はじめに
「統合失調感情障害(とうごうしっちょうかんじょうしょうがい)」という診断名は、統合失調症や双極性障害(躁うつ病)に比べると耳にする機会が少なく、告げられたご本人やご家族の多くが「初めて聞く病名で不安」「統合失調症とどう違うのか」と戸惑われます。また、「以前は統合失調症と言われていたのに、診断名が変わった」という経験をされる方もいます。
統合失調感情障害は、ひとことで言えば、幻覚や妄想などの統合失調症の症状と、躁状態やうつ状態などの気分の症状を、どちらも同じくらいの大きさで併せ持つ病気です。この記事では、精神科の専門書と医学論文をもとに、この病気の症状・診断の考え方・経過の見通し・治療をわかりやすくまとめます。診断や治療方針の判断は医師が行うものですので、ここでの内容は相談の前に知っておくと役立つ「目安」とお考えください。
どんな病気か——統合失調症と気分障害の「中間」
統合失調感情障害は、統合失調症と気分障害(双極性障害・うつ病)の中間に位置づけられている病気です。なお、最新の国際分類(ICD-11)に合わせて、日本精神神経学会は「統合失調感情症」という新しい呼び方を定めており、今後はこちらの表記も増えていく見込みです。この記事では、現在広く使われている「統合失調感情障害」の表記で説明します。
この病気では、次の2種類の症状が、どちらか一方が主でもう一方がおまけ、という形ではなく、同じくらいの重みで現れます。
- 統合失調症でみられる症状: 悪口を言われている・見張られているといった妄想、独り言や何かに怯える様子のもとになる幻聴 など
- 気分の症状: 気分が高ぶり、多弁になったり眠らなくても平気になったりする躁状態。元気がなくなり部屋にこもりがちになる、やる気が出ないといったうつ状態 など
気分障害と同じように、症状が現れる時期(エピソード)と落ち着く時期を繰り返す、周期性の経過をとりやすいことも特徴です。気分の症状の種類によって、躁状態を伴う型と、うつ状態を伴う型などに分けられ、毎回同じ型を繰り返す方も、エピソードごとに違う型を示す方もいます。
この病気の正体については、専門家の間でも「統合失調症とも気分障害とも異なる独立した病気」「統合失調症と気分障害が重なって起きている状態」「両者の中間に位置する病気」という複数の考え方が検討されてきました。精神科の専門書でも、臨床的には統合失調症と気分障害の中間として理解する見方が示されています。つまり、この診断名自体が「二つの病気の性質を併せ持つ状態を、ひとまとまりとして捉えるための名前」であり、輪郭がもともとあいまいさを含んでいるのです。このことは、後で述べる「診断名が経過の中で変わりうる」こととも深く関係しています。
決してまれな病気ではありませんが、頻度は統合失調症の3分の1程度(生涯のうちに経験する人はおよそ0.3%)と見積もられています。発症年齢は比較的若く、統合失調症と気分障害の間くらいとされます。また、家族に統合失調症や気分障害の方がいる割合が高いことが知られており、体質的な要因が大きいと考えられています。心身への負荷(ストレス)がきっかけになることはありますが、それはあくまで「引き金」であり「原因」ではありません。誰かの育て方や本人の心がけのせいで起こる病気ではないのです。
診断はどのように行われるか
「両方の症状がそろっているか」を時間をかけて確かめる
精神科の診断は、症状名ひとつで決まるものではありません。専門書でも、診断は「どんな症状があるか」「どのくらいの期間続いているか」「他の病気で説明できないか」の3点をそろえて検討するものとされています。幻聴や妄想が一時的にあるだけで統合失調症や統合失調感情障害と決まるわけではないのです。
診断の中心は、ご本人の体験とご家族など周囲からの情報を丁寧に聞き取る問診です。統合失調症の症状と気分の症状の両方が確認できるかどうか、そしてそれらが経過の中でどう現れてきたかを確かめます。
国際的な診断基準(DSM-5)では、大まかに言うと次のような経過が目安とされています。
- 気分の症状(躁またはうつのエピソード)が、病気の経過全体の半分以上を占めること
- 一方で、気分の症状がない時期にも、幻覚や妄想だけが2週間以上続く期間があること
前者によって「一時的に気分が落ち込むこともある統合失調症」と、後者によって「症状が強い時期に幻覚や妄想を伴う気分障害(精神病性の特徴を伴ううつ病・双極性障害)」と区別する、という考え方です。
診断名が途中で変わることはめずらしくない
このように経過全体を見て判断する病気であるため、初診の一時点で確定することは難しく、長く経過を診ていく中で診断名が変わることがめずらしくありません。実際、医学研究でも、統合失調感情障害は統合失調症や双極性障害に比べて診断の一致率が低く、時間が経つと統合失調症や気分障害へ診断が整理される例が一定数あることが報告されています。
「診断名が変わった=誤診だった」ということではなく、症状の全体像が時間とともに見えてきた結果です。前の項で述べたように、この病気はもともと統合失調症と気分障害の「中間」に名前をつけたものですから、経過の中でどちらか寄りの姿がはっきりしてくれば、診断名がそれに合わせて整理されるのはむしろ自然なことです。診断が見直されるたびに、治療もその時点の状態により合ったものへ調整されていきます。診断名の変更に不安を感じたときは、遠慮なく主治医に理由を尋ねてみてください。
診察で症状をうまく伝えるには
幻聴や妄想のような体験は、「こんなことを話したら変に思われるのではないか」「入院させられるのではないか」という心配から、診察で話しづらいと感じる方が少なくありません。また、ご本人にとってはあまりに現実的な体験のため、「幻聴」という言葉で聞かれてもピンとこないこともあります。
けれども、診断と治療の手がかりとしていちばん大切なのは、ご本人の体験そのものです。「誰もいないのに話し声が聞こえることがある」「周りの人が自分の噂をしている気がする」「頭の中の考えが勝手に流れてくる」——うまく整理できていなくても、感じたままを言葉にしていただければ十分です。話したからといって、すぐに薬が増えるわけでも、不利益があるわけでもありません。気分の波についても、「眠らなくても平気だった時期」「買い物やお金づかいが急に増えた時期」など、後から振り返って「普段と違った」と思う時期があれば、ぜひ教えてください。診断の重要な手がかりになります。
他の病気との見分け
統合失調症の症状と気分の症状を同時に示す状態は、脳や体の病気(器質性の病気)や、医薬品を含む物質の影響でも起こりえます。そのため、年齢や経過によっては、頭部の画像検査などでこれらを除外することが必要になります。
経過の見通し——統合失調症より良好とされる
将来の見通し(予後)は、一般に統合失調症より良好で、気分障害よりは慎重にみる必要がある、その中間と考えられています。型による差もあります。
- 躁状態を伴う型では、症状が激しい時期があっても、多くは数週間程度で症状が治まり、社会生活の機能も回復に向かうことが期待できます。
- うつ状態を伴う型では、急性期の症状は一定期間ののちに軽くなりますが、比較的軽い症状が長く続く場合もあります。
いずれの型でも、エピソードが1回だけで終わる方もいれば、再発・再燃を繰り返す方もいます。だからこそ、良くなったあとの再発予防が治療の大切なテーマになります。
治療——抗精神病薬と気分安定薬を組み合わせる
症状が強い時期(急性期)
治療の基本は薬物治療で、統合失調症と気分障害それぞれの治療に準じて行われます。症状が強い時期には、まず抗精神病薬を使うのが一般的です。幻覚や妄想だけでなく気分の症状にも効果が期待でき、気分の症状が軽ければ抗精神病薬だけで安定する場合もあるためです。
海外の研究の積み重ねでは、この病気を対象とした臨床試験でパリペリドン、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなどの抗精神病薬の有効性が示されています。薬で十分な効果が得られない場合や、副作用などで薬を使いにくい場合、危険が差し迫っているなど緊急性が高い場合には、電気けいれん療法という選択肢が検討されることもあります。
症状が非常に強い時期は、外来治療が難しく入院を要することもあります。入院にはしっかり休息をとれるという利点があり、看病で疲れきったご家族の休息にもつながります。
落ち着いてきたら——気分安定薬との併用
症状が落ち着いてくる時期には、より目立つ症状に応じて薬を整えていきます。統合失調症の症状が優位であれば抗精神病薬を、気分の症状が優位であれば気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸など)を中心に、両者を併用することがよくあります。うつ状態が強い場合には抗うつ薬が併用されることもありますが、躁状態を引き起こすリスク(躁転)に注意が必要なため、躁のエピソードがあった方では特に慎重に使われます。
炭酸リチウムは、効果のある量と中毒を起こす量が近い薬であるため、定期的に血中濃度を測りながら使います。中毒症状のサインについてはあらかじめ主治医から説明を受け、気になる体調の変化があれば早めに伝えてください。
なお、海外では気分安定薬(リチウムやカルバマゼピン)が維持期の再発予防に役立つという報告があり、この病気が双極性障害と近い性質を持つことを示す手がかりのひとつと考えられています。
良くなってからの再発予防
症状が完全に消えたあとも、少ない量の薬を続けて再発を防ぐことが検討されます。初めてのエピソードであれば、半年から1年ほど再燃がなければ治療をいったん終えることが検討される場合もあります。エピソードを繰り返している場合は、予防の服薬を続けることで再発の頻度や重症度を下げることが期待できます。
再発・再燃は、心身になんらかの負荷がかかったときに起こりやすく、最初の発症時より小さな負荷でも引き金になりうるとされます。生活に変化があるときは意識してペースを落とす、不眠・不安・疲れやすさといった再発のサインが現れたら休息を確保して早めに受診する——こうした備えを、調子のよいうちに主治医と話し合っておくことが、安定した生活を長く続けるうえでとても役に立ちます。
薬を続けるのが難しいのは、意志が弱いからではない
毎日決まった時間に薬を飲み続けることは、それ自体がかなり難しい生活習慣です。専門書でも、飲み忘れや中断を「本人の意志の弱さ」のせいにせず、飲む回数や時間、副作用のつらさ、薬への抵抗感、病気の受け止め方など、続けにくくしている具体的な理由を医師と一緒に見直すことが大切だとされています。
飲み忘れが続くときの選択肢のひとつに、持効性注射剤(LAI)という、数週間に1回の注射で効果が続くタイプの抗精神病薬もあります。毎日の服薬から解放される・効き目が安定しやすいといった利点がある一方、注射への抵抗感など気になる点もありますから、利点と負担を医師と率直に話し合ったうえで、納得して選ぶものです。飲み忘れや「実は減らして飲んでいる」ことは、責められる話ではなく、治療をご本人に合う形へ調整するための大事な情報です。安心してそのまま伝えてください。
薬だけで終わらせない——症状の安定から生活の回復へ
治療のゴールは、症状が消えることだけではありません。学業や仕事、人づきあいなど、その人らしい生活を取り戻していくことが本来の目標です。そのために、病気と薬について本人と家族が学ぶ心理教育や、症状が落ち着いてからの生活リズムづくり、必要に応じてデイケアや就労支援などの地域の資源を組み合わせていくことが、専門書でも重視されています。利用できる資源は地域や状況によって異なりますので、主治医や自治体の窓口に相談しながら、焦らず段階的に生活の幅を広げていくのがよいでしょう。
また、幻覚や妄想が目立つ時期が過ぎたあとに、気分の落ち込みが前面に出てくることがあります。回復の途中で「思うように動けない自分」に直面してつらくなるのは、この病気ではよくあることで、決して甘えではありません。落ち込みが続くときは、我慢せずそのまま主治医に伝えてください。落ち込みへの対応も治療の大切な一部です。
ご家族へ——支えるうえで知っておきたいこと
この病気では、症状の性質上、本人が自分の状態を「病気の症状」と自覚しにくいことが多く、初めての受診はご家族に促されてというケースが少なくありません。本人が受診をためらう場合も、受診の進め方について医療機関に問い合わせることから始められます。周囲から見た様子——独り言や怯え、急な多弁や浪費、閉じこもりなど——の情報は、診断にとても役立ちます。
接し方で迷いやすいのが、妄想のような話をされたときの対応です。事実と違うからと正面から説得して訂正させようとすると、口論になったり、ご本人が話をしなくなったりしがちです。専門書でも、妄想は説得で消えるものではなく、内容の正しさを争うより「そう感じてつらいのだね」と苦痛のほうに寄り添うことが勧められています。同じように、薬の飲み忘れを見つけても責めないでください。責められると隠すようになり、かえって治療から遠ざかってしまいます。気づいたことは、診察の場で一緒に主治医へ伝えるのがよい方法です。
また、症状の激しい時期の看病は、ご家族にとっても大きな負担です。家族の強い批判や叱責、心配のあまりの過度な干渉が続くと、再発に影響しうることも知られています。ご家族が病気について学び、抱え込まずに休む時間を持つことは、遠回りに見えてご本人の回復を支えます。ご家族自身が休息をとることも、治療の一部だと考えてください。すでに治療中の方で、自分を傷つけてしまいそうな切迫した様子があるなど命に関わる心配があるときは、すぐにかかりつけの医療機関へ連絡し、つながらない緊急時は救急(119)を利用してください。
受診の目安
以下に当てはまるときは、早めの相談をおすすめします。
- 悪口を言われている・見張られているといった感覚と、気分の大きな波(高ぶり・落ち込み)の両方がある
- 統合失調症や双極性障害の治療中だが、気分の波や幻覚・妄想など「もう一方の症状」も気になっている
- 家族から見て、独り言や怯えた様子と、人が変わったような気分の変化がどちらもみられる
- 「統合失調感情障害」と診断され、病気について詳しく知りたい・治療を続けるか迷っている
まとめ
統合失調感情障害は、幻覚や妄想などの統合失調症の症状と、躁やうつなどの気分の症状を同じくらいの重みで併せ持つ、統合失調症と気分障害の中間に位置づけられる病気です。経過全体を見て診断する病気のため、途中で診断名が整理されることもめずらしくありません。
見通しは統合失調症より良好とされ、抗精神病薬を中心に、気分安定薬などを組み合わせた治療で回復が期待できます。良くなったあとも、再発のサインへの備えと無理のない服薬の継続が、安定した生活を支えます。治療のゴールは症状を抑えることだけでなく、その人らしい生活を取り戻していくことです。時間はかかっても、治療を続けながら学業や仕事に戻っていく方は大勢います。
聞き慣れない診断名に、不安を感じるのは当然のことです。疑問や心配は、そのまま診察でお話しください。なお、当院ではご家族のみの相談はお受けしていませんが、ご本人の同意のうえで、診察にご家族が同席していただくことは可能です。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 上原美奈子「統合失調感情障害」(『改訂版 精神科・わたしの診療手順』所収)
- 松崎朝樹『統合失調症のみかた,治療のすすめかた』中外医学社
- 神庭重信編『気分症群』(講座 精神疾患の臨床)中山書店
- Parker G. How Well Does the DSM-5 Capture Schizoaffective Disorder? Can J Psychiatry. 2019;64(9):607-610.
- Muñoz-Negro JE, et al. Current Evidences on Psychopharmacology of Schizoaffective Disorder.
執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏
よくある質問
統合失調感情障害は、統合失調症とどう違うのですか?
どちらも幻覚や妄想などの症状が現れますが、統合失調感情障害では、それに加えて躁状態やうつ状態といったはっきりした気分の症状が、経過の半分以上を占めるほど大きな割合で現れます。気分の波に伴って症状が周期的に良くなったり悪くなったりしやすい点も特徴です。経過の見通しは、一般に統合失調症よりは良好と考えられています。
診断名が「統合失調症」から「統合失調感情障害」に変わりました。誤診だったのでしょうか?
誤診とは限りません。この病気は統合失調症と気分障害(双極性障害・うつ病)の中間に位置づけられ、経過を長く見て初めて全体像がわかることが多いため、途中で診断名が整理されることはめずらしくありません。診断名の変更は、それまでの経過を踏まえてより適切な治療方針を立て直すための前向きなステップと考えてください。疑問があれば、遠慮なく主治医に確認しましょう。
薬はどのくらい続ける必要がありますか?
症状が治まったあとも、再発を防ぐ目的で少ない量の薬を続けることが検討されます。初めてのエピソードで、半年から1年ほど再燃がなければ、治療をいったん終えることが検討される場合もあります。一方、エピソードを繰り返している場合は、予防のための服薬を続けるほうが、再発の頻度や重さを減らせると考えられています。やめ時も含めて、必ず主治医と相談しながら決めていくことが大切です。
本人が受診を嫌がります。家族には何ができますか?
この病気では、症状の性質上、本人が自分の状態を「病気」と感じにくいことが多く、初めての受診は家族に促されてというケースが少なくありません。周囲から見た様子(独り言、怯え、多弁、閉じこもりなど)の情報は診断にとても役立ちますので、メモに整理しておき、受診の進め方も含めて医療機関に問い合わせてみてください。