障害年金の申請を考え始めたとき、多くの方が最初に戸惑うのが「主治医に診断書をどう頼めばいいのか」ということです。
「診察のときに切り出しにくい」「何を準備して頼めばいいのかわからない」「書いてもらえるのだろうか」――そんな不安の声を、外来でもよくお聞きします。
障害年金の制度そのもの(対象になる状態・等級・申請の流れ)については、精神疾患と障害年金の記事で解説しています。この記事ではその先の実務、つまり主治医に診断書を依頼するときに、何を準備し、どう伝えるとよいかに絞って、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。
診断書は「頼めば書ける書類」ではなく「診療で把握した事実に基づく書類」
まず知っておいていただきたい大切な前提があります。
障害年金の診断書は、医師が診療のなかで把握している事実――症状の経過、治療の内容、日常生活や就労の状況――に基づいて作成する書類です。ご本人の希望や「こう書いてほしい」という依頼に沿って内容を作る書類ではありませんし、医師が実際に把握していないことは書けません。
これは杓子定規な話ではなく、診断書の信頼性を守るための原則です。そしてこの前提から、申請を考えている方にとって大切なことがひとつ導かれます。
日頃の診察で、生活の実情を主治医に伝えておくことが、そのまま診断書の準備になるということです。
精神の障害用の診断書には、症状や治療経過に加えて、日常生活能力に関する欄――適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達・対人関係、身辺の安全保持・危機対応、社会性――を医師が評価して記載する部分があります。診察室では「調子はどうですか」「変わりないです」というやり取りになりがちですが、それだけでは、ご自宅でどれだけ生活に支障が出ているかは医師に伝わりません。
診察の場では気を張って受け答えができていても、家では食事の準備ができない、入浴が数日おきになる、郵便物を開けられない、支払いを忘れる――そうした生活の具体的な場面こそが、診断書の記載を実情に近づける材料になります。
依頼する前に整理しておきたい3つのこと
診断書をお願いする前に、次の3点を整理しておくと、依頼も、その後の手続きもスムーズになります。
1. 初診日――その障害で初めて医療機関にかかった日
障害年金では、初診日(その障害の原因となった病気について、初めて医師の診療を受けた日)が制度の土台になります。初診日にどの年金制度に加入していたかで請求する年金の種類が決まり、保険料の納付要件も初診日を基準に確認されます。
注意したいのは、初診日は「今の診断名がついた日」や「今の病院に初めてかかった日」とは限らないことです。たとえば、最初は不眠や体調不良で内科を受診し、その後に精神科につながった場合、最初の内科受診日が初診日と判断されることがあります。
- 最初に不調で医療機関にかかったのはいつか、どこの医療機関か
- その後、どの医療機関にどのくらい通ったか(転院の経過)
を、思い出せる範囲で時系列に整理しておきましょう。以前の医療機関の受診歴は、初診日の証明(受診状況等証明書)が必要になる場合があるため、医療機関名と時期のメモは特に大切です。詳しい要件は日本年金機構の公開情報や年金事務所で確認できます。
2. 日常生活の困りごと――「できない」場面を具体的に
前述のとおり、診断書には日常生活の状況を記載する欄があります。依頼の前に、次のような視点でご自身の生活を振り返り、具体的なエピソードとしてメモにしておくことをおすすめします。
- 食事:自分で用意できているか。食事を抜く、同じものばかりになる、家族に任せきりになっていないか
- 清潔:入浴・洗面・着替え・部屋の掃除がどのくらいの頻度でできているか
- 金銭管理:計画的に使えているか。支払い忘れ、衝動的な浪費、家族に管理を任せているなど
- 通院・服薬:一人で通院できているか。飲み忘れの頻度、家族の声かけが必要か
- 対人関係:家族以外との会話・連絡ができているか。近所づきあいや友人関係の変化
- 危機対応:体調が悪化したときに自分で助けを求められるか
- 外出:一人で外出できるか。付き添いが必要か、外出できない日がどのくらいあるか
このとき意識したいのが、「一人暮らしだと仮定したらどうか」という視点です。ご家族と同居している方は、家族の支えで生活が回っているために困りごとが見えにくくなっていることがあります。「家族がやってくれているから困っていない」のか、「自分ではできないので家族がやっている」のかは、意味が大きく異なります。誰の助けで、何がどうにか成り立っているのかまで含めて伝えると、実情が正確に伝わります。
3. 就労状況――働いているかどうかだけでなく「どう働けているか」
就労中の方は「働いていると障害年金は無理なのでは」と心配されることがありますが、就労の有無だけで機械的に決まるものではなく、就労の内容や職場での配慮の状況も含めて総合的に判断されるとされています。だからこそ、次のような点を整理しておくことが大切です。
- 雇用形態・勤務時間・仕事の内容
- 職場から受けている配慮(短時間勤務、業務の限定、障害者雇用枠、頻繁な休憩など)
- 欠勤・遅刻・早退の頻度、休職の経過
- 仕事のあとの消耗の程度(帰宅後や休日に寝込んでいないか)
「出勤はできているが、配慮があってようやく成り立っている」「勤務日の夜と休日は何もできない」といった実情は、伝えなければ診断書に反映されません。
病歴・就労状況等申立書――本人が書く書類と、診断書との整合
障害年金の申請では、医師が書く診断書とは別に、病歴・就労状況等申立書という書類をご本人(またはご家族)が作成します。発病から現在までの経過を、おおむね3〜5年ごとの期間に区切って、受診の状況・日常生活の様子・就労の状況を時系列で書いていく書類です。
ここで大切なのが、診断書と申立書の整合性です。
両者はどちらも審査の資料になるため、たとえば初診日や通院期間が食い違っている、診断書には重い症状が書かれているのに申立書では活動的な生活が書かれている――といった大きな矛盾があると、審査で疑問が生じる原因になり得ます。
順序としては、先に整理した「初診日からの経過」「生活の困りごと」のメモを土台にして、診察で主治医に伝える内容と、申立書に書く内容を、同じ事実に基づいてそろえていくのが自然です。書き方の様式や記入例は日本年金機構が公開しており、年金事務所や市区町村の年金窓口でも相談できます。
なお、書類の準備や窓口とのやり取りの負担が大きい場合には、障害年金の手続きを扱う社会保険労務士に依頼するという選択肢もあります。依頼には費用がかかりますし、必ず依頼しなければならないものでも、当院からおすすめするものでもありませんが、そうした選択肢があることは知っておいてよいと思います。
主治医への切り出し方――遠慮しなくて大丈夫です
「診断書を頼んだら気を悪くされないだろうか」と心配される方がいらっしゃいますが、障害年金の相談は診察のなかでごく普通に出る話題です。遠慮はいりません。
伝え方としては、たとえば次のようにシンプルで構いません。
- 「障害年金の申請を考えています。診断書をお願いできる状態か、相談させてください」
- 「生活がこういう状態で、経済的にも苦しくなってきました。障害年金は対象になりそうでしょうか」
そのうえで、整理しておいた初診日の経過や生活の困りごとのメモをお見せいただければ、医師の側も判断がしやすくなります。診断書の作成には文書料(自費)がかかり、作成に日数を要するのが一般的ですので、提出期限がある場合は早めにご相談ください。
また、医師の立場から見て「現時点では診断書の作成は難しい」とお伝えする場合もあります。通院を始めて間もなく経過を把握できていない場合や、診療で把握している状態と申請の内容が合わない場合などです。それは申請を妨げる意図ではなく、事実に基づいた書類しか書けないという診断書の性質によるものです。その場合も、今後どうしていくかを一緒に考えていきます。
当院での実際
当院では、障害年金の診断書に関して次のようにしています。
- 精神保健福祉手帳・障害年金の診断書は、当院で一定期間通院していただいたうえで、作成できるかどうかを判断しています。診断書は診療のなかで把握した事実に基づいて書く書類であるため、通院を始めてすぐには病状や生活の実情を十分に把握できないからです。必要な通院期間は病状や経過により異なりますので、診察のなかでご相談ください。
- 通院の頻度は基本を2週間に一度としており、診察を重ねるなかで症状の経過や生活の状況を把握していきます。障害年金を考えている方は、日頃の診察で生活の困りごとを具体的にお伝えいただけると、把握の助けになります。
障害年金を考え始めた段階でも構いません。まずは診察のなかでお気持ちをお聞かせください。
まとめ――日頃の診察が、診断書の準備になります
障害年金の診断書は、医師が診療のなかで把握した事実に基づいて作成する書類です。だからこそ、依頼の前に初診日からの経過・日常生活の困りごと・就労状況を整理し、日頃の診察で生活の実情を具体的に伝えておくことが、そのまま診断書の準備になります。ご本人が書く病歴・就労状況等申立書は診断書と整合していることが大切で、書き方は年金事務所などで相談できますし、社会保険労務士に依頼する選択肢もあります。
制度の全体像は精神疾患と障害年金の記事を、あわせて検討されることの多い手帳については精神障害者保健福祉手帳の記事をご覧ください。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、障害年金に関するご相談をお受けしています。通院中の方は診察のなかでお気軽にお声かけください。これから受診を検討される方は、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。
よくある質問
障害年金の診断書は、頼めばすぐに書いてもらえますか?
診断書は、医師が診療のなかで把握している事実に基づいて作成する書類です。そのため、通院を始めたばかりで病状や生活の実情を十分に把握できていない段階では、すぐには作成できないことがあります。当院では、障害年金の診断書は当院で一定期間通院していただいたうえで、作成できるかどうかを判断しています。まずは診察のなかで、障害年金を考えていることをご相談ください。
診察で何を伝えれば、実情に合った診断書になりますか?
障害年金の診断書には、症状だけでなく日常生活の状況(食事・身のまわりの清潔・金銭管理・通院や服薬・対人関係・危機対応・社会性など)を記載する欄があります。診察の場では調子のよい面が出やすく、ご自宅での困りごとが伝わりにくいことがあります。「食事の準備ができず宅配や家族に頼っている」「入浴が数日おきになる」「支払いを忘れる」など、生活の具体的な場面を日頃の診察で伝えていただくことが、実情に合った診断書につながります。メモにして持参いただく方法もおすすめです。
病歴・就労状況等申立書は誰が書くのですか?診断書と内容が違うとどうなりますか?
病歴・就労状況等申立書は、発病から現在までの経過や日常生活・就労の状況を、ご本人(またはご家族)が書く書類です。医師が書く診断書とあわせて審査の資料になるため、両者の内容に大きな食い違いがあると、審査で疑問が生じる原因になり得ます。初診日や通院の経過、生活の困りごとについて、診断書の内容と矛盾がないように整理して書くことが大切です。書き方に迷う場合は、年金事務所や市区町村の窓口で相談できます。
社会保険労務士に頼んだほうがよいのでしょうか?
障害年金の申請はご本人やご家族だけでも行えますし、多くの方がご自身で手続きされています。一方で、書類の準備や窓口とのやり取りの負担が大きいと感じる場合に、障害年金の手続きを扱う社会保険労務士に依頼するという選択肢もあります。依頼には費用がかかり、必ず依頼すべきというものではありません。まずは日本年金機構や年金事務所の公開情報で手続きの全体像を確認し、ご自身の状況に合わせて検討されるとよいでしょう。