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連載「傷病手当金の実務ガイド」第3回(全7回) 第1回から読む →

はじめに

傷病手当金の申請書には、医師が記入する「労務不能と認めた期間」という欄があります。ここは患者さんからの質問がとても多いところです。

「実際はもっと前から働けなかったのに、初診日からしか書けないと言われた」「会社に言われた期間と診断書の期間がずれている」「未来の分も先に書いてほしいのに断られた」——どれも診察室でよくあるやりとりです。

この記事では、この欄がどういうルールで記入されるのかを、心療内科の実務目線で整理します。申請手続きの全体像は傷病手当金についてをご覧ください。

「労務不能と認めた期間」とは何か

傷病手当金支給申請書のうち、医師が記入する「療養担当者記入用」には、療養のために働けなかった(労務不能だった)と医師が認める期間を記入します。保険者(協会けんぽ・健康保険組合)は、この医師の証明を根拠のひとつとして、支給の可否を審査します。

ポイントは、これが「患者さんの自己申告の期間」でも「会社が決めた休職期間」でもなく、医師が診察にもとづいて医学的に判断した期間だということです。だからこそ、次の2つの制約が生まれます。

原則1: 初診日より前は書けない

医師が証明できるのは、実際に診察して状態を確認した期間、つまり初診日以降に限られます。

初診のとき、患者さんから「実は3か月前から出勤できていませんでした」と伺うことはよくあります。実際にそのとおりだったのだろうと思っても、医師が診ていない期間について「労務不能だった」と証明することはできません。事実と異なる記載ができないのと同じ理由で、確認していない事実も記載できないのです。

これは当院に限らず、制度の仕組み上の原則です。だからこそ、働けないほど体調が崩れたら、できるだけ早く受診しておくことが、あとから振り返ったときに申請できる期間を最大にします。「まだ病院に行くほどでは」と迷っているうちに、申請できない空白期間が延びていくことになりかねません。

なお、前の病院から転院してきた場合で、転院までの間その病院で治療を受けていたときは、期間の証明について前医と分担できることがあります。紹介状(診療情報提供書)があると確認がスムーズです。

原則2: 未来の期間も書けない

もうひとつの原則が、最終受診日より先の期間は証明できないことです。

たとえば5月15日に受診した際、「今月末までの分をまとめて書いてほしい」と言われても、5月16日〜31日はまだ経過していない未来であり、その間の状態を医師は確認できません。傷病手当金が「働けなかった期間をあとから申請する事後申請」の仕組みになっているのは、このためです。

記入できる期間の具体例

初診日が4月1日、申請書作成のための受診日が5月15日の場合:

  • 記入できる: 4月1日〜4月30日/5月1日〜5月15日 など(初診日から最終受診日までの範囲)
  • 記入できない: 3月20日〜4月30日(初診日より前を含む)/5月1日〜5月31日(未来を含む)

通院の空白は「証明できない期間」になる

見落とされがちですが、実務上いちばん問題になりやすいのがこれです。

医師の証明は診察にもとづくため、受診の間隔が大きくあくと、その間の状態を確認できず、証明が難しくなることがあります。また、通院回数が少ないと「通院の必要がない程度の病状」と保険者に判断され、支給に影響する可能性もあります。

このため当院では、休職中は2週間に一度の通院をおすすめしています。体調がつらくて外出が大変な時期もあると思いますが、定期的な通院は治療のためだけでなく、生活を支える傷病手当金を途切れさせないためにも大切です。

会社から期間を指定されたときは

継続して申請していく場合、会社の給与締め日などの関係で「今回は◯日〜◯日で申請してください」と期間を指定されることがあります。

この場合は、受診時にその期間を主治医へ直接お伝えください。医師が労務不能と認められる範囲と一致していれば、指定どおりの期間で記載できます。前回の申請期間との間に漏れや重複がないよう、続きの日付から記入するのが基本です。

申請期間・医師の証明期間・事業主の証明期間の3つがずれていると、書類が差し戻されて振込が遅れます。振込までの日数については傷病手当金は申請からいつ振り込まれる?で詳しく解説しています。

まとめ——早めの受診と、途切れない通院

  • 医師が証明できるのは「初診日から最終受診日まで」の範囲だけ
  • 未来の期間・診ていない期間は書けない(事後申請の仕組み)
  • 通院の空白は証明の空白になる。休職中は2週間に一度の通院を
  • 会社指定の期間があれば受診時に伝える

休職の手続き全体は休職について、診断書の発行については休職診断書のもらい方もあわせてご覧ください。

出典・参考(2026年7月14日参照)

  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」「健康保険傷病手当金支給申請書」記入の手引き
  • 厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」

※制度の細かい取り扱いは、加入している保険者によって異なる場合があります。正確な内容は加入先にご確認ください。

よくある質問

初診日より前から実際は働けない状態でした。その期間も書いてもらえませんか?

原則として記入できません。医師が証明できるのは、実際に診察して状態を確認した期間、つまり初診日以降に限られるためです。体調が悪くて仕事を休み始めたら、できるだけ早く受診しておくことが、結果的に申請できる期間を広げることにつながります。

「労務不能と認めた期間」と会社の休職期間がずれています。大丈夫ですか?

医師が記入するのは、あくまで診察にもとづいて労務不能と判断した期間です。会社から申請期間の指定がある場合は、受診時にその期間をお伝えください。医師の証明できる範囲と一致していれば、指定どおりに記載できます。ただし、最終受診日より先の未来の期間は証明できません。

過去の分をまとめて遡って申請できますか?

初診日から最終受診日までの範囲で、医師が労務不能と認めた期間であれば、過去の分を申請できます。傷病手当金はもともと働けなかった期間をあとから申請する事後申請の仕組みです。ただし、受診していない空白期間は証明できないため、通院が途切れないことが大切です。

有給休暇を使っていた期間はどう書かれますか?

有給を使っていたかどうかは主治医には分からないため、医師は診察にもとづいて労務不能と判断した期間をそのまま記入します。有給取得日に給与が支払われていれば、その日の傷病手当金は支給されませんが、その調整は保険者が事業主の証明と突き合わせて行います。医師の証明期間と有給期間が重なっていても、申請書として問題はありません。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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