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連載「統合失調症を知るシリーズ」第2回(全5回) 第1回から読む →

「幻聴はだいぶ落ち着いたはずなのに、一日中部屋で横になっている」「以前は好きだったことにも興味を示さなくなった」「話しかけても返事が短く、表情が乏しい」——統合失調症のご本人やご家族から、こうした悩みをうかがうことがよくあります。

ご本人にとっては、「動きたい気持ちはあるのに、体も心も動かない」「何かを感じようとしても、感情がついてこない」というつらさがあります。一方でご家族から見ると、激しい症状が治まったぶん、「もう治ったはずなのに、なぜ動かないのか」「怠けているのではないか」と戸惑いが生まれやすい状態でもあります。

この状態は「陰性症状」と呼ばれる、統合失調症の症状の一つです。この記事では、陰性症状とはどのような症状か、陽性症状との違い、うつ病との見分けの難しさ、そして回復のペースと家族の関わり方について解説します。

陰性症状とは——「あるべきものが減る」症状

統合失調症の症状は、大きく「陽性症状」と「陰性症状」に分けて整理されます。

陽性症状は、本来はないものが現れる症状です。幻聴(実際にはない声が聞こえる)や妄想(見張られている、悪口を言われているという固い確信)が代表で、周囲からも「様子がおかしい」と気づかれやすい、目立つ症状です。

陰性症状は、その反対に、本来あるはずのはたらきが減ってしまう症状です。具体的には次のようなものがあります。

  • 意欲の低下——自分から何かを始める力がわかず、身の回りのことや好きだったことにも手がつかない
  • 感情の平板化——喜怒哀楽の動きが乏しくなり、表情や声の抑揚が減る
  • 会話の減少——話す量が減り、返事が短くなる。考えが浮かびにくくなる
  • 社会的な引きこもり——人と会うことへの関心が薄れ、外出や交流を避けて家にこもりがちになる

陽性症状が「足し算」の症状だとすれば、陰性症状は「引き算」の症状です。派手さがないぶん周囲から気づかれにくく、気づかれても病気の症状だと理解されにくい——ここに陰性症状の難しさがあります。

統合失調症という病気の全体像(症状・診断・経過・治療)については、統合失調症の基礎知識の記事で詳しく解説しています。

「怠け」ではなく症状である、ということ

陰性症状をめぐって最も多い誤解が、「怠けているのではないか」「甘えではないか」というものです。

一日中横になっている、お風呂に入らない、仕事や学校の話をしても関心を示さない——こうした様子は、事情を知らなければ確かに「やる気の問題」に見えるかもしれません。しかし陰性症状は、意欲や感情を生み出す脳のはたらきそのものが病気の影響を受けている状態です。「気合いを入れれば動ける」のに動かないのではなく、気合いを入れる力自体が症状によって削がれているのです。

これは、骨折した足で「走る気がないだけだ」と言われるのに似ています。本人は誰よりも「動けない自分」に直面しており、そこに「怠けている」という言葉が重なると、深く傷つき、ますます人と関わる気力を失ってしまいます。

まず「これは症状なのだ」と周囲が理解すること。それ自体が、陰性症状への対応の出発点になります。

うつ病との見分けは専門家でも難しい

意欲が出ない、楽しめない、人と会いたくない——この状態像は、うつ病ともよく似ています。実際、陰性症状とうつ状態の見分けは、精神科医にとっても慎重さを要するテーマです。

一般的には、次のような違いがあるといわれます。

  • うつ病では、「気分の落ち込み」「自分を責める気持ち」「死にたいほどのつらさ」といった、苦しい感情の存在が前面に出やすい
  • 陰性症状では、感情の動きそのものが乏しくなり、本人が苦痛をあまり訴えない場合もある

ただし、これはあくまで傾向にすぎません。統合失調症の経過中にうつ状態が重なることは珍しくなく、また抗精神病薬の副作用で動きにくさや意欲の低下が生じることもあります。原因がどれかによって治療の力点が変わるため、「うつだと思っていたら陰性症状だった」「陰性症状だと思っていたらうつが重なっていた」ということが起こりえます。

だからこそ、ご本人やご家族が自己判断で結論を出す必要はありません。いつから、どんな様子が、どのくらい続いているかを具体的に主治医へ伝えていただくことが、適切な見立てにつながります。なお、統合失調症の症状と気分の波の両方が続く場合には、統合失調感情障害という別の診断が検討されることもあります。

回復はゆっくり進む——焦らないことが治療の一部

陰性症状について知っておいていただきたいのは、回復のペースが陽性症状とは違うということです。

幻覚や妄想などの陽性症状は、抗精神病薬による治療で比較的はっきりと改善することが多い症状です。一方、陰性症状はゆっくりとしか変化しないことが多く、薬で陽性症状が落ち着いたあとも、意欲の低下や引きこもりがちな状態がしばらく続くことは珍しくありません。

また、激しい症状の時期を経たあとには、エネルギーを使い果たしたように休息が必要な時期が続くこともあります。この時期に「もう幻聴は治まったのだから」と就労や復学を急がせると、本人に大きな負担がかかり、かえって調子を崩すきっかけになることがあります。

回復の道のりは、階段を一段ずつ上るようなものです。「先月より、少しだけ会話が増えた」「今週は一度、一緒に買い物に出られた」——そうした小さな変化を拾って認めていくことが、本人のペースを守りながら回復を支えることになります。

治療の考え方——薬物療法とリハビリテーション・生活支援

陰性症状への対応は、薬だけで完結するものではなく、いくつかの柱を組み合わせて考えます。

薬物療法。統合失調症の治療の基本は抗精神病薬であり、陽性症状を抑えるとともに再発を防ぐ役割があります。陰性症状に対しても薬の調整が検討されることがありますが、効果の現れ方には個人差があり、薬だけで陰性症状がすべて解消するとは限りません。症状が落ち着いているように見えても、自己判断で薬を減らしたりやめたりすると再発の危険が高まることが知られているため、薬への疑問や希望は必ず主治医に相談してください。

リハビリテーションと生活支援。陰性症状の回復には、生活のなかでの少しずつの活動が大きな意味を持ちます。一般的には、次のような支援が組み合わされます。

  • 決まった時間に起きる・食べる・寝るという生活リズムの立て直し
  • デイケアなど、安心できる場所で人と過ごす練習
  • 病気や薬について本人と家族が学ぶ心理教育
  • 状態が整ってきた段階での就労支援・復学支援などの社会資源の利用

どの支援をいつ使うかは、症状の段階と本人の希望によって変わります。「今は休む時期」「そろそろ活動を増やす時期」の見極めも含めて、主治医と相談しながら段階的に進めていくのが基本です。

家族の接し方——叱咤より、ペースを守る支え

ご家族の関わり方について、よくご質問をいただくポイントをまとめます。

「頑張れ」「いつまで寝ているの」は避ける。陰性症状は本人の意思で変えられるものではないため、叱咤や強い励ましは本人を追い詰めるだけになりがちです。批判的な言葉や強い感情のぶつかり合いが多い環境では再発が増えやすいことも知られており、家庭の空気を穏やかに保つこと自体が治療的な意味を持ちます。

小さくてもできたことを認める。「今日は起きてきたね」「一緒にご飯を食べられてよかった」——結果ではなく、その日のささやかな一歩を言葉にして認めることが、本人の「できた」という感覚を支えます。

生活リズムをゆるやかに支える。無理に予定を詰め込むのではなく、食事の時間を一定にする、朝はカーテンを開けるといった、生活の枠組みをさりげなく整える手伝いが役立ちます。

家族だけで抱え込まない。関わり方に迷ったとき、そのご家族の悩み自体が診察で共有すべき大切な情報です。本人の同意のうえで診察に同席し、家庭での様子や困りごとを主治医に伝えていただくことは、治療にとても役立ちます。

緊急のときは。自分や他人を傷つけてしまいそうな切迫した状態のときは、様子を見ずに、救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。

当院での実際

当院での統合失調症の診療について、よくご質問いただく点をご案内します。

  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。症状が安定しているかどうかを定期的に確認しながら、薬の調整や生活面の相談を続けていきます。
  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、当日は問診内容をもとに診察を進めます。初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • ご家族のみでのご相談はお受けしていませんが、ご本人の同意のうえでの診察へのご同席は可能です。家庭での様子や関わり方の悩みも、遠慮なくお聞かせください。
  • 精神保健福祉手帳や障害年金の診断書については、一定期間通院していただき、経過を拝見したうえで作成をご判断しています。

統合失調症の診療の全体像については、統合失調症の疾患ページもあわせてご覧ください。

おわりに

陰性症状は、目立たないぶん誤解されやすく、本人も家族も出口が見えない気持ちになりやすい症状です。しかし、それは怠けでも性格の変化でもなく、病気の症状であり、時間をかけた治療と支援のなかで少しずつ変化していきうるものです。

焦らないこと、小さな変化を認めること、そして一人で(一家族で)抱え込まないこと。「動けない」ことに悩んでおられるご本人も、関わり方に迷っておられるご家族も、その悩みをそのまま診察の場でお聞かせください。

よくある質問

陰性症状は本当に「病気の症状」なのですか? 本人の性格や甘えではないのでしょうか?

陰性症状は、統合失調症という病気の一部としてよく知られた症状であり、性格の変化や甘え、怠けではありません。意欲や感情のはたらきそのものが病気によって影響を受けている状態なので、「気合いを入れれば動ける」というものではないのです。周囲が怠けと誤解して叱咤すると、本人の負担が増えてかえって回復の妨げになることがあります。症状として理解し、主治医と共有しながら関わり方を考えていくことが大切です。

幻聴や妄想は落ち着いたのに、家でごろごろしてばかりです。悪化しているのでしょうか?

必ずしも悪化とは限りません。幻覚や妄想などの陽性症状が薬物療法で落ち着いたあとも、意欲の低下や引きこもりがちな状態といった陰性症状は、ゆっくりとしか変化しないことが多いとされています。また、激しい症状のあとにはエネルギーを使い果たしたように休息が必要な時期が続くこともあります。気になる変化があれば、様子を具体的にメモして診察のときに主治医へ伝えてください。悪化なのか回復途中の経過なのかは、診察のなかで判断していきます。

陰性症状とうつ病はどう違うのですか?

意欲が出ない、楽しめない、人と会いたくないといった見た目の様子はよく似ており、専門家でも慎重に見分ける必要があるテーマです。うつ病では気分の落ち込みや自分を責める気持ちが前面に出やすいのに対し、陰性症状では感情の動きそのものが乏しくなる傾向があるといわれますが、統合失調症の経過中にうつ状態が重なることもあり、単純には割り切れません。どちらにあたるかで治療の力点も変わるため、自己判断せず、経過を含めて主治医に相談することが大切です。

家族としてどう接すればよいですか? 励ましたほうがよいのでしょうか?

「頑張れ」「いつまで寝ているの」といった叱咤や強い励ましは、本人を追い詰めてしまうことが多く、おすすめできません。陰性症状は本人の意思で変えられるものではないためです。生活のリズムを一緒にゆるやかに支える、できたことを小さくても認める、本人のペースを尊重して待つ、といった関わりが基本になります。ご家族だけで抱え込まず、診察に同席するなどして、関わり方の悩みも主治医と共有していただければと思います。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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