福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

「会社員なら休職して傷病手当金がもらえるけど、自分は休んだらそのまま収入ゼロ」「取引先に穴をあけたら次の仕事がなくなる。だから倒れるまで止まれない」――フリーランスや自営業、個人事業主の方から、こうした言葉を聞くことは少なくありません。

働き方の自由と引き換えに、フリーランスには会社員のようなセーフティネットが薄いという現実があります。特にメンタル不調では「休養」が治療の柱になることが多いため、「休む=収入ゼロ」の構造は、受診の遅れや治療の中断に直結しやすい問題です。

この記事では、フリーランス・自営業の方がメンタル不調になったときに直面する制度上の現実、それでも使える公的制度と自衛策、仕事を全部やめなくてもよい「段階的な休み方」、そして早めに受診することの意義をお伝えします。

国民健康保険には、原則「傷病手当金」がない

会社員が病気で働けなくなったとき、生活を支える代表的な制度が健康保険の傷病手当金です。しかしこの制度は、会社員などが加入する健康保険(被用者保険)の給付であり、フリーランス・自営業の方の多くが加入する国民健康保険では、法律上任意給付とされていて、実施している市区町村は基本的にないのが現状です。

つまり、フリーランスがメンタル不調で仕事を休んでも、会社員のように「給与のおよそ3分の2相当の手当を受けながら休む」という形は、原則として使えません。これが「休む=収入ゼロ」の構造の中心にあります。

例外的な場合もあります。建設業や理美容業などの一部の国民健康保険組合には、独自の傷病手当金に相当する給付を設けているところがあります。また、会社を辞めて間もない方は、退職前から傷病手当金を受けていた(または受けられる状態だった)場合に、一定の条件で退職後も継続して受給できることがあります。ご自身がどの保険に加入しているかを確認し、加入先の窓口に問い合わせてみてください。

なお、会社員の方の傷病手当金については傷病手当金はいつ振り込まれるかの記事などで別途解説しています。この記事は、その仕組みが使えない立場の方に向けた補完という位置づけです。

それでもフリーランスが使える制度

傷病手当金がないからといって、何の支えもないわけではありません。金額や条件は個別に異なるため断定はできませんが、知っておく価値のある制度を概観します。

自立支援医療(精神通院医療)――精神科への通院医療費の自己負担を軽くする制度です。認定されると通院・薬の自己負担割合が下がり、所得に応じた月ごとの負担上限も設けられます。収入が不安定なフリーランスにとって、「通院を続けるコスト」を下げられる意味は大きく、まず検討したい制度です。詳しくは精神科の医療費を軽くする3つの制度の記事をご覧ください。

精神障害者保健福祉手帳――一定の精神疾患のため生活や仕事に制約がある方が対象の手帳制度で、税の控除や公共サービスの割引などにつながります。

障害年金――症状が重く、生活や就労への支障が長く続く場合に検討する制度で、国民年金加入者は障害基礎年金の対象になります。フリーランスだから対象外、ということはありません。詳しくは精神疾患と障害年金の記事で解説しています。

国民年金保険料の免除・納付猶予――収入が大きく下がったときは、国民年金保険料の免除や納付猶予を申請できます。未納のまま放置すると、将来の年金だけでなく、いざというときの障害年金の受給要件にも影響しうるため、「払えないから放置」ではなく「免除を申請する」ことが大切です。

労災保険の特別加入(2024年11月から対象拡大)――労災保険は本来労働者の制度ですが、特別加入という仕組みがあり、2024年11月からは業種を問わずフリーランス全般が任意で加入できるようになりました。仕事が原因のけがや病気に備える選択肢が広がっています。

自衛策としての備え――一般論として、小規模企業共済のような事業者向けの積立制度や、民間の所得補償保険・就業不能保険で「働けない期間」に備えている方もいます。すでに加入している共済や保険があれば、病気で働けない場合の給付が含まれていないか、約款を確認してみる価値があります。

「休む=収入ゼロ」だからこそ、受診が遅れやすい

フリーランスの方の診察で感じるのは、受診のタイミングが遅くなりがちだということです。理由ははっきりしています。「病院に行って『休みなさい』と言われたら困る」からです。収入の心配、取引先への責任、代わりのいない仕事。休めない理由が積み重なって、「まだ大丈夫」と不調を先送りしているうちに、眠れない・集中できない・納期が守れない、と症状が仕事そのものを侵食していきます。

ここで知っておいていただきたいのは、受診=即・全面休業ではないということです。精神科を受診しても、いきなり「すべての仕事をやめてください」となるわけではありません。症状の程度を評価したうえで、治療しながら働き続ける選択肢も含めて相談していきます。むしろ早く受診するほど、軽い調整で済む可能性が高くなります。

逆に、限界まで我慢してから受診すると、症状が重くなっているぶん、しっかり休む期間が必要になりやすい――つまり「休みたくないから受診しない」という選択が、結果的に長い休業を招くことがあるのです。

仕事量の調整という「段階的な休み方」

会社員の休職は「休むか、働くか」の二択になりがちですが、フリーランスには仕事量を自分で調整できるという強みがあります。休み方を段階で考えてみましょう。

  • 第1段階: 新規の依頼を一時的に断る。営業活動を止める。今抱えている仕事だけに絞る。
  • 第2段階: 継続案件のうち、負担の大きいもの・納期の厳しいものから減らす。単価や相性で「残す仕事」を選ぶ。
  • 第3段階: 取引先に事情を伝えて納期を調整し、稼働時間を大きく減らす。
  • 第4段階: 一定期間、仕事を止めて療養に専念する。

どの段階が適切かは症状の程度によります。軽いうちに受診すれば第1〜2段階の調整と治療で回復を目指せることも多く、これは収入の落ち込みを最小限にする方法でもあります。取引先への説明が必要な場面では、診断書が調整の助けになることもあります。

当院での実際

当院(福岡県春日市の精神科・心療内科)では、フリーランス・自営業の方の「休めない事情」も含めて、診察のなかで働き方と治療の両立を一緒に考えています。

  • 療養が必要と判断した場合の診断書は、診察の結果必要と判断すれば初診当日に発行することもあります。取引先との調整などで急ぎ必要な事情があれば、診察時にお伝えください。
  • 療養のための診断書は1か月毎に作成しています。長期分をまとめて出すのではなく、毎月の診察で状態を確認しながら、療養期間を見直していく方針です。
  • 自立支援医療などの制度の利用は、診察のなかでご相談いただけます。精神保健福祉手帳や障害年金の診断書は、当院で一定期間通院したうえで作成を判断しています。
  • 通院は2週間に一度を基本とし、仕事量の調整がうまくいっているか、症状がどう動いているかをこまめに確認しながら進めます。
  • 初診は問診を含めて30分程度を目安にお時間を取っています。予約はWEB(デジスマ)から取れますので、繁忙の合間でも受診の計画を立てやすいと思います。

まとめ――止まれない働き方だからこそ、早めの一手を

フリーランス・自営業の方には、国民健康保険には原則傷病手当金がないという厳しい現実があります。しかし、自立支援医療で通院コストを下げる、国民年金保険料の免除を申請する、状態によっては手帳や障害年金を検討する、労災の特別加入や共済・保険で備える――使える手立てはあります。

そして何より、フリーランスには「仕事量を自分で調整できる」という強みがあります。全部を止めなくても、段階的に負荷を下げながら治療する道があり、それは早く受診するほど選びやすくなります。「休んだら終わり」と我慢を重ねることのほうが、結果的に長く仕事を止めるリスクを高めます。

すでに通院中の方は、仕事や収入の不安も含めて主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科です。「休むわけにはいかない」と踏ん張っているフリーランス・自営業の方にこそ、早めに立ち寄っていただきたいと考えています。受診をご希望の方は、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

よくある質問

フリーランス・自営業でも傷病手当金はもらえますか?

原則として受け取れません。傷病手当金は健康保険(会社員などが加入する被用者保険)の制度で、フリーランス・自営業の方が加入する国民健康保険には、法律上任意給付とされており、実施している市区町村は基本的にないのが現状です。ただし、業種によっては国民健康保険組合に独自の給付がある場合や、退職後も一定の条件で健康保険の傷病手当金を継続受給できる場合があります。ご自身の加入している保険の種類を確認したうえで、加入先の窓口に問い合わせてみてください。

フリーランスがメンタル不調で使える公的制度には何がありますか?

通院の医療費負担を軽くする自立支援医療(精神通院医療)、税の控除や各種サービスにつながる精神障害者保健福祉手帳、症状が重く生活や仕事に長く支障が続く場合の障害年金、収入が下がったときの国民年金保険料の免除・納付猶予の申請などがあります。また2024年11月からは、労災保険の特別加入の対象がフリーランス全般に大きく広がりました。どの制度が使えるかは状態や状況によって異なるため、診察のなかで相談しながら順に検討していくのが現実的です。

休むと収入がなくなるので、仕事を続けながら治療できますか?

多くの場合、可能です。休むことは「全部やめるか、全部続けるか」の二択ではありません。新規の依頼を一時的に断る、納期に余裕のある案件だけ残す、稼働時間を減らすなど、仕事量を段階的に落とす形の休み方があります。フリーランスは仕事量を自分で調整しやすい立場でもあるので、症状の程度に応じて、治療と両立できる働き方を診察のなかで一緒に考えていきます。ただし症状が重い場合には、しっかり休む期間が必要になることもあります。

収入が不安定で医療費が心配です。通院を続けられるでしょうか?

精神科の通院には、自立支援医療(精神通院医療)という公的制度があり、認定されると通院・薬にかかる自己負担が軽くなります。所得に応じた月ごとの負担上限も設けられています。制度の利用は診察のなかでご相談いただけますので、費用が心配で通院をためらっている方は、その不安をそのままお伝えください。医療費の制度については別の記事でも詳しく解説しています。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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