「休職して療養しているのに、会社から『そろそろ退職を考えてもらえないか』と言われた」「休職期間がもうすぐ終わると連絡が来て、退職届の話をされた」――休職中のこうした出来事は、ただでさえ弱っている心に大きな衝撃を与えます。
まず知っておいていただきたいのは、その場で返事をする必要はないということです。退職を「勧められる」ことと「解雇される」ことは法律上まったく別のものであり、勧められただけなら断ることができます。そして、体調が悪いなかで重大な決断を一人で急いでする必要は、どこにもありません。
この記事では、退職勧奨と解雇の違い、療養中の解雇に関する法律上の決まり、就業規則の「休職期間満了」の仕組み、そして実際に言われたときの対応と相談先を、福岡県春日市の精神科・心療内科の医師の立場からお伝えします。なお、法律の内容は厚生労働省などの公開情報に基づく一般的な説明であり、個別のケースの法的判断は専門の窓口や弁護士にご相談ください。
退職勧奨と解雇はまったく別のもの
会社から「辞めてほしい」という趣旨の話をされたとき、最初に整理したいのは、それが退職勧奨なのか解雇なのかです。
退職勧奨は「お願い」であり、断れる
退職勧奨とは、会社が労働者に対して自発的な退職を促す働きかけのことです。あくまで「お願い」であって、応じるかどうかは本人の自由とされています。断っても構いませんし、返事を保留することもできます。逆に言えば、会社は「勧める」ことしかできないからこそ、本人の同意(退職届への署名など)を取ろうとします。ここで安易に応じてしまうと、「自分の意思で辞めた(自己都合退職)」という扱いになり、あとから覆すことは難しくなるとされています。
なお、断っているのに執拗に勧奨が繰り返される、大勢で取り囲んで長時間迫られるといった行き過ぎた勧奨は、違法と判断されることがあるとされています。
解雇には法的な制約がある
解雇は、会社が一方的に労働契約を終了させるものです。労働契約法では、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効とされています(解雇権濫用法理)。また、解雇には原則として30日前の予告(または解雇予告手当)が必要とされています。つまり、会社は「辞めさせたいから」という理由だけで自由に解雇できるわけではありません。
会社からの話が「勧奨」なのか「解雇の通告」なのかで、その後の対応も使える制度も変わります。曖昧なまま話が進みそうなときは、「これは退職のお願いですか、それとも解雇ですか」と確認し、できれば書面で内容を示してもらうことが勧められています。
療養中の解雇には制限がある――業務上か私傷病かで異なる
休職の原因によって、解雇に関するルールは大きく異なります。
業務上の傷病で療養している場合
仕事が原因のけがや病気(業務上の傷病)で療養のために休業している期間と、その後30日間は、原則として解雇できないと労働基準法第19条で定められています。精神疾患についても、仕事の強いストレスが原因と労災認定された場合には、この解雇制限の対象になり得るとされています。
私傷病(業務外の傷病)で休職している場合
一方、業務とは関係のない病気やけが(私傷病)による休職には、この解雇制限は適用されません。ただしその場合でも、前述の解雇権濫用法理は適用されるため、解雇が自由にできるわけではないとされています。
自分の休職がどちらに当たるのか、労災の申請ができるのかは、個別の判断が必要な部分です。疑問があるときは、後述の公的な相談窓口で確認できます。
「休職期間満了」と自然退職の仕組み
もうひとつ知っておきたいのが、就業規則に定められた休職期間の満了です。
多くの会社では、私傷病休職の期間の上限(例えば勤続年数に応じて数か月〜数年)が就業規則で定められており、期間が満了しても復職できない場合には「退職とする(自然退職)」または「解雇する」という定めが置かれていることが一般的です。この場合、会社から改めて退職勧奨や解雇の手続きがなくても、規定に基づいて雇用が終了する仕組みになっています。
だからこそ、休職中の方にはできるだけ早い段階で次の3点の確認をおすすめしています。
- 自分の休職期間はいつまでか(就業規則・休職発令の通知を確認する)
- 満了時の扱いはどう定められているか(自然退職か、解雇か)
- 復職の手続きはどうなっているか(復職の診断書、産業医面談など)
休職期間の残りを把握しておくことは、療養のペースを考えるうえでも、今後の選択肢を検討するうえでも重要です。休職中の療養の進め方については、休職中の過ごし方の記事で詳しく解説しています。
言われたときの対応――即答しない・署名しない・一人で決めない
実際に退職の話をされたとき、その場で心がけていただきたいことを挙げます。
その場で即答しない
「持ち帰って検討します」でよいのです。退職勧奨に対して即答する義務はなく、返事を保留することは何ら問題ないとされています。動揺した状態での判断は、ふだんの自分なら選ばない結論になりがちです。
その場で署名しない
退職届・退職合意書などの書面にその場で署名することは避けてください。署名してしまうと「本人の意思で退職に合意した」という強い証拠になり、あとから撤回するのは難しくなるとされています。書面を渡されたら、内容を持ち帰り、コピーを手元に残しましょう。
やり取りを記録しておく
いつ・誰から・どのような話があったかをメモしておくと、後で相談するときに役立ちます。可能であれば、会社とのやり取りはメールなど記録が残る形でお願いするのもひとつの方法です。
一人で決めない
休職中は、判断力そのものが病状の影響を受けている時期です。うつ状態のときには物事を悲観的に捉えやすく、「もう辞めるしかない」という結論に傾きがちであることが知られています。家族や信頼できる人、そして次に挙げる公的な相談窓口に話したうえで、時間をかけて判断してください。退職・継続の判断そのものに迷っている場合の考え方は、適応障害で仕事を辞めるべきか迷うときの記事も参考になります。
相談できる公的窓口
- 総合労働相談コーナー――各都道府県労働局や労働基準監督署内などに設置されており、解雇・退職勧奨を含む労働問題全般を無料・予約不要で相談できます。
- 労働基準監督署――解雇予告など労働基準法に関わる問題の相談先です。
- 法的な争いになりそうな場合や、合意書の内容を確認したい場合には、弁護士に相談することも一般的な選択肢です。
なお、退職という結論になった場合でも、条件を満たせば傷病手当金を退職後も継続して受給できる仕組みがあります。詳しくは退職後の傷病手当金の記事をご覧ください。経済面の見通しが立つだけでも、慌てて不利な条件をのんでしまうことを防ぎやすくなります。
体調への影響を軽く見ない――療養が最優先
退職を勧められるという出来事は、それ自体が大きなストレスです。「会社に必要とされていないのか」という思いから気分の落ち込みが強まったり、先の不安で眠れなくなったりすることは、決して珍しくありません。
ここで大切なのは、会社との問題と、療養とを切り分けることです。会社対応は、上で述べたように「即答しない・記録する・公的窓口に相談する」という手順で、急がず進めることができます。一方で、療養は待ったなしで続いています。会社の問題に気を取られて受診や服薬が乱れると、回復が遅れ、結果として復職も転職もかえって遠のいてしまいます。
退職の話をされて動揺している、眠れなくなった、気分の波が大きくなった――そうした変化があれば、次の診察を待たずにでも、主治医に伝えてください。状況を共有していただくことで、療養のペースや今後の見通しを一緒に考え直すことができます。
当院での実際
当院では、休職中の方の通院は2週間に一度を基本としています。休職中は体調だけでなく、会社とのやり取りなど環境の変化も起こりやすい時期です。2週間ごとにお会いすることで、退職勧奨のような出来事があったときにも、体調への影響を早めに把握し、療養の進め方を調整することができます。
また、休職の診断書は1か月毎に作成することを原則としています。長期間分をまとめて発行するのではなく、1か月ごとに診察で状態を確認しながら、休職継続の必要性をそのつど判断する形です。会社から休職の見通しを尋ねられた場合にも、直近の診察に基づいた診断書でお答えしていくことになります。
会社から退職の話が出たなど、休職をめぐる状況が動いたときは、診察のなかでお聞かせください。
まとめ――断れること・急がなくてよいことを知っておく
休職中に会社から退職を勧められても、退職勧奨は断ることができ、その場で返事や署名をする必要はありません。解雇には法的な制約があり、業務上の傷病での療養中は労働基準法上の解雇制限もあるとされています。一方で、就業規則の休職期間満了による退職の仕組みもあるため、自分の休職期間と満了時の扱いは早めに確認しておきましょう。
判断に迷うときは、一人で抱え込まず、総合労働相談コーナーや労働基準監督署などの公的窓口、必要に応じて弁護士に相談してください。そして何より、療養を最優先に。体調が戻ることが、どの選択肢を選ぶにしても土台になります。
体調の変化があるときは、まず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科です。休職中の療養と、休職をめぐる悩みの整理を、通院のなかで一緒に進めていきます。「休職中の不調について相談したい」という方は、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。
よくある質問
休職中に会社から退職を勧められました。応じなければいけませんか?
退職勧奨は、会社が退職を「お願い」するものであり、応じるかどうかは本人の自由とされています。断ることもできますし、その場で返事をする義務もありません。一方、解雇は会社が一方的に契約を終わらせるもので、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされるなど、法的な制約があります。まずは言われた内容が「勧奨」なのか「解雇の通告」なのかを確認し、即答せず持ち帰ることをおすすめします。
退職届にサインを求められたら、その場で書いたほうがいいですか?
その場で署名する必要はありません。退職届に署名すると「自分の意思で辞めた」という扱いになり、あとから撤回するのは難しくなるとされています。体調が万全でないときの判断はふだんより難しくなりがちです。「持ち帰って検討します」と伝え、書面があればコピーをもらい、家族や公的な相談窓口、必要に応じて弁護士に相談したうえで判断するほうが安全です。
休職期間が終わっても復職できないと、自動的に退職になるのですか?
多くの会社の就業規則には、休職期間が満了しても復職できない場合に退職(自然退職)または解雇となる定めがあります。ただし、休職期間がいつまでか、満了時の扱いがどうなるかは会社ごとに異なるため、就業規則を確認することが第一歩です。休職の原因が業務上の傷病と認められる場合には扱いが変わることもあるとされており、判断に迷うときは総合労働相談コーナーなどの公的窓口に相談できます。
退職を勧められて動揺しています。誰に相談すればいいですか?
一人で抱え込まないことが大切です。労働に関する公的な相談先としては、各都道府県労働局や労働基準監督署内などに設けられている総合労働相談コーナーがあり、解雇・退職勧奨を含む労働問題を無料で相談できます。法的な対応が必要になりそうな場合は弁護士への相談も選択肢です。また、こうした出来事は体調にも影響しますので、動揺や不眠が強まったときは、その状況を主治医にも伝えてください。