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連載「大人の発達障害と仕事」第16回(全16回) 第1回から読む →

「求人サイトに登録したものの、どの求人が自分に合うのか判断できず、眺めるだけで数か月たってしまった」「面接で不採用が続いて、何を直せばいいのか自分ではわからない」——。転職活動を一人で進めて行き詰まってしまう相談は、大人の発達障害、とくに注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方から、とてもよくうかがいます。

あるいは、前の職場を辞めてから「そろそろ動かないと」と思いつつ、何から手をつければいいかわからないまま時間だけが過ぎていく——そんな状態の方もいるかもしれません。

実は、発達障害のある方の就活・転職を支える公的な支援機関はかなり充実しています。ただ、種類が多くて違いがわかりにくく、「知らなかったので使わなかった」という方が少なくありません。この記事では、主な支援機関の違いと使い分け、利用の流れを整理します。

なぜ「一人での就活」が行き詰まりやすいのか

就職・転職活動は、実は発達障害の特性が最も出やすい活動のひとつです。

段取りと並行作業の連続だから。 求人探し・書類作成・面接日程の調整・複数社の進捗管理を同時にこなす必要があり、ADHDの方が苦手としやすい「複数のことを並行して管理する」場面が続きます。締切のある応募書類を先延ばしして、募集が終わってしまうこともあります。

自分を客観視する作業だから。 自己PRや「向いている仕事」の判断には、自分の得意・苦手を客観的に見る力が要ります。ASDの特性がある方では、自分の状態を言葉にすることや、暗黙の採用基準を読み取ることが苦手な場合があり、一人で考え込むほど袋小路に入りやすくなります。

フィードバックがもらえないから。 不採用の理由は企業からほとんど教えてもらえません。何が問題だったのかわからないまま同じやり方で応募を続け、不採用が積み重なって自信を失う——この悪循環は、第三者の目が入るだけで断ち切れることが多いのです。

つまり、就活で行き詰まるのは能力や熱意の問題ではなく、「一人でやるには特性と相性が悪い作業」だからです。だからこそ、支援機関という「外部の目と伴走者」を借りることに大きな意味があります。

主な支援機関の違いと使い分け

発達障害のある方の就労支援に古くから携わってきた支援者たちが共通して勧めるのは、「支援機関は障害者雇用を目指す人だけのものではない」という考え方です。一般雇用を目指す場合でも、相談や訓練の部分だけ活用して構いません。また、医師の診断書が必要な機関が多い一方で例外もあるので、診断がまだの段階でも、まず問い合わせてみる価値があります。

主な機関を整理します。

ハローワーク(障害者専門窓口・専門援助部門)——無料で職業相談・職業紹介を受けられる公的機関です。一般の窓口とは別に、障害のある方の就職支援を専門に行う窓口があり、専門知識のある職員が担当者制で相談に乗ってくれます。求人紹介だけでなく、応募書類の添削、面接練習、職業訓練やセミナーの紹介まで幅広く、障害者手帳がなくても相談できます。まず求職者登録をするところから始まります。

就労移行支援事業所——一般企業への就職を目指す方が一定期間通所し、職業訓練から就職活動のサポート、就職後の定着支援までを一貫して受けられる福祉サービスです。ビジネスマナーやPCスキルの訓練、職場実習、自己理解のプログラムなどがあり、発達障害に特化した事業所もあります。「働く生活リズムを作り直すところから始めたい」「訓練を受けてから就活したい」という方に向いています。

障害者就業・生活支援センター——就職の相談に加えて、生活リズム・金銭管理・住まいなど生活面も含めてトータルに支援してくれる機関です。「仕事のことだけでなく生活全体が回っていない」というときの相談先になります。

地域障害者職業センター——各都道府県に設置されており、職業能力の専門的な評価や、就職後に職場へ支援者が出向くジョブコーチ支援などを行います。

そのほか、都道府県・市区町村の就労支援センター、障害者雇用に特化した民間の転職エージェント、在学中ならば大学のキャリアセンターや障害学生支援室も選択肢です。

迷ったら、入り口はハローワークの専門援助部門か、障害者就業・生活支援センターがおすすめです。どちらも無料で、話を聞いたうえで適切な機関につないでもらえます。

2026年の制度のポイント——期間・費用・利用の流れ

制度の数字は変わることがあるので、2026年時点の要点を押さえておきましょう(最新の詳細は厚生労働省やお住まいの市区町村の案内をご確認ください)。

  • 就労移行支援の利用期間は原則2年以内。 標準利用期間の2年を超えてなお必要と認められた場合に限り、最大1年間の更新が可能とされています。「2年」と聞くと長く感じますが、体調を整える期間や実習を含めると意外に短いので、利用を考えるなら早めに見学から始めるのがおすすめです。
  • 就労移行支援の利用料は所得に応じた自己負担。 生活保護世帯・市町村民税非課税世帯は自己負担0円、課税世帯は所得に応じて月額9,300円または37,200円が負担上限です。離職後で収入がない方は無料になるケースが多くあります。
  • ハローワーク・障害者就業・生活支援センター・地域障害者職業センターは無料。 障害者就業・生活支援センターは2026年4月時点で全国に340か所設置されており、身近な地域で相談できます。
  • 利用の流れはオンラインで下調べできる。 就労移行支援事業所は見学・体験利用を受け付けているところがほとんどで、Webサイトから申し込めます。ハローワークもインターネットで求人検索ができるので、窓口に行く前に雰囲気をつかめます。実際の利用開始には、就労移行支援なら市区町村への申請(障害福祉サービスの支給決定)が必要です。
  • オンライン相談・オンライン面接も一般化。 通所や来所が負担な段階では、オンラインでの相談から始められる機関・事業所も増えています。

なお、障害者雇用枠での就職を目指す場合は精神障害者保健福祉手帳の取得が前提になることが多く、手帳の申請には初診日から6か月以上の経過が必要です。オープン就労・クローズ就労の考え方や手帳については、連載の別記事で扱っています。

AIに手伝ってもらう

⚠️ 仕事のメールや書類・給与明細をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・金額など、特定につながる部分を「A社」「上司」などに置き換えてから渡してください。

支援機関選びで最初につまずくのは、「自分の状況をどう説明すればいいかわからない」「どの機関が合うか判断できない」という点です。ChatGPTやClaudeなどの対話型AIは、状況の整理と「相談に行く前の準備」を手伝うのが得意です。

まず、自分の状況を話して、どの支援機関が入り口として合いそうかを一緒に整理してもらいます。通勤中などに音声入力で話すだけでも構いません。

🎤 音声で渡す
今から私の状況を思いつくまま話します(年齢層、働いているか離職中か、診断や障害者手帳の有無、就活・転職で困っていること、体調)。話し終わったら、(1)状況を箇条書きに整理し、(2)日本の就労支援機関(ハローワーク専門援助部門・就労移行支援・障害者就業・生活支援センター・地域障害者職業センターなど)のうち、最初の相談先としてどこが合いそうか理由付きで2つまで提案してください。(3)制度の数字は変わることがあるので、窓口で確認すべき点も教えてください。

相談先が決まったら、窓口で話す内容を事前にまとめておくと、当日うまく話せなくても安心です。作った要約はそのまま印刷したりスマホで見せたりできます。

⌨️ 貼り付けて渡す
就労支援機関の初回相談に持っていく「自分の状況メモ」をA4半ページ程度で作ってください。構成: (1)職歴の要約、(2)得意なこと・苦手なこと、(3)いま困っていること、(4)希望する働き方(勤務時間・通勤・仕事内容の希望)、(5)相談員に聞きたい質問リスト。私が話し言葉で書いた下の内容を、相談員に伝わりやすい形に整理してください。
【職歴や状況(思いつくまま)】(ここに書く)
【困っていること】(ここに書く)
【希望】(ここに書く)

見学や問い合わせの一歩が踏み出せないときは、問い合わせメールの下書きを作ってもらうと、心理的なハードルが下がります。

⌨️ 貼り付けて渡す
就労移行支援事業所に見学を申し込むメールの下書きを作ってください。条件: (1)簡潔で丁寧なビジネスメール、(2)発達障害の診断があること(または受診中であること)を1文だけ触れる、(3)見学希望の候補日時を3つ入れる欄を作る、(4)当日聞きたいこと(訓練内容・利用までの流れ・費用・就職実績)を確認したい旨を入れる。

AIの答えはあくまで下調べです。制度の適用や利用の可否は、必ず窓口や市区町村で確認してください。

当院での実際/受診の目安

支援機関の多くは医師の診断書や意見書を求めるため、「支援を使いたいが、まだ診断を受けていない」という段階の方は、まず精神科の受診が入り口になることがあります。また、就活の行き詰まりの背景に、発達障害の特性だけでなく、うつ状態や不安が重なっている場合もあります。求人を見る気力が出ない、眠れない、自分を責め続けてしまう——そんな状態が続くときは、工夫や就活の頑張りだけで抱え込まず、受診をご検討ください。

当院の受診について、よくご質問いただく点をご案内します。

  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。就職活動の経過や体調を確認しながら、働き方について一緒に考えていきます。
  • 就労支援機関の利用にあたって診断書等が必要な場合は、診察のなかでご相談ください。

緊急のとき——自分を傷つけてしまいそうなほど追い詰まっているときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。

まとめ

  • 就活・転職は段取り・並行管理・自己分析の連続で、発達障害の特性と相性が悪い。一人で抱えず「外部の目」を借りるのが近道
  • 入り口に迷ったら、ハローワークの障害者専門窓口か障害者就業・生活支援センターへ。無料で相談でき、他の機関にもつないでもらえる
  • 就労移行支援は訓練から定着支援まで受けられる。利用期間は原則2年以内、利用料は所得に応じた負担で無料になる方も多い(2026年時点)
  • 支援機関を使っても、障害者雇用で就職する義務はない。一般雇用を目指しながら部分的に活用してよい
  • 診断がまだの方や、気力の低下・不眠が続く方は、支援機関より先に受診を

関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)

参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『ちょっとしたコツでうまくいく! 発達障害の人のための就活ハック』(窪貴志・高橋亜希子・山本愛子、翔泳社)

制度情報の参照元(2026年7月時点): 厚生労働省「障害者の利用者負担」「障害者就業・生活支援センターについて」ほか公的サイト

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

支援機関を利用するには診断や障害者手帳が必要ですか?

機関によって異なります。ハローワークの障害者専門窓口は手帳がなくても相談でき、就労移行支援は自治体の判断により医師の診断書等があれば手帳なしで利用できる場合があります。診断がまだの段階でも「まず問い合わせて相談する」ことは可能です。迷うときは、通院中の方は主治医に相談してみてください。

就労移行支援はどれくらいの期間、いくらで利用できますか?

利用期間は原則2年以内で、必要性が認められた場合に限り最大1年間の更新が可能とされています。利用料は前年の所得に応じた自己負担で、市町村民税非課税世帯や生活保護世帯は0円、課税世帯は月額9,300円または37,200円が負担の上限です(2026年時点。詳細はお住まいの市区町村にご確認ください)。

支援機関を使うと、必ず障害者雇用で就職しなければいけませんか?

いいえ。障害者向けの支援機関を利用したからといって、障害者雇用枠での就職が義務になるわけではありません。一般雇用(クローズ就労)を目指しながら、訓練や相談の部分だけ支援を活用する方もいます。オープン・クローズの選択は最終的にご自身が決めることです。

どの支援機関から行けばよいかわかりません。

迷ったら、まずはハローワークの障害者専門窓口(専門援助部門)か、お住まいの地域の障害者就業・生活支援センターに相談するのが入り口としておすすめです。どちらも無料で、状況に応じて就労移行支援など他の機関につないでもらえます。通院中の方は、主治医に相談して方向性を整理してから動くのもよい方法です。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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