はじめに
診断書を提出して、いざ休職が始まると、多くの方が戸惑います。「休んでいいと言われたけれど、何をすればいいのか分からない」「一日中家にいて、これで回復するのだろうか」——毎日会社に行く生活が突然なくなると、時間の使い方そのものが分からなくなるのです。
結論から言えば、休職中の過ごし方は回復の段階によって変わります。序盤にすべきことと、終盤にすべきことは正反対と言ってもいいくらいです。この記事では、休職期間をおおまかに3つの段階に分けて、「やること・やらなくていいこと」を整理します。
なお、ここでの説明は一般的な目安です。実際のペースは診察のなかで主治医と確認しながら進めてください。当院では休職中は2週間に一度の通院をおすすめしています。
まず最初に——手続きだけ片づけて、あとは休む
休職に入ったら、最初の数日で「生活を守る手続き」だけ確認しておきましょう。
- 傷病手当金の申請の段取り(休職中が無給の場合)。制度の全体像は傷病手当金について、金額と期間はこちらの記事へ。
- 医療費の負担軽減。通院が続きそうなら自立支援医療制度(原則1割負担)の申請を検討します。
- 会社との連絡ルール。窓口になる人と頻度を決めておくと、「いつ連絡が来るか」と怯えずにすみます。
- 診断書の期限の確認。当院では休職診断書は原則1か月ごとに作成し、毎月の診察で延長を判断します。期限が切れる前の受診を忘れずに(休職診断書のもらい方)。
お金と手続きの見通しが立つだけで、不安はかなり軽くなります。ここまで済んだら、あとは休むことに専念してください。
第1段階: とにかく休む時期——「何もしない」が仕事
休職序盤の仕事は、休むことそのものです。
この時期は、たくさん眠る方が多くいます。昼過ぎまで起きられない、一日中横になっている——それでいいのです。張り詰めてきた心と体が、これまで足りなかった休息を取り戻している時期だと考えてください。
やらなくていいこと、むしろやらないでほしいことを挙げます。
- 生活リズムを無理に整えようとしない。 規則正しい生活は回復の後半で自然に戻ってきます。序盤から「朝型に戻さねば」と頑張ると、休息そのものが削られます。
- 資格の勉強や運動を「せめて何か」と詰め込まない。 焦る気持ちはよく分かりますが、回復をかえって遅らせることがあります。
- 仕事のメールやチャットを見続けない。 可能なら通知を切りましょう。
- 「怠けているのでは」と自分を責めない。 休養は治療の一部です。罪悪感が強くてつらいときは、その気持ち自体を診察で話してください。
「休んでいるのに回復しない」と焦ったら
この時期によくあるのが、「もう2週間も休んだのに、全然良くなっていない」という焦りです。うつ状態からの回復は、体力の回復よりずっとゆっくり進みます。数週間単位の「まだ変わらない」時期は想定内で、治療がうまくいっていないサインではありません。焦りが強くて休めなくなっているときは、その焦り自体を診察で扱うことができますので、遠慮なく話してください。
うつ病で休職している方の休養については、うつ病の休養の取り方でさらに詳しく書いています。
第2段階: 回復してくる時期——「快」を少しずつ増やす
眠り続ける時期を抜けると、少しずつ「退屈だな」と感じる瞬間が出てきます。これは回復のサインです。
この時期にやってみてほしいのは、楽しい・心地よいと感じる小さな活動を、無理のない範囲で増やしていくことです。
- 近所を散歩する、日中に少し外の光を浴びる(5〜10分のごく短い散歩でも意味があります)
- 好きな音楽・動画・本など、頭を使いすぎない娯楽
- 簡単な家事や料理を「できる日だけ」やる
- 気の置けない相手と短時間会う
「気分が戻ってから動く」を待たない——行動活性化の考え方
うつ状態のときは、「やる気が出たら動こう」と考えがちです。ところが、うつの回復では順序が逆になることが知られています。気分が先に戻るのを待つのではなく、負担の小さい行動を先に試すと、その結果として気分が少しずつ持ち上がってくる——認知行動療法ではこれを「行動活性化」と呼び、活動の減少と気分の悪化の悪循環を断つ入口として重視されています。
コツは3つです。
- 「やらねばならないこと」ではなく「やりたいこと・心地よいこと」から再開する。 義務のリハビリは後回しで構いません。
- 目標はばかばかしいほど小さくする。「毎朝ジョギング」ではなく「ベランダに出て外の空気を吸う」。達成できる大きさまで刻むのがポイントで、できた事実の積み重ねが「自分はまだ動ける」という感覚を取り戻させてくれます。
- できた・できなかったを、自分の価値の採点にしない。 できなかった日は「目標が今の体調よりまだ大きかった」という情報にすぎません。翌日、もう一回り小さくして試せばよいのです。
調子の波と「やりすぎ→ダウン」のペース配分
この時期には調子の波があって当たり前です。よく動けた翌日にぐったりする、いわゆる「揺り戻し」はこの時期の定番で、失敗ではありません。
一つだけ気をつけたいのが、「調子がいい日に一気に頑張り、翌日から数日寝込む」というパターンの繰り返しです。動ける日にたまった家事や用事をまとめて片づけたくなるのは自然な心理ですが、これを繰り返すと活動量が乱高下して、平均するとかえって回復が進みません。調子がいい日ほど「まだやれそう」の少し手前でやめておく——翌日に疲れが残らない量を目安に、少しずつ底上げしていくのが結局の近道です。
生活リズムもこの頃から意識し始めます。起きる時間をだいたい揃える、朝に一度外に出る、くらいの緩やかさで十分です。
第3段階: 復職準備の時期——生活を「勤務の形」に近づける
体調が安定し、日中の活動が続けられるようになってきたら、復職を見据えた準備に入ります。目安として意識したいのは次のような状態です。
- 決まった時間に起きて、日中眠らずに過ごせる
- 通勤にあたる時間帯・経路で外出できる
- 図書館などで一定時間、読書や作業に集中できる
- 活動した疲れが翌日までに回復する
これらは、職場復帰の可否を判断するときに用いられる観点とも重なります。図書館やカフェで午前中を過ごす「模擬出勤」的な練習や、会社の制度としての試し出勤・リワーク支援については、「試し出勤」とリワークと復職の5ステップで詳しく解説しています。
ゴールは「発症前の自分に完全に戻る」ことではない
復職準備で見落とされがちな点をひとつ。休職に至った時点の働き方が、長時間労働や無理な頑張りの上に成り立っていた場合、「元どおり」をゴールにすること自体が再発の準備になってしまうことがあります。精神科の治療でも、発症前の状態が無理を重ねた過剰適応だった場合には、そこへ戻ることではなく、続けられる現実的な働き方を新しい目標に据えることが大切だと考えられています。休職は、働き方のペース配分を見直す機会でもあります。復職面談で業務量や残業の調整を相談することは、甘えではなく再発予防です。
復職のタイミングは、焦りが出やすいところです。「休職期間の上限が近い」「同僚に申し訳ない」という理由で早めに戻ると、再発・再休職につながりやすくなります。復職可能かどうかの医学的な判断は診察のうえで行いますので、「そろそろ戻れそうか」を主治医に率直に聞いてください。
休職中にやらないでほしいこと——大きな決断
段階を問わず共通してお伝えしているのが、調子が悪い時期に人生の大きな決断をしないことです。
退職、離婚、引っ越し、高額な契約——うつ状態のときは、物事を実際よりも悲観的に見積もる方向に判断が傾きます。これは意志の弱さではなく、うつという状態そのものが持つ「ものの見え方のゆがみ」です。回復してから振り返ると「あのとき決めなくて本当によかった」とおっしゃる方がとても多いのです。
特に退職は、健康保険の傷病手当金の継続受給条件にも関わります(期間と金額の記事参照)。退職を考えるほどつらい気持ちになったときこそ、決める前に一度、診察でお話しください。
おわりに
休職中の過ごし方に、模範解答はありません。ただ、「序盤は徹底して休む」「回復してきたら小さな行動から快を増やす」「終盤に生活を勤務の形へ近づける」という大きな流れを知っておくだけで、「今日なにもできなかった」と自分を責める日は減るはずです。
不安なとき、判断に迷うときは、次の診察を待たずにご相談いただいて構いません。つらさが急に強まったときや、緊急を要すると感じたときは、救急(119)への連絡もためらわないでください。
よくある質問
休職中、ずっと寝てばかりです。これでいいのでしょうか?
休職の初期にたくさん眠るのは、多くの場合、自然な経過です。張り詰めてきた心と体が必要な眠りを取り戻している時期と考えられます。無理に生活リズムを整えようとせず、まずは眠れるだけ眠って構いません。眠り続ける時期がいつまでも続く場合や、逆に眠れない場合は、診察のときにご相談ください。
休職中に外出したり遊んだりしてもいいのでしょうか?
回復が進んでくれば、散歩や買い物などの外出はむしろ回復の後押しになります。「休職中に外出してはいけない」という決まりはありません。うつ状態の回復では、気分が戻るのを待ってから動くのではなく、負担の小さい心地よい活動を先に少しずつ増やすことが役立つと考えられています。どの段階でどのくらい活動するかは体調によって変わるため、迷ったら診察で確認してください。SNSへの投稿など、職場との関係で誤解を招きやすいものには少し注意が必要です。
休職中に退職や引っ越しを決めてもいいですか?
調子が悪い時期の大きな決断は、できるだけ先送りすることをおすすめしています。うつ状態のときは物事を実際より悲観的に判断しやすく、回復してから「あのとき決めなくてよかった」と感じる方が多いためです。退職を考えるほどつらいときこそ、まず主治医に話してみてください。
休職中は会社とどのくらい連絡を取ればいいですか?
連絡の窓口(誰と)と頻度(どのくらい)を、休職に入る時点で決めておくのが理想です。多くの場合、月1回程度、人事や上司と近況を共有する形になります。診断書の更新時期が連絡のタイミングの目安になることも多いです。連絡自体が大きな負担になっている場合は、診察でご相談ください。