福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

連載「障害年金・手帳と働き方ガイド」第3回(全4回) 第1回から読む →

通院を続けるなかで、「精神障害者保健福祉手帳」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。市区町村の案内で見かけた、職場の産業医から聞いた、ネットで調べていて出てきた――きっかけはさまざまでも、多くの方が同じような戸惑いを口にされます。「自分は対象になるのだろうか」「取ると何が変わるのか」「会社に知られたりしないだろうか」。

この記事では、精神障害者保健福祉手帳のしくみ、受けられる支援の例、よくある不安、申請の流れを順にご説明します。先にお伝えしたいのは、手帳の取得は義務ではなく、あくまで「使える選択肢のひとつ」だということです。取る・取らないに正解はなく、ご自身の状況に合わせて考えていただければ十分です。

精神障害者保健福祉手帳とは

精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患のために日常生活や社会生活に制限がある方が、さまざまな支援を受けやすくするための公的な手帳です。都道府県知事(または政令指定都市の市長)が交付するもので、根拠となる法律は精神保健福祉法です。

手帳には障害の程度に応じて1級から3級までの等級があります。おおまかにいうと、1級は日常生活のほとんどに常時援助が必要な状態、2級は日常生活に著しい制限がある状態、3級は日常生活や社会生活に一定の制限がある状態が目安とされています。どの等級に該当するかは、医師の診断書をもとに審査機関が判定します。通院しながら働いている方が3級や2級と判定されることも珍しくありません。

有効期限は2年間で、継続して利用したい場合は更新の手続きをします。この「2年ごとの更新制」は後ほど詳しくふれますが、手帳を考えるうえで大切なポイントです。

なお、申請にはその精神疾患について初めて医療機関を受診した日(初診日)から6か月以上が経過していることが必要です。初診から間もない時期には申請できないため、「そろそろ半年になる」という段階で主治医に相談していただくのがよいかと思います。

どんな疾患が対象になるのか

対象となるのは、精神疾患により長く日常生活や社会生活への支障が続いている状態です。疾患名でいえば、たとえば次のようなものが含まれます。

  • うつ病、双極性障害(躁うつ病)などの気分障害
  • 統合失調症
  • 不安障害や強迫性障害などで生活への支障が大きい場合
  • 発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)
  • てんかん
  • 高次脳機能障害
  • 依存症などの精神作用物質による精神疾患

たとえば、うつ病で休職を繰り返している方、発達障害の特性のために職場での困りごとが続いている方、統合失調症の治療を続けながら生活を立て直している方など、状況は人によってさまざまです。「この病名なら必ず取れる」「この病名では取れない」と単純に決まるものではなく、疾患名に加えて、症状によって生活にどの程度の支障が生じているかが総合的に判断されます。診断名だけで自己判断せず、気になる方は主治医に「自分は対象になりそうでしょうか」と聞いていただくのが確実です。

手帳で受けられる支援の例

手帳を持つことで受けられる支援は、全国共通のものと、自治体や事業者によって異なるものがあります。代表的なものをご紹介します。

税金の優遇

所得税や住民税の障害者控除の対象となり、税負担が軽くなる場合があります。等級によって控除の区分が変わることがあります。ご家族の扶養に入っている場合には、扶養している方の税負担に関係することもあります。具体的な金額や適用条件は状況によって異なりますので、詳しくは税務署やお住まいの自治体でご確認ください。

公共料金・交通機関などの割引

自治体によっては、公共交通機関の運賃割引、公共施設の利用料減免、携帯電話料金の割引プランの適用などが受けられることがあります。ただし、この分野は自治体差・事業者差がとても大きいところです。「手帳があれば必ず割引される」とは限りませんので、どんな支援があるかは、お住まいの自治体の窓口や各事業者にご確認いただくのが確実です。

障害者雇用という働き方の選択肢

手帳を持っていると、「障害者雇用」という枠組みで働くことを選べるようになります。障害者雇用では、通院への配慮、業務量や勤務時間の調整、体調に応じた働き方の相談など、一般雇用よりも配慮を受けやすい環境で働ける場合があります。

もちろん、手帳を持っていても一般雇用で働き続けることは自由です。手帳は「障害者雇用でしか働けなくなる」ものではなく、「働き方の選択肢がひとつ増える」ものと捉えていただくとよいかと思います。休職からの復職や転職を考えるとき、選択肢が広がることは心の余裕にもつながります。

その他の福祉サービス

自治体によっては、福祉手当や医療費の助成、公営住宅への入居における配慮など、独自の支援を設けている場合があります。内容は地域によって大きく異なりますので、お住まいの市区町村の障害福祉窓口で「手帳を持っているとどんな支援がありますか」と尋ねてみてください。

よくある2つの不安――「知られる?」「一生もの?」

「会社に知られてしまうのでは」

手帳をためらう理由として最も多くうかがうのが、この心配です。結論からお伝えすると、原則として、ご自身から伝えない限り会社に知られることはありません。

手帳を取得しても、その情報が勤務先や学校に自動的に通知される仕組みはありません。マイナンバーから勤務先が手帳の有無を照会できるわけでもありません。手帳を誰に見せるか、開示するかどうかは、ご本人がコントロールできます。

「では、どんなときに会社に伝わるのか」というと、基本的にはご自身が伝えることを選んだ場合です。たとえば、障害者雇用の制度を利用したいとき、年末調整で障害者控除を職場経由で申告するとき、などです。なお、税の控除については職場を通さず、ご自身で確定申告をする方法を選べる場合もあります。手続きの詳細は税務署などでご確認ください。

つまり、「手帳を持つこと」と「会社に開示すること」は別の話です。手帳を持ちながら誰にも伝えずに一般雇用で働いている方も、実際に多くいらっしゃいます。

「一生ものになってしまうのでは」

「一度手帳を取ったら、ずっと『障害者』というレッテルを背負うことになるのでは」という不安もよくうかがいます。この点も誤解されやすいところです。

先ほどふれたとおり、手帳の有効期限は2年間です。2年ごとに、更新するかどうかをご自身で選ぶことになります。症状が良くなり支援が必要なくなったと感じたら、更新せずにそのまま失効させることができますし、有効期限の途中でも返納することが可能です。

つまり手帳は、「必要な時期に、必要なあいだだけ使う」ことができる制度です。うつ病などでは、治療によって回復し、手帳を更新せずに卒業していく方も少なくありません。「今のつらい時期を乗り切るための、一時的なサポート」として利用するという考え方も十分に成り立ちます。

また、手帳を持っていた事実が戸籍や住民票に記載されることはありません。返納・失効すれば、日常生活のうえで手帳の履歴が残り続けるようなことは基本的にありません。

デメリットは実際のところどうなのか

メリットばかりを並べるのではなく、デメリットや負担についても率直にお伝えしたいと思います。

まず、手続きの手間があります。申請時には医師の診断書の作成と窓口での手続きが必要で、交付までに数か月程度かかることが一般的です。2年ごとの更新でも同様の手続きが必要です。診断書の作成には文書料もかかります(金額は医療機関により異なります)。

次に、心理的な抵抗感です。「手帳を持つ」ということ自体に気持ちの整理がつかない、という方は少なくありません。これはとても自然な感情で、無理に割り切る必要はないと考えています。迷いがあるうちは保留にして、必要性を感じたときに改めて考える、で構いません。

一方で、「生命保険に入れなくなるのでは」「ローンが組めなくなるのでは」という心配を聞くこともあります。保険や住宅ローンの審査は、手帳の有無そのものではなく、告知される病歴や健康状態にもとづいて行われるのが一般的です。手帳を持つこと自体が新たな不利益を生むというより、もともとの病状の告知の問題であることが多い、と整理していただくとよいかと思います。個別の契約条件については、各保険会社や金融機関にご確認ください。

総じて、手帳を「取ったこと自体」による決定的なデメリットは多くありません。手間と気持ちの負担を、受けられる支援と比べて考えていただくのがよいでしょう。

申請の流れ

実際の申請は、次のような流れで進みます。

  1. 市区町村の窓口で申請書類を受け取る ―― お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で、申請書と診断書の様式を受け取ります。自治体のホームページからダウンロードできる場合もあります。
  2. 主治医に診断書の作成を依頼する ―― 手帳用の診断書は所定の様式があり、初診日から6か月以上経過した時点以降の病状にもとづいて主治医が作成します。当院に通院中の方は、診察の際に「手帳の診断書を考えている」とお伝えください。当院では、一定期間通院していただき、経過を診たうえで作成できるかどうかを判断しています。作成にはお時間をいただくことがあります。
  3. 窓口に申請する ―― 診断書、申請書、写真などの必要書類をそろえて窓口に提出します。必要書類の詳細は自治体でご確認ください。
  4. 審査・交付 ―― 提出された書類をもとに審査が行われ、等級が判定されて手帳が交付されます。交付までは数か月程度かかることが多いようです。交付後、手帳は窓口での受け取りとなる場合と郵送される場合があり、これも自治体によって異なります。

更新の際も、おおむね同じ流れで手続きをします。有効期限の3か月ほど前から更新申請ができるとされていることが多いので、期限が近づいたら早めに主治医と窓口にご相談ください。

なお、障害年金を受給している方は、年金証書等を診断書の代わりに使える場合があります。該当する方は窓口でご相談ください。

診断書には何が書かれるのか

「診断書に何を書かれるのか分からないのが不安」という声もよくうかがいます。中身のイメージを持っていただくと、少し安心につながるかもしれません。

手帳用の診断書は、病名や治療経過だけを書くものではありません。中心になるのは、日常生活や社会生活にどの程度の支障があり、どんな援助が必要かという部分です。具体的には、食事や身のまわりの清潔の保持、金銭の管理、通院や服薬を自分で続けられるか、周囲の人との意思疎通や対人関係、危険から身を守れるか、役所の手続きや社会的な場面への参加、といった項目を、医師が診察で得た情報をもとに記載します。

このとき大切なのは、「調子のよい日ならできる」「家族の声かけがあればできる」「実際には家族が代わりにやっている」といった、条件つきの実態です。等級の審査も、病名の重さそのものではなく、こうした生活上の制約の程度をもとに行われます。仕事をしている方でも、職場の配慮や周囲の支えがあって成り立っている場合は、その事情も含めて評価されます。

ですから、診断書を依頼するときには、ふだんの生活で困っていること――たとえば「食事の準備が続かない」「支払いをよく忘れる」「体調の波で予定を守れない」など――を、遠慮せず具体的に主治医へ伝えてください。診察室での様子だけでは見えにくい生活の実態を共有していただくことが、実情に合った診断書につながります。もちろん、実際より重く見せるように伝える必要はありません。診断書はあくまで診察で確認できた事実にもとづいて作成するものですので、ありのままをお話しいただければ十分です。書かれる内容について気になることがあれば、作成前に医師へ確認していただいて構いません。

自立支援医療との違いと併用

手帳とよく混同されるのが「自立支援医療(精神通院医療)」です。両者は別の制度です。

自立支援医療は、精神科の通院医療費の自己負担を軽くする制度です。通常3割の自己負担が原則1割になり、所得に応じた月ごとの上限額も設けられます。対象は通院医療費に限られ、税の優遇や交通機関の割引などはありません。また、自立支援医療には「初診から6か月」という待機期間はなく、通院を始めて間もない時期でも申請できます。

一方、手帳は先にご説明したとおり、医療費以外のさまざまな支援につながる制度です。

この2つは併用できます。「通院費の負担を軽くしたい」だけであれば自立支援医療のみ、「税の優遇や障害者雇用も視野に入れたい」なら手帳も、というように、目的に応じて使い分けたり組み合わせたりできます。多くの自治体では同時申請が可能で、条件を満たせば1枚の診断書で両方を申請できる場合もあります。取り扱いはお住まいの自治体でご確認ください。自立支援医療の手続きの詳細は、自立支援医療(精神通院医療)の申請手続きの記事もご参照ください。

障害年金との違い

もうひとつ混同されやすいのが「障害年金」です。障害年金は、病気やけがのために働くことや生活に大きな支障がある場合に、年金として現金が支給される所得保障の制度です。手帳とは根拠となる法律も審査の仕組みも別で、手帳を持っていなくても障害年金を申請できますし、その逆も同じです。手帳の等級と障害年金の等級も、名前は似ていますが別々に判定されます。

「生活費そのものが心配」という場合は障害年金、「税の軽減やサービス、働き方の選択肢」という場合は手帳、と目的が異なります。障害年金について詳しくは、精神疾患と障害年金の記事をご覧ください。

一人で抱えなくてよい制度です――相談先の全体像

手帳をはじめとする福祉制度は種類が多く、「どこで何を相談すればよいのか分からない」こと自体が負担になりがちです。相談先の全体像を知っておくと、動きやすくなります。

  • 市区町村の障害福祉窓口 ―― 手帳の申請・更新の窓口であり、手帳で受けられる地域の支援やその他の福祉サービスについても案内してくれます。制度の入口として、まずここに尋ねるのが基本です。
  • 精神保健福祉センター ―― 都道府県・政令指定都市が設置している、こころの健康に関する専門機関です。制度のことに限らず、生活や療養に関する複雑な相談にも応じています。
  • 主治医・医療機関 ―― 医学的な面から、申請できる時期かどうか、あなたの状態で手帳がどんな意味を持ちそうかを一緒に考えます。

医療と福祉は役割の異なる仕組みですが、「あなたの生活を支える」という目的は共通しています。診察の場で「どこに何を相談すればよいか」を整理してお伝えすることもできますので、窓口めぐりで疲れてしまう前に、まず主治医に声をかけていただいて構いません。

主治医への相談の仕方――迷ったままで大丈夫です

最後に、主治医への相談についてです。「手帳のことを聞いたら、大げさに受け取られないだろうか」「まだ決めていないのに相談していいのだろうか」とためらう方がいらっしゃいますが、迷っている段階でのご相談こそ歓迎です。

診察の際に、たとえば次のように切り出していただければ十分です。

  • 「手帳という制度があると聞いたのですが、自分は対象になりそうですか」
  • 「取るかどうか迷っているのですが、私の場合のメリットはありますか」
  • 「初診から6か月経ちましたが、申請するとしたらどんな流れになりますか」

主治医は、これまでの経過や現在の症状をふまえて、申請できる時期かどうか、どの程度の等級が見込まれそうか、今のあなたにとって手帳がどんな意味を持ちそうかを一緒に考えることができます。相談したからといって、必ず申請しなければならないわけではありません。話を聞いたうえで「今回は見送る」という結論も、まったく問題のない選択です。

当院でのご相談について

当院でも、手帳の診断書のご相談をお受けしています。あわせて、当院での進め方を先にお伝えしておきます。

  • 手帳の診断書は、初診当日にすぐ作成するものではありません。当院では、一定期間通院していただき、症状の経過や生活の状況を診たうえで、作成できるかどうかを判断しています。診断書は診察で確認できた事実にもとづいて書く書類であり、経過を知らないままでは実態に合った記載ができないためです。
  • なお、制度上の「初診日から6か月以上」という要件は国の定めであり、当院での判断の期間とは別のものです。
  • これから初診で、手帳の診断書を視野に入れている方は、WEB問診票にその旨をご記載ください。
  • ご家族のみでのご相談はお受けしていません。ご本人の受診が前提となります。また、当院の診療対象は18歳以上の方です。

取るかどうか決めていなくても、迷っている段階でのご相談で構いません。まずは診察のときにお声かけください。

精神障害者保健福祉手帳は、あなたの生活を少し支えるための道具のひとつです。取ることも、取らないことも、あとで返すことも選べます。なお、体調が急激に悪化し身の危険を感じるような緊急時には、迷わず救急(119)に連絡するか、当院・主治医にご相談ください。

参考にした書籍

  • 「臨床精神医学」編集委員会 編『精神科診療に必要な書式マニュアル[第四版]』(臨床精神医学 第46巻増刊号、アークメディア、2017年)
  • 『精神科治療学』第36巻第7号 特集「行政や様々な公的機関等との協働―円滑な連携と関係構築のために―」(星和書店、2021年)

※書籍の内容は要約・再構成のうえ、一般的な情報として記載しています。制度の詳細は現行の公的資料・お住まいの自治体でご確認ください。

よくある質問

精神障害者保健福祉手帳を持っていると、会社に知られてしまいますか?

原則として、ご自身から伝えない限り会社に知られることはありません。手帳の情報が勝手に勤務先へ通知される仕組みはなく、開示するかどうかはご本人が選べます。障害者雇用の制度を利用する場合など、ご自身の判断で伝える場面を選ぶことができます。

手帳は一度取ったら一生持ち続けなければいけませんか?

いいえ。手帳の有効期限は2年で、更新するかどうかはそのつど選べます。更新せずに期限を迎えればそのまま失効しますし、途中で返納することも可能です。「一生もの」ではなく、必要な期間だけ利用できる制度とお考えください。

初診からすぐに申請できますか?

精神障害者保健福祉手帳の申請には、その精神疾患での初診日から6か月以上経過していることが要件とされています。初診から間もない時期には申請できませんので、時期が来たら主治医にご相談ください。

自立支援医療と手帳は同時に申請できますか?

多くの自治体で同時申請が可能とされており、条件を満たせば1枚の診断書で両方を申請できる場合もあります。取り扱いは自治体により異なりますので、お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。

手帳の診断書には、どんなことが書かれるのですか?

診断名や治療の経過に加えて、食事・清潔の保持・金銭管理・通院や服薬・対人関係など、日常生活や社会生活でどの程度の援助が必要かが中心に記載されます。病気の重さそのものよりも「生活にどれだけ支障があるか」を伝える書類ですので、ふだんの生活で困っていることを診察で具体的に教えていただくことが、実態に合った診断書につながります。

家族が本人の代わりに手帳の相談だけ受診することはできますか?

手帳の診断書は、ご本人を診察したうえで作成するものですので、ご家族のみでのご相談はお受けしていません。ご本人の受診・通院を前提に、診察の場でご相談ください。なお、当院の診療対象は18歳以上の方です。

このテーマの記事を探す

症状や困りごとから探し直す

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約