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連載「大人の発達障害と仕事」第4回(全16回) 第1回から読む →

「メモを取れ」と言われて手帳は用意している。それなのに、説明が終わる頃にはページは真っ白——何を書けばいいのか、その場で判断できないからです。あるいは、メモは取っているのに、いざ見返そうとすると、どのページに書いたのか、そもそもどの紙に書いたのかが見つからない。「この前教えたよね、メモしてたでしょ」と言われて、冷や汗をかきながらメモ帳をめくった経験のある方もいらっしゃると思います。

会議になるとさらに難しくなります。複数の人が入れかわり話すなかで、誰の発言を書き留めればいいのかわからないまま、「じゃ、そういうことで」と解散になり、手元のメモは白紙——。

こうした「メモが取れない・取ったメモが活かせない」という困りごとは、大人の発達障害のある方の相談で非常によく出てくるテーマです。この記事では、なぜメモが難しいのかという理由と、今日から試せる工夫を解説します。

なぜメモが取れないのか——「聞きながら書く」は高度な並行作業

メモ取りは、単純な作業に見えて、実はかなり複雑なことをしています。耳で説明を聞き、頭で「どこが大事か」を判断し、手で文字を書く——これらを同時にこなす並行作業です。

注意欠如多動症(ADHD)の特性がある方は、注意の持続や切り替えにむらが出やすく、興味の持ちにくい話を長く聞き続けることが苦手です。一瞬別のことに注意が向くと、その間の話がすっぽり抜けてしまい、書こうにも書く材料が頭に残っていない、ということが起こります。また、手近な紙に書いてそのままなくす、メモ帳を何冊も持っていてどれに書いたかわからなくなる、といった「書いたあと」の管理の難しさも出やすいところです。

自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方は、「大事なポイントだけ書いて」という曖昧な指示が苦手なことがあります。何が「大事」かは相手や状況によって変わるため、基準がはっきり示されないと選び取れないのです。また、複数の人が同時に話す場面では発言を切り分けて追うことが難しく、全体に向けた連絡が自分ごととして入ってきにくいという特性が重なると、会議のメモは特に難しくなります。

さらに、背景にはワーキングメモリ(聞いた情報を一時的に頭に保持しながら処理する力)の弱さが関わっていると考えられています。つまり、メモが取れないのは「やる気」や「社会人としての心構え」の問題ではなく、特性と作業の相性の問題です。だからこそ、根性ではなく仕組みで解決するのが正解です。

昔からの知恵——フォーマット化・タイトル・一元化・事前メモ

発達障害のある方の働き方を扱った書籍では、メモの困りごとに対して次のような原理が繰り返し示されています。

1. メモのフォーマットをあらかじめ決めておく。 「何を書くか」をその場で考えるから間に合わなくなります。内容(用件のタイトル)・目的(最終的に何を出すのか)・日時(締切や開催時刻)・場所・関係者(依頼者・報告先)・備考、といった項目を印刷やテンプレートで固定しておき、聞きながら空欄を埋める方式に変えるのです。項目が埋まっていない箇所は「聞き漏らしている箇所」だと一目でわかるので、その場で質問もしやすくなります。わかりきったことでも省略せずに埋めるのがコツです。

2. 書き終えたメモは、その場で依頼者に見てもらう。 聞き間違いや抜けは誰にでもあります。「この理解で合っていますか」と確認してもらえば、間違いはその場で直り、相手が言い忘れた指示を思い出してくれることもあります。

3. あとで見返すメモには、必ず日付とタイトルを大きく書く。 メモが見つからない最大の原因は、タイトルがないことです。「これは何についての話か」がわからなければ、思い切って「これは何のお話でしょうか」と聞いてしまい、その答えをそのままタイトルにすればよいのです。1件1ページにするのも、あとから探すための鉄則です。

4. 書く場所を一つに統一する。 手近な紙、複数のメモ帳、書類の余白……と分散するほど、情報は行方不明になります。「メモはここにしか書かない」という置き場を一つ決めることが、探す時間を減らす一番の近道です。

5. 会議は「事前メモ」で戦う。 会議の目的、日時・場所、出席者、自分が報告すること、確認したいこと——事前にわかることをすべて紙に書き出しておき、当日はそこに決まったことを書き加えていくだけにします。頭に置いておくことを減らせるぶん、話の流れを追うことに集中でき、書く量も最小限で済みます。

6. メモが無理なら、記録の手段を変える。 上司の許可を得て説明を録音する、掲示物や手順は写真や動画で残す。記録の目的は「あとで思い出せること」であって、手書きであることではありません。

2026年のやり方——スマホ一元化と自動文字起こし

上の原理は、いまのスマホやアプリで実行するとぐっと楽になります。

  • メモアプリに一元化する。 スマホ標準のメモアプリやタスク管理アプリを「唯一のメモ置き場」にすれば、日付は自動で付き、キーワード検索で探せます。「どこに書いたかわからない」問題は、検索できる場所に書くことでほぼ解消します。クラウド同期しておけば、スマホでもパソコンでも同じメモが開けます。
  • フォーマットはテンプレート機能で。 メモアプリのテンプレートや定型文機能に「内容/目的/日時/場所/関係者/備考」の型を登録しておけば、指示を受けるたびに呼び出して埋めるだけです。
  • 録音と自動文字起こしを使う。 最近のボイスメモ・議事録アプリには、録音と同時に自動で文字起こしをしてくれるものが多くあります。会議や説明を(許可を得て)録音しておけば、聞き漏らしても文字で見返せます。「聞く」と「書く」を同時にやらなくてよくなるのは、並行作業が苦手な方にとって大きな助けです。
  • 写真をメモ代わりに。 ホワイトボード、掲示物、画面——文字で写す代わりに撮影してメモアプリに貼れば、日付順・サムネイルで探せます。視覚的な記憶が得意な方には、文字より画像のほうが思い出しやすいことも多いのです。
  • 予定はカレンダーアプリへ即転記。 メモに書いた日時情報は、その場でカレンダーアプリに通知付きで入れてしまいます。メモは「記録」、リマインドは「通知」と役割を分けるのが、忘れないための基本形です。

AIに手伝ってもらう

⚠️ 仕事のメールや書類・給与明細をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・金額など、特定につながる部分を「A社」「上司」などに置き換えてから渡してください。

ChatGPTやClaudeなどの対話型AIは、「取ったメモを使える形に整える」作業がとても得意です。走り書きの断片からでも、整理されたメモに変換してくれます。

指示を受けた直後、走り書きや記憶の断片しかないときは、音声でそのまま吹き込んで、AIにフォーマットへ整理してもらいます。

🎤 音声で渡す
いまから、上司に受けた仕事の指示を思い出しながら話します。話し終わったら、内容(タイトル)・目的(最終的に何を提出するか)・日時(締切や開催時刻)・場所・関係者(依頼者と報告先)・備考の6項目に整理してください。私が言い忘れていて確認が必要な項目には「【要確認】」と付けてください。

会議前には、わかっている情報をAIに渡して「事前メモ」を作ってもらうと、当日は書き加えるだけで済みます。

⌨️ 貼り付けて渡す
明日、社内会議に出席します。以下に会議の案内メールの内容を貼ります(社名や個人名は置き換えています)。これをもとに、①会議の目的、②日時と場所、③出席者、④私が報告・準備すべきこと、⑤会議中に確認すべきことの5項目からなる「事前メモ」を作ってください。不明な項目は空欄にして「当日確認」と書いてください。
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(ここに案内メールの内容を貼り付け)

ホワイトボードや自分の走り書きメモは、写真に撮ってAIに渡せば、清書と要点整理をしてもらえます。

📷 写真で渡す
この画像は会議のホワイトボード(または私の手書きメモ)です。読み取れる内容を清書したうえで、「決まったこと」「私がやること(期限があれば期限も)」「持ち越された議題」の3つに分けて整理してください。読み取りに自信がない箇所は推測せず「?」を付けてください。

AIの出力は必ず自分の目で確かめてから使ってください。特に日付・数字・締切は、元の指示と突き合わせて確認する習慣が大切です。

当院での実際/受診の目安

メモの工夫は今日から試せますが、工夫だけで抱え込まないでいただきたい、というのが精神科医としてのお願いです。聞き漏らしや物忘れによるミスが続いて仕事に支障が出ている、注意や叱責が重なって気分の落ち込み・不眠・出勤前の強い不安が出てきている——そのような状態が続くときは、受診をご検討ください。困りごとの背景に発達特性があるのか、疲労やうつ状態など別の要因が重なっているのかを整理することが、有効な対策への近道になります。

当院での診療について、よくご質問いただく点をご案内します。

  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診前にWEB問診にお答えいただき、当日は問診内容をもとに診察を進めます。初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。職場での困りごとの経過を伺いながら、対策を一緒に考えていきます。
  • 休職が必要と判断した場合の診断書は1か月毎に作成しています。診察の結果必要と判断すれば、初診当日に発行することもあります。

なお、緊急のとき——自分を傷つけてしまいそうな切迫した状態のときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの主治医への相談を行ってください。

まとめ

  • メモが取れないのは「聞く・考える・書く」の並行作業と特性の相性の問題であり、やる気の問題ではありません。
  • 何を書くかをその場で考えない——項目を決めたフォーマットに埋める方式に変え、書いたメモはその場で依頼者に確認してもらいましょう。
  • あとで見返すメモは「日付とタイトルを大きく・1件1ページ・置き場は一つ」。スマホのメモアプリへの一元化なら検索でも探せます。
  • 会議は事前メモを用意し、当日は書き加えるだけにする。メモ自体が無理なら、録音・自動文字起こし・写真という手段があります。
  • 対話型AIは、走り書きの整理・事前メモ作り・写真の清書を手伝ってくれます。個人情報は置き換えてから渡し、日付や数字は必ず自分で確認を。
  • 工夫だけで抱え込まず、生活や仕事に支障が続くときは受診をご検討ください。

関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)

参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『発達障害の人が上手に働くための本』(對馬陽一郎、翔泳社)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

メモを取ろうとしても、何を書けばいいのかわからず真っ白のまま終わってしまいます。練習すれば取れるようになりますか?

「ポイントだけ書けばいい」と言われても、そのポイントがその場で判断できないことが困りごとの本体なので、やみくもに練習してもうまくいかないことが多いです。おすすめは、内容・目的・日時・場所・関係者などの項目をあらかじめ決めたメモのフォーマットを用意しておき、聞きながら空欄を埋める方式に変えることです。何を書くかをその場で考える負担がなくなり、書き終えたメモをその場で依頼者に確認してもらえば、聞き漏らしも補えます。

メモは取っているのに、あとで見返そうとするとどこに書いたか見つかりません。どうすればいいですか?

メモが見つからない原因の多くは、日付とタイトルがないこと、そして書く場所が複数に分かれていることです。あとで見返すメモには必ず一番上に日付とタイトルを大きく書く、メモは1件1ページにする、書く場所をメモアプリなど一つに統一する、という3つのルールだけでも探しやすさは大きく変わります。紙の裏などに書いてなくすタイプの方は、スマホのメモアプリに一本化して検索で探せるようにする方法が向いています。

どうしてもメモ自体が苦手です。メモ以外の方法でもいいのでしょうか?

かまいません。聞きながら書くという作業は、目・耳・頭・手を同時に使う高度な並行作業で、特性によってはとても負担が大きいものです。上司の許可を得たうえで説明を録音する、掲示物や画面は写真に撮る、作業手順は動画で残すなど、記録の手段はメモに限りません。最近はスマホの録音アプリに自動の文字起こし機能があるものも多く、「録音して、あとから文字で見返す」やり方も現実的になっています。自分に合う記録方法を持つことが目的で、手書きのメモにこだわる必要はありません。

メモの工夫だけで乗り切れない場合、受診したほうがいいのでしょうか?

工夫を試しても、聞き漏らしや物忘れによるミスが続いて仕事に支障が出ている、注意や叱責が重なって気分の落ち込みや不眠が出てきている、という場合は受診を検討してください。困りごとの背景に注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性があるのか、疲労やうつ状態など別の要因があるのかを整理することが、対策の出発点になります。当院はデジスマのWEB予約からご予約いただけます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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