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ジプレキサ(一般名: オランザピン)は、抗精神病薬に分類されるお薬です。統合失調症の幻覚・妄想にも、双極性障害の躁にもうつにも、幅広く確かに効く"頼れる一枚"として知られています。ただ、その効果の裏返しとして、食欲や体重、血糖への影響には気を配る必要があり、糖尿病の方には使えない薬でもあります。ここでは、その効き方と付き合い方を、診察でお話ししている感覚に近い形でまとめました。

どんなふうに効く薬か

ジプレキサは、脳の中のドパミンやセロトニンなど複数の物質の働きを調整して、幻覚・妄想や気分の症状をやわらげます。特徴は、気分の"両方向"に効くこと。高ぶりすぎる躁も、深く沈むうつも、どちらもカバーできる数少ない薬です。あわせて鎮静もしっかりしているので、高ぶって眠れない・食べられないといった、つらい時期をまるごと支える力があります。

だからこそ「困ったときの一枚」として頼りになるのですが、この効果の頼もしさには、いつもセットの課題があります。それが食欲・体重・血糖。ジプレキサは食欲を強く刺激し、体重が増えやすく、血糖にも影響が出やすい薬です。効果が確かなだけに、「よく効く力」と「体重・血糖という代償」を、どう両立させるか——ここがこの薬との付き合いの肝になります。

なぜ幅広く効いて、なぜ体重に響くのか

幅広く効くのは、脳の中の一か所だけを狙う薬ではないからです。狙いを絞った薬が一本の矢だとすれば、この薬は網を広げるように、多くの受け皿へ手を届かせます。食欲や体重に響くのも、まったく同じ性質から来ています。 よく効く仕組みそのものが食欲にも触れてしまうので、意志の力で抑え込もうとしてもうまくいかないのです。

どのくらいで効いてくるか

早い方では数日のうちに、眠れるようになった、気持ちが静かになった、といった変化が出ます。ただし、その量で出せる力が出そろうまでには、もう少しかかります。統合失調症の急性期では、多くの方が2週間ほどで何らかの変化を見せ、そこで動かなくても、さらに2週間続けるうちに動き出す方がいます。4週間ほど経っても手応えがないときは、量を足すよりも治療の組み立てそのものを見直します。

大切なのは、焦って増やさないことです。たくさん使えば早く効く、という根拠はありません。 脳の受け皿の抑え具合には「ちょうどよい幅」があり、そこを超えて増やしても効果は頭打ちで、眠気や体のこわばりだけが積み上がります。

急性期に助けになる眠気が、落ち着くと重荷になる

頭の中が騒がしくて眠れず、不安で身の置き所がない時期、この薬の鎮静は単なる「眠気という副作用」ではありません。幻覚や妄想だけを削り取ると、その下にあった不安がむき出しになることがあります。包むように静める力があるからこそ、いちばんつらい時期を丸ごと支えられる——それがこの薬の持ち味です。

ところが、嵐が過ぎたあとは事情が変わります。急性期に助けになっていたのと同じ眠気が、落ち着いた生活のなかでは重荷になります。 朝起きられない、昼間ぼんやりする、仕事に戻ったら頭が回らない。ここで「薬のせいだ」と自己判断でやめてしまう方が少なくありません。落ち着いてきたら「今の効き方でちょうどよいか」を必ず言葉にしてください。 眠気は我慢するものではなく、調整の材料です。

どんな人に向くか・ほかの薬との違い

ジプレキサが力を発揮するのは、統合失調症の幻覚・妄想、そして双極性障害の躁とうつの両方です。気分がどちらに振れていても使え、鎮静も効くので、症状が激しく揺れる時期の頼れる支えになります。

一方で、いちばん大事な"向かない人"が、糖尿病のある方・過去に糖尿病だった方です。同じ仲間のセロクエルと同じく、この薬は血糖への影響があるためです(次でお話しします)。また、体重の増えやすさは抗精神病薬のなかでも目立つほうなので、そこをどう見守るかも、薬を選ぶときの大事な視点になります。

その体重について、知っておいてほしい大事な性質があります。ジプレキサの体重増加は、量を減らせば必ず収まる、というものではないと考えられています。「増えてきたので少し減らしましょう」で解決しないことがあり、食事や運動の工夫でも追いつかないときは、量の調整ではなく薬そのものを別のものに替えるほうが現実的な選択になります。替えるときの進め方は「やめるとき」でお話しします。効果が頼もしい薬だけに悩ましいところですが、体重の相談は早いほど打てる手が多くなります。

この副作用の出方には、はっきりした個人差もあります。 しっかりした量を使ってもほとんど体重の動かない方がいる一方で、ごく控えめな量でも増えていく方がいます。「たくさん飲んでいるから太った」とも「少ししか飲んでいないから安心」とも言えず、どちらのタイプかは飲み始めてしばらく見ていくなかで分かってきます。

たばこを吸う方へ

この薬は喫煙の影響を受けやすく、吸う量が大きく変わると、同じ量を飲んでいても効き方が変わることがあります。禁煙を始めたとき、逆に本数が増えたときは、体調に変化がなくても教えてください。

たばこを吸えない環境にいたあいだは落ち着いていた方が、いつもの本数に戻ったとたんに調子を崩した——書籍にはそうした経過が記されています。たばこは、この薬を体が分解する速さそのものを変えてしまうので、たくさん吸う人だけの話ではありません

飲み始めに知っておいてほしいこと

いちばん大事なこと——血糖と糖尿病

ジプレキサで、何よりも先に知っておいてほしいのがこれです。この薬は血糖を上げることがあり、まれに、血糖が急に大きく乱れて命に関わる状態になることがあります。そのため、糖尿病の方・過去に糖尿病だった方には使えません(禁忌)。持病やこれまでの病気、ご家族の糖尿病のことは、最初に必ず教えてください。

糖尿病でない方も油断は禁物です。のどが強く渇く・水をたくさん飲む・トイレが近い・急にやせる・強いだるさ——こうしたサインは血糖の乱れの表れかもしれません。気づいたら、次の診察を待たず、すぐに受診してください。

ここには落とし穴が二つあります。ひとつは、血糖の乱れが、かなり進んでから自覚症状として出てくることです。「体調が悪くないから大丈夫」とは言い切れないので、症状を待たず定期的な血液検査で確かめながら使う薬とされています。もうひとつは、やせている方でも安心はできないことです。体重の増加に伴って血糖が動く場合が多いのですが、体重がほとんど変わらないまま血糖だけ動く場合もあります。

のどが渇いたときに何を飲むかも、思いのほか大事です。渇きにまかせて甘いジュースやスポーツ飲料を飲み続けると、血糖がさらに上がってまた渇く、という悪い輪ができます。飲むものを水やお茶に替えたうえで、渇いていること自体を診察で伝えてください。

食欲と体重

ジプレキサでは、食欲が増して体重が増えやすいことが、比較的はっきり出ます。これは意志や食べすぎの問題ではなく、薬が食欲そのものを刺激するために起こるもの。だからこそ、「増えてから慌てる」のではなく、飲み始めから一緒に手を打つのが得策です。食事や運動の工夫を早めに相談し、増え方によっては薬の見直しも選択肢に入れます。気になり始めたら、遠慮なく教えてください。

誤解されやすいのですが、体重が増えていく道すじは一つではありません。おなかがすいてつい量が増えていく方もいれば、食べ方は前とほとんど変わらないのに目盛りだけ動いていく方もいます。「そんなに食べていないのに増えている」は、言い訳でも気のせいでもありません。週に一度、同じ条件で体重をはかって書き留めておくと、増え方の傾きが早く見えます。

眠気

鎮静が効くぶん、眠気が出やすい薬です。飲むタイミングを就寝前にするなどで扱いやすくなることも。そのうえで、添付文書では、この薬を飲んでいるあいだは高い所での作業や車の運転など危険を伴う機械の操作を控えることになっています。とくに飲み始めや量を変えた時期、翌朝に眠気が残っているときは危険です。運転が欠かせない生活の方は、薬の選び方から一緒に考えますので、必ず事前にご相談ください。

この薬は体からゆっくり抜けるため、飲むのは一日一回で足ります。飲む時刻は生活に合わせて相談して決められます。口の中で溶けて水なしで飲めるタイプもあるので、飲みにくさを感じたら遠慮なく言ってください。

言い出しにくい変化こそ、教えてほしい

そわそわして座っていられない、脚を動かしていないと落ち着かない——こうした感じが出ることがあります。これは「不安が強くなった」「病気が悪くなった」と受け取られやすいのですが、薬の影響であることが少なくありません。取り違えると薬を足す方向に進み、かえってつらくなります。「じっとしていられない感じがある」と伝えてもらえれば見当がつきます。口の渇きや便秘も、そのまま話してください。

めったにないけれど大事なこと

ごくまれに、高熱と体のこわばりが同時に出る重い反応、強い筋肉痛や赤褐色の尿、片方の足の腫れや痛みなどが起きることがあります。気づいたら次の診察を待たず連絡・受診を。差し迫っていれば救急(119)へ。

効いているかどうかを、何で見るか

この薬が働いているかどうかは、症状を数え上げるよりも、生活のどこが動いたかで見るほうが分かりやすくなります。夜、眠れるようになったか。食事が取れるようになったか。頭の中の声や考えに振り回されずに済む時間が増えたか。買い物や入浴など、止まっていた行動が戻ってきたか。

同時に、効きすぎのサインも見ておきます。日中ずっとぼんやりする、感情が平らになって何にも心が動かない、話が頭に入らない。病気そのものの症状と区別がつきにくいのですが、薬が効きすぎて起きていることがあります。安定してきた方の量を控えめにしたところ、症状はそのままで考えるはたらきが良くなった、という研究もあります。ただし、減らせるかどうかは落ち着き方によって違います。減らすかどうか、いつどれだけ減らすかは、診察で一緒に決めます。 自己判断で減らすと症状のぶり返しにつながることがあるので、「ぼんやりする」と感じたら、まずそれを診察で伝えてください。

やめるとき

ジプレキサは依存になる薬ではありません。ただ、自己判断で急にやめると、症状がぶり返したり不安定になったりすることがあります。特に統合失調症や双極性障害では、落ち着いてからの継続が再発予防の要です。やめる時期とペースは、症状の安定を確かめながら一緒に決めていきましょう。

替えるときは、時間をかけて入れ替えます。 急に止めて別の薬に飛び移ると、一時的に不安定になりやすいことが知られています。新しい薬を少しずつ足しながら、この薬を少しずつ引いていく。手間はかかりますが、この形がいちばん揺れの少ない替え方です。

双極性障害では、役割が交代していくことがあります。 躁の嵐を抑える場面でこの薬が力を発揮したあと、落ち着いてからは気分の土台を支える薬に主役を譲り、この薬のほうは徐々に退いていく——そういう組み立てが取られることがあります。「効いていたのに減らすのですか」と感じるかもしれませんが、時期によって必要な薬が違うからです。

生活の中での注意

運転や高い所での作業は、上に書いたとおり、添付文書では服用中は控えることになっています。必ず事前にご相談ください。お酒は眠気を強めるので控えめに。体重と血糖には一緒に気を配ります——くり返しになりますが、糖尿病がある方・ご家族にいる方は最初に必ず教えてください。妊娠・授乳は一律の禁止ではなく、必要性と一緒に考えます。妊娠が分かっても自己判断でやめず、まず相談を。授乳中は母乳に移るため、この薬は控えるのが望ましいとされています。ほかの薬を新しく使うときは、お薬手帳と一緒に一声かけてください。

なお、妊娠中は血糖の見守りがいっそう大事になります。妊娠の後期まで飲んでいた場合、生まれた赤ちゃんに、眠りがち、おっぱいをうまく飲めない、呼吸の様子がふだんと違う、手足がふるえる、体に力が入りにくい、といった様子が見られたという報告があります。生まれてすぐ手当てができるよう、出産する施設にこの薬を飲んでいることを必ず伝えておいてください。

飲み忘れたとき

飲み忘れに気づいても、二回分をまとめて飲むことはしないでください。 就寝前に飲んでいる方が日中になって気づいたときは、無理に飲まず、そのままにして次の診察で教えてください。その時間に飲むと眠気が強く出て、運転や仕事に差し支えることがあるからです。ほかの時刻に飲んでいる方も、迷ったときは無理に飲まず、次の診察で教えてください。一日抜けてもすぐ元通りにはなりませんが、抜ける日が続けば効き目は落ちます。飲み忘れが増えていること自体が大事な情報なので、正直に教えてください。

当院での考え方

当院では、診断と症状、体質、そしてこれまでの病気(特に糖尿病の有無)をうかがったうえで、ジプレキサが合うかを判断します。糖尿病の方には使えないため、健康状態や持病は必ずお聞きします。初診では、飲んでいる市販薬やサプリメントもうかがっています。効果が頼もしいぶん、飲み始めから体重や血糖のサインを一緒に見守り、必要なら早めに手を打ちます。

通院は2週間に一度が基本ですので、体重や眠気、食欲の変わり方はそのつど確かめられます。薬は回復の柱の一つですが、それがすべてではありません。休養や生活の調整と組み合わせながら、一緒に進めていきましょう。

参考文献

  • ジプレキサ錠2.5mg/5mg/10mg 添付文書(2024年11月改訂・第3版) — KEGG MEDICUS 参照(2026-07-07)
  • 参考書籍(本文の追記の裏づけ。要約・再構成であり原文の転載ではありません): 『本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩』『統合失調症のみかた,治療のすすめかた』『こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩』『双極性障害の診かたと治しかた』『ジェネラリストのための 向精神薬の使い方』『向精神薬と妊娠・授乳』

よくある質問

糖尿病だとジプレキサは使えないのですか?

はい。ジプレキサ(オランザピン)は血糖を上げ、まれに血糖が急に大きく乱れて命に関わる状態(糖尿病性ケトアシドーシス・昏睡)を引き起こすことがあるため、糖尿病の方・過去に糖尿病だった方には使えません(禁忌)。糖尿病でない方でも、のどの渇き・水をたくさん飲む・トイレが近い・急にやせる・強いだるさといったサインに気づいたら、すぐに受診してください。持病やこれまでの病気は必ず診察でお伝えください。

太りやすいと聞きました。本当ですか?

ジプレキサは食欲が増えて体重が増えやすいお薬で、抗精神病薬のなかでも比較的目立つほうです。あわせて血糖や脂質にも影響することがあります。これは意志や食べすぎの問題ではなく、薬が食欲そのものを刺激するために起こります。だからこそ増えてから慌てるより、飲み始めから一緒に手を打つのが得策です。気になり始めたら早めにご相談ください。

よく眠れるので睡眠薬代わりになりますか?

ジプレキサには眠気が出やすい性質がありますが、承認されている効能は統合失調症・双極性障害・抗がん剤による吐き気であり、睡眠薬として使うお薬ではありません。眠気を目的に自己判断で量を変えることはせず、飲み方は主治医の指示に従ってください。

気分の波にも効くのですか?

ジプレキサは双極性障害の躁症状・うつ症状の両方に使われるお薬です。気分の高ぶりを抑えるだけでなく、落ち込みの改善にも用いられます。気分がどちらに振れていても使える、数少ない薬の一つです。どの症状に対して処方されているか、気になるときは主治医に確認してみてください。

やめるときはどうすればよいですか?

ジプレキサは依存になる薬ではありません。ただし自己判断で急にやめると、症状がぶり返すことがあります。調子が良いと感じても、減らす時期やペースは症状の安定を確認しながら主治医と相談して決めましょう。特に統合失調症や双極性障害では、落ち着いたあとも再発予防のために続けることが多いお薬です。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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