとれるのでしょうか。一般的な考え方として、次のような条件がそろうときには、薬以外の方法から始めて経過をみることがあります。

症状が比較的軽く、生活の土台が保たれている

食事がとれている、なんとか眠れている、仕事や家事が(つらいながらも)回っている――こうした場合、いきなり薬を使わなくても、休養や生活調整で改善していく余地があります。軽いうつ状態での「薬の前にできること」については、軽いうつに薬は必要かでも詳しく解説しています。

不調の要因がはっきりしていて、調整の余地がある

職場の過重な負担、人間関係のストレス、生活リズムの乱れなど、原因が特定できて、かつ変えられる場合です。このときの治療の主役は薬ではなく環境調整になります。業務量の調整、配置の相談、場合によっては休職といった手を先に打ち、それでも改善しなければ薬を検討する、という順番が成り立ちます。

精神療法的な関わりが合っている

考え方のクセや対人関係のパターンが不調に関わっている場合、カウンセリングや認知行動療法などの精神療法が治療の柱になり得ます。薬と精神療法はどちらか一方を選ぶものではありませんが、症状が軽ければ精神療法を先行させる選択もあります。両者の使い分けはカウンセリングと薬、どちらがいい?で整理しています。

生活調整――回復の土台をつくる

睡眠・食事・活動のリズムは、心の回復の土台です。地味に見えますが、どんな治療を選ぶ場合でも共通して大切になります。起きる時刻をそろえることから始め(寝る時刻より整えやすいとされています)、朝に光を浴びて体内時計をリセットする。散歩など軽い運動を無理のない範囲で続ける(症状が重い時期に義務にする必要はなく、できる日にできる分だけで十分です)。カフェインの摂りすぎは不安や不眠を強めることがあり、アルコールは一時的に気分を紛らわせても睡眠の質を下げ、不調を長引かせやすいため、見直してみる価値があります。眠れないままの寝酒は、眠りを浅くし逆効果になりやすいため避けてください。

こうした生活調整だけで改善する不調もあります。一方で、「生活を整えようにも、そもそも眠れない・動けない」状態であれば、それは生活調整の手前で医療的な後押しが必要なサインです。「まず自力で生活を正してから受診しよう」と考える必要はありません。整えられないこと自体を、どうぞ相談してください。

ただし、薬なしで経過をみる場合にも大切な条件があります。それは、「様子をみる」を放置にしないことです。薬を使わない選択をしたときこそ、定期的に通院して経過を医師と確認し、「改善しているか」「悪化のサインが出ていないか」を見張っておく必要があります。薬なし=受診しなくてよい、ではないのです。

薬をおすすめする場合――症状の重さと、疾患の種類

一方で、医師として薬物療法をはっきりおすすめする場面もあります。それは「薬を使うリスク」より「使わないリスク」のほうが大きいと判断されるときです。

症状が重く、生活の土台が崩れているとき

ほとんど眠れない、食事がとれず体重が減っていく、起き上がれず仕事に行けない、消えてしまいたい気持ちが繰り返し浮かぶ――こうした状態では、環境調整や精神療法を受け止めるだけの心身の余力そのものが失われています。まず薬で睡眠や気分の土台を立て直し、回復の足場をつくることが優先されます。この段階で薬を避けて我慢を続けると、回復までの道のりがかえって長くなりがちです。

薬物療法が治療の柱とされる疾患のとき

疾患の種類によっては、薬物療法が治療の中心に位置づけられています。たとえば双極性障害では気分安定薬による治療が、統合失調症では抗精神病薬による治療が、それぞれ治療の柱とされており、薬を使わない選択は再発や悪化のリスクを大きくすると考えられています。また、中等症以上のうつ病やパニック障害でも、薬物療法を組み合わせたほうが回復が早いとされる場面が多くあります。

「薬なしで頑張った」結果、悪化してきているとき

すでに一定期間、自分なりの工夫や我慢で対処してきたにもかかわらず、症状が続いている・広がっている場合です。回避する場面が増えている、休んでも回復しなくなっている、といった経過は、薬という選択肢を検討し直すサインです。

ここで強調したいのは、薬をすすめる場合でも、最終的に決めるのはご本人だということです。医師の役割は、「あなたの状態では、薬を使う場合と使わない場合でこういう違いが見込まれます」という判断材料を示すことです。そのうえで納得して選んだ治療のほうが、続きますし、効きます。

「飲みたくない」と伝えたあとの、実際の話し合い

「飲みたくないと言ったら、医師の機嫌を損ねるのでは」「それなら来なくていいと言われるのでは」と心配される方がいますが、そんなことはありません。飲みたくない気持ちを伝えていただいたとき、診察では実際に次のようなことを一緒に考えていきます。

  • 理由の整理――依存が怖いのか、副作用が心配なのか、薬に頼ることへの抵抗なのか。理由によって答え方が変わります
  • 選択肢の提示――薬なしで経過をみる場合の見通しと条件、使う場合の薬の性質や始め方
  • 折衷案の検討――毎日ではなく頓服として持っておく、少量から試して合わなければやめる、期間を区切って使う、など
  • 見直しの約束――どちらを選んでも、次の診察で経過を確認し、方針はいつでも変えられることを共有する

一度「薬なし」を選んだら薬を使えなくなるわけでも、一度飲み始めたらやめられなくなるわけでもありません。治療方針は固定ではなく、経過に合わせて何度でも見直すものです。

逆に、いちばん避けていただきたいのは、処方された薬を黙って飲まずにいることです。責められることはありませんが、医師が「薬を飲んで2週間経ってこの状態」と「飲まずに2週間経ってこの状態」を取り違えると、見立てと次の一手がずれてしまいます。飲めていないなら、その事実と理由をそのまま教えてください。それも大切な診療情報です。

実際、こんな悪循環が起こることがあります。患者さんが、不安からひそかに薬を減らして飲んでいる。けれども、それを医師に言うと怒られるのではないかと思って、伝えられない。医師のほうは、思ったように効果が出ないので不思議に思い、薬の量を増やしたり、別の薬に変えたりする。すると患者さんはますます不安になり、さらに薬を飲まなくなる――。このように、伝えていないことがすれ違いを生み、治療が空回りしてしまうことを、「クレディビリティ・ギャップ(信頼の食い違い)」と呼ぶことがあります。この空回りを防ぐ方法はシンプルで、「本当は薬を減らしている」「飲むのが不安だ」ということを、そのまま医師に話してしまうことです。薬の不都合や不安をその場で伝えていただくことは、わがままではなく、治療における最大の協力です。

「薬を飲まない状態=治った」という思い込みに気をつける

もう一つ、気をつけたい落とし穴があります。それは、「薬を飲んでいない状態こそが、治った状態だ」と思い込んでしまうことです。

本来の順序は、「よくなったから、薬が必要なくなる」というものです。ところが、「薬に頼りたくない」という気持ちが強いと、この順番が知らず知らずのうちに逆立ちしてしまうことがあります。つまり、「薬を飲んでいない状態」をゴールに設定して、「とにかく薬さえやめれば治ったことになる」と考えてしまうのです。こうなると、まだ回復の途中なのに無理に薬をやめてしまい、調子をくずして、また仕切り直しになる――ということが起こりかねません。やめること自体が目的になると、かえって回復への遠回りになってしまうのです。

周囲の人から「薬に頼らず自分の力で治しなさい」「薬を飲んでいるとかえって悪くなる」といった言葉をかけられて、気持ちが揺れることもあるかもしれません。心配してくれる言葉だからこそ、つい従いたくなります。けれども、薬をどう扱うかは、あなたの状態を実際に診ている主治医と一緒に考えるのが、いちばん安全です。「薬をやめること」ではなく「調子が安定すること」を目印にする――その視点を、どうか忘れないでいただきたいと思います。

当院での実際

当院の外来でも、「薬を飲まないとだめですか?」は最もよくいただくご質問のひとつです。それだけ多くの方が同じ不安を抱えて受診されている、ということでもあります。

当院では初診に30分程度(問診含む)の時間をとっており、症状のことだけでなく、「薬を使いたくない」「依存が怖い」といった治療への不安やご希望も含めてお話しいただけます。そのうえで、薬を使う場合・使わない場合それぞれの見通しをご説明し、方針を一緒に決めていきます。通院は2週間に一度を基本とし、薬を使わない場合も経過を定期的に確認しながら進めます。

受診・相談の目安――こんなときはご相談ください

  • 気分の落ち込みや不安が続いているが、薬への抵抗があって受診をためらっている
  • 「薬なしで治したい」と思いながら、自分なりの対処では改善しなくなってきている
  • 眠れない・食べられない日が続き、生活や仕事に支障が出ている
  • 処方された薬を飲めないまま、症状を我慢している
  • 薬を使うべきか、環境調整や休養で様子をみるべきか、専門家の意見を聞きたい

すでに他院で治療中の方は、まず処方している主治医に「飲みたくない」というお気持ちをそのまま伝えることが基本です。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。

まとめ――「飲みたくない」は、治療の出発点になる

精神科を受診しても、必ず薬を飲まなければならないわけではありません。症状が軽く生活の土台が保たれている場合には、環境調整・休養・精神療法から始めて経過をみる選択があります。一方、症状が重い場合や薬物療法が柱となる疾患では、薬を使わないことのリスクのほうが大きく、薬で回復の足場をつくることが優先されます。

そしてどちらの場合も、「飲みたくない」という気持ちは、隠すものでも我慢するものでもなく、治療方針を一緒に決めるための出発点です。当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、薬への不安やご希望も含めたご相談をお受けしています。飲みたくない気持ちごと、どうぞ診察室にお持ちください。WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

よくある質問

精神科を受診したら、必ず薬を飲まないといけないのですか?

いいえ、必ずではありません。診察の結果、症状が比較的軽く生活への支障が限られている場合には、生活リズムの調整、ストレス要因への対処、精神療法的な関わりなど、薬以外の方法から始めて経過をみることがあります。一方で、症状が重い場合や特定の疾患では薬物療法が治療の中心になることもあります。どちらに当たるかは診察で一緒に確認しますので、「できれば薬なしで」というご希望も含めてお話しください。

「薬を飲みたくない」と医師に言ったら、失礼になりませんか?

まったく失礼ではありません。むしろ、治療方針を決めるうえで大切な情報です。飲みたくない理由(依存が怖い、副作用が心配、妊娠を考えている、薬に頼りたくない気持ちがある等)によって、提案できる選択肢が変わってきます。黙って処方を受けて飲まずにいるより、率直に伝えていただくほうが、納得できる治療につながります。

薬を使わずに治せる場合と、薬が必要な場合の違いは何ですか?

一般的には、症状の重さ、続いている期間、生活や仕事への支障の程度、疾患の種類などを総合して判断します。たとえば、はっきりしたストレス要因があり症状が軽いうちは、環境調整や休養で改善が見込める場合があります。一方、症状が重く食事や睡眠が大きく崩れている場合や、双極性障害・統合失調症など薬物療法が治療の柱とされる疾患では、薬を使わないことのリスクのほうが大きいと考えられています。個別の判断は診察で行いますので、まずはご相談ください。

早く薬をやめられれば、治ったということですか?

必ずしもそうとは限りません。「よくなったから薬が要らなくなる」のが本来の順序で、「薬をやめた状態=治った」と思い込むと、まだ回復の途中なのに無理にやめて、調子をくずしてしまうことがあります。目印にしていただきたいのは「薬をやめること」ではなく「調子が安定すること」です。やめどきは医師と一緒に見極めていきましょう。

処方された薬を、自分の判断で飲まずにいてもいいですか?

飲まないという結論を自己判断で決めてしまう前に、その気持ちを主治医に伝えてください。飲んでいないこと自体を責めることはありませんが、医師が「飲んでいる前提」で経過を判断すると、治療の見立てがずれてしまいます。飲めていない事実と理由を共有していただければ、薬の変更、量の調整、薬以外の方法への切り替えなど、次の手を一緒に考えることができます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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