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連載「障害年金・手帳と働き方ガイド」第1回(全4回)

「病気で思うように働けず、この先の生活費が不安」――精神科・心療内科に通院している方から、そのようなご相談をいただくことは少なくありません。そんなとき、生活を支える制度のひとつに「障害年金」があります。

障害年金というと「身体の障害のある方の制度」というイメージを持たれがちですが、うつ病や双極性障害、統合失調症、発達障害といった精神疾患も対象になりうるとされています。一方で、しくみが複雑で「自分が対象になるのか分からない」「何から始めればいいのか分からない」という声も多く聞かれます。

この記事では、精神疾患と障害年金の基本的な考え方、申請の大まかな流れ、そして主治医への診断書の相談の仕方について、初めての方にも分かるように整理してお伝えします。

障害年金とは――病気やけがで生活や仕事が制限されたときの公的年金

障害年金は、病気やけがによって生活や仕事が長期にわたり制限される状態になったときに受け取れる公的年金です。「年金」という言葉から老後のものと思われがちですが、障害年金は現役世代の方も受け取りうる制度とされています。

大切なのは、対象が身体の障害に限らないという点です。精神疾患によって日常生活や就労に大きな支障が続いている場合も、一定の要件を満たせば対象になりうるとされています。具体的には、うつ病、双極性障害(そううつ病)、統合失調症、発達障害(自閉スペクトラム症・注意欠如多動症など)、てんかんなどが挙げられます。

一方で、診断名がついていれば必ず受け取れる、というものではありません。症状の重さや、日常生活・仕事にどの程度の支障が出ているか、後述する初診日や保険料の要件を満たしているかなどを総合的にみて判断されます。「自分は対象になるのだろうか」と迷う段階でも、まずは相談してみることが第一歩になります。

障害基礎年金と障害厚生年金の違い

障害年金には、大きく分けて「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。どちらの対象になるかは、その病気で初めて医療機関を受診した日(初診日)に、どの年金制度に加入していたかで決まるとされています。

  • 障害基礎年金: 初診日に国民年金に加入していた方(自営業の方、学生の方、専業主婦・主夫の方など)が対象です。障害等級は1級・2級があります。
  • 障害厚生年金: 初診日に厚生年金に加入していた方(会社員・公務員の方など)が対象です。1級・2級に加えて、より軽い状態を対象とする3級や、一時金である障害手当金の制度もあるとされています。

一般に、障害厚生年金のほうが対象となる範囲が広く、金額の面でも上乗せがあるとされます。「初診日に会社員だったか、それとも退職後だったか」で受けられる年金の種類が変わりうるため、初診日がいつだったのかはとても重要な情報になります。

金額は加入状況やお子さんの有無などによって異なり、あくまで目安のしくみですので、ご自身の場合の見込みについては年金事務所などの公的な窓口でご確認ください。

押さえておきたい3つの基本概念――初診日・保険料納付要件・障害認定日

障害年金のしくみを理解するうえで、次の3つの言葉を知っておくと相談がスムーズになります。

初診日

その障害の原因となった病気について、初めて医師の診療を受けた日のことです。精神疾患の場合、最初は内科で不眠や体調不良を相談していた、という方も多く、その内科受診が初診日と扱われることもあるとされています。初診日は「どの年金の対象になるか」「保険料の要件を満たすか」を判断する起点となるため、申請では初診日を証明する書類(受診状況等証明書など)が求められるのが一般的です。

昔のことで記憶があいまいな場合や、当時の医療機関がすでに閉院している場合など、初診日の確認が難しいケースもありますが、対応方法が用意されていることもありますので、あきらめる前に窓口へ相談してみてください。

保険料納付要件

初診日の前日の時点で、年金保険料を一定以上納めている(または免除の手続きをしている)ことが求められます。おおまかには「加入期間のうち3分の2以上の納付・免除」または「直近1年間に未納がない」ことが目安とされていますが、正確な判定は年金事務所で記録を確認してもらうのが確実です。過去に免除申請をしていた期間も納付要件の計算に含まれうるため、「未納があるからだめだ」と自己判断せず、まず記録を確認してもらいましょう。

障害認定日

原則として、初診日から1年6か月を経過した日(それまでに症状が固定したと認められる場合はその日)を指すとされています。この時点の障害の状態をもとに等級が判断されるのが基本の形です。また、障害認定日の時点では申請していなかった方が、後から状態が悪化した場合などに現在の状態で申請する方法(事後重症による請求)もあるとされています。

申請の大まかな流れ――窓口相談から書類提出まで

障害年金の申請は、おおよそ次のような流れで進みます。

  1. 窓口に相談する: 障害厚生年金は年金事務所、障害基礎年金は年金事務所または市区町村の年金窓口が相談先です。ここで初診日や納付要件を確認してもらい、必要な書類一式を受け取ります。最初の相談は、ご本人でなくご家族が行くこともできるとされています。
  2. 初診日を証明する書類を集める: 初診の医療機関が現在の通院先と異なる場合は、当時の医療機関に受診状況等証明書の作成を依頼します。
  3. 主治医に診断書を依頼する: 精神疾患の場合は「精神の障害用」の様式の診断書を、主治医に作成してもらいます。
  4. 病歴・就労状況等申立書を作成する: 発病から現在までの経過や、日常生活・就労の状況を、ご本人(またはご家族)が時系列で記載する書類です。診断書が医師の視点からの記録であるのに対し、この申立書はご本人の視点から生活の実情を伝える大切な書類とされています。
  5. 書類一式を提出し、審査を待つ: 提出後、審査には数か月程度かかることが多いとされています。結果は文書で通知されます。

書類の種類が多く、初めての方には負担の大きい手続きですが、窓口で一つずつ確認しながら進めれば大丈夫です。体調がすぐれない時期に無理をせず、ご家族の力も借りながら進めていきましょう。

主治医への診断書の相談の仕方とタイミング

障害年金の申請で中心となる書類が、主治医の作成する診断書です。依頼にあたって、次の点を知っておくとスムーズです。

まず、障害年金の診断書は、休職のための診断書とは異なり、日常生活の状況を細かく記載する専門的な書類で、一定期間の診療経過をふまえて作成されます。そのため、通院を始めてすぐに「書いてください」とお願いしても、まだ経過の情報が足りず、すぐには作成が難しいことが一般的です。まずは診察のなかで「障害年金を考えているのですが、相談できますか」と早めに一言伝えていただくと、主治医もその視点で経過を把握しやすくなります。

また、診断書には「指定の時点(障害認定日や現在)の状態」を記載する必要があるため、年金事務所で流れを確認し、どの様式の診断書がいつの時点について必要かが分かってから正式に依頼すると、行き違いが起こりにくくなります。

依頼の際には、日頃の生活の様子を具体的に伝えることも大切です。診察室でのやりとりだけでは、ご自宅での様子まで主治医が把握しきれないことがあります。食事や睡眠、清潔の保持、金銭管理、外出、人づきあいなどについて、困っていることをメモにして持参していただくと、実情に沿った診断書につながりやすくなります。

障害年金の診断書を作成できるかどうかは、病状や通院期間をふまえて医師が個別に判断します。作成には一定の期間と文書料がかかりますので、通院中の方は余裕をもって診察時にご相談ください。

審査で重視される「日常生活能力」――ふだんの生活を正直に伝える

精神疾患の障害年金では、診断名そのものよりも「日常生活にどの程度の支障があるか」が重視されるとされています。診断書には、適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達や対人関係、身辺の安全保持や危機対応、社会性といった項目について、日常生活能力の程度を評価する欄があります。

ここで大切なのは、「調子のよいときの自分」ではなく「ふだんの、援助がない場合の状態」を基準に伝えることです。まじめな方ほど「頑張ればできます」と実際より良く答えてしまいがちですが、実際には家族の声かけがないと食事がとれない、疲れ果てて何日も入浴できない、といった実情があるなら、それをそのまま伝えてください。よく見せる必要はまったくありません。

就労についても同様です。働いていること自体で対象外になるわけではなく、周囲の配慮の内容、勤務日数や勤務後の消耗の程度など、実態が考慮されるとされています。「短時間勤務でも帰宅後は動けなくなる」といった実情も、遠慮なく主治医や窓口に伝えましょう。

傷病手当金との関係、社労士という選択肢

休職中の方は、健康保険の傷病手当金を受け取っていることも多いと思います。傷病手当金と障害年金は別の制度であり、申請自体は並行して考えられますが、同じ病気について両方を同時に満額受け取れるわけではなく、「併給調整」というしくみで金額が調整されることがあるとされています。どちらをどう受けるのがよいかはお一人おひとりの状況で異なりますので、加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)や年金事務所で、ご自身のケースを確認してください。

また、申請手続きを社会保険労務士(社労士)に依頼するという選択肢もあります。書類集めや申立書の作成を代行・サポートしてもらえる一方、報酬(費用)がかかります。ご自身やご家族で窓口に相談しながら進める方も多くいらっしゃいますので、体調や手続きの複雑さに応じて検討するとよいでしょう。依頼する場合は、障害年金を専門的に扱っている社労士かどうか、費用の体系が明確かを確認して選ぶと安心です。

なお、審査の結果、希望どおりの等級にならなかったり不支給となったりすることもあります。落ち込んでしまうお気持ちは自然なことですが、不服申立て(審査請求)や、状態が変わったときの再申請といった道も用意されているとされています。結果に納得がいかないときも、一人で抱え込まず、窓口や主治医に相談してください。

受診の目安――こんなときはご相談ください

次のような状況にあてはまる方は、診察のなかでお気軽にご相談ください。

  • 精神疾患の症状のために働くことが難しく、生活費への不安が大きい
  • 休職や退職が続いており、傷病手当金の期間終了後の生活が心配
  • 障害年金を考えているが、自分が対象になるのか分からない
  • 家族が精神疾患で療養しており、利用できる制度を知りたい

通院中の方は、障害年金の診断書について診察のなかでご相談いただけます(作成の可否は病状・通院期間をみて医師が判断します)。制度の要件確認や金額の見込みなどの詳細は、年金事務所や市区町村の窓口でご確認いただく必要がありますが、「主治医としてどう関われるか」という部分は診察で一緒に考えることができます。

なお、気分の落ち込みが強く「消えてしまいたい」という気持ちが差し迫っているなど、緊急を要する状態のときは、制度の手続きよりもまず治療が優先です。通院中の方は当院・主治医にご連絡いただき、命に関わる緊急時は救急(119)を利用してください。

まとめ

  • うつ病・双極性障害・統合失調症・発達障害などの精神疾患も、障害年金の対象になりうるとされています。
  • 初診日にどの年金制度に加入していたかで、障害基礎年金・障害厚生年金のどちらの対象になるかが変わります。
  • 「初診日」「保険料納付要件」「障害認定日」の3つが基本の概念です。正確な要件はご自身で判断せず、年金事務所や市区町村の窓口で確認しましょう。
  • 審査では日常生活への支障の程度が重視されるとされます。ふだんの生活の実情を、よく見せずそのまま主治医や窓口に伝えることが大切です。
  • 診断書の依頼は早めの一言から。作成の可否は病状や通院期間をふまえて医師が判断しますので、通院中の方は診察でご相談ください。
  • 傷病手当金との併給調整や社労士への依頼など、個別の判断が必要な点は公的な窓口・公式サイトでご確認ください。

制度は複雑ですが、一つずつ進めれば道は開けます。療養と生活の両方を支えるために、主治医と窓口をうまく頼りながら進めていきましょう。

よくある質問

うつ病でも障害年金の対象になりますか?

うつ病も障害年金の対象になりうる疾患のひとつとされています。ただし、診断名だけで決まるのではなく、症状の重さや日常生活・就労への影響の程度、初診日や保険料の納付状況などの要件を総合的にみて判断されます。詳しくは年金事務所や市区町村の窓口でご確認ください。

働いていると障害年金はもらえないのでしょうか?

働いていることだけで対象外になるわけではないとされています。就労の有無だけでなく、周囲の配慮の内容や勤務の実態、日常生活の状況などを含めて総合的に評価されます。個別の見通しについては年金事務所などの窓口でご相談ください。

診断書は受診したらすぐに書いてもらえますか?

障害年金の診断書は、一定期間の診療経過をふまえて作成する書類のため、初診してすぐに作成することは難しいのが一般的です。診断書を作成できるかどうかは、病状や通院期間をふまえて医師が個別に判断しますので、まずは診察のなかで主治医にご相談ください。

傷病手当金をもらっていても障害年金は申請できますか?

申請自体は可能とされていますが、両方を同時に満額受け取れるわけではなく、併給調整というしくみで金額が調整されることがあります。ご自身の場合にどうなるかは、加入している健康保険の窓口や年金事務所でご確認ください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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