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連載「統合失調感情障害を知るシリーズ」第3回(全4回) 第1回から読む →

はじめに

ご本人やご家族が過去に受け取った書類やお薬手帳、あるいは年配の方の紹介状などで、「非定型精神病(ひていけいせいしんびょう)」という診断名を目にすることがあります。今の若い世代の医師にはあまりなじみがなく、「統合失調症とどう違うのか」「統合失調感情障害と同じことなのか」と戸惑われる方が少なくありません。

非定型精神病は、日本の精神医学で使われてきた診断概念で、DSMやICDといった国際的な診断基準には項目がありません。海外の診断基準がそのまま輸入される前の時代に、日本の臨床家が「典型的な統合失調症とは明らかに様子が違う一群」を見出して名づけたもので、日本の精神医学の歴史のなかで大切な役割を果たしてきました。

この記事では、医学論文と精神科の専門書をもとに、非定型精神病とはどのような概念だったのか、統合失調症や統合失調感情障害とどう違うのか、そして現在の国際分類ではどこに位置づけられるのかを整理します。あわせて、この概念が体の病気(自己免疫性脳炎など)と紛らわしい場合があるという現代的な知見にもふれます。統合失調感情障害そのものについては、別記事「統合失調感情障害とは」で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。診断や治療方針の判断は医師が行うものですので、ここでの内容は相談の前に知っておくと役立つ「目安」とお考えください。

非定型精神病とは——日本で見出された一群

非定型精神病は、精神医学者の満田久敏(みつだ ひさとし)が提唱した概念です。1940年代から1950年代にかけて、満田は多くの患者を丁寧に観察するなかで、典型的な統合失調症とは症状や経過が異なる一群があることに気づきました。

満田が記述した非定型精神病は、おおむね次のような特徴をもつとされます。

  • 急に、または比較的急に発症する
  • 経過が一過性・挿間性(エピソードとして現れる)・周期性で、良くなったり悪くなったりを繰り返す
  • 症状が多彩で、変動しやすい。気分の障害に加え、活発な妄想や幻覚を伴う錯乱(頭が混乱した状態)や、夢を見ているような意識の変容を示すことがある
  • 経過は一般に良好で、人格の変化を残さずに寛解する(元の状態に戻る)ことが多い
  • 心のストレス(心因)や体の要因(身体因)がきっかけとして認められることが多い

つまり、急に始まって激しく揺れ動く多彩な症状が現れるけれども、多くは比較的短い期間で治まり、後に人格の変化を残さずに回復に向かう、という点が印象的な特徴でした。

満田は、この一群を家族の傾向という観点からも検討しました。典型的な統合失調症(定型群)の家族には統合失調症の方がみられるのに対し、非定型群の家族には、統合失調症はほとんどみられず、代わりに躁うつ病やてんかんの方がみられる傾向があったと報告しています。この違いから、満田は「定型群と非定型群は、体質的な背景が異なる別の種類の病気なのではないか」と考え、非定型群を統合失調症から切り離して、新たに非定型精神病という概念を提唱しました。

統合失調症との違い

満田の記述をもとに、非定型精神病と統合失調症の違いを整理すると、次のような点が挙げられてきました。

  • 発症のしかた——非定型精神病は急に発症することが多いのに対し、統合失調症は緩やかに発症しやすい
  • 症状の性質——非定型精神病は症状が多彩で動きやすく、意識がぼんやりする(意識の変容)ことやてんかん発作がみられることもあるのに対し、統合失調症は症状が比較的単調で変化に乏しいとされる
  • 発症年齢——非定型精神病のほうが発症年齢が遅い傾向があるとされる
  • 経過と予後——非定型精神病は周期的に経過し、比較的良好な見通しで寛解しやすいのに対し、統合失調症は慢性的に経過し、人格の変化を残すことがあるとされてきた
  • きっかけ——非定型精神病は心のストレスや体の要因がきっかけとして認められることが多いとされる
  • 家族の傾向——非定型精神病は家系内での集積性が高いとされる

とりわけ大切なのは、予後(将来の見通し)が比較的良好で、寛解しやすいと考えられてきた点です。「統合失調症」という言葉に対して不安の強い時代背景のなかで、「同じように見えても、良くなりやすい別の一群がある」と示したことには、臨床的にも大きな意味がありました。

ただし、これらは当時の観察に基づく整理です。現在の診断は国際的な基準に沿って行われるため、こうした特徴だけで診断名が決まるわけではありません。

統合失調感情障害と同じ?違う?

ここが、多くの方が混乱される点です。結論から言うと、非定型精神病と統合失調感情障害は、診断分類上、別の概念です

混同が起きやすい理由は、どちらも「統合失調症の症状」と「気分の症状」が関わって見えるためです。しかし、両者の成り立ちの考え方は異なります。

  • 統合失調感情障害は、統合失調症と気分障害(双極性障害・うつ病)の「中間」に位置づけられる病気として、国際的な診断基準のなかで定義されています。幻覚・妄想などの統合失調症の症状と、躁やうつの気分の症状を、同じくらいの重みで併せ持つ状態です(詳しくは別記事「統合失調感情障害とは」をご覧ください)。
  • 一方、非定型精神病を提唱した満田は、これを「統合失調症と双極性障害の単なる中間」とは考えていませんでした。他の内因性精神病(統合失調症や躁うつ病)とは体質的な背景が異なる、独立した別の種類の病気として位置づけたのです。

つまり、非定型精神病を統合失調感情障害と同じものと理解するのは誤解であり、提唱者の意図とも異なります。専門的な検討でも、非定型精神病に最も近い現在の診断は統合失調感情障害ではなく、後述する短期精神病性障害や統合失調症様障害のうち予後の良い群だとされています。

もっとも、「非定型精神病」という言葉は提唱後にさまざまに解釈され、概念が広がってしまった経緯があります。人によって指す範囲が違うことがあるため、書類などでこの診断名を見たときは、それがどの意味で使われているのかを主治医に確認するのが確実です。

なぜ今この診断名を聞く機会が減ったのか

非定型精神病という診断名を新たに聞く機会が減っているのは、誤りだったからではなく、診断のよりどころが国際的な基準に移ってきたためです。

現在の精神科診療では、DSM(アメリカ精神医学会の診断基準)やICD(世界保健機関の国際疾病分類)といった国際的な基準に沿って診断を行うのが一般的です。これらの基準には「非定型精神病」という項目はありません。そのため、かつて非定型精神病と呼ばれていた状態は、現在の基準では別の名前に振り分けられます。

具体的には、症状の続く期間などによって次のように整理されると考えられています。

  • 短期精神病性障害(DSM-5)——統合失調症に似た症状が現れ、1か月未満で改善するもの
  • 統合失調症様障害(DSM-5)——同様の症状が1か月以上6か月未満で改善するもの
  • 急性一過性精神病性障害(ICD-10)——ICDの体系で非定型精神病に近いとされる診断。最新のICD-11では「急性一過性精神症」という名称になっており、非定型精神病におおむね近い概念として議論されています

満田の提唱した非定型精神病は、DSM-5にあてはめるなら、これら短期精神病性障害や統合失調症様障害、とくにそのうち予後の良い特徴をもつ群に最も近いとされています。急に発症して比較的短期間で回復するという特徴が、これらの分類と重なるためです。

このように、同じ状態でも診断の枠組みが変われば呼び名が変わります。国際的な診断基準に項目のない非定型精神病は、国際基準が主流となった現在では、新たに使われることが少なくなったというわけです。

身体の病気(自己免疫性脳炎など)と紛らわしいことがある

近年、非定型精神病に関して注目されている現代的な知見があります。それは、満田が見出した一群のなかに、体の病気による症状が含まれていた可能性があるという指摘です。

非定型精神病の臨床的な特徴——急な発症、多彩な症状、意識の変容、てんかん発作がみられることがある、経過を繰り返す、といった点——は、自己免疫性の病気で脳に炎症が起きたときの症状とよく似ています。医学論文では、全身性エリテマトーデス(SLE)という自己免疫の病気が脳の中枢神経に影響したとき(CNSループス)の症状や、抗NMDA受容体抗体脳炎という自己免疫性脳炎の症状との類似が指摘されています。

自己免疫性脳炎では、発熱やかぜのような症状のあとに、急に統合失調症のような精神症状、けいれん、不随意運動、意識障害などが現れることがあります。脳の広い範囲に炎症が及ぶと、多彩な精神症状や意識の障害が起こりうるという点が、非定型精神病の描写とよく重なります。実際に、統合失調症と診断されていた患者を調べたところ抗NMDA受容体抗体脳炎だったという例や、非定型精神病とされていたが同じ脳炎だったという例も報告されています。

ここで大切なのは、精神症状のように見える状態のなかに、体の病気が隠れていることがあるという点です。だからこそ、症状の現れ方や年齢、経過によっては、精神科の診療でも血液検査(自己抗体や免疫に関わる検査など)や頭部の画像検査を行い、体の病気を確かめることが大切になります。急に激しい精神症状が現れた、発熱やけいれんを伴う、意識がはっきりしない時間帯がある——こうした場合には、体の病気の可能性を含めた検査が検討されます。

ただし、非定型精神病と自己免疫の病気が完全に同じというわけではなく、治療法も異なります。似ているからこそ、しっかり見分けることが必要になる、という理解が正確です。

昔この診断を受けた方・ご家族が今できること

過去に「非定型精神病」と診断された方や、そのご家族が不安を感じたとき、今できることをいくつか整理します。

1. 現在の診断の整理を、主治医に尋ねてよい

診断名は、時代や診断基準の変化とともに呼び名が変わることがあります。「非定型精神病」から別の診断名に整理されていたとしても、それは誤診だったとは限りません。今の主治医に、「以前は非定型精神病と言われていたのですが、現在はどう整理されていますか」と尋ねてみてよいのです。経過を長く診てきたうえで診断が整理されるのは、より適切な治療につなげるための前向きな作業です。

2. 体の病気の可能性について相談してよい

前述のように、この概念は自己免疫性脳炎など体の病気と紛らわしい場合があることが指摘されています。とくに急な発症や意識の変容、けいれんなどを伴った経過であった場合は、体の病気を確かめる検査について主治医に相談してよいでしょう。すでに落ち着いている方でも、気になる点があれば診察で聞いてみてください。

3. これまでの経過の記録を持って相談する

いつ、どのような症状があり、どのくらいで良くなったか——こうした経過の情報は、診断を整理するうえでとても役立ちます。古い診断書やお薬手帳、当時の様子を覚えているご家族の記憶なども、大切な手がかりになります。

4. 自己判断で治療をやめない

診断名への疑問があっても、自己判断で服薬を中断すると再発の引き金になることがあります。やめ時や薬の調整も含めて、必ず主治医と相談しながら決めていきましょう。

受診の目安

以下に当てはまるときは、早めの相談をおすすめします。

  • 過去に「非定型精神病」と診断され、今の診断や治療方針について確認したい
  • 急に幻覚・妄想や気分の大きな波が現れ、意識がぼんやりする時間帯や、発熱・けいれんを伴っている
  • 精神症状が急に現れて激しく変動し、体の病気が関係していないか気になる
  • 家族が過去にこの診断を受けており、経過や見通しについて知りたい

すでに治療中の方で、自分を傷つけてしまいそうな切迫した様子があるなど命に関わる心配があるときは、すぐにかかりつけの医療機関へ連絡し、つながらない緊急時は救急(119)を利用してください。

まとめ

非定型精神病は、日本の精神医学者・満田久敏が提唱した診断概念です。急な発症、多彩で動きやすい症状、意識の変容、周期的な経過、比較的良好な予後などを特徴とし、典型的な統合失調症とは異なる一群として、統合失調症から切り離して位置づけられました。

統合失調感情障害と同じものと誤解されることがありますが、両者は診断分類上、別の概念です。非定型精神病は「統合失調症と双極性障害の中間」ではなく、独立した別の種類の病気として提唱されました。現在の国際基準では、短期精神病性障害や統合失調症様障害(DSM-5)、急性一過性精神病性障害(ICD-10)などに相当するとされ、この診断名を新たに聞く機会は減っています。

また近年は、この一群のなかに自己免疫性脳炎など体の病気が含まれていた可能性が指摘されており、症状の現れ方や経過によっては検査で体の病気を確かめることの大切さが改めて注目されています。

聞き慣れない、あるいは今はあまり使われない診断名に、不安を感じるのは当然のことです。過去にこの診断を受けた方も、現在の主治医に診断の整理をたずねてかまいません。疑問や心配は、そのまま診察でお話しください。⚠️ 当院では、ご本人のことをご家族だけでご相談いただくことはできませんが、ご本人が受診され、同席に同意されている場合には、ご家族が同席していただけます。


参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 岡山達志・菊山裕貴・金沢徹文ほか「満田の非定型精神病に対する現代的解釈——非定型精神病と自己免疫性脳炎の類似性について」精神神経学雑誌 119巻8号(2017)
  • 満田久敏「精神分裂病の遺伝臨床的研究」精神神経学雑誌 46(1942)/「内因性精神病の遺伝臨床的研究」精神神経学雑誌 55(1954)
  • 上原美奈子「統合失調感情障害」(『改訂版 精神科・わたしの診療手順』所収)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

「非定型精神病」と「統合失調感情障害」は同じ病気ですか?

同じではありません。非定型精神病は、日本の精神医学者・満田久敏が提唱した概念(DSMやICDなどの国際的な診断基準には項目がありません)で、統合失調症とも気分障害とも異なる「別の種類の病気」として位置づけられました。一方、統合失調感情障害は国際的な診断基準で用いられる別の分類です。非定型精神病を「統合失調症と双極性障害の中間」ととらえて統合失調感情障害と同一視する誤解がありますが、提唱者自身は中間ではなく異質な病気と考えていました。両者は診断分類上、別の概念です。

非定型精神病は、統合失調症とどう違うとされてきたのですか?

急に発症すること、多彩な症状が現れて症状が動きやすいこと、意識がぼんやりする(意識の変容)ことがある、経過が周期的で寛解しやすいこと、予後が比較的良好なこと、心のストレスや体の要因がきっかけとして認められやすいことなどが、統合失調症との違いとして挙げられてきました。統合失調症は緩やかに発症して慢性的に経過しやすいとされるのに対し、非定型精神病は良くなりやすいと考えられてきた点が大きな特徴です。

最近この診断名をあまり聞かないのはなぜですか?

診断のよりどころが、DSMやICDといった国際的な診断基準に移ってきたためです。これらの基準に非定型精神病という項目はなく、症状の続く期間などによって短期精神病性障害・統合失調症様障害(DSM-5)や急性一過性精神病性障害(ICD-10)といった別の名前に振り分けられます。そのため、この診断名を新たに使う機会は減っています。

昔この診断を受けました。今できることは何ですか?

現在の主治医に、今の診断がどう整理されているかを尋ねてよいと考えてください。診断名は時代や基準の変化で呼び方が変わることがあり、名前が変わったからといって誤診だったとは限りません。また、この概念は自己免疫性脳炎など体の病気と症状が似ることが指摘されており、経過や年齢によっては血液検査や画像検査で体の病気を確かめることが大切です。気になる点は診察で相談してください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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