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連載「統合失調感情障害を知るシリーズ」第2回(全4回) 第1回から読む →

はじめに

統合失調感情障害と診断されて治療が始まると、「なぜこの薬なのか」「いつまで飲むのか」「良くなったのにまだ続けるのか」といった疑問が次々に出てくるものです。この病気は、幻覚や妄想などの統合失調症の症状と、躁やうつなどの気分の症状を併せ持つため、使われる薬の種類も複数にわたることが多く、治療の全体像が見えにくいと感じる方が少なくありません。

この記事では、精神科の専門書と医学論文をもとに、統合失調感情障害の薬物治療と維持療法(良くなったあとの再発予防の治療)を詳しく解説します。病気そのものの基礎知識(症状・診断・経過の見通し)については、基礎編の記事をあわせてお読みください。なお、薬の選択や量、やめ時の判断はすべて主治医が個々の状態に応じて行うものです。ここでの内容は、診察で相談するための「予備知識」としてお役立てください。

治療の全体像——2種類の症状に、段階を踏んで対応する

統合失調感情障害の薬物治療は、統合失調症と気分障害それぞれの治療に準じて行われます。大きく分けると、統合失調症の症状(幻覚・妄想など)には抗精神病薬、気分の症状(躁・うつ)には気分安定薬や抗うつ薬を使い、必要に応じて抗不安薬や睡眠薬を補助的に併用します。

ただし、これらを最初から全部使うわけではありません。治療には段階があります。

  1. 急性期——症状が強い時期。まず抗精神病薬で症状を抑える
  2. 回復期——落ち着いてくる時期。優位な症状に合わせて薬を整える
  3. 維持期——症状が消えたあと。少ない量の薬で再発を防ぐ

それぞれの時期に「なぜその薬なのか」の理由があります。順に見ていきましょう。

急性期——まず抗精神病薬から始める理由

症状が強い時期には、まず抗精神病薬を使うのが基本です。理由は2つあります。

1つめは、抗精神病薬が幻覚や妄想だけでなく、気分の症状にも効果を示すことです。気分の症状が軽度であれば、抗精神病薬だけで安定する場合もあります。2つめは、気分安定薬や抗うつ薬は効果が現れるまでに時間がかかることです。つらい症状を早く和らげるには、まず抗精神病薬で対応するのが合理的なのです。

興奮が強く錠剤を飲むのが難しい場合でも、液体タイプや口の中で溶けるタイプの薬であれば服用しやすいことがあります。それも難しい場合は、注射による投与が検討されることもあります。

「薬を無理にすすめられた」と感じた経験が、その後の治療への不信につながることもあります。症状の激しい時期のかかわり方がその後の治療関係に大きく影響することは、精神科医の側もよく認識しており、できる限り納得を得ながら治療を進めることが大切にされています。

エビデンスのある薬——この病気を対象にした研究から

統合失調感情障害は、統合失調症に比べて「この病気だけ」を対象にした研究が少なく、治療の多くは統合失調症などの研究から得られた間接的な根拠に基づいてきました。それでも近年は、この病気の患者さんだけを対象にした質の高い臨床試験(ランダム化比較試験)がいくつか行われています。

  • パリペリドンは、この病気を対象にした研究が最も充実している薬です。飲み薬の研究では、幻覚・妄想などの症状と気分の症状の両方の改善が示され、月1回の持続性注射剤の研究では、再発のリスクを減らし、生活機能を保つ効果が示されました。なお、この病気への適応が正式に承認されているのは海外での話で、日本での承認効能は統合失調症です。
  • リスペリドンは、幻覚・妄想と気分の症状の両方に効果を示し、特にうつ症状が強い患者さんでは従来薬(ハロペリドール)より大きな改善が報告されています。
  • オランザピンは、うつ症状や認知面の症状で従来薬より優れた結果が示されています。
  • アリピプラゾールも、症状全体の改善が示され、忍容性(副作用の少なさ)の面でも良好と報告されています。

飲み忘れが続いて症状が不安定になりやすい方には、月1回や2週に1回の持続性注射剤が服薬の続けやすさの面から検討されることもあります。実際、海外の調査では、この病気の患者さんの半数以上で服薬が十分に続けられていないことが報告されており、「続けやすさ」は薬選びの大切な観点のひとつです。

どの薬を選ぶかは、症状の型、過去の効き方、体重増加やホルモンへの影響といった副作用の出やすさ、体の持病などを総合して主治医が判断します。

薬が効きにくいとき——クロザピンと電気けいれん療法

複数の抗精神病薬を十分に試しても効果が不十分な場合(治療抵抗性)には、次の選択肢が検討されます。

クロザピンは、海外の観察研究で治療抵抗性の統合失調感情障害への有用性が報告されている薬です。興味深いことに、統合失調症の患者さんよりも統合失調感情障害の患者さんのほうが反応が良かったという報告もあります。定期的な血液検査を行いながら使う管理の厳格な薬で、日本では「治療抵抗性統合失調症」の薬として、専用の管理システム(CPMS)に登録された医療機関でのみ処方できる仕組みになっています。

電気けいれん療法は、薬剤で効果が得られない場合や、副作用・体の問題で薬を使いにくい場合、希死念慮が強いなど緊急性の高い場合に適応が検討されます。海外の症例報告では、体が動かなくなる緊張病性昏迷という状態を呈した統合失調感情障害の患者さんに、修正型電気けいれん療法とリスペリドンによる治療が効果的だった例も報告されています。

気分安定薬——併用と維持療法の柱

回復期の併用

症状が落ち着いてくる時期には、より優位な症状に合わせて薬を整えます。統合失調症の症状が優位なら抗精神病薬を、気分の症状が優位なら気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸など)を中心とし、両者を併用することがよくあります。バルプロ酸については、双極型の統合失調感情障害の患者さんで多くに改善がみられたという海外の報告があります。

リチウムの血中濃度管理

炭酸リチウムは、治療に有効な量と中毒を起こす量が近接している薬です。そのため、定期的に血中濃度を測定しながら使い、中毒症状の出現に注意します。添付文書では、中毒の初期症状として食欲低下・吐き気・嘔吐・下痢などの消化器症状、手のふるえ(振戦)、強い眠気などが挙げられています。また、発熱や発汗、水分不足による脱水や、一部の解熱鎮痛薬との併用で血中濃度が上がりやすくなることも知られています。特に外来治療では、こうした兆候についてあらかじめ主治医から説明を受けておくことが大切です。気になる体調の変化があれば、次の診察を待たずに早めに連絡してください。

維持期の再発予防——リチウムとカルバマゼピン

海外の研究では、リチウムカルバマゼピンが維持期(症状が消えたあとの再発予防の時期)の治療として高い有効性を示すことが報告されています。両者を2年半にわたって比較した研究では、どちらも再発予防に有効で、うつ病型などではカルバマゼピンのほうがより有効だったとされています。別の長期観察研究では、これらの薬による予防治療で入院日数が大幅に減ったことも報告されました。

実は、この「リチウムが効く」という知見は、統合失調感情障害という病気の性質を考えるうえでも重要です。リチウムは双極性障害の代表的な治療薬で、統合失調症にはほとんど効かないとされる薬です。その薬がこの病気に有効だということは、統合失調感情障害が双極性障害と近い性質を併せ持つことを示す手がかりと考えられています。医学論文でも、ずっと抗精神病薬だけで治療されてきた患者さんに気分安定薬(特にリチウム)を試す意義が指摘されています。

抗うつ薬——うつ症状への併用と躁転リスク

うつ病型でうつ症状が強い場合には、抗うつ薬が併用されることがあります。ただし、注意点が2つあります。

1つは躁転(抗うつ薬をきっかけに躁状態に切り替わってしまうこと)のリスクです。従来薬に比べ躁転のリスクが少ないとされる新しいタイプの抗うつ薬が選ばれることが多いのですが、躁のエピソードや混合状態の既往がある方では、特に慎重な判断が必要です。

もう1つは、幻覚・妄想などの症状を悪化させる可能性です。海外の症例報告では、統合失調感情障害の患者さんに抗うつ薬を追加したところ、幻覚・妄想側の症状が悪化した例が報告されています。また、抗精神病薬に抗うつ薬を上乗せする治療が、抗精神病薬だけの治療より優れているかどうかは、研究上まだ確立していません。抗うつ薬を使うかどうか、いつやめるかは、経過を見ながら主治医が慎重に判断します。

「薬をやめたい」と思ったとき

長く薬を飲んでいると、「もう調子がいいのだから、やめてもいいのではないか」という気持ちが出てくるのは自然なことです。この気持ちとどうつき合うかは、維持療法の最も大切なテーマのひとつです。

まず知っておいていただきたいのは、薬をやめる選択肢も、治療の中にきちんと位置づけられているということです。初めてのエピソードであれば、半年から1年ほど再燃がなければ、治療をいったん終えることが検討される場合もあります。「一生飲み続けると決まった」わけではないのです。

一方、エピソードを繰り返している場合は、少ない量の薬を続ける維持療法のほうが、再発の頻度や重さを減らせると考えられています。予防の服薬を続けても再発を完全に防げるわけではありませんが、再発したときのダメージを小さくできることには大きな意味があります。

避けていただきたいのは、自己判断での中止です。急に薬をやめると、それまで抑えられていた症状がぶり返すことがあります。「やめたい」と思ったら、その気持ちをそのまま診察で話してください。副作用がつらいのか、飲む手間が負担なのか、病気が治った実感があるのか——理由によって、薬の変更や減量、持続性注射剤への切り替えなど、とれる選択肢が変わってきます。主治医と一緒に「やめ方」まで含めて計画を立てることが、結果的に一番の近道になります。

薬以外の治療——休養・心理教育・再発への備え

薬物治療は治療の柱ですが、それだけで完結するものではありません。

休養は、症状が安定するまで欠かせない治療の一部です。症状が強い時期に無理を重ねると回復が遅れるため、学業や仕事はいったんペースを落とし、しっかり休むことが優先されます。

心理教育——自分の病気の性質を知り、少しずつ病気とのつき合い方を身につけていくかかわり——も、回復期以降の大切な治療です。この病気では自分の状態を「病気の症状」と自覚しにくいことが多いため、焦らず時間をかけて理解を深めていきます。うつ病型で症状が長引いたり、意欲の低下などが残る場合には、作業療法などのリハビリテーションが検討されることもあります。

再発への備えも重要です。再発・再燃は心身になんらかの負荷がかかったときに起こりやすく、最初の発症時より小さな負荷でも引き金になりえます。次のことを、調子のよいうちに主治医と話し合っておきましょう。

  • 引っ越し・転職・昇進など、生活に変化があるときは意識してペースを落とす
  • 自分なりのストレス対処法を持ち、過度なストレスを避ける
  • 不眠・不安・疲れやすさといった再発のサインが現れたら、休息を確保して早めに受診する

すでに治療中の方で、自分を傷つけてしまいそうな切迫した様子があるなど命に関わる心配があるときは、すぐにかかりつけの医療機関へ連絡し、つながらない緊急時は救急(119)を利用してください。

まとめ

統合失調感情障害の治療は、急性期にはまず抗精神病薬で症状を抑え、回復期には優位な症状に合わせて気分安定薬などを組み合わせ、維持期には少ない量の薬で再発を防ぐ——という段階を踏んで進みます。パリペリドンやリスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなどの抗精神病薬には、この病気を対象にした臨床試験の裏づけがあり、リチウムやカルバマゼピンには維持期の再発予防に役立つという海外の報告があります。薬が効きにくい場合にも、クロザピンや電気けいれん療法といった選択肢があります。

薬とのつき合いは長くなることもありますが、「やめ時」も含めて治療計画の一部です。疑問や「やめたい」という気持ちは、抱え込まずにそのまま診察でお話しください。当院でも、統合失調感情障害の治療についてのご相談をお受けしています。


参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 上原美奈子「統合失調感情障害」(『改訂版 精神科・わたしの診療手順』所収)
  • Muñoz-Negro JE, et al. Current Evidences on Psychopharmacology of Schizoaffective Disorder.
  • Parker G. How Well Does the DSM-5 Capture Schizoaffective Disorder? Can J Psychiatry. 2019;64(9):607-610.
  • Bai Y, et al. A case report of schizoaffective disorder with ritualistic behaviors and catatonic stupor: successful treatment by risperidone and modified electroconvulsive therapy. BMC Psychiatry. 2018;18:67.
  • 各医薬品の添付文書(パリペリドン・クロザピン・炭酸リチウム等)、厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル(リチウム中毒)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

統合失調感情障害では、どの薬を最初に使うのですか?

症状が強い時期(急性期)には、まず抗精神病薬を使うのが一般的です。抗精神病薬は幻覚や妄想だけでなく気分の症状にも効果が期待でき、気分の症状が軽ければそれだけで安定する場合もあります。気分安定薬や抗うつ薬は効果が現れるまでに時間がかかるため、急性期の中心にはなりません。どの薬を選ぶかは、症状の型や体質、副作用の出やすさを踏まえて主治医が判断します。

気分安定薬(リチウムなど)はなぜ併用するのですか?

統合失調症の症状と気分の症状のうち、気分の症状が優位な場合には、炭酸リチウムやバルプロ酸などの気分安定薬を抗精神病薬と併用することがよくあります。また海外の研究では、リチウムやカルバマゼピンが維持期の再発予防に役立つことが報告されており、良くなったあとの安定を保つうえでも大切な役割を持ちます。炭酸リチウムは効果のある量と中毒を起こす量が近いため、定期的に血中濃度を測りながら使います。

調子が良くなったので、薬をやめたいのですが。

自己判断での中止はせず、必ず主治医に相談してください。初めてのエピソードで半年から1年ほど再燃がなければ、治療をいったん終えることが検討される場合もあります。一方、エピソードを繰り返している場合は、少ない量の薬を続けるほうが再発の頻度や重さを減らせると考えられています。「やめたい」という気持ち自体は自然なものですので、そのまま診察でお話しいただくのが一番の近道です。

薬が効きにくい場合は、どんな選択肢がありますか?

複数の抗精神病薬で十分な効果が得られない場合、海外の観察研究ではクロザピンという薬の有用性が報告されています。また、薬で効果が不十分な場合や副作用などで薬を使いにくい場合、危険が差し迫っているなど緊急性が高い場合には、電気けいれん療法が検討されることもあります。どの選択肢が適しているかは、経過や体の状態を踏まえて主治医が判断します。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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