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連載「大人の発達障害と仕事」第11回(全16回) 第1回から読む →

「あなたの強みは何ですか?」——就職や転職の場面で必ず聞かれるこの質問に、固まってしまう。自己分析の本を買ってみたものの、「私には苦手なことしかない」という結論にしかたどり着けない——。

あるいは、興味のあった分野に思い切って転職したのに、実際にやってみると細かい調整や臨機応変な対応の連続で消耗し、「好きなはずの仕事なのに、なぜこんなに疲れるんだろう」と落ち込んでいる——。

こうした「自分の得意・苦手がわからない」「向いている仕事が見えない」という悩みは、大人の発達障害、とくに注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方の就職・転職相談でとてもよく出てくるテーマです。この記事では、なぜ自己理解が難しくなるのか、自分の強みと向いている仕事を見つける具体的な手順、そしてAIを自己分析に使う方法を解説します。

なぜ「自分がわからない」のか——特性と自己理解の関係

自分を知るのは誰にとっても難しい作業ですが、発達障害の特性がある方には、それを一段難しくする事情があります。

得意と苦手の差が大きい。 得意・不得意は誰にでもありますが、ADHDやASDの特性がある方では、その差がはっきりしていることが多く、職場では苦手なことのほうが目立ちやすくなります。ミスや指摘が積み重なると「自分はだめだ」という感覚ばかりが強くなり、得意なことが視界から消えてしまいます。「苦手なことしか思いつかない」のは、強みがないからではなく、苦手の印象が強すぎて強みが見えなくなっている状態であることが少なくありません。

自己評価と他者評価がずれやすい。 発達障害の特性がある方は、物事のとらえ方(認知)のスタイルが多数派と違うことがあり、「自分ではちゃんとやっているつもりなのに評価されない」「褒められても信じられない」というずれが生じやすくなります。ずれが大きいままだと、自己分析をしても実際の自分と違う結論になり、仕事選びのミスマッチにつながります。

興味と得意を混同しやすい。 ADHDの特性がある方は興味の範囲が広く、ASDの特性がある方は特定の分野への関心が深い傾向があります。どちらも「興味のある分野で働きたい」という気持ちにつながりやすいのですが、興味・関心と得意は別のものです。興味のある業界でも、そこで求められる能力が自分の苦手と重なっていれば、働き始めてから苦しくなります。

大切なのは、自己理解を「性格診断」ではなく「働くための実務的な情報集め」として捉えることです。得意が活きる仕事に就ければ成果が出て自信になり、周囲の信頼も得やすくなります。信頼があれば、苦手な部分について協力を求めやすい関係もつくれます。逆にミスマッチな仕事は、本人にも周囲にもストレスがかかる悪循環を招きます。

昔からの知恵——経験の棚卸しと「苦手→強み」の置き換え

発達障害のある方の就職活動を支援してきた現場で勧められてきた自己理解の方法は、大きく3つに整理できます。

その1: 経験→行動→強み、の3ステップで棚卸しする。 強みは頭の中でひねり出すものではなく、過去の事実から拾い出すものです。まず、学校の勉強、アルバイト、前職の仕事、資格の取得など、過去の経験を書き出します。次に、それぞれの経験で自分が具体的にとった行動を思い出します(レポートを書いた、会計係を任された、など)。最後に、その行動で発揮した力を言葉にします。「わからないことをとことん調べてレポートを仕上げた」なら粘り強さ、「会計をミスなくこなした」なら注意深さが強みの候補です。大きな実績である必要はなく、「頼まれた掃除を毎週きっちりこなして家族に頼られている」といった日常の小さな事実からも、「任されたことをコツコツ確実にやり遂げる力」という強みが見つかります。

その2: 苦手を肯定的な言葉に置き換える。 苦手と得意は表裏一体で、どちらとして表れるかは業務内容と環境しだいです。「臨機応変な対応が苦手」は、規則の順守が求められる仕事では「決まっていることを確実にやり遂げる力」という強みになります。「細部が気になって全体が見えなくなる」は「誤字脱字などの細かいミスを見つけられる」、「衝動的に動いてしまう」は「思ったことをすぐ行動に移せる実行力がある」と置き換えられます。自分の苦手を書き出し、ひとつずつ肯定的な表現に言い換えてみてください。この置き換え表が、そのまま「向いている仕事」を考える材料になります。

その3: 強みと仕事を照らし合わせ、体験で検証する。 置き換えでできた強みのリストを、「その強みが求められる仕事は何か」という視点で眺めます。たとえば、正確さやルールの順守が強みなら経理・検査・プログラミングのような仕事、集中力が強みなら調査や執筆のような仕事、幅広い興味と行動力が強みなら企画や営業のような仕事、という具合です(あくまで考え方の例で、職種を限定するものではありません)。そして候補が見えたら、いきなり本採用に飛び込む前に、アルバイトや職場体験、副業的な小さな仕事などで「本当にその強みが活きるか」を検証できると安心です。

自分ひとりで棚卸しが進まないときは、家族や友人、キャリアカウンセラーなど利害関係の少ない複数の人に「私のいいところを具体的に教えて」と聞いてみてください。自己評価と他者評価のずれを埋めるには、作業量などの具体的な事実で評価する・複数の人の意見を聞く・動画や録音で自分を見返す、という3つの方法が役立ちます。

2026年のやり方——記録アプリとオンラインの力を借りる

上の原理は、いまのスマホ環境ならもっと手軽に実践できます。

  • スマホのメモアプリに「できたことログ」を作る。 強みの棚卸しで最大の壁は「思い出せない」ことです。うまくいったこと・人に褒められたこと・苦もなくできたことを、その場で1行だけメモする習慣をつけると、数週間で自己分析の材料が貯まります。標準のメモやリマインダーで十分です。
  • 面接練習や話し方の確認はスマホの動画で。 自分の立ち居振る舞いを客観視するには、スマホで自分を録画して見返すのが一番の近道です。オンライン面接が一般的になったいまは、面接と同じ画角で練習できるという利点もあります。
  • 転職サイトの適性診断・スカウト機能を「他者評価」として使う。 転職サイトの適性診断や、職務経歴を登録して届くスカウトは、市場から見た自分という客観情報のひとつになります。結果を鵜呑みにする必要はありませんが、自己評価とのずれを知る手がかりになります。
  • 障害者就業・生活支援センターや就労移行支援などの専門機関。 特性を踏まえた自己分析や職業評価を専門家と一緒に行える公的・福祉的な仕組みもあります(利用の詳細は本連載の支援機関の回で扱います)。

AIに手伝ってもらう

⚠️ 仕事のメールや書類・給与明細をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・金額など、特定につながる部分を「A社」「上司」などに置き換えてから渡してください。

自己分析は、ChatGPTやClaudeなどの対話型AIがかなり得意とする作業です。キャリアカウンセラーと同じように、AIは答えを教えてくれるのではなく、質問を投げかけて経験を整理する手伝いをしてくれます。ひとりで棚卸しが進まない方には、24時間付き合ってくれる壁打ち相手になります。

まずは経験の棚卸しです。過去の経験を思いつくまま話すだけで、AIが「経験→行動→強み」の形に整理してくれます。通勤中などに音声入力で使うと、書く手間もありません。

🎤 音声で渡す
私の自己分析を手伝ってください。今から過去の経験(勉強・アルバイト・仕事・日常生活)を思いつくまま話します。あなたはキャリアカウンセラーのように、(1)経験ごとに「具体的にどんな行動をしたか」を私に質問し、(2)その行動から発揮された強みを言葉にして、(3)最後に「経験・行動・強み」の一覧表にまとめてください。大きな実績でなくても、日常の小さなことも強みの材料として扱ってください。

次に、苦手の置き換えです。自分で感じている苦手を箇条書きにして渡すと、肯定的な表現への言い換えと、その強みが活きる仕事の方向性まで一気に整理できます。

⌨️ 貼り付けて渡す
次の「苦手なこと」のリストを、1つずつ肯定的な強みの表現に置き換えてください。そのうえで、それぞれの強みが活きやすい業務や職場環境の特徴と、逆にその苦手が目立ちやすい業務の特徴を表にしてください。職種を断定せず、「こういう条件の仕事」という形で書いてください。
【苦手なことリスト】
(ここに箇条書きで書く)

求人票と自分の相性チェックにも使えます。気になる求人の仕事内容を貼り付けて、自分の得意・苦手と照らし合わせてもらうと、応募前にミスマッチの芽に気づけます。

⌨️ 貼り付けて渡す
次の求人の仕事内容と、私の得意・苦手を照らし合わせて、(1)私の強みが活きそうな点、(2)苦手とぶつかりそうな点、(3)応募前に企業へ確認しておくとよい質問、を整理してください。会社名や個人名は伏せてあります。
【求人の仕事内容】(ここに貼り付ける)
【私の得意】(ここに書く)
【私の苦手】(ここに書く)

AIの整理はあくまで下書きです。出てきた強みが実際の自分と合っているかは、信頼できる人の意見や実際の仕事体験で確かめてください。

当院での実際/受診の目安

自己理解の作業は、基本的には工夫と周囲の助けで進められます。ただ、「苦手の背景に発達障害の特性があるのか知りたい」「自己嫌悪が強くて自己分析どころではない」「仕事のミスマッチが続いて気分の落ち込みが出てきた」——そんなふうに工夫だけで抱え込まず、生活や仕事への支障が続くときは、精神科の受診をご検討ください。特性の有無やその内容がわかると、仕事選びや職場での工夫の方向性がぐっと考えやすくなりますし、うつ状態など別の要因が隠れていないかの確認もできます。

当院の受診について、よくご質問いただく点をご案内します。

  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。困りごとの経過を確認しながら、働き方や仕事選びの工夫について一緒に考えていきます。
  • 仕事を続けるか休むかの相談も診察でよくお受けしています。

緊急のとき——自分を傷つけてしまいそうなほど追い詰まっているときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。

まとめ

  • 「強みがない」のではなく、苦手の印象が強すぎて強みが見えなくなっていることが多い
  • 強みは、経験→行動→発揮した力、の順に過去の事実から棚卸しする
  • 苦手と得意は表裏一体。肯定的な言葉への置き換えが「向いている仕事」の手がかりになる
  • 興味・関心と得意は別のもの。求められることと得意が合っているかを必ず確認する
  • 自己評価と他者評価のずれは、具体的な事実・複数の人の意見・動画での見返しで小さくできる。AIも棚卸しの壁打ち相手になる
  • 工夫しても支障が続くとき、特性の確認をしたいときは、一人で抱え込まず受診を

関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)

参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『発達障害の人のための就活ハック』(窪貴志・高橋亜希子・山本愛子、翔泳社)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

自分の強みがまったく思いつきません。どうすればよいですか?

強みが見つからない理由は大きく2つに分かれます。ひとつは経験や実績そのものが少ない場合で、この場合は短期のアルバイトやボランティアなど小さな経験を積むことから始めます。もうひとつは経験はあるのに強みとして整理できていない場合で、過去の経験→そこでとった行動→発揮した力、の順に棚卸しをしたり、家族や友人、支援者に客観的な意見をもらったりすると見つかることが多いです。強みは誰かに教えてもらうものではなく、経験をもとに自分で見つけていくものですが、その作業を人やAIに手伝ってもらうのは有効です。

興味のある分野の仕事を選べばよいのでしょうか?

興味・関心と得意は別のものです。興味のある分野でも、そこで求められる能力が自分の苦手と重なっていると、働き始めてから苦しくなることがあります。仕事選びでは「興味があるか」に加えて「求められることと自分の得意が合っているか」を確認することが大切です。両方が重なる仕事が見つかれば理想的です。

自己分析をしても、自分を客観的に見られている自信がありません。

自分を客観視するのは誰にとっても難しく、発達障害の特性がある方では自己評価と他者評価のずれが大きくなりやすいことが知られています。①作業量など具体的な事実をもとに評価する、②利害関係のない複数の人から意見をもらう、③動画や録音で自分の振る舞いを見返す、といった方法でずれを小さくできます。完全に一致させる必要はありません。

自己理解のために受診してもよいのでしょうか?

はい。「自分の苦手がどこから来ているのか知りたい」「発達障害の特性があるのか確認したい」というご相談は珍しくありません。特性の有無やその内容がわかると、仕事選びや職場での工夫の方向性が考えやすくなります。就職・転職を機に受診される方も多くいらっしゃいます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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