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連載「AIと一緒にできる認知行動療法セルフケア」第7回(全3回) 第1回から読む →

「そんなことないよ」と言われた瞬間、心のどこかで「この人は分かっていない」と感じる。褒められても、慰められても、前向きな本を読んでも、表面を水が流れていくだけで、底にある「自分はダメだ」は少しも動かない。むしろ励まされるほど、「本当の自分を知らないから言えるのだ」と距離が開く——そういう経験をしてきた方に向けて、この記事を書いています。

この連載は、認知行動療法の代表的な教科書(ジュディス・S・ベック『認知行動療法実践ガイド』)を下敷きに、その考え方を日常で使える形に組み直してお届けしています。第7回の今回は、いちばん深い層の話です。

場面の考え、ルール、そのさらに奥

この連載では、特定の場面でふっと浮かぶ考え(自動思考)をコラム法で捉える練習をし、前回は「〜すべき」「〜してはならない」という自分のルールの層を見ました。ルールを一枚めくると、そのルールが何を守っていたのかが顔を出します。「完璧にやらなければならない」の下に「そうしないと、出来の悪い自分がばれる」があり、「頼ってはいけない」の下に「頼ったら嫌われる。自分は本当には好かれない」がある——こういう、自分自身についての根っこの確信を、認知行動療法では中核信念と呼びます。

大きく言えば、「自分はちゃんとできない・無力だ」という方向、「自分は好かれない・愛されない」という方向、「自分には価値がない」という方向のどれか、あるいはその組み合わせに落ち着くことが多いとされます。ただし、口にする言葉だけでは層は決まりません。「自分は至らない」という同じ一言でも、「求められる水準に達せない」という意味の人と、「だから人に受け入れてもらえない」という意味の人がいて、それは本人に確かめないと分からない。同じ理由で、「自分はダメだ」と思うことがある=中核信念がある、と機械的に読む必要もありません。落ち込みが深いあいだだけ、この種の考えが前に出てくる人も多くいます。それはうつ状態というレンズを通して見えている景色でもあります。

なぜ「事実」の手触りがするのか

場面ごとの自動思考は、捕まえてしまえば「考え」だと分かります。ところが中核信念は違います。長い時間をかけて、生まれ持った気質と、大事な人たちとのやりとりや積み重なった経験のなかで形づくられてきたもので、本人にとっては意見でも解釈でもなく、世界の仕様のように感じられる。ふだんは言葉にすらならず、ただ前提として働いています。

ここで大事なのは、その考えが事実かどうかを、この記事では判定しないということです。判定の代わりに、仕組みの話をします。長く信じてきた考えには、証拠の集まり方を偏らせる働きがあるのです。

「自分は出来が悪い」と深く信じている人が、仕事で低い評価を受けたとします。その評価はまっすぐ入ってきて、「やはりそうだ」の一枚として積まれる。ところが高い評価を受けたときは、そのままの形では入りません。「今回はたまたま簡単だった」「上司のお世辞だ」「あれくらい誰でもできる」と処理されて、自分の力を示す事実としては残らない。人を助けて感謝されても、「あんなの助けたうちに入らない」と目減りする。ふるいに例えるなら、信念に合う出来事はすっと通り、合わない出来事は網に引っかかって落ちるか、形を変えられてから通る。しかもこの選別は、わざとやっているのではなく、自動で起きます。

すると何が起きるか。手元に残る「証拠」は、いつも同じ結論を指すものばかりになります。何年もそれが続けば、確信は強まり、実際にはそうでないことまで真実の手触りを帯びていく。「自分はダメだ」が消えないのは、意志が弱いからでも、前向きさが足りないからでもありません。証拠の選別という仕組みが、静かに働き続けてきた結果です。励ましが届かないのも同じ理屈で説明がつきます。励ましは「信念に合わない情報」ですから、ふるいの網にかかって、届く前に値引きされてしまうのです。

もうひとつ、知っておく価値があるのは、この声の音量は一定ではないということです。調子がある程度保たれているときは、「まあ、自分もそこそこはやれている」という別の見方が同時に働ける人でも、落ち込みが深まると否定側だけが前に出て、過去にうまくいった記憶や別の説明を思い出すこと自体が難しくなります。いま聞こえている「自分はダメだ」の大きさは、あなたという人間の真実の量ではなく、いまの状態の反映でもある——このことは、覚えておいて損はありません。

なぜ急いで書き換えないのか

ここまで読むと、「では、その根っこを直せばいいのでは」と思われるかもしれません。実は認知行動療法は、そこをかなり慎重に扱います。

確信が深く、生活の広い範囲に及んでいて、考えと事実の区別がつきにくく、触れると感情が強く動く——そういう考えに対して、早い段階から「それは本当でしょうか」と切り込むやり方は、うまくいかないどころか、問いかけが届かず、治療者との関係を損なうこともあります。だから治療では順序を踏みます。まず場面ごとの自動思考を捉えて検討する道具を身につけ、次にルールの層を扱えるようになってから、いちばん深い層に進む。深い層に入ってからも、治療者は「この方の根っこにはこういう確信があるのではないか」という仮説として持ち、本人と確かめ合い、新しい材料が出れば仮説のほうを直します。どれほど真実に感じられても、ひとつの考えとして一緒に検討していける——それを、時間をかけて共有していく作業です。その過程で例外の事実を見つけるのが難しければ、無理をさせず、まず一緒にできるところから支える。生い立ちをたどる作業も、やるとしてもずっと後の段階です。頭では「言い過ぎかもしれない」と思えても気持ちはまだ信じている、という時期が続くのが普通で、週の単位ではなく、もっと長い目で見ます。

つまりこの層は、独りで、急いで、力ずくで書き換えるものではありません。目標も「消してポジティブに入れ替える」ことではなく、「絶対の事実」だった確信が少しずつ緩み、合わなかった出来事にも気づける余地が育つことです。一生変わらないわけでもない。ただ、順序と支えが要る。この記事があなたにお渡ししたいのは、書き換えの手順ではなく、この見取り図のほうです。

もうひとつ、はっきり書いておきたいことがあります。「自分はダメだ」「自分には価値がない」という確信の背景に、誰かからくり返し傷つけられてきた経験がある場合、その傷の責任は傷つけた側にあります。あなたの受け取り方の問題に還元される話ではありません。いまも暴力や強い支配のある関係のなかにいる方は、考え方の練習より先に安全のことを考えてほしいので、こちらの記事を置いておきます。

今日AIとできる、ささやかな一歩

では、独りで書き換えないとして、今日できることは何もないのか。ひとつだけあります。すでに自覚していて、実際に頭の中で使っている言葉を、外に出して眺めることです。書き換えではなく、棚卸し。使い方と約束事は第1回と同じです。

こんな会話になります。

あなた:疲れたときにいつも浮かぶのは「自分はダメだ」。あとは「どうせ迷惑をかける」かな。 AI:ありがとうございます。ここまでで「自分はダメだ」「どうせ迷惑をかける」の2つですね。ほかに、よく浮かぶ言い回しはありますか。なければ、ここまでの一覧にして終わりましょう。

AIは発見も命名もしません。あなたが話した言葉を、話したままの形で並べるだけです。それでも、頭の中で鳴っているときと、画面に並んだのを外から見るときとでは、少し距離が違います。

🎤 音声で話すだけ
疲れたときや落ち込んだときに、自分についていつも浮かぶ言葉(例:「自分はダメだ」など)を話します。私が実際に使っている言い回しのまま、一覧にまとめてください。
守ってほしいこと: 質問は1回に1つ、全部で5つまで、10分ほどで終える。私が話していない言葉を推測で足さない。原因の分析や診断、性格の説明、反論や「大丈夫」の繰り返しはしない。人の名前や会社名は「上司A」「会社X」のように置き換えて扱う。消えてしまいたい気持ちや、自分や誰かを傷つけたくなる話が出たら、深掘りせず、主治医に相談するよう勧めて作業を終える。

余力があれば、もう半歩だけ。その言葉と合わなかった小さな事実——お礼を言われた、約束をひとつ守れた、その程度のこと——が、もし思い当たれば1つだけ記録します。思い当たらなければ、探さずにその日は終わりで構いません。前の節で書いたとおり、合わない事実はふるいに落ちやすいのですから、今日見つからないのは自然なことで、失敗ではありません。

🎤 音声で話すだけ
さっきの一覧の言葉と合わなかった小さな出来事を、もし思い当たれば1つだけ話すので、日付つきで短く記録してください。思い当たらなければ「今日はなし」で記録して終わってください。
守ってほしいこと: 質問は1回に1つ、全部で5つまで、10分ほどで終える。私が話していない出来事を提案したり探させたりしない。思い当たらないことを問題として扱わない。意味づけや励ましは足さず、私の言葉のまま記録する。人の名前や会社名は「上司A」「会社X」のように置き換えて扱う。深刻な内容が出たら、深掘りせず、主治医に相談するよう勧めて作業を終える。

ここまでで十分です。これは治療ではなく、深い層の検討そのものは、診察や心理療法という支えのある場所での作業です。調子が大きく崩れているときは、AIでの作業はせず、診察でご相談ください。そして、消えてしまいたい気持ちが続くときや切迫しているときは、この記事を閉じて、救急(119番)または主治医・当院に連絡してください。

当院でできること

当院には心理士が在籍しておらず、認知行動療法の専門的なプログラムは提供していません。本格的な心理療法をご希望の場合は、必要に応じて紹介状(診療情報提供書)を作成します。診察のなかでは、考え方の整理などCBTの考え方を取り入れた助言を行っています。AIで作った言葉の一覧や記録は、スマホの画面のまま診察でお見せいただいて構いませんし、どうしたいか決めかねている段階のままの受診でも大丈夫です。診療対象は18歳以上です。

「自分はダメだ」が消えないのは、仕組みが働いているからで、あなたの弱さではありません。仕組みには、順序を踏んだ緩め方があります。連載の全体像は第1回からご覧いただけます。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • ジュディス・S・ベック『認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版』(伊藤絵美・神村栄一・藤澤大介訳、星和書店、2015年)第3章・第14章

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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