はじめに
診察は2週間に一度でも、気分が動くのは毎日です。夜になると考えが止まらない。嫌な場面が何度も浮かぶ。次の診察で何を話せばよいか分からない——。
そんなとき、まとまっていないままスマホに話すと、AI(ChatGPTなどの対話型AI)が内容を整理して返してくれます。この記事では、コピーしてすぐ使える三つのプロンプト(AIへの指示文)を紹介します。文章を打つ必要はありません(打ち込みで使っても同じです)。
- つらかった出来事を整理したい方はプロンプト1
- この数日の調子をふり返りたい方はプロンプト2
- 次の診察で話すことをまとめたい方はプロンプト3
これは治療ではなく、認知行動療法の考え方を借りて、診察と診察のあいだに自分の状態を整理するための補助です。まずは、今の目的に近いものを一つ選んでください。
使う前の約束事
- 調子が大きく崩れているときは使いません。 消えてしまいたい気持ち、自分や誰かを傷つけそうな考え、現実か判断しにくい体験、強い興奮やパニックがあるときは作業を止め、主治医へ連絡してください。命に関わる切迫した状況では救急(119)を利用してください。
- AIとの会話は当院や主治医には伝わりません。 AIが危険を察知して、当院や救急へ連絡することもありません。
- 個人を特定できる情報は入力しません。 氏名や住所、勤務先・学校名は「上司A」「会社X」のように置き換えてください。
- AIには診断や薬の判断を求めません。 AIの答えは間違うことがあります。使ってつらさが増したら中止し、そのことを診察でお話しください。
プロンプト1:つらかった出来事を、話すだけで整理する
使い方は、スマホのAIアプリを開き、下のプロンプトをコピーして貼り付け、送信。あとはマイクのボタンを押して、独り言のように話すだけです(マイクの位置が分からなければ、文字入力でも同じように使えます)。「今日、職場で嫌なことがあって……」くらいの話し出しで構いません。とりとめがなくても、途中で言い直しても大丈夫です。散らかったまま渡して、片づけてもらいます。
今から、最近あったつらかった出来事について、思いつくまま話します。とりとめがなくても、話が前後しても、そのまま聞いてください。話し終わったら、次の4つに分けて整理し、「こういう整理で合っていますか」と私に確認してください。 (1) あった出来事(事実だけ) (2) その瞬間、頭をよぎった考え (3) そのときの気分(一言ずつ) (4) 体に起きたこと 守ってほしいこと: 整理と確認だけをしてください。考えが正しいか間違っているかの判定、診断や原因の推測、アドバイスや励ましはしないでください。足りないところは質問してもらって構いませんが、質問は1回に1つ、全部で5つまでにして、10分ほどで終わらせてください。私はいつでも途中でやめて構いません。氏名・住所・勤務先や学校の名前などが出たら「上司A」「会社X」のように置き換えてください。もし私の話に、消えてしまいたい気持ちや、自分や誰かを傷つけたくなるような深刻な内容が出てきたら、それ以上は深掘りせず、主治医に相談するよう私に勧めて、この作業を終えてください。
たとえば、「会議で意見を言ったら、上司が短く返事をした。変なことを言ったと思われた気がして、そのあとずっと落ち着かなかった」と話した場合、返ってくる整理はこんな形です。
- 出来事: 会議で意見を言い、上司が短く返事をした
- 浮かんだ考え: 変なことを言ったと思われたかもしれない
- 気分: 不安、恥ずかしさ
- 体の反応: 胸が詰まる感じ、落ち着かなさ
実感と違えば、「考えはそれじゃなくて、怒らせたと思った」と言い直せば直してくれます。整理して、眺める。この記事で目指すのはそこまでです。 「上司が短く返事をした」は事実で、「変なことを言ったと思われた」は推測——分けて並べると、その二つが別のものだったことに気づけます。不安は「気分」、胸の詰まりは「体の反応」。混ざりやすいこの二つを分けて眺められるのも、四つに分ける効用です。浮かんだ考えをどう検討していくかは、連載の先の回で扱います。
整理した結果は保存しなくても構いません。その場で一度眺めて終えて十分です。
プロンプト2:この数日をふり返る——できなかったことだけが今週ではありません
気分が沈んでいる時期には、悪かったことばかりが目にとまり、少しでもましだった時間や、こなせていたことは視界から抜け落ちやすくなります。一週間を、良かった探しではなく事実の棚卸しとしてふり返るためのプロンプトです。
今週(この数日)のことを、思い出せる順に話します。まとまっていなくて構わず聞いてください。話し終わったら、次の3つに整理して見せてください。 (1) 今週やっていたこと(小さなことも含めて) (2) 気分が少しでも軽かった・ましだった場面 (3) 気分が重かった場面 守ってほしいこと: 私が話した事実だけで整理し、話していないことを推測で足さないでください。評価や採点、「もっとこうすべき」という助言はしないでください。(2)が見つからなければ、無理に作らず「今回は見つかりませんでした」でいいです。質問は1回に1つ、全部で5つまで、10分ほどで終えてください。私はいつでも途中でやめて構いません。氏名・住所・勤務先や学校の名前などが出たら「上司A」「会社X」のように置き換えてください。もし私の話に、消えてしまいたい気持ちなど深刻な内容が出てきたら、深掘りせず、主治医に相談するよう私に勧めて、この作業を終えてください。
話し始めは、月曜から順に思い出しても、印象に残った日だけでも構いません。返ってくる整理はこんな形です。
- やっていたこと: 出勤4日、金曜は休んだ。土曜に洗濯と買い出し
- ましだった場面: 水曜の昼、外に出て昼食をとったとき
- 重かった場面: 日曜の夜、月曜のことを考え始めたとき
ここでも答えは出しません。同じ場面が重なっていないかを、眺めるだけで十分です。週に一度、決まった曜日にやってみるのがおすすめです。数週間ぶんたまると、「重かった場面」に同じ顔ぶれ——たとえば「会議の前の晩」「家族に送った連絡の返事を待っている時間」「日曜の夕方」——が並んでいるのが見えてくるはずです。すぐに原因や答えを決める必要はありません。同じ場面が重なっていたら、次の診察で伝える材料になります。この連載の先の回では、そこに浮かびやすい「考えのクセ」を扱います。
あとで見返したい場合は、日付を添えて、整理された三項目だけをメモやスクリーンショットで残してください。
プロンプト3:次の診察で話すことを、まとめておく
診察の時間は短く、いざ座ると、話そうと思っていたことが飛んでしまう——という声をよく伺います。診察前の準備の考え方は診察をうまく活用するための準備にまとめてあり、このプロンプトは、その準備を話すだけでできるようにしたものです。
次の診察で主治医に伝えたいことを整理したいです。今から近況を話すので(この会話でこれまでに整理した内容があれば、それも使って)、次の4つの短いメモにまとめてください。 (1) いちばん困っていること(一言で) (2) それがいつから・どんな場面で起きているか (3) 眠り・食事・体の変化 (4) 主治医に伝えたいこと・相談したいこと 守ってほしいこと: 診察で30秒くらいで伝えられる長さにしてください。私が話していないことを足さないでください。病名の推測や、薬についての意見は書かないでください。足りないところの質問は1回に1つ、全部で5つまでにして、10分ほどで終わらせてください。私はいつでも途中でやめて構いません。氏名・住所・勤務先や学校の名前などが出たら「上司A」「会社X」のように置き換えてください。もし深刻な内容(消えてしまいたい気持ちなど)が出てきたら、それ以上の質問はやめ、メモの先頭に「まずこのことを主治医に伝える」と書いて、それを最優先にするよう私に勧めて、この作業を終えてください。
できあがるメモのイメージは、この4行です。
困っていること: 朝、仕事に出る支度が進まない いつから・どこで: 3週間前から、とくに月曜と会議のある日 体の変化: 寝つきが悪い。朝食を抜く日が増えた 伝えたいこと・相談したいこと: 寝つきの悪さと朝食を抜く日が増えたことを相談したい
このメモは、診察で読み上げても、スマホの画面のまま見せても構いません。
うまくまとまっていなくても構いません。伝えたいことの見出しが手元にあるだけで、短い診察の時間は使いやすくなります。
この方法の下敷き——認知行動療法について少しだけ
認知行動療法(CBT)は、マイナス思考を無理にプラス思考へ変える方法ではありません。出来事と、そのとき浮かんだ考えと、気分や体の反応を分けて、浮かんだ考えが実際のところどうなのかを確かめていく心理療法です。また、診察や面接の時間だけでなく、そのあいだの日常で試し、ふり返ることも重視されています。
この連載では、当院の提案として、この「分けて眺める」「日常でふり返る」の補助役にAIを使います。
関連する記事: 心理療法とは/CBTとIPTの違い/コラム法(紙に書き出す形の整理)
この連載の地図
全10回の予定です。順番に読む必要はなく、どの回も単独で使えます。まず続けるなら、今回使った「出来事・考え・気分・体の反応」の分け方を詳しく扱う第2回へ進んでください。
- 話すだけで始める気持ちの整理(この記事)
- 出来事・考え・気分を分ける——認知モデルという見方
- 勝手に浮かぶ考え(自動思考)に気づく
- 浮かんだ考えを、別の見方と並べてみる
- 気分が戻るのを待たずに、小さく動く(行動活性化)
- 自分の中の「〜すべき」のルールに気づく
- 「自分はダメだ」が消えないのはなぜか(中核信念)
- 問題を小分けにする・決めきれないときの整理
- 診察のあいだの毎日を、練習の場にする
- 調子を崩すサインを、自分の言葉でリスト化する
当院での実際
当院には心理士がおらず、認知行動療法などの専門的な心理療法は提供していません。必要に応じて紹介状(診療情報提供書)を作成します。
眠れない日が続く、食事の量や体重が変わってきた、気分が晴れない日が続く——そうした変化が出ているときは、AIでの整理を続けるより先に、受診をご検討ください。当院の診療対象は18歳以上の方で、この連載も18歳以上の方に向けたものです。
まとめ
今日使えるのは三つです。
- つらかった出来事を、出来事・考え・気分・体の反応に分ける
- この数日をふり返り、重かった場面と少しましだった場面を並べる
- 次の診察で伝えたいことを、30秒のメモにする
AIの役目は、答えを決めることではなく、話した内容を整理することです。三つ全部を始める必要はありません。今いちばん使えそうなものを、一つだけ試してください。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- ジュディス・S・ベック『認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版』(伊藤絵美・神村栄一・藤澤大介訳、星和書店、2015年)第1〜3章