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連載「大人の発達障害と仕事」第8回(全16回) 第1回から読む →

「どの仕事から手をつければいいかわからず、結局どれも進まない」「急ぎの依頼を受けたのに、今の作業を中断すべきか判断できない」——大人の発達障害の方から、こうした悩みをよくうかがいます。

たとえば、複数の書類作成を頼まれたのに着手する順番が決められず、迷っているうちに一番急ぎのものが締切りを過ぎてしまった方。あるいは、上司から「こっちを先にやって」と言われるたびに頭が真っ白になり、「なぜ自分は皆が当たり前にできる判断ができないのだろう」と自信を失っていった方。どちらも、能力ややる気の問題ではなく、「優先順位づけ」と「段取り」という特定の作業がとりわけ苦手、という話です。

この記事では、なぜ優先順位づけが難しいのか、その背景と、今日から試せる工夫を順に解説します。

なぜ優先順位・段取りがつけられないのか

優先順位を決めるという作業は、実は複数の力の組み合わせでできています。それぞれの仕事にかかる時間を見積もり、締切りから逆算し、重要度を天秤にかけて着手順を決める——この一連の見通しを立てる力に、注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性が影響することがあります。

ADHDの特性がある方では、時間の感覚がつかみにくく、「締切りは来月4日」と言われても残り時間を実感しにくいことがあります。また、重要とわかっていても目の前の興味を引くことに先に手が伸びてしまう傾向や、大きな仕事を細かい作業に分けて段取りを組むことの苦手さも、着手の遅れにつながります。

ASDの特性がある方では、「重要な仕事から先に」と言われても、何をもって重要とするかの基準が示されていないと判断できない、という形で困難が現れやすくなります。多くの職場では優先順位の基準は明文化されておらず、各自が経験と勘で判断しています。この「書かれていないルール」を読み取ることの難しさが、優先順位づけの苦手さとして表面化するのです。

つまり優先順位がつけられないのは、怠けでも不真面目でもなく、「見積もる・逆算する・暗黙の基準を読む」という複数の作業がまとめて要求されていることが原因です。であれば対処法も、根性ではなく、この判断を仕組みに置き換えることになります。

昔からの知恵——判断を「仕組み」に置き換える

発達障害の仕事術の本では、優先順位と段取りについて次のような工夫が紹介されてきました。

緊急性×重要性の2軸で仕分ける。仕事の優先度は「どれだけ急ぐか(緊急性)」と「どれだけ大事か(重要性)」の2つで決まります。両方高いものが最優先、両方低いものは空き時間に回す。迷いやすいのは「急ぐが重要でない仕事」と「急がないが重要な仕事」の比較ですが、まず緊急性で並べ、同程度なら重要性で判断するのが無難です。重要性の目安は、お客様との約束や上司から優先と指示された仕事が上位、自分の主業務がその次、いつやってもよい雑務は下位、と考えます。判断に迷ったら上司に確認する——これも立派な仕事のスキルです。

大きな仕事は小さく割って、締切りを自分で作る。長期の仕事ほど手がつかないのは、遠い締切りでは時間が実感できず、具体的な行動もイメージできないからです。「企画書の第1章だけ完成させる」のように数日で終わる単位まで小さく割り、それぞれに近い締切りを設定します。さらに「○日に確認をお願いします」と上司や相手に約束してしまうと、締切りが「自分との約束」から「人との約束」に変わり、格段に守りやすくなります。

作業時間を記録して、見積もりの材料をためる。時間の見込みが立たないのは、自分の作業速度のデータがないからでもあります。仕事が1つ終わるたびに「伝票整理3時間」「週報15分」と、かかった時間をおおまかに記録していく。これが蓄積すると、「前回100件で4時間だったから、50件なら2時間」と、経験と勘の代わりにデータで見積もりが立てられるようになります。

依頼と情報を1か所に集める。あちこちから口頭・メール・付箋で仕事が舞い込むと、優先順位づけ以前に全体像がつかめません。自分への依頼はできるだけ1つの場所(一覧表やボード、メール)に集約し、「ここを見れば自分のやるべきことが全部わかる」状態を作ることが、段取りの土台になります。

2026年のやり方——スマホとアプリで仕組みを回す

上の原理は、今の道具を使うとずっと楽に実行できます。

  • タスク管理アプリで一元管理。仕事もプライベートも1つのアプリに集約します。締切り日を入れると「あと3日」と残り日数で表示してくれるリマインダー・カウントダウン系のアプリを使うと、時間感覚の弱さを道具が補ってくれます。
  • カレンダーアプリに「作業時間」ごと予定を入れる。締切りだけでなく、「火曜10〜12時は企画書の第1章」のように作業そのものを予定としてブロックすると、着手のタイミングを迷わなくて済みます。
  • 作業時間の記録もアプリで。タイムトラッキングアプリやスマホのメモで、終わった仕事とかかった時間を一行記録するだけで、見積もりのデータがたまっていきます。
  • 依頼はチャットツールに集約。職場の協力が得られるなら、自分への依頼はチャットの特定チャンネルやタスク機能に集めてもらうと、抜け漏れが大きく減ります。
  • リモートワークの日は特に構造化を。在宅は割り込みが少ない反面、段取りを自分で全部組む必要があります。朝一番に「今日やる3つ」を決めてから始めるだけでも、迷いが減ります。

AIに手伝ってもらう

⚠️ 仕事のメールや書類・給与明細をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・金額など、特定につながる部分を「A社」「上司」などに置き換えてから渡してください。

優先順位づけと段取りは、ChatGPTやClaudeなどの対話型AIがかなり得意とする作業です。自分の頭の中だけで並べ替えようとせず、抱えている仕事を全部書き出してAIに仕分けてもらうと、判断の負担が大きく減ります。

朝、今日やるべき仕事をすべて箇条書きにして貼り付け、優先順位をつけてもらいます。締切りと所要時間の見込みも添えると精度が上がります。

⌨️ 貼り付けて渡す
私はADHDの特性があり、仕事の優先順位づけが苦手です。以下が今日抱えているタスクの一覧です(締切りとおおよその所要時間つき)。緊急性と重要性の2軸で仕分けて、今日取り組む順番を1つずつ提案してください。判断に迷うものがあれば「上司に確認すべき」と指摘してください。

(ここにタスク一覧を貼り付け)

大きな仕事を任されて何から手をつければいいかわからないときは、仕事の内容を音声で説明して、小さな作業に分解してもらいます。

🎤 音声で渡す
これから任された仕事の内容を話します。私は大きな仕事を段取りに分解するのが苦手なので、この仕事を「1〜3日で終わる小さな作業」に分解して、着手する順番と、それぞれに設定すべき自分用の締切りの目安を提案してください。最初の一歩は特に具体的にしてください。

手書きのToDoメモやホワイトボードが散らかって全体像がつかめないときは、写真に撮って整理してもらう方法もあります。

📷 写真で渡す
この写真は私のToDoメモです。書かれているタスクを読み取って一覧に整理し、締切りが書いてあるものは締切り順に並べてください。締切りが不明なものは「要確認」として分けてください。最後に、今日まずやるべき3つを提案してください。

当院での実際/受診の目安

工夫を試しても、仕事の抜け漏れや叱責が続いてつらい、疲れ果てて休日は寝てばかり——そうした状態が続くときは、工夫だけで抱え込まず、精神科の受診をご検討ください。優先順位や段取りの困りごとの背景に発達障害の特性があるのか、うつ状態や不安など別の要因が重なっているのかを、診察のなかで一緒に整理していきます。

当院では、次のような形で診療を行っています。

  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。職場での困りごとの経過を確認しながら、対処の工夫や環境調整について相談を続けていきます。
  • 休職が必要と判断した場合の診断書は1か月毎に作成しています。

緊急のとき——自分や他人を傷つけてしまいそうな切迫した状態のときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。

まとめ

優先順位がつけられないのは、「見積もる・逆算する・暗黙の基準を読む」という複数の判断が一度に要求されるためで、怠けでも能力不足でもありません。緊急性×重要性の2軸での仕分け、仕事の細分化と締切りの前倒し、作業時間の記録、依頼の一元化——判断を仕組みに置き換える工夫で、負担は着実に減らせます。今はタスク管理アプリやAIという心強い道具もあります。

それでも仕事や生活への支障が続くときは、一人で抱え込まず、診察の場でその困りごとをそのままお聞かせください。

関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)

参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『発達障害の人が上手に働くための本』(對馬陽一郎、翔泳社)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

優先順位がつけられないのは、経験不足のせいではないのですか?

経験を積んでも優先順位づけの苦手さが続く場合、注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性——時間の見通しの立てにくさ、作業を分解して段取りを組むことの苦手さ、明文化されていない基準を読み取りにくいこと——が関係している可能性があります。この場合、「慣れれば自然にできる」を待つより、緊急性と重要性で仕分けるルールや作業時間の記録など、判断を仕組みに置き換える工夫のほうが有効なことが多いです。

「重要な仕事から先に」と言われても、何が重要かわかりません。

重要さの基準は職場ごとに違ううえ、多くの職場では明文化されていません。おおまかには「お客様との約束や上司から優先と指示された仕事」が上位、「自分の主業務」がその次、「いつやってもよい雑務や自分の勉強」が下位、という目安で仕分けるとよいでしょう。それでも判断に迷うときは、自分で抱え込まず「AとBのどちらを先にやるべきですか」と上司に確認するのが最も確実で、確認すること自体は仕事上まったく恥ずかしいことではありません。

工夫を試しても仕事が回らず、毎日残業や叱責が続いています。受診したほうがよいでしょうか?

工夫だけで抱え込まず、仕事や生活への支障が続くときは受診をご検討ください。優先順位や段取りの困りごとの背景に発達障害の特性があるのか、あるいは疲労やうつ状態など別の要因が重なっているのかは、経過をうかがいながら診察のなかで整理していきます。困りごとの具体例(いつ、どんな場面で、どう困ったか)をメモして持参いただくと、診察がスムーズになります。

診断を受けていなくても、この記事の工夫は使えますか?

使えます。緊急性×重要性での仕分け、タスクの細分化と締切りの前倒し、作業時間の記録といった工夫は、診断の有無にかかわらず段取りが苦手な方に役立つものです。ただし、工夫を重ねても支障が大きい状態が続く場合は、背景を確かめる意味でも一度精神科の受診をご検討ください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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