福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

連載「精神科医の処方ノート」第1回(全6回)

この記事は、SSRIという抗うつ薬が実際の診療のなかでどう選ばれているかに踏み込んだ内容です。前半(第1章)は患者さんやご家族に読んでいただける言葉で書いていますが、後半は医療者向けに、用量・エビデンス・保険適応外の使い方にまで踏み込みます。お薬そのものの説明をお探しの方は、レクサプロジェイゾロフトパキシルフルボキサミンサインバルタの各ページをご覧ください。

実際にどのお薬を使うかは、その方の状態、体の病気、ほかに飲んでいるお薬によって変わります。ここに書かれていることが、そのままご自身に当てはまるとはかぎりません。服用中の方は、この記事を読んで自己判断でお薬を変えたり中止したりせず、必ず主治医にご相談ください。

この記事で扱うのは、日本で使えるSSRI4剤(エスシタロプラム/セルトラリン/パロキセチン/フルボキサミン)と、比較の軸として置くSNRI1剤(デュロキセチン)の、あわせて5剤です。

SSRIは現場でどう位置づけられているか

「いちばんよく効くから」第一選択になったわけではない

うつ病や不安症の薬物療法では、SSRIがまず選ばれることがほとんどです。ただ、その理由は「SSRIがいちばん強力だから」ではありません。

SSRIより前から使われてきた三環系抗うつ薬は、効き目の面では今も評価が高い一方で、口の渇き・便秘・眠気・立ちくらみといった副作用が重く、なにより大量に飲んでしまったときに命に関わるという大きな弱点がありました。うつ病の治療薬でありながら、その薬自体が危険になりうる、という矛盾です。

そこを改良する目的で作られたのがSSRIでした。作用する範囲をセロトニンに絞ることで、副作用の重さと過量服薬時の危険を下げる。つまりSSRIは、「最強だから」ではなく「安全に使えるから」第一選択に置かれている薬だと理解しておくのが正確です。この立ち位置は、「もっと強い薬に変えてほしい」というご相談を受けたときに、医師が慎重になる理由でもあります。

効き目そのものには、思ったほど差がない

「レクサプロのほうがパキシルより強い」といった説明を目にすることがあります。しかし、うつ病への効き目に関しては、SSRI同士の差がはっきりしないのが現在の見方です。

多くの抗うつ薬を横並びで比べた大規模な研究もあり、順位表のような図が示されることもあります。ただ、この種の比較は、薬同士を直接比べた研究が少なく、比べ方によって順位が入れ替わるほど幅のあるものです。宣伝資料では順位が目立つ図だけが使われがちで、「実はどれも似たようなもの」と分かる図はあまり出てきません。

つまりSSRIの4剤は、効き目で順番がついているのではなく、性格の違う薬が横並びになっていると考えたほうが実態に合っています。

では、何を見て選んでいるのか

効き目で差がつかないなら、医師は何を手がかりに選んでいるのか。大きくは次の点です。

  • 飲み始めの体への負担――吐き気やそわそわ感の出やすさ、開始量をどこまで細かく調整できるか
  • やめるときのつらさ――減らしたときに離脱の症状が出やすい薬と、出にくい薬がある
  • ほかの薬との飲み合わせ――ほかの科から出ている薬に影響を与えやすい薬と、ほとんど影響しない薬がある
  • 体の病気や年齢との相性――肝臓や腎臓の働き、心臓の状態、高齢かどうか
  • 保険で使える病名の違い――同じSSRIでも、パニック症・強迫症・社交不安症・PTSDのどれに使えるかは薬ごとに違います
  • 薬の値段――後発品(ジェネリック)があるかどうかで、長く続けるときの負担が変わります

このうち、患者さんご自身がいちばん実感しやすいのは最初の二つでしょう。「飲み始めがつらかった」「やめようとしたら具合が悪くなった」という経験は、次の薬を選ぶときの重要な情報です。遠慮なく主治医に伝えてください。

最初の1剤で決まらないのは、めずらしいことではない

最初に処方された薬で十分よくなる方もいますが、そうならない方も少なくありません。これは治療の失敗ではなく、あらかじめ想定された範囲内の出来事です。

うつ病の治療研究では、順番に薬を切り替えていくことで最終的に多くの方が改善に至ることが示されています。だからこそ、「効いている感じがしない」と感じたときに黙って通院をやめてしまうのが、いちばんもったいない選択です。次の一手は用意されています(その選び方は、連載第2回の抗うつ薬が効かないときで扱います)。

なお、体の具合が急に悪くなった、意識がはっきりしないといった緊急性の高い状態のときは、迷わず救急(119)を利用してください。通院中の方は、まず主治医にご相談ください。


使い分けの判断軸

ここから先は医療者向けの内容です。 用量・エビデンス・保険適応外の使い方に踏み込みます。患者さん・ご家族の方は、ここまでの内容と主治医の説明を優先してください。以下に挙げる用量はいずれも書籍・文献上の記載で、服薬指示ではありません。

以下では薬剤名を一般名で記します。個々のお薬の解説ページはお薬についてから辿れます。

前提として、うつ病・不安症に対するSSRI4剤の有効性は、保険適応の違いはあってもおおむねクラスエフェクトとして扱ってよい、という見方が主流です。そのうえで、実際の分岐は以下の軸で起きます。

立ち上がりの速さと増量の手間

効果発現までおよそ2〜3週間、十分量で6〜8週間使ってから効果判定、というのが共通の時間軸です。9週以上かかる例もあるとされます。まずこの「待てる期間」を確保できるかどうかが問われます。

刻みやすさは剤によってかなり違います。

  • エスシタロプラムは10mg/日開始・20mg/日上限で、実質的な増量ステップが1段階しかありません。迷いが少ない反面、微調整の余地は乏しい。
  • セルトラリンは25mg/日開始・100mg/日上限で、25mg刻みの4段階。国内上限は米国・EUの200mg/日の半分です。「上限まで使ったのに足りない」という感覚の背景には、この差があります。ただし国内でこの上限を超える投与は添付文書外です。本記事は超用量を推奨しません。
  • パロキセチンは10mg/日開始、うつ病・社交不安症・PTSDで40mg/日、パニック症で30mg/日、強迫症で50mg/日と、適応ごとに上限が異なります。国内に5mg錠があるため、増量・減量とも5mg刻みで動かせます。細かく調整したい場面での強みです。
  • フルボキサミンは国内上限150mg/日(適宜増減)。海外ではより高い用量が使われており、導入時の用量設定が低かったことが「効かない薬」という評価につながった、という指摘があります。ここでも国内上限を超える投与は添付文書外にあたり、海外の用量をそのまま持ち込む話ではありません。SSRIのなかで唯一1日2回投与という点は、アドヒアランスの面で不利にはたらきます。
  • デュロキセチンは20mg/日開始・60mg/日上限。嘔気で脱落させないコツとして、脱カプセルして10mg/日から始める方法が挙げられています。ただしこれは添付文書に沿った用量設定ではなく、腸溶性の顆粒を扱う点でも製剤の設計から外れる運用です。嘔気での脱落が予想される症例に限って、説明と同意のうえで選ぶ手段にとどまります。なおこの手技については成書のあいだで記述が食い違っており、内容物を砕かないよう明記している成書もあります(詳細は連載第3回のSNRI・NaSSA・その他の立ち位置で扱います)。

添付文書の初回用量よりさらに少量から始めるという運用(セルトラリン25mg錠を半錠=12.5mg/日、エスシタロプラム10mg錠を1/4錠=2.5mg/日など)を明示している成書もあります。これは添付文書に沿った用量設定ではないため、嘔気・賦活症状で導入に失敗しやすい症例に限って、意図をカルテに残したうえで選ぶ性質の手技です。

剤形の制約は、刻みやすさとは別に効いてきます。 パロキセチンの徐放製剤は二層構造の錠剤で、粉砕も簡易懸濁もできません。一方で普通錠のパロキセチンは、多くの製剤が懸濁してそのまま経管投与できるとされています。嘔気対策として徐放製剤を選んだ患者が、のちに嚥下困難や経管栄養になった場面で行き詰まるのはここです。「消化器症状が軽い剤形」と「調整の自由度が高い剤形」は別物だと押さえておく必要があります。

口腔内崩壊錠(OD錠)についても、誤解を正しておく価値があります。OD錠は口の中で崩れますが、吸収されるのは口腔粘膜ではなく腸管で、結局は嚥下が必要です。利点は飲み込みやすさ・水なしで飲めること・口に隠して吐き出しにくいことで、効果発現が速くなるわけではありません。「早く効く錠剤」として説明すると、あとで期待外れを生みます。

服薬回数と服薬時刻の設計も、実は選択の一部です。 高齢者のアドヒアランス対策として成書が挙げるのは、1日3回を2回か1回にまとめる、食前・食直後・食後30分のように服薬方法が混在する状態を避ける、介護者が見守れる時刻に寄せる、といった地味な工夫です。フルボキサミンが1日2回であることの不利は、この文脈で具体化します。

逆に、患者説明で使えるのはこの事実です。抗不安薬と違い、抗うつ薬は反復投与によって効果が出ることを前提にした薬で、半減期が長ければ定常状態での血中濃度の振れ幅は小さくなります。したがって服薬時刻が多少ずれても薬効に大きな差は生じません。「飲む時間がずれてしまったから今日はやめておいた」という自己中断を防ぐ説明として、これは実際に効きます。

到達すべき用量は病態で変わります。うつ病では、多くの新規抗うつ薬が最大用量の半分程度で有効性が頭打ちになる可能性が指摘されています。これに対して強迫症では最大用量まで上げてから効果を判断するのが原則です。うつ病の感覚を持ち込むと過小治療になります。不安症については、SSRIでは用量依存性がある可能性がある一方、SNRIでは明確でないとされます。ここでもうつ病の解釈をそのまま流用しないよう注意が必要です。

導入初期の1〜2週をどう越えるか

選び分けの成否は、実際には最初の2週間で決まります。ここで脱落した患者は、その薬が本当に合っていたかどうかを永久に確かめられません。

嘔気

成書の副作用比較表では、嘔気・嘔吐の出やすさはフルボキサミンが最も強く、エスシタロプラム・パロキセチン・セルトラリン・デュロキセチンは一段軽い扱いになっています。問題は程度ではなく、嘔気がそのまま服薬中断に直結することです。これに対して、SSRIの開始と同時に制吐薬を数日分あらかじめ持たせておくと中断を防げる可能性がある、という運用を明記している成書があります。何を選ぶかは、選ぶ薬剤によっては適応外使用となるため添付文書の適応表記を確認する必要がありますが、「出たら連絡してください」ではなく「出たときの手持ちを渡しておく」という設計思想は共有する価値があります。

賦活(jitteriness/anxiety syndrome)

発生率は文献によって4〜65%と大きく開きますが、国内の前向き研究では抗うつ薬を開始した301例中21例(7.0%)と報告されています。内訳は不眠が最多で、以下イライラ、不安・焦燥、パニック発作の順。発症までの平均は約1週間、約半数は3日以内、約3分の2は1週間以内です。ここから導かれる運用は単純で、開始後1週前後に一度診る枠を最初から確保しておくことです。同研究で予測因子とされたのは、大うつ病性障害であることと、第一度近親者に気分障害の家族歴があることでした。家族歴を聴いておく見返りのひとつは、ここにあります。

そして落とし穴が3つあります。第一に、原疾患の悪化と薬の有害作用の区別がつきにくい。初診の時点で悪化の途上にあった患者は、薬と無関係にさらに悪くなって見えます。混合性の特徴を伴ううつ病の初回エピソードだった可能性も残ります。第二に、これはSSRIに特有の現象ではありません。100本以上の論文をまとめた総説では、発生率はSSRIと三環系抗うつ薬で大きく変わらないとされています。第三に、国内の研究では若年者で特に出やすいとは言えないという結果が出ています(ただし若年発症例では双極性障害を疑って抗うつ薬を控えるバイアスが入りうる、という留保付きです)。

対処については、賦活は投与初期に生じるため中断症候群を考慮する必要がなく、いったん中止するのが無難とされています。中止した症例はおおむね改善し、悪化例は認められなかったという報告があります。続行したい場合にベンゾジアゼピン系薬や抗精神病薬、β遮断薬を短期間用いる選択肢が挙げられていますが、抗うつ薬導入時の賦活症状に対する抗精神病薬の使用、およびβ遮断薬の使用は、いずれも適応外使用にあたり、とくにβ遮断薬は国内では一般的ではありません。もうひとつ、現場で重要になるのは、患者本人が症状をどう捉えているかを先に聞くことです。「薬のせいで悪くなった」と考えている人に薬理学的な説明から入ると、以後どの薬も入らなくなります。

開始初期の自殺関連行動

治療に反応していない患者では、最初の10〜14日にリスクが高いことが知られています。24歳以下ではとくに警戒します。この期間に「2週間後にまた」と間隔を空けてしまうのが、選び分けの技術とは無関係に起こる事故です。

セロトニン症候群

発症は開始から24時間以内が多く、急激な精神状態の変化・頻脈・高体温・高血圧・発汗・筋緊張亢進をみたら積極的に疑います。ただしSSRI単独投与では少なく、リチウムやトラゾドンなど他のセロトニン作動薬と併用した場合に出やすいとされています。したがって、この副作用がいちばん問題になるのは単剤で始めるときではなく、増強療法や切り替えで2剤が重なる時期です。

中止時の離脱のしやすさ

中断症状/離脱症状は、SSRIに特有ではなくSNRIでもほぼ同様に生じますが、報告数はSSRIで多い。症状は FINISH(Flu-like symptoms/Insomnia/Nausea/Imbalance/Sensory disturbances/Hyperarousal)で整理されます。なかでも感覚異常(電撃様感覚)はこの症候群に特徴的で、うつの再燃と取り違えないための手がかりになります。

出やすさには明確な差があります。

  • フルボキサミン――半減期が短く、離脱が出やすい。
  • パロキセチン――自身の代謝酵素を阻害するため血中濃度が非線形に動き、少し減らしただけで濃度が急落する。抗コリン作用によるコリンリバウンドも重なり、SSRIのなかで最も中止しにくい部類。急激な中断で3割前後、漸減であれば5%以下という報告があり、この差は患者説明にそのまま使えます。
  • セルトラリン/エスシタロプラム――半減期が長く、比較的スムーズに減らせる。エスシタロプラムはトランスポーターへの結合の仕方から占有率の半減期が長いとされ、離脱が出にくい理由として説明されます。

減量の実際としては、寛解後6か月程度(4〜9か月とする成書もあります)は寛解時の用量を維持し、そこから最低2か月以上をかけて漸減するのが目安です。以下に挙げる刻みは、国内の製剤規格にない用量を含み、錠剤の分割を要する添付文書外の用量設定です。また、これは処方する側が段階を設計するための例で、服薬中の方が自分で減らす手順ではありません。自己判断の減量は、中断症状と再燃の両方を招きます。減量スケジュールの具体例として、エスシタロプラムを4〜8週ごとに 20→15→10→5→2.5→0mg/日 と落とし、中断症状が出たらいったん元の用量へ戻し、20→17.5→15… と中間段階を増やすという組み立てが示されています。要点は「後半ほど小刻みにする」ことです。

離脱が強くてフルボキサミンやパロキセチンから抜けられない症例に対し、半減期の長いセルトラリンやエスシタロプラムを少量重ねてから先に元の薬を抜き、その後で重ねたほうを抜くという手順を記している成書もあります。これはSSRIを一時的に2剤併用することになり、添付文書に沿った使い方ではなく、抗うつ薬2剤併用は有効性を高めないとされているうえ保険上も説明が求められます。使うのであれば、目的が減量であること、期間限定であることを明記してから選びます。

なお、減量時の症状には薬理学的な離脱だけでなくノセボ効果も関わりうる、という指摘があります。ただし成書はそこに、だからといって患者さんの苦痛を軽く扱わないこと、という留保を必ず添えています。この留保も合わせて共有しておきたいところです。

併用薬との相互作用

SSRIの選択がいちばんはっきり分かれるのは、実際にはここです。 効き目に差がつかない以上、他科の処方を持っている患者では、相互作用が事実上の決定要因になります。

  • フルボキサミン――SSRIのなかで最も広汎にCYPを阻害します。CYP1A2を強く阻害し、2C9・2C19への阻害も強い。ラメルテオンとは併用禁忌です。多剤併用例では、まず候補から外れます。
  • パロキセチン――CYP2D6を強く阻害。加えてP糖蛋白(P-gp)を強く阻害します。
  • セルトラリン――CYP2D6を用量依存性に阻害しますが、国内の承認用量ではごく軽度と考えられています。ただしP-gp阻害はパロキセチンと同様に強く、ここがセルトラリンの見落とされやすい弱点です。
  • エスシタロプラム――CYP阻害はほぼ問題にならず、併用薬の多い症例やリエゾンで使いやすい。ただし自身がCYP2C19で代謝されるため、この酵素を阻害する薬剤との併用で自身の血中濃度が上がる方向の相互作用があります。ランソプラゾールとの併用でQT延長から心室細動に至った症例報告があり、日本人の2割ほどがCYP2C19のpoor metabolizerとされることも合わせて考える必要があります。
  • デュロキセチン――主にCYP1A2で代謝されるため、喫煙による酵素誘導の影響をまともに受けます。喫煙者では候補になりにくいSNRIという視点は、外来で意外と使えます。

まとめると、「阻害する側」の懸念が小さいのはエスシタロプラムとセルトラリン(P-gpを除く)、大きいのはフルボキサミンとパロキセチン。「阻害される側」の懸念があるのはエスシタロプラムとデュロキセチンです。

見落としやすいのは、相互作用の相手が薬だけではないことです。 成書は喫煙、カフェイン、アルコール、グレープフルーツジュース、市販薬、抗菌薬、循環器薬までを確認対象に挙げています。デュロキセチンと喫煙の関係は前述のとおりですが、より頻度が高いのはNSAIDsや抗血小板薬との併用です。SSRIには血小板機能を低下させる作用があり、高齢者では上部消化管出血・脳出血のリスクが上がるという報告があります。国内の高齢者向けの薬物療法ガイドラインでは、SSRI4剤がそろって「特に慎重な投与を要する薬物」に挙げられており、対象は消化管出血、推奨度は「強」です。整形外科からNSAIDsが出ている高齢の患者にSSRIを足す、という日常的な場面が、実はリスト上の該当例にあたります。ここは認識しておく必要があります。なおこのリストは投与を禁じるものではありません。 使うなら消化管出血を意識して経過を見る、という趣旨です。

そして肝心なのは薬理学ではなく手順です。複数の診療科の処方を一つの薬歴としてまとめて見ること。お薬手帳を1冊に統合してもらうほうが、CYPの表を暗記するより安全性に効きます。

身体合併症や年齢による向き不向き

肝機能と腎機能

デュロキセチンはGFR 30未満でクリアランスが大きく低下し、肝機能が落ちている場合にもさまざまな形の肝障害を来しうるため、腎障害・肝障害のいずれでも使いにくい薬です。対してセルトラリンは未変化体としての尿中排泄が0.2%未満と少なく、胆汁うっ滞性掻痒症での安全性が示された報告もあります。身体合併症例で選ばれやすいのはこのためです。高度肝機能障害・高度腎機能障害・コントロール不良の閉塞隅角緑内障はデュロキセチンの禁忌です。

腎機能低下時の具体的な減量基準を表にしている成書もあり、そこではエスシタロプラムはCCr 10未満で1日1回10mgまで、パロキセチンはCCr 60未満で1日1回5〜30mg(透析例では5〜20mg)、デュロキセチンはCCr 30未満でAUC・Cmaxが約2倍になるため禁忌と整理されています。注目すべきなのは、この種の腎機能別減量表にセルトラリンが載ってこないことです。腎排泄への依存が小さいという特徴が、表の「不在」として現れます。腎機能が落ちた患者を前にしても手が止まらない、という差につながります。

心電図

エスシタロプラムの添付文書には「QT延長のある患者」への禁忌があります。ただしこれは、Thorough QT/QTc試験の対象になった向精神薬が国内では2010年以降発売のものに限られるという事情が大きく、エスシタロプラムだけが危険という意味ではありません。三環系や定型抗精神病薬のほうがはるかに延長させますし、新規抗うつ薬ではミルタザピン・ベンラファキシンでも有意な延長が指摘されています。添付文書の禁忌記載を薬理学的な危険度の順位と読み違えないことが重要です。とはいえ、用量依存的にQTが延びる傾向があること、CYP2C19 poor metabolizerで濃度が上がりうることを踏まえると、開始前の心電図確認と少量開始は妥当な運用です。

高齢者

高齢者にSSRIを避けるという話ではありません。使ううえで何を見ておくかが決まっている、というのが成書の立場です。 そのうえで、最も見落とされやすいのが低ナトリウム血症/SIADHです。SIADHの7割以上が薬剤性で、なかでも抗うつ薬によるものが多いという報告があり、発症率は0.5〜32%と幅があります。高齢者・女性・治療初期がハイリスクとされます。「少し元気がない」「眠そう」をうつ症状の悪化と早合点せず、Naを測る。ここが分かれ目です。出血傾向・骨折リスクも高齢者では併せて考慮します。

用量設計としては、高齢者では成書がそろって成人量の1/3〜1/2から開始し、ゆっくり増量する(start low and go slow)を挙げています。この設定は剤によって添付文書の開始用量を下回るため、少量開始と同じく添付文書外の運用として扱います。高齢者では抗うつ薬の効果が成人に比べて小さく、副作用は出やすい。この釣り合わなさが前提にあります。ここで見落とされがちなのは、抗不安薬・睡眠薬を形式的に併せて処方しないという原則です。うつ病が軽快した後に不眠だけ残ることは珍しくありませんが、そこに睡眠薬を足していっても改善しないと指摘されています。必要なのは生活リズムの立て直しと行動の活性化で、追加処方はしばしば逆効果になります。

アパシー

SSRIの長期投与で、かつ用量依存性に生じうるとされます。「よくなったと思った頃に感情の起伏が乏しくなる」形をとるため、再燃と誤認して増強療法に走らないこと。疑ったら減量・中止を試します。

妊娠

心奇形との関連は報告により一定せず、あっても大きくはなさそう、というのが現状の見立てです。遷延性肺高血圧は妊娠後期の服用でわずかに上がるとされますが、頻度は妊婦417〜5000人あたり1人程度と報告されています。一方で、妊娠・授乳を契機に抗うつ薬を中止すると75%が再発する、妊娠中の中止例では精神科入院や救急受診が増えたという報告があり、「やめる」側にも明確なリスクがあります。ベンラファキシンについては心奇形などのリスクがやや上がるとする報告があります。5剤の選び分けという観点で押さえておくべきは、パロキセチンです。 妊娠初期の使用で心血管系の奇形との関連を示す報告が複数あり、先天奇形全般・心奇形・右室流出路の異常について、いずれもリスクが上がる方向の推定値が報告されています。妊娠の可能性がある女性で第一選択に置く剤ではありません。すでに服用中であれば、自己判断で中止させず、妊娠の計画とあわせて方針を立てます(当サイトのパキシルのページでも、患者さん向けに同じ趣旨を案内しています)。

運転

SSRI/SNRIのうちフルボキサミンだけが添付文書上「運転禁止」のまま残されており、他は「運転注意」に緩和されています。これは薬理学的な危険度の差というより経緯によるところが大きいのですが、就労中で運転が業務に含まれる患者では、フルボキサミンを選ぶこと自体が足かせになります。

認知症のBPSD

興奮・焦燥に対してSSRIが使われることがありますが、これは適応外使用にあたり、エビデンスも強くありません。

効果判定はいつ行うのか――「6〜8週待つ」の再検討

冒頭で「十分量で6〜8週間使ってから効果判定」と書きました。これは今も通用する枠ですが、近年の知見と現場の実感が最もはっきりずれるのがこの部分です。

古い推奨の根拠はこうでした。プラセボ比較試験のパターン分析で、プラセボ反応は治療開始2週以内に急速に生じて変動し、実薬による反応は遅れて出て持続する、という違いが見いだされた。ここから「2週以内に劇的によくなった人は薬に反応しているのではなくプラセボ反応にすぎない」と解釈され、少なくとも4週は継続してから判断する、という推奨が定着しました。

ところがその後のメタ解析は、逆の像を一貫して示しています。反応者の大部分は治療開始1〜2週以内に有意な改善を示す。2週時点までの変化が、6週間の試験で生じた実薬とプラセボの差の6割近くを占めるという解析があり、SSRIについては最大の抗うつ効果が1週時に認められたと報告した研究もあります。ガイドラインが挙げる「変更を検討する時期」は2週・2〜4週・4週・4〜6週・4〜8週とばらついていますが、新しいものほど早期に寄っています。

ここに重要な非対称があります。 早期の改善は、後の安定した反応や寛解を高い感度で予測しますが(各々81%以上、87%以上)、特異度は高くありません(各々43〜60%、30〜53%)。陰性予測値が82〜100%に対し、陽性予測値は19〜60%です。日常語に訳すと、「2週で何も動かないなら、この先も動かない可能性が高い」は当たりやすく、「2週で動いたからこの薬でいける」は当たらない。患者に見通しを伝えるとき、この2つを同じ確度で語らないことが大切です。

「では早く変えるべきか」という問いには、小規模ながら前向きの検証があります。セルトラリン50mgで2週間治療して評価尺度上20%以上の改善が得られなかった患者を、セルトラリン継続・増量群とパロキセチン20mgへの変更群に無作為に割り付けたところ、6週後の反応率は変更群75%対継続群19%、寛解率は60%対14%でした。別の報告では、エスシタロプラム10mgを4週使って早期非反応だった症例で、デュロキセチンへの変更群がエスシタロプラム継続・増量群より改善度が高かったとされています。

ただし、この差の大きさをそのまま受け取るのは危険です。 前者は数十例規模の単一試験で、長期転帰を追っておらず、対象もSSRI中心です。この規模で反応率が4倍近く開くという結果は、追試で縮むのが通例です。実務の基本は依然として「十分量で6〜8週を確保してから判定する」ことにあり、2週時点の見立ては、その基本のなかで動きの乏しい症例を早めに拾い上げるための補助的な視点にとどまります。待てる状況で焦って変えることを正当化する根拠にはなりません。

増量については、効く時期が限られる可能性が示唆されています。 ミルタザピンのデータでは、15mgで1週時に改善がない場合の30mgへの増量は6週時の改善度を有意に高めたのに対し、30mgで2週時に改善がない場合の45mgへの増量では差が出ませんでした。SSRIに関しては、治療効果が用量反応性に相関せず増量は推奨しないという報告もあります。「効かないからもう一段上げる」を反射的に繰り返すことの、成書上の裏付けは思ったほど強くありません。

そして、「待つ」以外にできることが3つあります

  1. 併用で足す。 支持的精神療法に加え、認知行動療法や対人関係療法を急性期に薬物療法と併用すると増強効果があるとされています。希死念慮が切迫している場合は、薬物の効果発現を待たずにECTを併用する場面もあります。
  2. 前提を点検する。 治療用量で3〜4週たって効果がないときにまずやるのは、増量ではなくアドヒアランスの確認、診断の再考、併存する精神疾患・身体疾患の確認です。順番を逆にすると、飲めていない薬を増やすことになります。
  3. 枠を先に取る。 開始後1週間の受診枠と、2週時点の評価をあらかじめ予定に入れておく。これは薬理学ではなく段取りの話ですが、上の知見を臨床に反映させる唯一の方法です。

そして、判定の結果が「足りない」と出たあとの手順は、この記事の範囲を超えます。 用量と期間が本当に足りていたかの再確認、双極性障害の除外、切り替えの型の選び方、非定型抗精神病薬や炭酸リチウムの付加といった話は、連載第2回の抗うつ薬が効かないとき――増量・切り替え・増強のどれを選ぶかにまとめました。本記事が扱うのは、そこへ進む前段――どの剤で始め、どう導入初期を越え、どう続けてもらうか――までです。そして次の一手を検討する場面に至れるかどうかは、実際にはこの最後の「続けてもらう」で決まります。

続けてもらうための説明――何をどう伝えるか

ここまで書いてきた選び分けは、患者が薬を飲み続けてくれる前提でしか成立しません。その前提が、実際にはかなり脆いことを数字で確認しておきます。

国内の単極性うつ病367例の研究では、いずれかの抗うつ薬治療を継続できていた割合は1か月後72.8%、3か月後54.0%、6か月後44.3%でした。決められた服薬期間のうち80%以上きちんと飲めていた人は55.6%です。うつ病患者2,020名を対象とした調査では、31.9%が自己判断で通院を中断した経験を持ち、その理由の第1位は「通っても症状がよくならない」、第2位は「医師と相性が合わないから」でした。薬を自己判断で中断した経験があるのは44.8%で、こちらの理由は第1位が「症状がよくなったから」、続いて「依存が心配だから/やめられなくなるのがこわいから」「副作用が出たから」、そして「いつまで服用すればいいかわからなかったから」も多く挙げられていました。

この理由の並びが、そのまま説明すべき項目の一覧になっています。

1. 「よくなったからやめる」への先回り

最も多い中断理由がこれである以上、寛解後も服薬を続ける必要がある、という話は最初にしておきます。国際的なガイドラインの記載は「半年」よりやや幅があり、初発例では少なくとも4〜9か月、2回以上の抑うつエピソードがあり著明な機能障害を伴った場合は2年以上、急性期と同じ用量で継続するのが望ましいとされています。減量を語る前に、この幅ごと共有しておくほうが後で楽になります。

2. 「伝えたつもり」の落差を疑う

ある調査では、治療者の72%が患者に対してその都度「抗うつ薬は半年以上内服すべき」と伝えていると感じていたのに対し、患者側でそのような説明をされたと感じていた人は34%でした。この乖離は、説明の有無の問題ではなく、記憶に残る形になっていたかどうかの問題です。同じ内容を、時期を変えて、言い方を変えて繰り返す必要があります。

3. 副作用は先に、具体的に話す

副作用を経験した患者は2倍の確率で治療中断に至るという報告があり、逆に起こりうる副作用について十分に話し合うことがアドヒアランス改善につながるという報告もあります。ここで意図的に触れておくべきなのが性機能障害です。SSRIによる性機能障害は長期投与で海外では34〜43%という高率の報告があり、しかも患者は主治医に自分から報告することを控えがちで、そのままノンアドヒアランスの原因になると明記されています。減量や薬剤変更によって数日で回復するとされているので、把握できれば対処できる副作用です。把握できないことだけが問題になります。

4. 感情の平板化を副作用として置いておく

近年、抗うつ薬の副作用として感情が平坦になり無感情になる現象(emotional blunting)が注目されています。前述のアパシーと重なる話ですが、これを再燃と読むと増強療法に進んでしまいます。「よくなったのに、うれしいという感じがしない」は、そう言ってもらえないと拾えません。

5. 不利益を並べて選ばせる

効果に大きな差がつかない薬同士を選ぶとき、決め手になるのは患者が何を嫌かです。眠気、食欲、消化器症状、性機能、服薬回数といった不利益を並べて提示し、本人に選んでもらう進め方(shared decision making)が成書では具体例つきで示されています。効果の優劣を語るより、この並べ方のほうが実際の選択に効きます。同じ調査で、治療者とのコミュニケーションに満足している群では治療・服薬中断の頻度が少なかったとされている点も、あわせて押さえておきたいところです。

6. 適応外使用の説明には型がある

ここまでで触れた減量目的の一時的な2剤併用や、連載第2回で扱う増強療法のように、適応外・添付文書外の運用を選ぶ場面では、①その治療を行う合理的な理由があること、②患者に十分な説明を行うこと、③十分な観察を行うこと、④診療録に記載すること、という4項目が、適応外処方の要件として挙げられています。この4つを型として持っておくと、適応外に踏み込むかどうかの判断そのものが安定します。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。用量・適応・エビデンスは各書の執筆時点の記載に基づいています。実際の処方にあたっては、最新の添付文書と各学会のガイドラインをご確認ください。

  • ジェネラリストのための 向精神薬の使い方(宮内倫也/日本医事新報社)
  • こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩(宮内倫也/中外医学社)
  • 本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩(稲田健 編/羊土社)
  • 研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義(功刀浩 編/金剛出版)
  • 精神診療プラチナマニュアル(松崎朝樹/メディカル・サイエンス・インターナショナル)
  • 精神科臨床144のQ&A(「精神科治療学」編集委員会 編/星和書店)
  • 今日の精神科治療ハンドブック 2021年版(「精神科治療学」編集委員会 編/星和書店)
  • 専門医のための臨床精神神経薬理学テキスト(日本臨床精神神経薬理学会専門医制度委員会 編、下田和孝・古郡規雄 責任編集/星和書店)
  • 精神科治療における処方ガイドブック(「精神科治療学」編集委員会 編/星和書店)
  • ガイドラインにないリアル精神科薬物療法をガイドする(仙波純一/新興医学出版社)
  • 精神科医×薬剤師 クロストークから読み解く精神科薬物療法(鈴木利人・渡邊衡一郎・松田公子・林昌洋 編/南山堂)

よくある質問

SSRIはどれも同じ効き目なのですか。

うつ病に対する効果そのものは、SSRI同士で大きな差はないと考えられています。選ぶときの決め手になるのは、効果の強さよりも、飲み始めの体への負担、やめるときのつらさ、ほかの薬との飲み合わせ、そして体質との相性です。

自分に合う薬は、飲んでみないと分からないのですか。

ある程度は、年齢や体の状態、ほかに飲んでいる薬、これまでの経過から見当をつけられます。ただ最終的な相性は飲んでみないと分からない部分が残ります。だからこそ、飲み始めたあとの様子を主治医に伝えることが大切です。

薬を変えてほしいと言ってもよいのでしょうか。

かまいません。副作用がつらい、効いている感じがしない、飲み続けにくい、といった感想は、次の一手を決めるための重要な情報です。自己判断で中止せず、まず主治医に伝えてください。

このテーマの記事を探す

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約