福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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マイスリー(一般名: ゾルピデム)は、不眠症の治療、とくに寝つきの悪さ(なかなか眠りに入れない)に使われる睡眠薬です。ルネスタと同じ「非ベンゾジアゼピン系(Z薬)」の仲間で、なかでも効き始めの速さが持ち味。そのぶん、飲んだあとの過ごし方に、ちょっとしたコツがいる薬でもあります。

どんなふうに効く薬か

脳の中の「GABA」という、気持ちを鎮めて眠りへ誘うブレーキ役の物質——マイスリーは、このブレーキを効きやすくして、寝つきをすばやく助けます。Z薬の中でも作用の立ち上がりが速く、短く抜けるタイプ。だから、布団に入ってもなかなか寝つけない「入眠困難」に、ピンポイントで力を発揮します。

この「効きの速さ」こそがマイスリーの長所であり、同時に注意点の源でもあります。飲んでから眠りに落ちるまでのわずかな間に、まだ何か用事をしようとすると、意識がぼんやりしたまま体だけが動いてしまうことがある——このあと詳しく触れる、いちばん大事なポイントです。

「眠った気がしない」という訴えとの関係

眠りには浅い時間と深い時間があり、体と頭がしっかり休まるのは深い時間のほうです。昔ながらの睡眠薬には、この深い眠りをかえって減らしてしまうものが少なくありません。時計の上では眠れているのに「寝た気がしない」——その一因が睡眠薬そのものにある、ということが起こりうるのです。

マイスリーは、眠りの深さという一点では毛色が違います。深い眠りを増やす方向に働くと考えられているため、眠りの質という面では期待できる薬とされています。ただし、飲めば誰でも熟睡感が戻るという意味ではありません。「眠れてはいるのに疲れが取れない」が続くなら、それ自体が診察で話す価値のあることです。

どんな人に向くか・ほかの睡眠薬との違い

マイスリーが向いているのは、寝つきだけがピンポイントで悪い方、朝までの持ち越しをできるだけ避けたい方です。短く効いて短く抜けるので、翌朝に残りにくいのが利点です。

同じZ薬のルネスタとよく比べられます。ルネスタは少し長めに効き、夜中に目が覚める方にも支えになる代わりに、朝に苦味が残ることがあります。マイスリーはより入眠に的をしぼり、苦味はない代わりに、後述の寝ぼけ行動に注意が必要です。

ここで、よくある誤解をひとつ解いておきます。マイスリーやルネスタは「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるため、昔ながらの睡眠薬より安全な薬だと受け取られがちです。しかし専門書はこれをはっきり否定しています。名前は違っても脳の同じブレーキに働く薬で、ふらつきや、飲んだ前後の記憶があいまいになることは、昔ながらの睡眠薬と同じように起こりうると考えられています。「新しいタイプだから安心」ではなく、寝つきに素早く効くぶん、飲み方の約束を守る必要がある薬——そう受け取っていただくのが正確です。

もう一つ知っておいてほしいのは、マイスリーは「眠れない原因が別の病気にあるタイプの不眠」には向かないということ。たとえば気分の波(双極性障害)や、考えのまとまりにくさ(統合失調症)にともなう不眠には、この薬だけでは力になれません。だからこそ、まず「なぜ眠れないのか」を診察で確かめてから使います。

「効かない」と感じたときに、まず見直すこと

飲んでいるのに寝つけない、という声はよく聞きます。量が足りないのだろうと考える前に、確かめてほしいことが二つあります。

ひとつは、この薬が眠りだけに的をしぼった薬だということです。マイスリーは眠気をもたらす方向の働きは強い一方で、不安をやわらげる働きのほうは弱いとされています。ですから、心配ごとで頭が回り続けて眠れない、緊張がほどけないというタイプの眠れなさには、この薬だけでは届きにくいことがあります。睡眠薬について書かれた本にも、不安の強い方には別のタイプの薬のほうが合う場合がある、と書かれています。「効かない」のではなく「そこには効かない薬だった」ということが、実際にあるのです。

もうひとつは、眠れない理由が体や暮らしの側にないかということです。いびきとともに呼吸が乱れる、痛みやかゆみ、夕方以降のカフェイン、たばこ、寝る前のお酒、寝室の明るさや音や温度——どれも睡眠薬では取り除けません。眠りにまつわる不調は百種類以上あるともいわれ、薬だけでは良くならないものも少なくないのです。

効いていないと感じたときは、ご自分で量を変える前に、そのまま診察で伝えてください。いまの量が合っているかどうかも、見直しの選択肢のひとつです。

飲み始めに知っておいてほしいこと

飲んだら、もう何もしない

マイスリーでいちばん大切な約束です。この薬は効きが速いぶん、飲んでから眠りに落ちるまでの間や、夜中に起きたときに、意識がもうろうとしたまま歩き回る・何か食べる・メールを送る——そして翌朝、それをまったく覚えていない、ということが起こり得ます。防ぐコツはただ一つ、飲んだらもう何もせず、すぐ布団に入ること。食事の直後だと効き始めが遅れるので、夕食から時間をあけ、寝る直前に飲みます。飲んでから用事を残さないでください。このうち、眠っている間に無自覚に食べてしまうという形は、この薬でよく知られています。翌朝に台所の様子や包装の跡で気づく方もいます。一度でも心当たりがあれば、飲み方の工夫だけでなく薬そのものを見直す材料になりますので、恥ずかしがらずに教えてください。

夜中のふらつき

効いている間に起き上がると、ふらついて転びやすくなります。とくに高齢の方や、夜中にトイレへ立つときは注意を。ベッドまわりに掴まれるものを用意しておくと安心です。

マイスリーは、体の力が抜けてしまう働き(筋弛緩作用)がほとんどない薬です。登場したころは「転びにくい睡眠薬」ともいわれましたが、その後の調査で、この薬を使っている方では実際に転倒が増えることが繰り返し報告されています。この薬が強く結びつく脳の受け皿は、体のバランスを取る役目を担う部分(小脳)にも多くあると考えられています。だから「足には力が入るのに、まっすぐ歩けない」という形のふらつきになります。

翌朝の眠気

短く抜ける薬とはいえ、翌朝に眠気やだるさが残ることもあります。続くようなら量を調整します。

添付文書では、この薬を飲んでいるあいだは車の運転など危険を伴う作業を控えることになっています。とくに飲み始めや量を変えた時期、翌朝に眠気やだるさが残っているときは危険です。運転が欠かせない生活の方は、薬の選び方から一緒に考えますので、必ず事前にご相談ください。

めったにないけれど大事なこと

一度でも寝ぼけ行動で危ないことがあった方には、この薬は使いません。ほかに、じんましんや息苦しさ、皮膚や白目が黄色くなるといった変化が出たときは、すぐ受診してください。差し迫った状態のときは救急(119)へ。ご家族が夜間の異変に気づかれた場合は、ご本人の受診の際に、同席のうえでお知らせください。

また、重い肝臓の障害がある方、重症筋無力症の方、急性閉塞隅角緑内障という種類の緑内障がある方には、この薬は使いません。持病やかかっている他科があれば、初診のときに教えてください。当院では初診で服用中の市販薬・サプリメントも確認しています。市販の睡眠改善薬やかぜ薬と重なると、翌朝の眠気やふらつきが強まるためです。

キレの良さと、手放しにくさは裏表

「速く効いて、翌朝に残りにくい」という性質は、この薬が選ばれるいちばんの理由です。ただ専門書は、この長所について少し立ち止まった言い方をします。効き味と切れ味がはっきりしている薬ほど、毎晩それに頼りたくなるからです。「今夜は飲まずに寝てみようか」という気持ちが、そのぶん遠のくのです。即効性は諸刃の剣だと書く本もあります。

もうひとつ、よく使われるたとえがあります。この仲間の薬は、お酒に近い性質を持っているというものです。お酒に酔うと、ふだんなら抑えられる言動が出てしまう人がいます。同じことが薬でも起こりうる(脱抑制といいます)。本人には自覚しにくい変化です。お酒が入ると人が変わるタイプの方は、この仲間の薬でも同じことが起きやすいとされています。心当たりのある方は、薬を選ぶ前にそこも一緒に確かめます。

この仲間の薬を毎晩続けていると、早ければ1か月ほどでも「これがないと眠れない」という状態ができうるとされ、8か月ほど続けた方では半数近くにのぼるという指摘もあります。体のほうが薬に合わせて変わっていく反応で、飲み方が悪かったから起きるのではありません。だからこそ最初に「いつごろ見直すか」を決めたうえで使います。

なお、この仲間の薬を問題を先送りにする薬と表現する本もあります。限界のときに時間を稼ぐのは立派な治療ですが、稼いだ時間で何をするかがないままだと、先送りだけが積み上がってしまいます。

「認知症になりませんか」という心配

心配される方の多いところです。大きな調査をふまえて否定的にみてよいとする見解を示す専門書もあり、少なくとも「飲んだら認知症になる」という単純な話ではありません。

ただし別の本は、長く飲み続けること、とくに長く効くタイプの薬について、頭の働きが鈍る心配を指摘し、量を減らすとそこが戻ってくることもあるとしています。日中ぼんやりする、物覚えが悪くなった気がする——そう感じているなら、ご自分で加減はせず、診察で伝えてください。

やめるとき

マイスリーは、続けるうちに体が慣れ、急にやめると不眠のぶり返し(反跳性不眠)やいらいら感が出ることがあります。これは薬の性質で、意志の弱さではありません。自己判断で急にやめず、眠りが落ち着いたのを確かめながら、少しずつ減らします。なお、この薬には処方日数の決まりがあり、漫然と長く続けない前提で使います。減らす途中でつらくなったら、いつでもペースを戻せます。詳しくは睡眠薬を減らすときの不安との向き合い方睡眠薬がやめられないときの考え方もご覧ください。

減らし方には、順番がある

キレが良い薬ほど、減らしたときの変化もはっきり感じ取れるため、減薬の途中でつらさを自覚しやすいのです。そのため精神科の臨床の手引きには、長く飲んできた方については、いったん長く効くタイプの薬に置き換えてから、そちらをゆっくり退いていくという方法が紹介されています。減らす幅も一度に大きく動かさず、2週間ほどの間隔をおきながら少しずつというのが目安として挙げられています。進め方は必ず診察で決めてから始めてください。

「離脱症状が出るかも」という不安について

この仲間の薬を減らしていく研究で、実際には減らしていない人たちのほうにも、離脱症状とされる訴えが2割ほど出たという報告があります。「何か起こるのではないか」と身構えること自体が、症状の出方に影響するのです。

とはいえ、これは「気のせいだから我慢しなさい」という話ではまったくありません。減らす途中で出てきた不調が、薬の影響なのか、もともとの眠れなさのぶり返しなのかは、その場では見分けがつかないことも多いのです。一人で判断せず、感じたことをそのまま持ってきてください。

一方で、思ったほど何も起こらない方も多くいます。ある医師が書いた本には、眠れるようになるにつれて自然と飲み忘れが増え、いつのまにか飲まなくなっていたという患者さんの話が出てきます。その医師は、飲み忘れが出るのは良くなってきた証拠だと伝えるそうです。飲み忘れが増えてきたと感じたら、そこが減らしどきかもしれません。次の診察で、そこを一緒に見ていきます(ご自分の判断でやめる、という意味ではありません)。

長く飲んできた方へ

何年も飲んできた方に「とにかくやめましょう」とだけ言うのは、良い方針ではないと考えています。専門書にも、やめること自体を目的にせず、飲みながら、ほかの転びやすい要因のほうを減らしていくという選び方もあると書かれています。眠れない状態が続くこと自体も、転倒や日中の不調につながるからです。「まだやめられない」ことを引け目に感じる必要はありません。そこも含めて、診察で一緒に整理していきましょう。

生活の中での注意

お酒と一緒に飲むのは、いちばん避けてほしい組み合わせです。判断力や体の動きの低下が強まり、寝ぼけ行動もぐっと起こりやすくなります。妊娠・授乳については相談が必要です。妊娠が分かっても自己判断でやめず、まず相談してください。授乳中は赤ちゃんに眠気が出るおそれがあるため、この薬は控えるのが基本です。そして薬に頼りきらないこと——朝の光を浴びる、夕方以降のカフェインを控える、寝る前のスマートフォンを手放す。こうした土台があってこそ、薬を減らしていけます。

産業医の立場から書かれた本には、薬が積み重なって日中の眠気が抜けず、職場での評価が下がってしまった方の話が出てきます。日中に眠気やだるさが残っているなら、それは飲み方を見直すきっかけになります。次の診察は、その話から始めましょう。

妊娠について、心配される方が多いので触れておきます。妊娠の初期にこの薬を使った方を集めた研究では、生まれつきの体の異常が増えるという結果は出ていません。この仲間の薬全体でみても、生まれつきの異常が目立って多くなるとは考えにくい、というのが現時点での見方です。ただし、妊娠のどの時期でも同じというわけではありません。妊娠の後期まで飲んでいた場合、生まれた赤ちゃんに呼吸や哺乳の様子などの一時的な不調があらわれることがあると添付文書に記されています。かといって自己判断で急にやめれば、眠れなさが一気にぶり返すことがあります。授乳については、先に書いたとおりこの薬は控えるのが基本です。当院では、妊娠を希望される方・授乳中の方には催奇性を考慮したうえで治療を検討します。過去の病歴をもとに有益性が上回ると判断する場合は、最小限の薬物療法を検討することもあります。

当院での考え方

不眠の治療でまず大切なのは、薬を出すこと以上に「なぜ眠れないのか」を一緒にほどくことです。寝つきだけの問題なのか、背景に別の不調が隠れていないか。マイスリーは寝つきに素早く頼れる薬ですが、寝ぼけ行動を防ぐため、飲み方(寝る直前・飲んだらすぐ休む)を丁寧にお伝えし、期間を意識して使います。「睡眠薬を飲むこと自体が不安」という方は、薬への依存が怖いときに知っておきたいこともご覧のうえ、その不安ごと診察でお話しください。

当院では、不眠症の認知行動療法(CBT-I)の専門プログラムは提供していませんが、診察のなかで睡眠習慣の見直しや考え方の整理など、CBT-Iの考え方を取り入れた助言を行っています。睡眠日誌をつけていただきながら、2週間ごとに経過を確かめる形をとることもあります(当院の通院は2週間に一度が基本です)。

もうひとつ、ご本人の受診に同席されたご家族から「夜だけ様子がおかしい」というお話を伺うことがあります。そんなときはまず、飲んでいる薬の内容を見直します。この薬の寝ぼけ行動やもうろうとした状態は、まさにそういう形で表に出るからです。ただし、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は急にやめること自体が状態を乱すため、見直しも医師が計画を立てて行います。ご家族の側で抜いたり減らしたりせず、ご本人の受診の際に、同席のうえでお知らせください。

参考文献

  • マイスリー錠5mg/10mg 添付文書(2023年6月改訂・第2版、アステラス製薬) — KEGG MEDICUS 参照(2026-07-07)
  • 参考書籍(本文の追記の裏づけ。要約・再構成であり原文の転載ではありません): 『ジェネラリストのための 向精神薬の使い方』『本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩』『精神科臨床Q&A for ビギナーズ』『こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩』『メンタル産業医入門』『向精神薬と妊娠・授乳』『せん妄診療実践マニュアル』『自信がもてる! せん妄診療 はじめの一歩』

よくある質問

飲んだあとの記憶がないことがあります。大丈夫ですか?

マイスリーでは、飲んでから眠りに落ちるまでの間や夜中に起きたときに、意識がもうろうとしたまま歩き回る・何か食べるといった行動をとり、そのときのことを覚えていないことがあります。これは注意が必要な反応です。防ぐコツは、飲んだらもう何もせず、すぐ布団に入ること。心当たりがあれば、遠慮なく主治医にお伝えください。

飲んだらすぐ寝ないといけないのですか?

はい。マイスリーは効き始めが速いお薬です。飲んでから寝るまでに時間があいたり、途中で起きて活動したりすると、寝ぼけ行動や記憶の抜けが起こりやすくなります。食事の直後だと効き始めが遅れるので、夕食から時間をあけ、寝る直前に飲んで、そのまま布団に入ってください。

くせになりませんか?

マイスリーは、続けるうちに体が慣れ、急にやめると不眠のぶり返し(反跳性不眠)やいらいら感が出ることがあります。これは薬の性質で、意志の弱さではありません。この薬には処方日数の決まりもあり、漫然と長く続けない前提で使います。やめるときは自己判断で急にやめず、一緒に少しずつ減らしていきます。

どんな不眠にも使えますか?

いいえ。マイスリーは、気分の波(双極性障害)や考えのまとまりにくさ(統合失調症)にともなう不眠には効果が期待できないとされ、これらには使いません。眠れない背景によって、合うお薬は変わります。まずは「なぜ眠れないのか」を診察で確かめたうえで、適した治療を考えていきます。

お酒と一緒に飲んでもよいですか?

いちばん避けてほしい組み合わせです。アルコールと一緒だと、判断力や体の動きの低下が強まり、寝ぼけ行動もぐっと起こりやすくなります。服用中はできるだけ飲酒を控えてください。飲酒した日の服用については主治医にご相談ください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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