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連載「大人の発達障害と仕事」第15回(全16回) 第1回から読む →

転職活動を始めた30代の方。前の職場ではマルチタスクと口頭指示にどうしてもついていけず、注意欠如多動症(ADHD)の診断を受けました。次の職場では配慮を受けながら働きたい気持ちがある一方、「障害を伝えたら書類で落とされるのでは」「給料が下がるのでは」という不安も強く、応募書類を前に手が止まってしまう——。

あるいは、いまの会社に在職中の方。診断を受けたことを上司に話すべきか、黙って工夫を続けるべきか。「言えば異動させられるかもしれない。でも言わなければ配慮は受けられない」と、何か月も一人で抱え込んでいる——。

障害を職場に伝えて働くか(オープン就労)、伝えずに働くか(クローズ就労)は、大人の発達障害の方の就職・転職相談で必ずといってよいほど出てくるテーマです。この記事では、それぞれの働き方の違いと、2026年時点の障害者雇用の制度、迷ったときの考え方を整理します。

オープン就労とクローズ就労——まず言葉の整理

クローズ就労は、障害のことを職場に伝えずに一般の雇用枠で働く形です。求人の選択肢が広く、待遇も一般の水準ですが、職場からの特別な配慮は期待できません。

オープン就労は、障害のことを職場に伝えて働く形です。大きく2つのパターンがあります。

  • 障害者雇用枠で働く——企業の障害者雇用の求人に応募する形。応募には原則として障害者手帳が必要です。
  • 一般雇用枠で、障害を開示して働く——一般の求人に応募したうえで、あるいは在職中の職場で、特性と必要な配慮を伝える形。手帳がなくても可能です。

「オープンかクローズか」は入社時に一度だけ決めるものではありません。クローズで入社して、働き方の調整が必要になった時点で開示に切り替える方もいますし、その逆に、伝える範囲を上司と人事だけに限定する方もいます。誰に・いつ・どこまで伝えるかは自分で選べる、というのが出発点です。なお、診断を受けたことを勤務先に報告する法律上の義務はありません。

障害者雇用という仕組み——2026年の制度

オープン就労の代表的な受け皿が障害者雇用です。企業には従業員数に応じて障害者を雇用する義務があり、この割合を法定雇用率といいます。厚生労働省の案内のとおり、2026年7月から民間企業の法定雇用率は2.7%に引き上げられ、従業員37.5人以上の企業が雇用義務の対象になりました(国・地方公共団体は3.0%)。この率は段階的に引き上げられてきており(2024年4月に2.5%→2026年7月に2.7%)、精神障害・発達障害のある方の雇用は増加傾向が続いています。

障害者雇用の働き先は、一般企業の中で他の社員と一緒に働く形のほか、障害者の雇用のために設立された特例子会社や、福祉的なサポート体制のある就労継続支援A型事業所などもあります。

障害者雇用枠への応募には、原則として障害者手帳が必要です。知的障害を伴わない発達障害の方が取得するのは、主に精神障害者保健福祉手帳です。申請には精神科・心療内科の初診日から6か月以上経過していることと、医師の診断書が必要で、申請から交付までにも数か月を要します。障害者雇用を視野に入れている方は、就職活動より前に手帳の準備を始めておくのが現実的です。有効期限は2年で、更新手続きが必要です。手帳を持っていること自体は、自分から伝えない限り周囲に知られることはなく、一般雇用で就職する場合に会社へ伝える義務もありません。

それぞれのメリット・デメリット——昔から変わらない判断軸

発達障害の就職ガイドで以前から整理されてきた比較のポイントは、いまも有効です。

クローズ就労(一般雇用)の強みは、求人数の多さと職種の幅、そしてキャリアアップや給与面の可能性です。一方で、配慮は期待できず、他の社員と同じ条件で成果を求められます。業務内容の変更や異動で苦手な仕事を担当することになり、適応が難しくなって早期退職につながる例も少なくありません。

オープン就労(障害者雇用)の最大の強みは、特性への配慮を「求めてよい」ことです。業務が特定の内容に整理されていて得意なことに集中しやすい求人や、勤務時間を調整できる職場、ジョブコーチなど第三者のサポートを受けられる場合もあります。弱みは、求人数が一般雇用より少ないこと、契約社員などの雇用形態から始まることが多く、待遇や業務内容が長く変わりにくい場合があることです。ただし正社員登用や待遇改善に取り組む企業は増えてきています。

判断の軸としていちばん大切なのは、「その職場に適応して、長く働き続けられるか」です。待遇や職種の魅力は、働き続けられて初めて意味を持ちます。前職でのつまずきが「配慮があれば防げたもの」だったのか、「環境を選べば起こらないもの」だったのかを振り返ると、自分に合う形が見えやすくなります。

もうひとつ、オープンで働く場合の伝え方のコツも昔から変わりません。苦手なことだけを並べるのではなく、「①成果を上げるうえで障壁になりそうなこと、②それに対して自分でしている工夫、③あればさらに成果に近づける配慮」の3点セットで伝えることです。配慮を「お願い」ではなく「成果を出すための条件整備」として示せると、企業側も前向きに検討しやすくなります。

2026年のやり方——情報収集と相談先

いまは、オープン・クローズの判断材料を集めやすい環境が整っています。

  • 障害者雇用専門の就職サイト・エージェントでは、在宅勤務可の求人や、配慮内容が明記された求人をオンラインで比較できます。面接がオンラインで行われることも増え、通勤や対面のストレスなしに複数社を検討できます。
  • ハローワークの専門援助部門(障害のある方向けの窓口)では、求人紹介に加えて応募書類や伝え方の相談もできます。予約なしで利用でき、障害者雇用の求人はインターネットのハローワーク求人検索からも探せます。
  • 就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターなどの支援機関は、オープン就労を目指す場合の訓練・実習・定着支援まで担ってくれます。利用にあたって医師の診断書が求められることが多いため、通院先で相談してみてください(支援機関については、この連載の次回で詳しく扱います)。
  • 在職中の方は、いきなり会社に開示する前に、主治医や支援機関と「誰に・何を・どこまで伝えるか」のシナリオを作ってから動くと安全です。開示は取り消しがきかない一方通行の行為なので、順番の設計が大切です。

AIに手伝ってもらう

⚠️ 仕事のメールや書類・給与明細をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・金額など、特定につながる部分を「A社」「上司」などに置き換えてから渡してください。

オープンかクローズかの判断は、頭の中だけで考えると同じところをぐるぐる回りがちです。ChatGPTやClaudeなどの対話型AIに考えを整理する壁打ち相手になってもらうと、判断材料が表の形で見えるようになります。

まず、自分の状況を話して、判断のための整理表を作ってもらう使い方です。通勤中などに音声入力で話すだけでも整理できます。

🎤 音声で渡す
私は発達障害の診断を受けていて、転職で「障害を開示して働くか、開示せずに働くか」を迷っています。今から、前の職場で困ったこと・自分の得意なこと・生活で優先したいこと(収入・安定・働きやすさなど)を思いつくまま話します。話し終わったら、(1)私の状況を整理した表を作り、(2)オープン就労とクローズ就労それぞれを選んだ場合に予想されるメリットとリスクを私の状況に当てはめて挙げ、(3)判断のために足りない情報があれば質問してください。結論を押しつけず、判断材料の整理に徹してください。

オープンで働くと決めたら、企業に伝える「特性・工夫・配慮」の文章づくりを手伝ってもらえます。苦手の羅列にならないよう、前向きな構成に直してもらいましょう。

⌨️ 貼り付けて渡す
障害者雇用の応募書類・面接で使う「自分の特性と配慮のお願い」の文章を作ってください。構成は次の3点セットにしてください。(1)業務で障壁になりそうなこと、(2)それに対して自分でしている工夫、(3)あれば成果につながる配慮。ネガティブな表現の羅列にせず、「成果を上げるために必要な条件」として前向きに伝わる文章にしてください。
【診断名】(ここに書く)
【苦手なこと・過去に困った場面】(ここに書く)
【自分でしている工夫】(ここに書く)
【あると助かる配慮】(ここに書く)

在職中の方が上司や人事に伝える場面では、切り出し方の台本を作っておくと当日慌てません。

⌨️ 貼り付けて渡す
在職中の会社で、上司に発達障害の診断と必要な配慮を伝える面談の台本を作ってください。条件: (1)最初の30秒で用件を簡潔に伝える切り出しの言葉から始める、(2)診断名を伝える範囲は最小限にし、業務上の調整の相談を中心にする、(3)相手から想定される質問と答え方を3つ付ける、(4)感情的にならない落ち着いた言葉遣いにする。
【伝えたい相手】(ここに書く)
【困っている業務】(ここに書く)
【お願いしたい調整】(ここに書く)

AIの答えはあくまで整理の下書きです。開示するかどうかの最終判断や、実際に会社へ出す文章は、主治医や支援機関の目も通してから使ってください。

当院での実際/受診の目安

オープンかクローズかの相談は、診察の中でもよくお受けするテーマです。前の職場でのつまずき方をうかがいながら、「配慮があれば働き続けられそうか」「環境選びで避けられる困りごとか」を一緒に整理していきます。精神障害者保健福祉手帳の診断書など、就職活動に必要な書類の作成も診察でご相談ください。

そして、働き方の選択以前に、眠れない・気分が沈む・仕事に行けないなど生活や仕事への支障が続いているときは、工夫や情報収集だけで抱え込まず、精神科の受診をご検討ください。背景に発達障害の特性があるのか、うつ状態など別の要因が重なっているのかで、優先すべき対応が変わります。

当院の受診について、よくご質問いただく点をご案内します。

  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。就職・転職の経過を確認しながら、働き方や必要な配慮を一緒に考えていきます。
  • 仕事を続けるか休むかの相談もよくお受けしています。休職の診断書は1か月毎に作成しており、診察の結果必要と判断すれば初診当日に発行することもあります。

緊急のとき——自分を傷つけてしまいそうなほど追い詰まっているときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。

まとめ

  • クローズ就労は求人の幅と待遇、オープン就労は配慮と働き続けやすさに強みがあり、どちらが正解というものではない
  • 2026年7月から民間企業の法定雇用率は2.7%(従業員37.5人以上が対象)となり、精神・発達障害のある方の雇用は増加傾向が続いている
  • 障害者雇用枠への応募には原則として障害者手帳が必要。精神障害者保健福祉手帳は初診から6か月以上経過が要件で、取得にも数か月かかるため早めに準備を
  • 開示は「誰に・いつ・どこまで」を自分で選べる。伝えるときは「障壁・工夫・配慮」の3点セットで前向きに
  • 判断の軸は「その職場で長く働き続けられるか」。迷いが続くときや生活への支障があるときは、一人で抱え込まず受診を

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参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『発達障害の人のための就活ハック』(窪貴志・高橋亜希子・山本愛子、翔泳社)

制度の数値は厚生労働省の公表資料に基づく2026年7月時点の内容です。

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

オープン就労とクローズ就労はどちらがよいのですか?

どちらが正解というものではありません。配慮のある環境で長く働き続けたいならオープン就労(障害者雇用を含む)、求人の幅や待遇を優先したいならクローズ就労という傾向はありますが、特性の程度・過去の職場でのつまずき方・生活設計によって適した形は変わります。両方を視野に入れて就職活動を進めることもできます。

クローズ就労で入社した後に、障害があることが会社に知られてしまうことはありますか?

精神障害者保健福祉手帳を持っていること自体は、自分から伝えない限り勤務先に知られることは基本的にありません。一般雇用で就職した場合、手帳の保有を会社に伝える義務もありません。ただし通院のための遅刻・早退が続くなど、働き方の調整が必要になったときに説明に悩む場面はあり、その時点で改めて伝えるかどうかを検討する方もいます。

障害者雇用で働くには何が必要ですか?

障害者雇用枠への応募には原則として障害者手帳が必要です。知的障害を伴わない発達障害の方は主に精神障害者保健福祉手帳を取得します。申請には精神科・心療内科の初診日から6か月以上経過していることと医師の診断書が必要で、申請から交付までにも数か月かかるため、障害者雇用を考えている方は早めの準備をおすすめします。

診断を受けたら会社に報告する義務はありますか?

法律上、発達障害の診断を受けたことを勤務先に報告する義務はありません。伝えるかどうか、誰にどこまで伝えるかは自分で決められます。一方で、合理的配慮(業務上の調整)を求めたい場合には、会社側に事情を伝えることが出発点になります。伝え方は診察でも一緒に整理できます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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