福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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リーマス(一般名: 炭酸リチウム)は、躁うつ病(双極性障害)の気分の波を、底から支えるために使われる気分安定薬です。半世紀以上前から使われてきた、双極性障害治療のいわば"古典"であり、今も波を抑える柱の一つ。リチウムは自然界にもある元素そのもので、その塩が薬になっています。ここでは、どんなふうに効いて、なぜ水分や飲み合わせに気を配る必要があるのかを、診察でお話ししている感覚に近い形でまとめました。

どんなふうに効く薬か

リーマスは、抗うつ薬のように落ち込みを持ち上げたり、睡眠薬のように眠くさせたり、という分かりやすい効き方はしません。気分の"振れ幅"そのものを小さくしていく——高すぎる山も、深すぎる谷も、なだらかにならしていくイメージの薬です。とくに、気分が高ぶりすぎる躁の状態をしずめ、長く続けることで次の波が来るのを防ぎます。

効き方はゆっくりで、飲んだその日に何かが変わるわけではありません。体に合う量に達してから、じわじわと波が穏やかになっていきます。この「振れ幅が小さくなる」変化は本人には気づきにくく、むしろ周りの人が「最近、波が落ち着いたね」と先に気づくこともあります。

古い薬でありながら、検査や副作用という手間を引き受けてでもこの薬が使われ続けてきたのは、それだけの働きが知られているからです。つらい気持ちが強くなってきたときは、その気持ちごと主治医に伝えてください。差し迫った状況なら救急(119)へ。

日本で認められている使い方

添付文書でリーマスに認められているのは、気分が高ぶった躁の状態に対する使い方です。一方、国際的な治療指針では、再発を長く防ぐために続ける使い方やうつの波への使い方が重要な位置を占めます。診療ではこうした形で使われることがありますが、いずれも日本で承認された効能ではありません。

どんな人に向くか・ほかの薬との違い

リーマスがいちばん力を発揮するのは、気分の高ぶり(躁)がはっきりある双極性障害の方や、再発を長く防ぎたい方です。古くからの薬だけに、再発予防の実績が豊富です。

同じ気分安定薬でも、持ち味は分かれます。ラミクタールは「うつの波」を防ぐのが得意で、日中の重さが出にくい薬。デパケンは躁の勢いを抑える力に持ち味があります。リーマスはそのなかで、躁・うつ両方を含めた波全体を底から支える存在です。ただ、効く量と、副作用が出やすくなる量が近いという難しさがあり、そこがこの薬の最大の注意点です(次でお話しします)。

もう少し細かく言うと、同じ「躁」でも顔つきによって効きやすさが違うことが知られています。気分が晴れやかで万能感がふくらむタイプの高ぶりにはリーマスが反応しやすく、いらだちや不快感、怒りっぽさが前に出るタイプの高ぶりには、デパケンなどのほうが向くとされています。あのとき気分は晴れやかだったのか、いらだちのほうが強かったのか——ご自分では思い出しにくいところですが、どの気分安定薬が合うかを考えるうえで大きな手がかりになります。ご家族から見た様子が役に立つこともよくあります。なお当院では、いずれのタイプであっても、まずラツーダラミクタールを軸に調整することがほとんどです(詳しくは末尾の「当院での考え方」をご覧ください)。

効きやすさは「波の順番」にも表れる

予防の効果が出やすい方の傾向を調べた研究があります。効きやすさと結びついていたのは、高ぶりが先に来て、その後にうつが続き、やがて落ち着いた時期に戻る——という順番で波が回る方、そして発症した年齢が比較的高い方でした。反対に効きにくかったのは、うつが先に来てそこから高ぶりに移る逆の順番の方、落ち着いた時期をはさまずに波が続く方です。

ここに当てはまるから効かない、という話ではありません。あくまで傾向で、合うかどうかは経過で決まります。診察で症状だけでなく波の回った順番を伺うのは、そのためです。

飲み始めに知っておいてほしいこと

腎臓の働きの落ち方によっては使えないことがあります。重い心臓の病気がある方、てんかんなどで脳波の異常を指摘されたことがある方も同じです。ほかの科でかかっている病気は、始める前に必ず教えてください。

いちばん大事なこと——水分と、体調を崩したとき

リーマスと安全に付き合ううえで、これだけは覚えておいてください。この薬は、体の水分が減ると、体内にたまって効きすぎてしまう性質があります。効きすぎた状態(リチウム中毒)になると、手のふるえがひどくなる・強い吐き気や下痢・ふらつき・ろれつが回らない・ぼんやりする、といったサインが出ます。

これが起こりやすいのは、発熱・下痢・嘔吐・大量の汗など、体の水分が失われるときです。だから、約束事はシンプルに二つ。

  1. ふだんから水分をしっかりとる。とくに夏の暑い日、運動で汗をかいたとき、風邪や胃腸炎のときは意識して。
  2. 「いつもの副作用が、いつもより強い」と感じたら、飲み続ける前に連絡する。手のふるえや吐き気・下痢が急に強くなったら、中毒の入り口かもしれません。意識がもうろうとする・けいれんなど差し迫ったときは、ためらわず救急(119)へ。

怖がらせたいのではありません。この「水分に気を配る」暮らし方さえ身につければ、リーマスは長く頼れる薬です。

飲み合わせに気をつける

一部の薬は、リチウムを体にたまりやすくします。とくにロキソプロフェンなどの痛み止め(NSAIDs)、むくみをとる薬(利尿薬)、一部の血圧の薬は要注意です。市販の痛み止めを買うときは薬剤師に、ほかの病院にかかるときは医師に、「リーマスを飲んでいる」と必ず伝えてください。

多く飲んでしまったとき

うっかり1回分を重ねて飲んでしまったときは、次の分をどうするかをご自分で決めず、主治医または薬剤師に確認してください。

まとまった量を飲んでしまったときは、連絡だけで様子をみないでください。飲んだ直後は何ともなくても、数時間たってから急に効きすぎた状態になることがあります。症状が何もなくても、すぐに医療機関を受診してください。意識がもうろうとする、けいれん、まっすぐ歩けないといったときは、ためらわず救急(119)へ。

なぜ血液検査が欠かせないのか

リーマスは、今も使われている精神科の薬のなかではもっとも古い部類です。かつて高血圧の方の塩の代わりとして広く売られた時期に中毒が相次ぎ、「危ない薬」という評判が定着しました。血液で薬の濃さを確かめながら使えば危険を避けられる、という道筋が示されて、ようやく治療薬として認められた薬です。定期的な検査は、その歴史のうえに成り立つ約束事だと考えてください。

検査には受け方のこつもあります。前に飲んでから十分に時間が空いていないと、意味のある値になりません。主治医から「検査の日は朝の分をまだ飲まずに来てください」と言われることがあるのは、そのためです。指示されたときだけのことで、ご自分の判断で朝の分を飛ばす必要はありません。ふだんから飲む時刻をそろえておくと、毎回の条件がそろいます。

長く続けるうえで、気をつけたいことがあります。中毒が怖いからと検査をしないまま何年も同じ形で続けてしまうと、効いてほしい範囲に届いているのか分からないまま、副作用の心配だけを背負うことになりかねません。量は、年齢や腎臓の働きに配慮してあえて控えめに保つこともあり、少なめが悪いという話ではありません。検査で確かめながら主治医と一緒に合わせていく薬なのです。

長く続けるときの血液検査

定期的な血液検査で確かめるのは、薬の量が適切かどうかだけではありません。リーマスは長く続けるうちに、甲状腺の働きが落ちてきたり、腎臓に負担がかかったりすることがあります。甲状腺の働きが落ちると、だるさ・むくみ・体重増加といった形で現れ、うつがぶり返したように見えることもあるとされています。ですからこの薬を続けるあいだは、薬の量の面と体への影響の面の両方を、定期的な検査で確かめていくのが基本です。

甲状腺の働きが落ちてきても、やめるしか道がないわけではありません。補う薬を加えて続けられることが多いのです。

飲み始めのそのほかの症状

飲み始めや量を増やした時期に、手のこまかいふるえ、のどの渇き、尿の回数が増える、軽い吐き気などが出ることがあります。多くは体が慣れて軽くなりますが、我慢は無用です。量の調整で楽になることもあるので、遠慮なく教えてください。

手のふるえは、知っておくと驚かずにすむ

続けているうちに、手にこまかいふるえが出てくる方はかなりいます。効きすぎのサインとはかぎらず、ちょうどよい範囲で飲んでいても起こります。我慢するものでもなく、量の調整やふるえを抑える薬で治まることがあります。ただし急に大きく粗くなったときは、飲み続ける前に連絡してください。

のどの渇きと、トイレが近くなること

のどが渇いて水をよく飲み、尿の回数が増える。順番を知っておくと分かりやすくなります。腎臓が尿を濃くする働きが少し弱まって、薄い尿がたくさん出ます。そのぶん体の水分が減るのでのどが渇く——この順で起こります。

つまり渇きは、体の水分が足りなくなってきたサインのほうです。水分を控えるという意味ではありません。渇いたら飲んでいただいてかまいません。そのうえで、「のどが渇く」「トイレが近い」は、ささいなようでいて必ず伝えてほしい変化です。

やめるとき

リーマスは依存する薬ではありません。ただ、自己判断で急にやめると、気分の波(躁やうつ)がぶり返すことがあります。とくに急な中止は再発の引き金になりやすいことが知られています。調子が良くても、やめる時期は、安定している期間の長さやこれまでの経過をふまえて一緒に判断します。やめたい気持ちも含めて、まず診察でお聞かせください。

いつまで続けるのかという見通しも共有しておきましょう。重い高ぶりが一度でもあった場合や、高ぶりの波を繰り返している場合、血縁に同じ病気の方がいる場合には、落ち着いた後も予防を続けることがすすめられています。とはいえ、一生変わらないと決まってはいません。定年で仕事の負荷がなくなったのをきっかけに減らし、治療を終えられた方もいます。

生活の中での注意

運転については、添付文書で、めまいや眠気があらわれることがあるため、この薬を飲んでいるあいだは車の運転など危険を伴う作業に従事しないことになっています。とくに飲み始めや量を変えた時期、眠気やふらつきがあるときは危険です。運転が欠かせない生活の方は、薬の選び方から一緒に考えますので、必ず事前にご相談ください。塩分も実はリチウムと関わりがあり、極端な減塩は体にリチウムをためやすくします。減塩の食事指導を受けている方は必ず教えてください。妊娠については、妊娠中は使わないのが原則の薬です(赤ちゃんの心臓への影響が知られています)。ただし自己判断で急にやめると再発の危険があるので、妊娠を考え始めた段階で、早めに相談してください。薬の切り替えを含めて一緒に計画します。授乳中もこの薬は避けます。お酒は脱水や飲み忘れにつながるので、ほどほどに。

妊娠を考えるとき、産後のこと

ここで誤解されやすいのは、「妊娠したら薬をやめれば安全」ではないという点です。この薬をやめた方の再発は、妊娠していない時期よりも妊娠中のほうが多かったと報告されています。出産後も再発が起こりやすい時期です。だからこそ、妊娠を考え始めた段階での相談に意味があります。落ち着いた状態の長さを見たうえで、切り替えを計画できるからです。なお授乳を避けるのは、母乳を通して赤ちゃんに届く量が、薬のなかでも多いほうにあたるからです。

当院での考え方

リーマスは、慎重な体調管理が欠かせない薬です。当院に来られる双極性障害の方は、うつの時期が中心のⅡ型が多く、その場合はまずラミクタールラツーダを軸に調整することがほとんどです。そのため、当院でリーマスを新たに始めることは基本的にありません。すでに他院で始めて安定している方については、その治療を大切にしながら、当院でどう関われるかを一緒に考えます。気分の波や睡眠、生活の様子も薬を考える手がかりになりますので、最近の変化もあわせて教えてください。

抗うつ薬の効きを補う必要が出てきた場面でも、当院ではアリピプラゾール(エビリファイ)を第一の選択肢とすることが多く、リーマスを足す形はとっていません(この使い方も日本で承認された効能ではありません)。

参考文献

  • リーマス錠100/リーマス錠200 添付文書(2025年7月改訂・第5版) — KEGG MEDICUS掲載の電子添文を参照(参照日: 2026-07-07)
  • 参考書籍(本文の追記の裏づけ。要約・再構成であり原文の転載ではありません): 『双極性障害の診かたと治しかた』『気分症群』『本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩』『研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義』『ジェネラリストのための 向精神薬の使い方』『こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩』『ガイドラインにないリアル精神科薬物療法をガイドする』『向精神薬と妊娠・授乳』

よくある質問

リーマスは当院で処方できますか?

リーマス(炭酸リチウム)は、効果が期待できる量と副作用が出やすくなる量が近く、体調をみながら慎重に使うことが欠かせないお薬です。当院に来られる双極性障害の方はⅡ型が多く、その場合はまずラモトリギン(ラミクタール)やルラシドン(ラツーダ)を中心に調整することが多いため、当院でリーマスを新たに始めることは基本的にありません。他院で始めて安定している方の対応も含め、診察でご相談ください。

風邪で熱が出たり、下痢をしたときはどうすればよいですか?

発熱・下痢・大量の汗などで体の水分が失われると、リチウムが体内にたまりやすくなり、効きすぎた状態(中毒)に傾きやすくなります。水分をしっかりとり、食事や水分が十分にとれない状態が続くときや、吐き気・強いふらつき・手のふるえの悪化など普段と違う症状が出たときは、飲み続ける前に早めに主治医へ連絡してください。

市販の痛み止めを飲んでもよいですか?

ロキソプロフェンなどのNSAIDsと呼ばれる痛み止めは、リチウムが体内にたまりやすくなるため注意が必要です。市販薬を買うときは薬剤師にリーマスを飲んでいることを伝え、繰り返し使いたいときは主治医にご相談ください。むくみをとる薬や一部の血圧の薬も、同じ理由で注意が必要です。

妊娠を考えていますが、リーマスは続けられますか?

妊娠中は使わないのが原則の薬です(赤ちゃんの心臓への影響が知られています)。ただし、自己判断で急にやめると症状がぶり返すおそれがあります。妊娠を考え始めた段階で早めに相談していただければ、薬の変更を含めた治療計画を一緒に検討できます。授乳中もこの薬は避けます。

飲み忘れたときはどうすればよいですか?

気づいたときに2回分をまとめて飲むことは避けてください。リチウムが効きすぎるおそれがあります。基本的には次の服用時間から通常どおり再開し、飲み忘れが続くときや判断に迷うときは、主治医または薬剤師に確認してください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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