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連載「大人の発達障害と仕事」第7回(全16回) 第1回から読む →

「わからないことがあったら聞いてね」と言われているのに、どうしても聞けない——そんな悩みはないでしょうか。

たとえば、こんな場面です。新しい業務でわからないところが出てきたけれど、上司はいつも忙しそうで話しかけるタイミングがつかめない。先輩は少し気難しくて声をかけづらい。「こんなことも知らないのかと思われたら」「前にも同じことを聞いた気がする」と考えているうちに時間だけが過ぎ、結局自己流で進めて失敗してしまう。あるいは、体調が悪くて休みたいのに、「迷惑をかける」と思うと言い出せず、無理に出勤して余計に体調を崩してしまう——。

質問できない・人に頼れないという悩みは、「甘え」でも「コミュニケーション能力の欠如」でもありません。この記事では、なぜ相談をためらってしまうのか、そして相談のハードルを下げる具体的な工夫を紹介します。

なぜ質問できないのか——特性と失敗体験の積み重ね

注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ方は、「自分勝手」「マイペース」と誤解されることがありますが、実際には周囲の人の気持ちを人一倍気にしている方が少なくありません。相手の感情や場の空気を直感的には読み取りにくいぶん、対人関係での失敗を重ねやすく、その結果「また迷惑をかけてしまうのでは」と、人に話しかけること自体に強いブレーキがかかってしまうのです。

また、「質問したら『そんなことも自分で考えろ』と突き放された」「何度も同じことを聞いて呆れられた」といった経験が積み重なると、仕事に必要な質問や相談まで避けるようになります。わからないまま自己流で進めて失敗し、ますます質問しづらくなる——この悪循環が、質問できない悩みの典型的な形です。

さらに、「自分で考えろ」と「わからなかったら聞け」の板挟みも大きな壁です。どこまでが自分で判断してよい範囲なのかが曖昧なため、「これは聞いていいことなのか?」という手前の段階で悩んで動けなくなってしまいます。

昔からの知恵——「相談は正しい」から出発する

働き方の工夫を扱った書籍では、この悩みへの対処がいくつも整理されています。要点を再構成して紹介します。

まず「相談は仕事の一部」と位置づける。仕事はコミュニケーションで成り立っており、相談はその基本のひとつです。相談した結果気まずくなる傷よりも、相談しなかった結果の失敗による傷のほうが大きいことがほとんど。「迷ったら相談する」を自分の行動指針にしてしまいましょう。

相談すべきかの判断基準を持つ。たとえば「それは自分にしかわからないことではないか」(自分が保存したファイルの場所など)、「一度聞いたことではないか」(まずメモを見返す)という2つのフィルターを通し、それでもわからなければ質問してよい、と決めておくと迷いが減ります。

相談内容を先に文字にする。何に困っていて、相手にどうしてほしいのかを紙やメモに書き出してから話しかけると、頭が整理され、書いている途中で自己解決することもあります。良い相談とは「相手に求める答えが明確で、相手の選択肢が狭い相談」です。状況を客観的に説明し、「お休みをいただきたいのですが、いかがでしょうか」のように相手が「はい/いいえ」で答えやすい形にすると、相談される側の負担がぐっと減ります。

話しかける前に相手の都合を確認する。「○○さん、△△の件で相談があるのですが、いま少しよろしいですか」とワンクッション置き、結論から話して理由を続ける。この「型」を決めておけば、毎回話し方に悩まずに済みます。

直接話すのが難しければ文面で。どうしても口頭のハードルが高いときは、メールやメモで相談する方法もあります(ただし急ぎの用件は直接伝えます)。

2026年のやり方——チャットとテンプレートで「話しかける」を減らす

いまの職場環境なら、こうした知恵をもっと楽に実行できます。

  • ビジネスチャットで相談する。SlackやTeamsなどのチャットは、「相手の作業を中断させずに聞ける」「文章を推敲してから送れる」「やりとりが記録に残り、同じ質問の繰り返しを防げる」と、質問が苦手な人にとって利点だらけです。リモートワークの職場なら、むしろチャット相談が標準です。
  • 質問テンプレートをスマホのメモに保存しておく。「【相談】○○の件/現状:/わからない点:/自分の案:/お願いしたいこと:」という型を単語登録やメモアプリに入れておき、毎回それを埋めるだけにします。
  • 聞いた答えは即メモアプリへ。業務ごとにページを分けて記録しておけば、検索一発で見返せます。「一度聞いたことか」の確認が数秒で済むので、聞き直しへの不安が減ります。
  • 日程調整はツールに任せる。打ち合わせの候補日を考えるのが苦手なら、カレンダーアプリの空き時間共有や日程調整ツールを使えば、「候補日を3つ挙げる」作業自体をなくせます。

AIに手伝ってもらう

⚠️ 仕事のメールや書類・給与明細をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・金額など、特定につながる部分を「A社」「上司」などに置き換えてから渡してください。

ChatGPTやClaudeなどの対話型AIは、「相談する前の下ごしらえ」にとても向いています。頭の中のもやもやをそのまま話しても、整理された相談文に変換してくれるからです。

頭の中が整理できないまま困っているときは、状況を思いつくまま声で話して、相談文に組み立ててもらいましょう。

🎤 音声で渡す
これから仕事で困っていることを思いつくまま話します。話し終わったら、上司に相談するための文章に整理してください。形式は「相談したい件名/現状(客観的な事実のみ)/わからない点/自分なりの案/上司にお願いしたいこと(はい・いいえで答えられる形)」の5項目でお願いします。私の主観や言い訳に聞こえる部分は削って、事実だけ残してください。

「そもそもこれは質問していいことなのか」で止まってしまうときは、判断そのものを手伝ってもらえます。

⌨️ 貼り付けて渡す
職場で次のことに迷っています。「(迷っている内容を書く)」。これは (1)自分がすでに持っている情報で判断できること (2)自分の裁量で決めてよさそうなこと (3)上司や先輩に質問・相談すべきこと のどれに近いか、理由つきで判定してください。(3)の場合は、相手が答えやすい聞き方の例文も1つ作ってください。

チャットで送る相談文を書いたものの、失礼になっていないか不安なときは、送信前のチェック役を頼めます。

⌨️ 貼り付けて渡す
次の文章を、上司にチャットで送る相談文として添削してください。チェックしてほしいのは (1)結論が最初に来ているか (2)相手が何を答えればよいか明確か (3)失礼・きつい印象の表現がないか (4)長すぎないか の4点です。修正版も提示してください。
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(ここに相談文を貼り付ける)

AIへの相談は、人に聞く前の「練習台」としても使えます。ただし、AIの答えは職場の実情を知らない一般論です。最終的な判断は、実際の上司や先輩への相談で確認してください。

当院での実際/受診の目安

質問できない・人に頼れない状態が続くと、仕事を一人で抱え込み、残業や失敗が積み重なって、気分の落ち込みや不眠につながることがあります。工夫を試しても状況が変わらず、仕事や生活への支障が続くとき、また「人に話しかけるだけで動悸がする」「出勤前に強い憂うつがある」といった心身のサインが出ているときは、工夫だけで抱え込まず、精神科・心療内科の受診を検討してください。

当院での診療について、よくご質問いただく点をご案内します。

  • ご予約はWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • 通院を続ける場合の頻度は、基本を2週間に一度としています。診察のなかで、職場での困りごとの整理や対処の相談も行っています。
  • 症状のために休職が必要と判断した場合、休職の診断書は1か月毎に作成しています。診察の結果必要と判断すれば、初診当日に発行することもあります。

なお、緊急を要する切迫した状態のときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの主治医への相談を行ってください。

まとめ

  • 質問できない・頼れないのは甘えではなく、特性と失敗体験の積み重ねによる「相談への強いブレーキ」であることが多い
  • 「相談は仕事の一部」と位置づけ、「自分にしかわからないことか」「一度聞いたことか」の判断基準を持つと迷いが減る
  • 相談内容は先に文字にし、結論から・相手が答えやすい形で伝える。チャットやテンプレートを使えばハードルはさらに下がる
  • 対話型AIは、相談文の下ごしらえや「聞いていいことか」の判定に使える
  • 工夫だけで抱え込まず、仕事や生活への支障が続くときは受診を検討する

関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)

参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『発達障害の人が上手に働くための本』(對馬陽一郎、翔泳社)
  • 『発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本』(對馬陽一郎・安尾真美、翔泳社)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

「自分で考えろ」と「わからなかったら聞け」の両方を言われて、どうすればいいかわかりません。

この境界線は、発達障害の有無にかかわらず多くの新人が悩むポイントです。目安としては、「自分がすでに持っている情報で判断できること」「自分の裁量で決めてよいこと」は自分で考える範囲、それ以外で考えてもわからないことは質問してよい範囲と整理できます。判断に迷うなら質問するほうが安全な場合が多く、質問して「自分で考えて」と言われたら、それは裁量範囲だったと学べたということです。境界線そのものを上司に確認しておくのも有効です。

同じことを何度も質問してしまい、聞きづらくなってしまいました。どうすればよいですか?

同じ質問の繰り返しを防ぐには、質問して得た答えをその場で必ずメモに残し、次に迷ったときはまずメモを見返す習慣が役立ちます。それでも思い出せないときは、「一度伺ったことだと思うのですが」と一言添えて聞き直せば、印象はかなり違います。スマホのメモアプリに業務ごとのページを作っておくと、検索で探せるので紙より見つけやすくなります。

質問できないのは性格の問題でしょうか。それとも発達障害の症状でしょうか?

質問や相談へのためらいは誰にでもありますが、注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ方では、過去のコミュニケーションの失敗体験が積み重なって「また迷惑をかけるのでは」と過度に慎重になり、仕事に必要な質問までできなくなることがあります。性格か特性かを自分で判断するのは難しいため、仕事や生活への支障が続いているなら、一度精神科・心療内科で相談してみることをおすすめします。

受診すると、どんなことをしてもらえるのですか?

診察では、困りごとの背景に発達障害の特性やうつ・不安などの不調がないかを整理し、必要に応じて診断や治療、職場での工夫の相談を行います。当院の予約はWEB予約で、初診前にWEB問診にお答えいただき、初診の所要時間は30分程度が目安です。通院を続ける場合の頻度は基本を2週間に一度としています。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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