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連載「精神科医の処方ノート」第5回(全6回) 第1回から読む →

この記事は、抗不安薬――いわゆるベンゾジアゼピン系の薬が実際の診療のなかでどう位置づけられ、どう選ばれ、どう外されているかに踏み込んだ内容です。前半(第1章)は患者さんやご家族に読んでいただける言葉で書いていますが、後半は医療者向けに、用量・エビデンス・保険適応外の使い方にまで踏み込みます。お薬そのものの説明をお探しの方は、デパスワイパックスソラナックスメイラックスリーゼセディールの各ページをご覧ください。

実際にどのお薬を使うかは、その方の状態、体の病気、ほかに飲んでいるお薬によって変わります。ここに書かれていることが、そのままご自身に当てはまるとはかぎりません。服用中の方は、この記事を読んで自己判断でお薬を変えたり中止したりせず、必ず主治医にご相談ください。 ベンゾジアゼピン系の薬は、急にやめると不安や不眠がかえって強く出ることが知られており、自己判断の中断はとくに避けたい行動です。

抗不安薬は、何をしてくれる薬なのか

「不安を消す薬」ではなく、「不安の高さを下げる薬」

抗不安薬というと、飲めば不安がなくなる薬、という印象を持たれることが多いように思います。しかし専門書がこの薬に与えている役割は、少し違うところにあります。

ある専門書は、抗不安薬の最大の意義を「強い不安や身体のつらさから患者さんをいったん解放し、心理的なゆとりを生むことで、環境の調整や精神療法に取り組みやすくすること」だと整理しています。別の本も、薬は症状をほぐして相談や心理的な取り組みを導入しやすくする支援であって、薬物療法を主役に据えるものではない、という立場を取ります。さらに別の本は、抗不安薬は病気の根を治す薬ではなく対症療法として位置づけたほうがよい、と明言しています。

つまり効果の本体は、不安をゼロにすることではありません。不安の高さを、対処できるところまで下げる。そして下がっているあいだに、生活の立て直しや、不安との付き合い方の練習といった、時間のかかる作業を進める。抗不安薬はそのための土台づくりの薬だ、というのが複数の専門書に共通する見方です。

この位置づけを最初に共有しておかないと、あとから出てくる「いつ減らすのか」「なぜ減らすのか」という話がつながらなくなります。

よく効く薬であるがゆえに、難しさがある

抗不安薬には、飲んでしばらくすると楽になるのが自分でも分かるタイプのものがあります。効いたことがはっきり分かる、というのは大きな長所です。とくに、発作のように突然襲ってくる強い不安に対して、こうした薬は本当に助けになります。

ところが、この長所はそのまま短所の裏返しでもあります。ある専門書は、立ち上がりが速く、効き味がはっきりしていて、体から抜けるのも速い薬について、不安発作時の頓服としてきわめて有効であり、それだけに依存に注意が必要だとはっきり書いています。効いた実感が得られる薬は、その実感を求めてまた飲みたくなり、飲む回数がじりじり増えていきやすいのです。

別の本は、この構造をもっと端的に述べています。効いている時間が短い薬は、その分すぐに切れる。切れたつらさを埋めるためにまた飲む。1日に何度も飲むことになり、やがて手放せなくなる――という道筋です。

ここで押さえておきたいのは、「効いた感じがはっきりする薬」と「よい薬」はイコールではないということです。飲んですぐ効くほうが優れた薬だ、と感じられやすいところがありますが、抗不安薬に関してはその直感が裏目に出ることがあります。

もうひとつ、あまり知られていない性質があります。短い時間で切れるタイプの薬は、減らしているときだけでなく、指示どおりに飲み続けている最中でも、効果が切れる時間帯に不安が強まることがあるとされています。「薬が切れると不安になるので、もっと必要だと思う」という感じ方は、決して気のせいではありません。ただし、そこで量を増やすと、効いている時間と切れている時間の落差がかえって大きくなることがあります。この訴えは、増やすべきサインというより、飲む時刻や薬のタイプを見直すきっかけとして扱われることが多いところです。

「もっと弱い薬に変えてほしい」が、思ったとおりにならない理由

依存が心配だから、眠気がつらいから、という理由で「もっと弱い薬に変えてほしい」というご希望をいただくことがあります。もっともなご希望ですし、伝えていただくのは大事なことです。ただ、実際にはご期待どおりにならない場合があり、その理由はいくつかに分かれます。

ひとつは、強さの目盛りが一直線ではないことです。抗不安薬には「効き味がシャープなタイプ」と「穏やかなタイプ」という違いと、「短く効くタイプ」と「長く効き続けるタイプ」という違いが、別々の軸として存在します。穏やかなタイプに変えれば、当然ながら効いた実感は薄くなります。すると「効かないからもう1回」となりやすく、かえって飲む回数が増えてしまうことがあります。

もうひとつは、錠剤に書かれた数字の大小が、強さの順番を表していないことです。同じ「抗不安薬」でも、1錠に含まれる量は薬によってまったく違います。1錠あたりの量が少ない薬ほど効き味がシャープだ、と説明している専門書もあるくらいで、錠剤の数字が小さいから弱い薬、大きいから強い薬、という読み方は成り立ちません。

三つめは、増やしても効果には天井があることです。この種類の薬は、ある量を超えると不安を抑える力はそれ以上伸びず、眠気やふらつきといった副作用だけが増えていくことが、薬の仕組みそのものから説明できるとされています。ですから「弱い薬をたくさん」という組み立ても、期待どおりにはなりにくいのです。

「依存の心配が少ない薬に変えたい」というご希望についても、同じ注意が当てはまります。実際、依存性がないとされる抗不安薬(セディールなど)もあります。ただしその薬は、飲んだその日に効くタイプではなく、効き目も穏やかだとされています。しかも、薬の公式な説明書には症状が強い方や、長く症状が続いている方、これまでの抗不安薬で効果が不十分だった方には効きにくいという趣旨の注意まで書かれています。つまり「今までの薬が合わなかったから、依存しない薬へ」という切り替えは、その薬がもっとも力を出しにくい状況と重なりやすいのです。それでも選ぶ価値がある場面はありますが、効き方が違うことを先に知っておくかどうかで、結果の受け取り方はかなり変わります。

そして四つめに、種類は多くても、実際に選ばれる薬はごく一部という事情があります。日本で使える抗不安薬の一覧はかなり長いのですが、ある専門書の著者は、自分が抗不安薬として使うのは数種類だけだと書いています。別の本も、各カテゴリーの薬を1〜2剤だけ選んで使いこなすことを勧めています。使い慣れた薬のほうが、効き方も副作用の出方も予測しやすいからです。一覧が長いことと、選択肢が多いことは、同じではありません。

「抗不安薬」と「睡眠薬」は、はっきり分かれていない

もうひとつ、誤解されやすい点があります。抗不安薬と睡眠薬は、まったく別の薬だと思われがちですが、薬の仕組みから見ると、その境界はかなりあいまいです。

ある専門書は、抗不安薬・鎮静薬・睡眠薬のあいだに明確な違いはなく、同じ薬でも日中に使えば抗不安薬、就寝前に使えば睡眠薬と呼ばれているだけだ、と述べています。別の本も、この系統の薬はどれも「不安をやわらげる」「眠気をもたらす」「筋肉の緊張をゆるめる」「けいれんを抑える」という作用を併せ持っており、そのうち不安をやわらげる働きが相対的に強いものを抗不安薬と呼んでいるにすぎない、と説明します。

実際、デパス(エチゾラム)のように、抗不安薬の表にも睡眠薬の表にも載っている薬があります。「抗不安薬と睡眠薬の両方が出ている」という状況が、必ずしも二種類の別の治療をしていることを意味しない、というのはここから来ています。睡眠薬側の話は、この連載の睡眠薬の選び分けで扱っています。

同じ理由から、同じ系統の薬を何種類も重ねても、効果が足し算になるわけではないことも知られています。同じ場所に働く薬を並べても、効き目の上限は上がらず、眠気やふらつきだけが増えていく。だからこの系統の薬については、種類を絞って使うことが基本とされています。「もう一種類足してほしい」というご希望に医師が慎重になるのは、出し惜しみではなく、この仕組みが理由です。

不安の原因が体の側にあることもある

不安や動悸が続いているとき、その原因が心の側だけにあるとはかぎりません。専門書は、不安症の治療を始める前に確かめておくべき体の病気を、いくつも並べています。

とくに繰り返し挙げられているのが甲状腺のはたらきすぎです。ある専門書は、この病気をメンタルヘルスの臨床でとりわけ重要な一つに挙げ、その理由として、患者さんの数が多いこと、症状が重くなりうること、心の病気と間違えられやすいこと、そして多くの場合は治療がよく効くこと、を挙げています。不安・イライラ・焦り・落ち着かなさ・動悸といった形で現れるため、血液検査で確かめておく価値があります。

このほか、不整脈をはじめとする心臓の病気、喘息などの呼吸器の病気、まれではありますが血圧に関わるホルモンの病気なども、突然の不安発作とよく似た症状を起こすことがあります。カフェインやお酒、ニコチン、ほかの科から出ているお薬の影響も同じリストに並びます。「発作が場所や状況と関係なく起きる」「前ぶれの不安がない」といった、いつもと形が違う出方をするときは、体の側の検査が先になることがあります。不安が体の症状として出る仕組みそのものについては、動悸・息苦しさ・手の震えでも解説しています。

なお、いま飲んでいる抗不安薬そのものが不安の原因になっている、という可能性も同じリストに挙がっています。だからこそ、症状が続くときに薬を足す前に、まず今の処方を見直すという順番になることがあります。

飲んでいるあいだに知っておきたいこと

抗不安薬を使うあいだ、いくつか押さえておきたい点があります。いずれも、知っておけば避けられるものです。

まず、お酒と一緒に飲まないこと。この薬とお酒は働きが似ているため、重ねると効きすぎたり、判断や行動のブレーキが効かなくなったりすることがあります。詳しくは精神科の薬とお酒をご覧ください。

次に、飲んだあとの出来事の記憶が残らないことがあるという点です。飲んだあとにかかってきた電話の中身が、あとで思い出せない、といったことが起こりえます。あらかじめ知っておくこと、お酒と一緒にしないこと、眠るために飲んだのならすぐ横になること、が対策として挙げられています。

そして、いちばん誤解されやすいのが、眠気を感じていなくても注意力は落ちているという点です。本人に眠気の自覚がなくても、集中力や反応の速さは低下していることがあるとされ、今回扱う薬はいずれも、薬の公式な説明書で自動車の運転などを避けるよう求められています。依存しにくいとされる薬でも、この点の扱いは同じです。精神科の薬と車の運転薬で日中眠い・だるいもあわせてご覧ください。

最後に、ふらつきと転倒です。とくに年齢を重ねた方では、同じ量でも効きすぎたり、翌日まで残ったりしやすくなります。夜中にお手洗いに立つときは明かりをつける、といった具体的な工夫が専門書にも書かれています。一方で、転びやすさは薬だけの問題ではないので、薬をやめること以外にもできることがある、という指摘もあります。

治療の目標は、不安がゼロになることではない

最後に、この記事全体を通じていちばん大事な点に触れておきます。

不安の治療について、複数の専門書が繰り返し書いているのは、「不安を感じないでいることが目標ではない」ということです。大切なのは、不安があってもやりたいことができたかどうか。「不安があってもできた」という実感を積み重ねることが、そのまま治療になる、という考え方です。ある本は、不安と戦おうとするとかえって不安が強くなるので、不安と戦わないという戦略もひとつの方法だ、とも書いています。

この視点は、薬の使い方にも直接はねかえってきます。ある専門書は、抗不安薬が「この薬がないと外に出られない」という形の支えになってしまうと、かえって不安から抜けにくくなる可能性を指摘しています。同じ本は、頓服を渡すときの説明の仕方まで提案していて、要旨はこうです――今はとてもつらいので、少し楽になるだけでも大きく感じられるはずです。でも治療が進むと、この頓服はあってもなくても同じくらいになります。

一方で、持っているだけで安心できること、そのものに意味があるという見方もあります。「いざとなればこれがある」と思えるおかげで外出できた、という経験は、それ自体が治療の一部です。安心の支えになっている状態と、飲まないといられない状態は地続きなので、いま自分がどのあたりにいるかを主治医と確認しながら使っていくことになります。

つまり、うまくいっているときほど、この薬の存在感は薄くなっていきます。それが自然な経過です。頓服との付き合い方については頓服薬の上手な使い方、依存への不安については抗不安薬と依存でも扱っていますので、あわせてご覧ください。

このことは、いつ減らすかを飲み始めの時点で話しておくことの意味にもつながります。専門書には、何のために出すのかと止めどきをあらかじめ考えて処方すること、使うのであれば中止するところまで責任を持つこと、という姿勢が繰り返し示されています。減量の話を切り出すのは、調子が悪くなったからでも、通院をやめてほしいからでもありません。最初からその予定だった、という状態にしておくほうが、あとがずっと楽になるからです。逆に、症状が落ち着いた後も抗不安薬だけが残ってしまうと、そこから減らすほうが難しくなることが知られています。減らし方そのものについては、睡眠薬をやめたい――急にやめないと、この連載の減らすとき、やめるときもご参照ください(後者は前半が患者さん向けです)。

なお、体の具合が急に悪くなった、意識がはっきりしないといった緊急性の高い状態のときは、迷わず救急(119)を利用してください。通院中の方は、まず主治医にご相談ください。


ベンゾジアゼピン系にできること、できないこと

ここから先は医療者向けの内容です。 用量・エビデンス・保険適応外の使い方に踏み込みます。患者さん・ご家族の方は、ここまでの内容と主治医の説明を優先してください。以下に挙げる用量・期間・減量ペースはいずれも書籍または添付文書上の記載で、服薬指示ではありません。また、本記事は一貫して成人を想定した記述です。

以下では薬剤名を一般名で記します。個々のお薬の解説ページはお薬についてから辿れます。

効果の天井は、薬理から導かれる

ベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下、便宜的にBZ系と記します。連載の他稿では「ベンゾジアゼピン系」と表記しています)は、GABAがGABA-A受容体に結合したときのクロライドチャネル開口頻度を増強する薬剤であり、BZ系単独が受容体に結合しても作用は生じない、と説明されています。この点から、臨床上重要な帰結が3つ導かれます。

第一に、一定量を超えると効果は頭打ちになる。GABA側の作用を増幅しているにすぎないため、増幅率には上限があります。しかも副作用の多くは用量依存性なので、その先は効果が伸びずに副作用だけが積み上がる領域に入ります。

第二に、多剤併用に薬理学的な意味が乏しい。同じ受容体の同じ結合部位に作用する薬剤を重ねても、天井が上がるわけではありません。BZ系同士の作用特性の差は主として作用時間の違いであり、鎮静・催眠作用や抗不安作用の実感については薬剤特性より患者の個人差のほうが大きい、とも指摘されています。単剤治療が基本であること、多剤併用時の副作用については検証されたデータがないことを、産業医の立場から指摘する成書もあります。なお診療報酬上も多剤投与に対する制限が設けられていますが、規定は改定されるため現行のものを確認する必要があります。

第三に、過量服薬時に比較的安全である。ただしこの点は、後述する脱抑制の問題と必ずセットで扱う必要があります。単独で切り出して安全性の根拠にしてはならない記述です。

代替できない場面が、はっきり存在する

「ベンゾジアゼピン系=悪」という論調には、明確に釘を刺す記述があります。有用な場面は確実に存在するとして挙げられているのは、アルコール離脱、種々の精神疾患や身体疾患に伴う緊張病状態、てんかん重積です。緊張病ではBZ系が第一選択であり抗精神病薬は推奨されない、と書く本もあります。

ただし、ここは日本の効能・効果とのずれが大きい領域です。国内の添付文書でこれらに対応する効能を持つのは、てんかん重積状態に用いる注射剤(ジアゼパム注射液など)に限られます。緊張病やアルコール離脱に対する経口BZ系の使用は、いずれの製剤の効能にも含まれておらず、適応外使用にあたります。 書籍が「第一選択」と書いている場面であっても、保険適応の上ではそうなっていない、という二重構造をそのまま理解しておく必要があります。

緩和ケアにおける呼吸苦に触れた本には、気軽に出すことも、頑なに出さないことも、どちらも避けるべきだという趣旨の記述があります。外来クリニックの日常的な話題ではありませんが、この薬をどう語るかの温度設定として押さえておく価値があります。

逆に、治療効果がないと整理されている場面もある

同じくらい重要なのは、BZ系に治療効果がないとされている場面です。

せん妄がその代表です。BZ系抗不安薬・睡眠導入薬はいずれも「せん妄への治療効果はない」と分類表で明記している本があり、せん妄の薬物療法の原則は抗精神病薬であってBZ系ではない、と繰り返し述べられています。むしろ脱抑制を起こすため一般に推奨されない、とも整理されています。例外はアルコール離脱せん妄で、ここではBZ系が予防・治療の主役だと書かれています。

ここでも適応の注記を添えておきます。「原則は抗精神病薬」と書かれてはいますが、国内でせん妄に保険適用を持つのはチアプリド1剤のみで、しかもその効能は脳梗塞後遺症に伴う症状の範囲に限られます。実際に用いられるクエチアピン・リスペリドン・ハロペリドールなどはいずれも適応外使用です。 詳細は、この連載の睡眠薬の選び分けで扱っています。

概日リズム睡眠・覚醒障害も同様です。睡眠相後退型の患者は「眠れない」と訴えて睡眠薬を求めることが多く、医療者も睡眠薬で適切な時刻に眠らせれば治療できそうに思いがちだと指摘したうえで、この病態にBZ系は無効であり処方は望ましくない、と明言されています。

「問題を先送りにする薬」という位置づけ

BZ系を「患者の抱える問題を先送りにする薬剤」として患者と共有したうえで使うべきだ、という立場を取る本があります。この前提を共有し、「必ず去っていく薬である」と意識して使うなら良い薬剤になる、という言い方をするものもあれば、使う自信がなければ使用頻度を下げるほうが安全だ、とまで踏み込むものもあります。

ただし、この言い回しを採る3冊は著者が重なっています。「多くの本が一致してこう述べている」と読むのは正確ではなく、近い趣旨は他の書籍にもありますが、表現はそれぞれ異なります。

先送りの問題が具体的に現れるのが、曝露療法との関係です。BZ系が曝露反応妨害法の効果を減じるかを検討したシステマティックレビューを引いて、フォローアップでは6つのRCTで曝露の有効性が減じず、5つのRCTで減じていた、と紹介されています。同じ本は、この結果を無視できないとしたうえで、使用中に曝露がうまくいっても、中止すると「あの薬があったからできたのだ」という心境になりかねない、と述べます。だから薬剤の役割はあくまで初期の曝露を支えることだと意識し、薬を引いていくのと歩調を合わせて曝露の強度を上げていく、という組み立てを勧めています。

同じ節に、もうひとつ重要な指摘があります。治療者の側が「飲まないと良くならない」と言ってしまうと、不安の強い患者は「これがなければ駄目なのだ」と考えるようになる、というものです。安全行動化は患者側だけの現象ではありません。

処方する前に確かめておくこと

まず双極性障害とうつ病を除外する

不安症の治療を始める前に、まず双極性障害を除外し、次にうつ病を除外するという手順を踏むことがとても大切だ、と書かれています。同じ本の著者は、いわゆるピュアな全般不安症をほとんど診たことがなく、実際にはうつ病か双極性障害のほうが主診断で、そこに不安症が乗っている形だった、と書いています。

うつ病に不安症が併存しているとその「うつ病」は双極性障害の可能性が高まり、とくにII型では混合病相の気分変動に巻き込まれて不安が強くなりがちだ、という指摘もあります。うつ病に強い不安が併存する場合は難治性になりやすく「不安性の苦痛を伴う」うつ病とされ、双極性障害のこともある、と書く本もあります。これら3冊は著者が重なるため、独立した3つの根拠として数えるべきではありませんが、方向は一貫しています。

BZ系を足す前に診断を疑う、という順序は、この後のすべての判断の土台になります。

不安の背後にある身体疾患と薬剤

パニック発作と鑑別を要する疾患として、心疾患(不整脈、狭心症)、呼吸器疾患(喘息、肺塞栓)、神経疾患(片頭痛、多発性硬化症、側頭葉てんかん、前頭葉てんかん)、内分泌疾患(アジソン病、クッシング症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症)、薬物中毒(抗コリン薬、ニコチン、コカイン)、薬物離脱症状(アルコール、オピオイド、ベンゾジアゼピン受容体作動薬)、その他(ビタミン欠乏、電解質異常、アナフィラキシー)が挙げられています。同書は、パニック症の患者では身体疾患の併存が実際に多いことにも注意を促しています。

別の本は、不安状態のアセスメント図に、物質誘発性(アルコール、カフェイン、覚醒剤、鎮静剤、BZ系薬剤、SSRI、甲状腺剤、抗精神病薬・制吐薬によるアカシジア)と身体疾患(甲状腺機能亢進症、不整脈、低血糖症、パーキンソン病)を並べています。

このリストのなかで最も自己言及的なのは、BZ系薬剤そのものの離脱が不安の原因として挙がっている点です。不安を訴えて受診した患者が、すでにBZ系を服用しており、次の服用までのあいだに血中濃度が下がることで不安が立ち上がっている、という構図が現実に起こりえます(その機序は次節で扱います)。ここで薬を足すと、原因に薬を上乗せすることになります。

甲状腺機能亢進症

66の身体疾患を収載した本は、そのなかでも甲状腺機能亢進症をメンタルヘルス領域の臨床家にとってとりわけ重要だとし、理由を4つ挙げています。①患者が多い(成人の約1%が罹患し、うち約半数に症状が出る)、②症状が重篤である、③一次性の精神障害と間違えられやすい、④ほとんどの場合は治療が奏効する。

精神症状はパニック症・全般不安症・社交不安症のようにも見え、激越型うつ病として治療を受けることもあります。高齢者では、意欲の低下が前面に出るうつ病と見分けのつきにくい形をとることがあり、無感情甲状腺機能亢進症と呼ばれます。評価は血清サイロキシン高値・TSH低値です。どの文献にも共通して挙がるのは、不安・イライラ・焦燥感・易刺激性・多弁・多動といった症状で、これらを見たときは甲状腺機能をスクリーニングに入れておくとよい、と書く本もあります。ただしこの本は、甲状腺の数値が基準内に戻ったあとも精神症状が残ることがあるとも書いており、単純な因果に落とし込まないほうがよさそうです。

褐色細胞腫

褐色細胞腫では、腫瘍が発見されるより前の段階で強い不安に悩まされる患者があり、パニック症・その他の不安症・身体化障害に似た病像を呈することが知られています。鑑別点として挙げられているのは、不安症では通常は精神的苦痛から症状が起こるのに対し、褐色細胞腫の不安症状は身体的ストレス(激しい運動、くしゃみなど)で引き起こされることが多いという違いです。有病率は低く、高血圧症患者の約1,000人に1人とされます。発作は突発性で持続時間は通常1時間以下、激しい頭痛・発汗過多・嘔気嘔吐・顔面蒼白・動悸などを伴います。別の本は、自律神経症状を伴い、しかも発作の起こり方に脈絡がなく予期不安も乏しい、という非典型さに気づいたら、尿中メタネフリン分画を出すとよいかもしれない、としています。

てんかん発作としての不安――ictal fear

単純部分発作の焦点が内側側頭葉にある場合、その症状が、前ぶれもなく、その場に不釣り合いな不安や恐怖の発作として現れることがあり、ictal fearと呼ばれます。

鑑別の要点は場面特異性です。典型的なパニック発作は逃げ出しにくい場所(電車・バス・映画館など)で起こり、その後は同じ場面や想像で予期不安が生じます。これに対しictal fearは場所に関係なく出現し、場面特異性がないため予期不安も通常は生じません。実体的意識性(姿は見えないが誰かがいる感じ)を伴いやすいとも言われ、自動症を伴う意識減損を呈することもあります。この鑑別を扱う本は、非典型的なパニック発作にとりあえずSSRIを出して、期限を切らないまま経過を見続けるのはよくない、薬を入れつつも精査は一通りすべきだ、としています。

呼吸器と睡眠時無呼吸

BZ系の重大な副作用として依存性・刺激興奮/錯乱とともに呼吸抑制が挙げられており、身体合併症のある患者では呼吸抑制を起こすことがあるので慎重に投与すべきだとされています。添付文書側でも、エチゾラムの重大な副作用に呼吸抑制・炭酸ガスナルコーシスが記載され、クロチアゼパムでは重篤な呼吸不全のある患者で炭酸ガスナルコーシスのおそれが指摘されています。

睡眠時無呼吸症候群については、BZ系のなかには筋弛緩作用の強いものがあり、それがSAS患者の無呼吸を助長するため要注意だ、という注意があります。同じ本は、SASはうつ病との関連が強く(SASによる抑うつと考えるべきケースがある)、「うつだ」「眠れない」「日中眠い」「朝、頭が痛い」と訴える患者や、検査で高血圧・赤血球増多のある患者ではSASを疑うべきだ、としています。SASのスクリーニングについては睡眠薬の選び分けで詳しく扱っています。

作用時間と力価――2つの軸で捉える

作用時間の当て方

疾患のタイプで作用時間を選ぶ、という原則を示す成書があります。パニック発作のように突発的で強い不安には短期〜中期作用型を、全般不安症のように持続的な不安には中期または長期作用型を考慮する。離脱や反跳性不安を避けたい状況では作用時間の長い薬剤を選び、高齢者や身体疾患の合併例では筋弛緩作用の少ないクロチアゼパムや、蓄積の少ないロラゼパムを選ぶ。この3つが使い分けの軸として並べられています。

ただし同書は、その少し前で、高齢者では超長期・長期作用型が転倒骨折のリスクとして知られており、どうしても使うなら中期作用型が好ましい、とも書いています。「離脱を避けたいなら長時間型」という軸と、高齢者での選び方は、そのまま重なりません。成書間・同一書内での食い違いの整理は、この連載の減らすとき、やめるときにまとめました。なお、ここで挙がる疾患名と日本の添付文書の効能表記(「神経症」「心身症」)との関係は、後の章で扱います。

同書に載っている症例(広場恐怖を伴うパニック症)では、予期不安に対して長時間作用型のロフラゼプ酸エチルを定時で、発作時にエチゾラムを頓用で、という組み合わせが示されています。これは書籍中の例であって、そのまま一般化できる処方例ではありません。エチゾラムの用法は適応ごとに1日量を分割して服用する形で規定されており、頓用という使い方そのものは添付文書の用法にはありません(適応は「神経症における不安・緊張」で覆われます)。

切れ目の不安と反跳――減薬時だけの現象ではない

作用時間の設計で見落とされやすい点があります。

短時間作用型は翌日への持ち越しが起こりにくい代わりに、続けて飲んだあとで中断すると反跳性不安や退薬症候が自覚されやすい。ここまでは広く知られています。同じ成書はさらに一歩踏み込んで、継続内服中であっても、血中濃度の変動に伴って日中に不安症状を生じることがあると書いています。

これは臨床像の理解を変える記述です。患者が「薬が切れると不安になる」と訴えるとき、それは減薬に伴う現象とはかぎりません。減らしていない、指示どおり飲んでいる患者でも、次の服用までのあいだに濃度が下がって不安が立ち上がる、という現象が起こりうる。そこに「効いていないから増量」と応じると、山と谷を大きくするだけで終わります。

対照的に、作用時間の長い薬剤では中止後の血中濃度の下降が緩徐なため、退薬症候を自覚しにくいとされます。ここから、超短時間作用型で退薬症候の自覚が強い場合には、半減期のより長い薬剤にいったん置き換えたうえで漸減するのが理論上適切だ、という方針が導かれます。ただしこれは「理論上」という留保つきの記述で、置換すれば必ず楽になると書かれているわけではありません。置換法の実際は、この連載の減らすとき、やめるときにまとめました。

力価とは何を指しているか

作用時間と独立したもうひとつの軸が力価です。高力価の薬剤――1錠に含まれるmg数が小さいもの――は効き味が鋭く、低力価のものは効き方が穏やかである、という実用的なまとめ方をする本があります。抗不安薬は「作用時間 × 力価」の2軸で分類すると臨床的に有用だ、というのがその主張で、別の本の分類表も同じ2軸(短期/中期/長期/超長期 × 高力価/中力価/低力価)で薬剤を並べています。

この2軸は、依存形成のリスク因子とも直結します。薬剤側の危険因子として挙げられているのは、短時間作用型であること、最高血中濃度到達時間が短いこと、力価が高いことの3点です。高力価で立ち上がりの速い薬剤は効果を自覚しやすいため、服用者が繰り返しの内服を望みやすく、結果として高用量・長期になりやすい――という説明がなされています。

患者説明の場面では、この「1錠あたりのmg数が小さい=弱い薬」という誤解を解く材料としても使えます。

等価換算表の使いどころと、写し取れないもの

ジアゼパム換算表は、複数の書籍に掲載されています。ジアゼパム5を基準として、エチゾラム1.5、クロチアゼパム10、ロラゼパム1.2、アルプラゾラム0.8、ブロマゼパム2.5、クロナゼパム0.25、ロフラゼプ酸エチル1.67――という値が挙げられており、今回参照した2冊のあいだで数値は一致していました。ただし等価換算は薬剤ごとに研究の出所が異なり、本によって値が違うことが知られています。2冊が一致していたからといって、それ以上に一般化できる性質のものではありません。

換算表に並んでいることと、その薬をその目的で使えることも別です。クロナゼパムの国内の効能はてんかんの各種発作型に限られており、抗不安目的の使用は適応外にあたります。 換算表は「同じ土俵に載せて比べるための道具」であって、適応の一覧ではありません。

より重要なのは、換算表の限界です。換算表が教えてくれるのは用量の等価だけで、1日3回飲んでいたものを1日1〜2回に束ねるという服薬パターンの変更まで写し取れるわけではありません。ここに強い抵抗を示す患者は少なくありません。全面置換への留保と、換算表の限定的な使い道の具体例は、置換法を主題とする減らすとき、やめるときにまとめました。

各剤の性格――添付文書の効能と、代謝経路

日本の抗不安薬は「神経症」「心身症」という枠で書かれている

処方設計を考えるうえで、最初に押さえておきたい構造的な事情があります。日本の抗不安薬の添付文書は、パニック症・社交不安症・全般不安症といった現行の診断名ごとの効能を持っていません。効能は「神経症における不安・緊張・抑うつ」「心身症(○○)における身体症候ならびに不安・緊張」といった旧来の枠組みで設定されています。

しかも、その枠は薬剤ごとにかなり違います。

  • エチゾラム――神経症における不安・緊張・抑うつ・神経衰弱症状・睡眠障害/うつ病における不安・緊張・睡眠障害/心身症(高血圧症、胃・十二指腸潰瘍)/統合失調症における睡眠障害/頸椎症・腰痛症・筋収縮性頭痛における不安・緊張・抑うつおよび筋緊張。用法は適応ごとに分かれており、神経症・うつ病では1日3mgを3回に分けて、心身症・頸椎症・腰痛症・筋収縮性頭痛では1日1.5mgを3回に分けて、睡眠障害では1日1〜3mgを就寝前1回。高齢者は1日1.5mgまでとされています。
  • ロラゼパム――神経症における不安・緊張・抑うつ/心身症(自律神経失調症、心臓神経症)。1日1〜3mgを2〜3回に分けて。
  • アルプラゾラム――心身症(胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、自律神経失調症)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害のみ。1日1.2mgを3回に分けて開始し、最高用量は1日2.4mg。高齢者は1回0.4mgの1日1〜2回から開始し、増量する場合でも1日1.2mgを超えない。
  • ロフラゼプ酸エチル――神経症/心身症(胃・十二指腸潰瘍、慢性胃炎、過敏性腸症候群、自律神経失調症)における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害。2mgを1日1〜2回に分割。
  • クロチアゼパム――心身症(消化器疾患、循環器疾患)における身体症候ならびに不安・緊張・心気・抑うつ・睡眠障害/麻酔前投薬/自律神経失調症におけるめまい・肩こり・食欲不振。1日15〜30mgを3回に分けて。
  • タンドスピロン――神経症における抑うつ、恐怖/心身症(自律神経失調症、本態性高血圧症、消化性潰瘍)における身体症候ならびに抑うつ、不安、焦躁、睡眠障害。1日30mgを3回に分けて、1日60mgまで。

ここで注意が必要なのは、書籍の記述と添付文書の効能が対応していない場面があることです。たとえばアルプラゾラムについて、成書はとても強い抗不安効果を持ちパニック発作時の頓用に多用される薬剤だと書いていますが、日本の添付文書上の効能は心身症のみで、神経症すら含まれていません。パニック症という病名に対する使用は、添付文書の効能の外にあたります。同様に、ロラゼパムを社交不安症のパフォーマンス限局型に頓用する使い方も、添付文書が想定する用法(1日1〜3mgを2〜3回に分けて)とは異なります。

適応外・用法外の使用を選ぶのであれば、①その治療を行う合理的な理由があること、②患者に十分な説明を行うこと、③十分な観察を行うこと、④診療録に記載することという4項目を型として持っておくと、判断が安定します。

代謝経路の違いが効いてくる場面

薬剤選択の理由として最も明快に説明できるのが、ロラゼパムの代謝です。

ロラゼパムはグルクロン酸抱合のみで代謝される、と明記されています。代謝経路が単純であるため、高齢者や肝機能障害のある患者にも使いやすい。アルコール離脱の治療で肝機能が著しく落ちている場合には肝代謝を受けないロラゼパムが推奨される、と書かれています。肝障害があってもあまり気にせず使えることをロラゼパムの強みとして挙げ、その理由でロラゼパムを選ぶことが多い、と述べる本もあります。蓄積の少ない薬剤として高齢者・身体合併症例の選択肢に挙げる記述もあり、この論点は著者の異なる複数の本で一致しています。

対比になるのがBZ系全体の性質です。BZ系はCYPの阻害をほとんど行わない一方、CYP3A4で代謝される薬剤が多く、血漿蛋白結合率はどの薬剤も90%以上と高いとされます。ここから、多剤併用の高齢者では遊離型が増えて予想以上に効いてしまうことがある、という注意が導かれます。低栄養状態、肝腎疾患、高齢、多剤併用が重なる場面で「同じ処方量なのに急に効きすぎるようになった」という臨床像が生じる説明として、これは使えます。

添付文書側の記載も、この構図と整合的です。アルプラゾラムはリトナビル含有製剤の併用でAUCが2.5倍、イトラコナゾールで2.8倍、フルボキサミンで2.0倍に上昇するという報告が挙げられ、エチゾラムもフルボキサミンとの併用で作用が増強するおそれがあるとして減量等の考慮が求められています。ロフラゼプ酸エチルは未変化体が血中から検出されず活性代謝物として存在し、その代謝にCYP3A4が関与、活性代謝物の半減期は約122時間、連続投与では1〜3週間で定常状態に達するとされています。超長時間型の増減を1〜2週の間隔で評価すると、まだ定常状態に達していない濃度を見ている可能性があります。

なおロラゼパムにも、プロベネシドやバルプロ酸との併用で消失半減期が延長する、リファンピシンや経口避妊ステロイドで血中濃度が低下する、といった相互作用が記載されています。CYPを介さないことと、相互作用がないことは同じではありません。

禁忌と処方日数

BZ系抗不安薬は急性閉塞隅角緑内障および重症筋無力症の患者に禁忌であると整理されており、今回参照した5剤(エチゾラム、ロラゼパム、アルプラゾラム、ロフラゼプ酸エチル、クロチアゼパム)の添付文書もこれと一致しています。緑内障については、無自覚・未治療の症例が相当数存在することも指摘されています。「目の病気はありませんか」という問診が空振りしやすい理由がここにあります。

一方、タンドスピロンの添付文書には禁忌の項目そのものが設定されていません

処方日数についても差があります。上記5剤はいずれも第三種向精神薬で、投薬量は1回30日分が限度とされています。タンドスピロンには習慣性医薬品・向精神薬の指定がなく、この日数制限の対象外と考えられます(添付文書に日数制限の明文記載はないため、保険上の扱いは別途確認が必要です)。2013年刊行の本には「エチゾラムは長期処方が可能」という趣旨の記述が見られますが、その後の規制変更を経た現在の扱いとは異なります。刊行年の古い書籍の制度記述は、そのまま持ち込めません。

筋弛緩作用は、効能でもあり副作用でもある

エチゾラムは、今回の6剤のなかで唯一、頸椎症・腰痛症・筋収縮性頭痛という運動器領域の効能を持っています。書籍側の説明も同じ方向で、エチゾラムは化学構造としてはチエノジアゼピンだが作用・副作用はBZ系と同様であり、抗不安作用はジアゼパムの3〜5倍とされ、筋弛緩作用が強いため腰痛や頸椎症、筋収縮性頭痛にも効く、とされています。

同時に、この筋弛緩作用は転倒の主因でもあります。BZ系の性質は良い面と悪い面がペアになっていて切り離せない、と整理されています。筋弛緩が強ければ肩や首はほぐれるが転倒しやすい。半減期が短ければ持ち越しにくいが、キレが良いぶん連用しやすい。半減期が長ければ効果が続くが、必要以上に長く効く。抗不安作用が強ければ楽になるが、手放しにくくなる。良いところだけを取り出す設計は、原理的に存在しません。

受容体レベルの説明も、ある本が大まかに示しています。BZ系の作用はGABA-A受容体のαサブユニットの種類でいくぶん異なり、睡眠薬に分類されるものはα1サブユニットへの親和性が高く、アルプラゾラムやロフラゼプ酸エチルなど抗不安薬に分類されるものはα2サブユニットへの親和性が高い。エチゾラムとジアゼパムについては、特定のサブユニットに偏らず幅広く親和性を示すと考えられる、とまとめられています。著者自身が「大まかに」と断っている記述であり、「α1が依存」「α2が抗不安」といった一対一対応を断定できる段階ではありません。それでも、エチゾラムの「効く感じ」の幅広さと手放しにくさが、この親和性の広さと符合して見えることは確かです。

なお、ここまでBZ系と呼んできた範囲には、いわゆる「非ベンゾジアゼピン系」も含まれます。ベンゾジアゼピン骨格を持たないからそう呼ばれているだけで、実際に効く先はGABA-A受容体のベンゾジアゼピン結合部位そのものである、と複数の本が独立に述べているためです。この論点は睡眠薬側の主題なので、睡眠薬の選び分けにゆずります。

タンドスピロンをどう位置づけ、どう説明するか

依存性のない抗不安薬として、タンドスピロンには一定の需要があります。ただし期待値の設定を誤ると、患者にとっても処方者にとっても不本意な結果になりやすい薬剤です。

タンドスピロンの評価は割れている

ある本は、タンドスピロンをアザピロン系(5-HT1A部分作動薬)として整理し、利点として①依存を形成しない、②毒性が低く安全域が広い、③記憶や運動の機能を損ないにくい、の3点を挙げ、欠点として①効果が全体に弱い、②即効性がなく急性の不安には用いにくい、の2点を挙げます。総じて穏やかで軽い薬という位置づけで、依存の問題でBZ系を使いにくい症例に向く、としています。

別の本の評価はかなり厳しく、GABA-A受容体に作用しない抗不安薬ではあるものの力不足だとしたうえで、添付文書上の最大量である1日60mgをしっかり使えばプラセボ以上の力を発揮することもあるが、それは本当にたまにだ、と書いています。日本と中国でしか販売されていない薬剤であることにも触れられています。

添付文書が、この辛口評価と符合している

興味深いのは、この評価の分かれが添付文書の記載とすり合わせられる点です。タンドスピロンの添付文書は、重要な基本的注意のなかで、罹病期間が長い(3年以上)例や重症例、あるいは他剤(ベンゾジアゼピン系誘導体)での治療効果が不十分な例など治療抵抗性の患者に対しては効果があらわれにくいこと、1日60mgを投与しても効果が認められないときは漫然と投与することなく中止することを明記しています。同じ項には、高度の不安症状を伴う患者では効果があらわれにくいので慎重に症状を観察するように、ともあります。

つまり「BZ系で効かなかったから、依存が心配だからタンドスピロンへ」という切り替えは、添付文書が最も効きにくいと名指ししている条件にそのまま該当します。この薬が力を発揮しうるのは、罹病期間が短く、不安の程度が高度でなく、時間をかけられる場面です。

切り替えの手順が明記されている

もうひとつ、日常の処方でいちばん事故になりやすい点が添付文書に書かれています。タンドスピロンはBZ系誘導体と交差依存性がないため、BZ系から直ちに本剤に切り替えると、BZ系の退薬症候が引き起こされて症状が悪化することがある、というものです。前薬を中止する場合は徐々に減量するよう求められています。

「依存性のない薬に置き換えました」という切り替えが、実際には離脱を起こす操作になりうる。ここは患者への説明を含めて、あらかじめ設計しておく必要があります。

見落とされやすい副作用と注意点

依存性がないことは、副作用がないことを意味しません。タンドスピロンの重大な副作用には、肝機能障害・黄疸のほか、セロトニン症候群悪性症候群が挙げられています。悪性症候群については、抗精神病薬・抗うつ薬等との併用のほか、本剤の急激な減量・中止でもあらわれることがある、と記載されています。相互作用としては、SSRI・SNRI・トラゾドンなどセロトニン再取り込み阻害作用を有する薬剤との併用でセロトニン症候群のおそれ、ブチロフェノン系薬剤との併用で錐体外路症状の増強、カルシウム拮抗剤との併用で降圧作用の増強が挙げられています。SSRIに上乗せする使い方をするなら、この相互作用は視野に入れておく必要があります。

錐体外路症状の増強という記載は、本剤が弱い抗ドパミン作用を持つことによるものだと添付文書自身が説明しており、その他の副作用にも振戦・パーキンソン様症状(頻度0.1%未満)が挙がっています。「記憶や運動機能への影響が少ない」という利点と、この項目は対にして覚えておくほうが安全です。

自動車運転についても、「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」という記載はタンドスピロンにも置かれています。ラメルテオンやスボレキサントを含め、依存性の低い薬剤であっても運転に関する要請は同じである、とも指摘されています。「依存しにくい薬だから運転も大丈夫」という説明は成り立ちません。

期待値をどう合わせるか

効果を実感しにくい薬剤の説明については、漢方薬を例に、処方時に効き方を予告しておく手法が勧められています。その日のうちに効くことはまずないこと、まず1〜2週間続けてほしいこと、終わり頃には少し楽になっているはずだが、なっていなければ次回教えてほしいこと――を先に伝えておく、というものです。何の説明もなく処方して効かなければ「やっぱり効かない」となり、期待していたプラセボ効果が消えてノセボ効果だけが目立つ、という指摘は、そのままタンドスピロンにも当てはまります。

抗うつ薬が主役の場面で、ベンゾをどう橋渡しに使うか

第一選択はSSRI/SNRIで、BZ系は補助

不安症の薬物療法において、BZ系は第一選択ではありません。ある本は、不安症の薬物療法の第一選択は抗うつ薬であり安全性の観点からSSRIが好まれる、抗不安薬は併用されることがあっても補助薬という位置づけだ、とまとめたうえで、不眠症を除けばBZ系はどの疾患でも第一選択薬ではない、と明言しています。別の本も不安症の第一選択はSSRI・SNRIとし、両者のあいだで圧倒的に優れた薬剤はなく、相互作用・副作用・医療経済・使用経験から選べばよい、としています。

ただし、この「第一選択」は薬理学的・エビデンス的な位置づけであって、国内の効能・効果とは別ものです。日本の抗うつ薬が持つ不安症の効能は疾患ごとに細かく分かれており、パニック症・社交不安症・強迫症についてそれぞれ一部のSSRIが効能を持つにとどまります。SNRIで不安症の効能を持つのはベンラファキシン(全般不安症、2026年3月の効能追加)だけで、デュロキセチン・ミルナシプラン、あるいはボルチオキセチンには不安症の効能がありません。 疾患名と薬剤の組み合わせによっては、第一選択として選んだ時点で適応外使用になります。SNRI側の選び分けは、この連載のSNRI・NaSSA・その他の抗うつ薬はどこで選ばれるかで扱いました。

用量設計についてはひとつ注意点があります。不安症に対しては、うつ病と異なりモノアミン作動薬の用量をしっかり上げる必要があるとされ、プライマリケアでは十分量が使われていないことが問題視されている、と紹介する成書があります。同書は同時に、用量と有効性の関係を確認できたのはSSRIだけで、SNRIについては用量依存的とは言えない可能性があるとするシステマティックレビュー・メタ解析があること、日本で行われたSSRIの臨床試験では用量依存性が見られなかったため一概には言えないこと、用量を上げるほど忍容性は落ちることを併記しています。なお、パニック症については、抗うつ薬の量がうつ病を治療するときより少なくても効果が出ることがある、と書く本もあり、「不安症では用量を上げる」を一般則として持ち込むと疾患ごとの射程を取り違えます。SSRIそのものの選び分けは、この連載のSSRIの選び分けで扱いました。

上乗せが効く期間は限られている

BZ系を併用する意味がどこまで続くのかについては、比較的はっきりした報告があります。

うつ病の急性期に抗うつ薬とBZ系抗不安薬を併用すると、治療開始4週までは抗うつ薬の治療反応率を高め、かつ治療中止例を減らすが、4週を過ぎると併用による増強効果がはっきりしなくなる、と報告されている(2001年の報告)と紹介されています。パニック症についても同じ「4週」を示す報告があり、これは後述します。

ただしこれはうつ病の文脈での報告です。数字が同じ「4週」だからといって、疾患をまたいで混ぜて一般化するのは避けたほうがよいでしょう。それでも、出口の時期を数値で示せる数少ない根拠であることは確かです。

いつ外すか――3通りの設計

橋渡しをどう外すかについては、本ごとに異なる設計が示されています。以下は処方する側が段階を設計するための例であって、服薬中の方がご自身で減らす手順ではありません。

  1. あるガイドライン(2004年)を引く本は、パニック症の急性期治療を例として、SSRIを治療用量まで4〜12週かけて漸増し、なお不安が強く急速な緩和が必要ならBZ系を併用し、症状がある程度緩和したら4〜10週かけてBZ系を徐々に減量するとしています。
  2. 別の本は、SSRIの効果がみられたらBZ系の減量を開始し、2〜4週間に25%程度のペースで漸減するとしています。
  3. さらに別の本は、不安症でSSRI/SNRI開始初期の不安が気になるなら2週間ほどBZ系を重ねるという設計を示し、ロフラゼプ酸エチル1日0.5〜1mgを好例として挙げています。ただしこの用量は、添付文書の用法・用量(2mgを1日1〜2回に分割)を下回る設定にあたります。

3つの設計はいずれも期間と減量ペースが異なります。単一の正解として提示せず、本によって幅があることをそのまま共有するほうが誠実です。 共通しているのは、外す時期を治療開始の時点で計画に組み込んでいる点です。

外し損ねると何が起きるか

橋渡しを外し損ねたときの帰結も、明記されています。パニック症でSSRIにBZ系を併用すると4週目までは効果が高いが以降は差がなく、BZ系には依存性の副作用があるため、パニック症が寛解した後も薬をやめられない状態になることが懸念される、と述べる本があります。よくなった後にBZ系だけが残る。そしてそこから減らすほうが、はるかに難しくなります。

参照した書籍の症例では、強迫症でSSRIと併用したアルプラゾラムを治療開始6か月目に漸減中止し、その後SSRI単剤で曝露反応妨害法に取り組んで就労に至った経過が示されています。同じ本は、パニック症・広場恐怖の症例に付した解説で、薬物療法が奏効した場合は通常8〜12か月継続すべきともいわれるが中断すると再発する例も多く、中止方針を立てるなら認知行動療法などの再発予防策を先に立てておくのが好ましい、としています。いずれも書籍中の例です。

治療期間の目安としては、うつ病では寛解後6か月継続してから減量中止するのに対し、不安症では12か月の継続が望ましいとされること、減量中止後1年以内に40%が再発するといわれることが挙げられています。これは抗うつ薬側の期間であって、BZ系の継続期間ではありません。 混ぜないよう注意が必要です。

頓用か定時か――見解が割れている論点

橋渡しの実装をめぐって、書籍間の見解が最も分かれるのがここです。

  • 頓用を基本に置き、頓服なら週2〜3回、連用するなら2〜4週までを原則として患者と合意する、という書き方をする本があります。
  • パニック症の項では、BZ系頓用は緊急避難であり原則週4回以下、それ以上続けると不安と頓用内服が条件づけされて中止困難になる、と書かれています。
  • ところが同じ本の依存対策の項には、週1回以下の頓用は離脱中の症状緩和に役立つが、それ以上は依存形成を促進するため定期内服のほうが安全であるとすら考えられる、と逆向きの記述があります。頓用は患者が「いつでも好きなときに飲んでよいもの」と受け取りやすく、高用量使用につながるから、というのが理由です。
  • 連日投与よりは頓用のほうが良いかもしれないとしつつ、眠れない日が続いていれば毎日決まった時間に飲んで睡眠を取り戻すことも必要で、柔軟に扱うことが大事だ、と整理する本もあります。
  • 睡眠薬の文脈になると、眠れない夜にだけ飲むよう指示する断続的な使い方は反跳性不眠を招いてかえって逆効果であり、少なめの量を毎日服用するほうが望ましい、と明言されています。

同じ書籍のなかでさえ、文脈によって数字が違います。 「週何回まで」を単一の基準として提示できる状況にはありません。一方で、どの本も回数の目安をあらかじめ決めて患者と共有するという点では一致しています。数字そのものより、この合意形成の手順のほうが移植可能な部分でしょう。

なお、患者さん向けの頓服薬の上手な使い方は、間隔をあけた頓用と連日長期の服用ではリスクの質が異なる、という前提で書いています。ここで扱っている「定時か頓用か」の論点とは置いている前提が違うので、患者に両方を渡すときは補足が必要です。

疾患別に、何を考えるか

パニック症

前述の「原則週4回以下」を示す成書は、この頓用をあくまで緊急避難として位置づけています。一方で、頓用のアルプラゾラムやロラゼパムを「お守り」として持ってもらうことがある、と書く本もあります。両者は矛盾しているというより、同じ現象の両側面を見ています。持っているだけで安心できる状態と、飲まないといられない状態は連続しており、その境目を回数で見張る、という設計になります。

ただし適応の面は別立てで確認が要ります。前述のとおりアルプラゾラムの国内の効能は心身症のみで、パニック症という病名自体が効能の外にあります。ロラゼパムも含め、1日量を分割せずに単回頓用する使い方は添付文書の用法から外れます。 ここは適応外・用法外の4項目(合理的な理由・十分な説明・十分な観察・診療録への記載)を満たすべき場面です。

薬理学的背景としては、パニック発作の病態にGABA活性の異常が関わるとされ、PET研究で島皮質のGABA-A受容体結合能の低下が示唆されている、と紹介されています。ただし同じ本は、抗てんかん薬による介入の可能性は臨床試験が少なく今後の課題だとし、プレガバリンについてはパニック症で試験が行われておらず現時点で推奨されるものではないとしています。加えて、日本ではプレガバリンの不安症への使用は適応外です。

抗うつ薬側の期間としては、パニック症では十分な効果がみられたら6か月〜1年維持し、再燃がなければさらに6か月〜1年かけて漸減中止する、と書かれています。

全般不安症

持続的な不安には中期または長期作用型を考慮する、というのが作用時間の当て方の原則です。パニック症のように「発作を頓用でしのぐ」構図が成り立たないため、BZ系を当てるなら谷を作らない設計になる、という理屈です。

ここで前述の「継続内服中でも血中濃度の谷で不安が立ち上がる」現象が効いてきます。持続的な不安に短時間作用型を1日3回で当てると、患者の体験としては1日に3回、効き始めと切れ際の波を通過することになります。全般不安症で短時間型が居つきやすいのは、この波そのものが「まだ足りない」という感覚を生むからだ、という説明が成り立ちます。作用時間の長い薬剤への置換が理論上勧められるのは、この谷を浅くするためです。

用量設計の面では、前述のとおり不安症ではうつ病と異なりモノアミン作動薬の用量をしっかり上げる必要があるとされ、プライマリケアで十分量が使われていないことが問題視されています。ただし用量依存性の根拠がSSRIに限られる可能性、日本の臨床試験では用量依存性が見られなかったこと、上げるほど忍容性が落ちることも同じ成書に併記されており、「上げれば上げるほどよい」という読み方はできません。

適応の面では制約が二重にかかります。日本の抗不安薬の効能は「神経症」「心身症」の枠で設定されていて、全般不安症という診断名に対する効能を持つ薬剤はありません。抗うつ薬側でも、全般不安症の効能を持つ薬剤はごく限られます。 全般不安症・社交不安症へのプレガバリンについて言及している成書もありますが、日本では不安症への使用は適応外であり、同書自身もその旨を明記しています。

なお、前述のとおり全般不安症として治療を始める前に双極性障害とうつ病を除外する手順が先に来ます。ピュアな全般不安症をほとんど診たことがない、と書く成書があることを踏まえると、この除外はGADにおいてとくに重い意味を持ちます。

社交不安症

パフォーマンス限局型(プレゼンなど特定の場面でのみ症状が出るタイプ)について、明らかに交感神経が高まる場面の60分ほど前にプロプラノロール10〜20mgを頓服し、必要に応じてロラゼパム0.5mgなどを併用すると症状軽減に役立つ、と書く本があります。別の本も同様の頓用を挙げ、連日服用すると効果が腰折れするため頓用で用いること、禁忌が多いので注意して使うことを添えています。さらに別の本は、依存を生じやすいのであくまでお守りであって継続的に使うものではない、と説明しておくべきだとしています。

ここには適応の問題が2つあります。プロプラノロールの社交不安症への使用は日本では適応外であり、しかも喘息・徐脈・心不全など禁忌が多い薬剤です。ロラゼパムについても、添付文書の用法は1日1〜3mgを2〜3回に分けての投与であり、単回頓用という使い方は用法から外れます。

そして、この使い方には治療論上の批判もあります。前述の本自身が、頓服が「安全行動」として作用するため認知行動療法的には好ましくないこと、エビデンスの質も非常に低いことがコクランレビューで指摘されていることを併記しています。使うなら、この批判ごと患者と共有しておくのが筋でしょう。

うつ病の不安焦燥

焦燥の強いうつ病の急性期では抗うつ薬とBZ系抗不安薬の併用を4週間程度行い、焦燥や不安が緩和したらBZ系を漸減中止して抗うつ薬単独の継続治療に移る、というのが一般的に推奨される、と述べる本があります。焦燥を伴ううつは自殺企図リスクとの関連が報告されており一刻も早い症状改善が重要である一方で、BZ系の副作用(眠気・ふらつき)を再来のたびにきちんと評価することが大切だ、とも書かれています。

ここで見落としやすいのが、抗うつ薬開始後の焦燥がアカシジアである可能性です。アカシジアは焦燥と間違われやすく、心が落ち着かない焦燥に対して、アカシジアは体のほうが落ち着かないのが特徴だとされます。「焦燥が強いから」と考えて抗精神病薬を増やすと、かえって落ち着かなくなる――そういうときはアカシジアだと思ったほうがよい、と注意を促す成書があります。錐体外路症状は抗精神病薬の専売特許ではなく、SSRI・SNRIでもアカシジアは生じうるとされているので、原因薬剤の見立てを先に立てる必要があります。

なお、アカシジアの対症薬としてBZ系(クロナゼパムなど)を挙げる本もあり、BZ系を足すこと自体が悪化要因だと書かれているわけではありません。ただしクロナゼパムの国内の効能はてんかんの各種発作型に限られるため、この使い方は適応外にあたります。抗うつ薬導入初期の賦活症状については、この連載のSSRIの選び分け抗うつ薬が効かないときでも扱っています。

この病像では、自殺リスクの評価と、緊急時の連絡経路――急を要する状態なら救急(119)、それ以外は主治医――を、治療の早い段階で本人・家族と共有しておくことが処方設計の一部になります。

適応障害・心因反応として見える場面

「心因反応」という見立てそのものに疑いを差し込む本があります。そこでは、目の前に現れている心因反応の大きさを、その人がもともと持っている脆弱性と、身体の異常が脳に与えている負荷と、きっかけとなった心理的な出来事――この三つが重なった結果として捉える見方が示されています(著者自身が科学的根拠はないと明言しています)。この見方の使いどころは、心因反応の大きさときっかけのバランスが釣り合っていないときに、隠れた身体因を疑うという点にあります。

同書はまた「除反応」という語を独自の意味で用い、心因反応を除去・軽減して真の症状を聴取できるようにすることだ、としています。点滴や安静が自然な除反応になることもあり、それでも困難なときは抗不安薬をその場で処方して内服してもらうこともある、と書かれています。不安を和らげることが、隠れた身体症状を聞き取るための手段になりうるという発想です。同書には、過呼吸の高齢男性にアルプラゾラムを用いて除反応を行ったところ、視覚に関する非典型的な訴えが聴取でき、頭部MRIで急性期脳梗塞が見つかった、という症例も載っています。なお、この目的でのアルプラゾラムの使用も、前述のとおり添付文書の効能の外にあたります。

ただし同書は、この記述に自ら注記を付けています。高齢者へのベンゾジアゼピン系投与では副作用も問題視されている以上、この部分だけを取り出して多用されては困る、薬理を理解したうえで各自の判断と責任のもとで使ってほしい、という趣旨の断りです。この注記ごと紹介するのが誠実な引き方でしょう。

同書はさらに、脳に器質的な問題があるとそのぶん心因反応も生じやすくなる、という「心理的加重」の概念を紹介し、心因反応とわかりかけた瞬間に診療を終える一段階思考を戒めています。心因があると示せたことは、身体因がないことの証明にはならないという原則が、繰り返し示されています。

依存・健忘・転倒・運転――経過中に見ておくこと

常用量依存

BZ系の依存の特徴は、飲みたいという渇望はあまり前に出ないのに、やめようとすると不安などの離脱症状が現れ、そのために中止できなくなる点にあり、その多くは常用量依存だ、と整理されています。離脱症状として多いのは不眠、不安、気分不快、焦燥感、ふるえ、発汗、頭痛、嘔気、知覚異常など。これらは中止時だけでなく減量でも生じ、しかもBZ系の標的症状そのものでもあるため、離脱症状と病状再燃の鑑別は簡単ではない、とも明記されています。

形成までの期間については、本ごとに挙げる数字に幅があります。毎日飲み続ければ1か月程度でも常用量依存に至ることがあり、8か月では半数近くにのぼるとされる(1983年の報告を引用)。6か月を超えて服用していると離脱症状が3分の1の患者に生じるといわれる(2014年の報告を引用)。引用元の異なる報告なので、どれか1つを標準値として提示するのは避けたほうがよいでしょう。

同時に押さえておきたいのは、後者の本が、自身の経験では多くの場合に離脱症状は強く出ない印象があるとも書いている点です。症状改善とともに飲み忘れが増えて自然な漸減ができているのかもしれない、とも続けています。数値と臨床印象が同じ本の同じ節に併記されていること自体が重要で、片方だけを引くと記事の温度が変わってしまいます。

依存形成の最大の要因は長期使用であり、長期使用→依存形成→減量中止時の離脱症状→中止困難→さらなる長期使用、というループが描かれています。長期使用の要因として挙げられているのは高用量使用と多剤併用で、複数を重ねればおのずと総量は増え、量が多いところから中止すれば離脱症状は出やすくなる、という連鎖です。薬剤側の因子は、前述の短時間作用型・Tmaxが短いもの・高力価のものです。

常用量依存については、患者さん向けに抗不安薬と依存でも解説しています。減量の実際は、この連載の減らすとき、やめるときにまとめました。

前向性健忘と転倒――高齢者で目立つ理由

BZ系の記憶障害はエピソード記憶の前向性健忘が特徴で、服用後の記憶の形成と再生が障害される、と説明されています。高齢者で顕在化しやすいのは、若年者では起こらないという意味ではなく、記憶にかけられる余力がもともと小さいぶん、同じ影響でも表面化しやすいと考えてよい、という説明が添えられています。リスク因子は高齢、脳器質性障害、アルコール併用。高力価の短期作用型では、せん妄や健忘のように認知機能が落ちることで生じる混乱が起こりうる、という注意も添えられています。添付文書上も、エチゾラム・アルプラゾラム・ロフラゼプ酸エチルには健忘の記載があります。

転倒については、筋弛緩作用や反射の抑制によってふらつきが生じ、高齢者では骨折から長期臥床と認知症の誘発につながるリスクになる、と指摘されています。ただし長期服用者については、中止一辺倒を取らず、服用を続けながら他の転倒要因を減らすという選択肢も書籍側に置かれており、その論拠は減量を主題とする減らすとき、やめるときにまとめました。

運転と、日中の眠気の自覚のなさ

持ち越し効果について、眠気として自覚されていない段階でも、注意の持続や反応時間には影響が出ていることがあるため、自動車の運転は避けるよう指導する、と書かれています。常用量でも眠気・ふらつき・脱力感を認めることがあり、転倒事故や自動車事故が報告されているという記述もあります。

添付文書側も一貫しており、今回の6剤はいずれも、重要な基本的注意に「眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」という趣旨の記載を持っています。タンドスピロンも例外ではありません。

実際には職業や生活環境によって運転が不可欠な状況もあり、医療者の立場では注意を省くことも運転を許可することもできないため、最終的な判断と行動は患者本人に委ねざるをえない、と書く本があります。あわせて、指示をカルテに記載しておくべきだとされています。

認知機能をめぐる評価は、この10年で動いている

認知症リスクについては、本のあいだで評価が食い違っています。刊行年順に並べると、その動きが見えます。

  • 2016年刊の本――長期服用や長時間型で認知機能低下の恐れがあるとされ(2014年の報告)、減量によって認知機能や精神症状が改善することも示唆されている(2012年の報告)。
  • 2019年刊の本――肯定的な報告も否定的な報告もあり、判断を保留にする。
  • 2022年刊の本――認知症リスクは一時期盛んに言われたが否定的と考えてよい(2016年の報告)とし、むしろBZ系を服用していた群のほうでアミロイドは少なく、海馬の容積も大きかったとする報告もある、と紹介する。

「認知症になる」と書かないのと同じくらい、「ならない」と書かないことが重要な領域です。 現時点では結論が出ていない、と扱うのが正確でしょう。

一方、認知機能の「機能面」については、より実用的な指摘があります。「このおじいさんは認知症だろうか」と思っても、抗コリン作用のある薬剤やBZ系を飲んでいたらまずそれを退いてみる、薬剤性の可能性もある、という順序が示されています。発症リスクの議論と、目の前の患者のぼんやりした状態が薬剤性かどうかの議論は、別のものとして扱う必要があります。

脱抑制

BZ系は大量に服薬しても死に至りにくい優れた薬剤であり、かつて使われていたバルビツール酸系とは安全域の広さが比べものにならず、三環系抗うつ薬やリチウムと並べても危険性は低いほうだ――としたうえで、問題はむしろ脱抑制のほうにあり、これが自殺企図に踏み切らせる方向に働きうる、と続ける本があります。服用したことで、行動に歯止めがかからなくなることもある、と。別の本は同じ論点をもっと短く言い切っていて、単剤の大量内服それ自体で命を落とすことは少なくても、死との距離は確実に縮まる、と書いています。他剤、とくにオピオイドと一緒に大量服薬すると呼吸抑制が強まって死亡リスクが高まることも指摘されています。

酒を飲んで暴力的になるのと同じことがBZ系でも起こる、とも書かれており、ハイリスクとして挙げられているのは、もともと攻撃性の強いパーソナリティと、抑制がかかりにくくなっている中枢神経(神経変性疾患、高齢)です。別の本はここに同時飲酒と大量投与、そしてもともと衝動性が抑えられにくい傾向を加えています。2冊を合わせて読むと、飲み合わせ・用量・素因・年齢の4方向からリスクが立ち上がるという見取り図になります。

「単独では死ににくい」という記述を、安全性の根拠として単独で切り出さないこと。 これは書籍側が最も警戒している誤読です。

もうひとつ、診断への波及を指摘する記述があります。ベンゾジアゼピン受容体作動薬の脱抑制によって行動化が起き、その結果として境界性パーソナリティ障害という診断がついてしまった患者に時折出会う、として、薬剤整理を済ませる前にパーソナリティ障害と診断してはならないという鉄則を挙げる本があります。医療者側が患者をそのように扱っていると、患者も不思議とそのような振る舞いになってくる、とも書いています。

過量服薬のリスクがある患者への処方設計

目的の明確化と、限界設定という発想

境界性パーソナリティ障害に薬物療法が根本治療でないことは広く知られており、患者自身もそれを承知して治療の場に登場することが少なくない――としたうえで、それでも日々の生活の援助となり精神療法が成果をあげる助けにもなる、と書く本があります。示されている枠組みは三段構えで、まず薬物療法の目的を明確化すること、薬効が認められない場合は漫然と投与を続けないこと、これらの点を患者と共有すること、です。

そのうえで、処方の限界設定として治療開始時に取り決める項目の例が挙げられています。毎週処方する、長期処方はしない、担当医以外は処方しない、代理人には薬を渡さない、アルコールで飲まない、頓服の回数に上限を設ける、他院で同じ薬をもらわない、大量服薬があった場合はすぐ連絡することとし、それ以降は処方を中止して転医してもらう、といった内容です。かなり厳しい取り決めまで例として並んでいる点は、そのまま伝えておく必要があります。事前の備え(前医処方の残薬処分、毎回の残量チェック、服薬記録、SOSの出し方の取り決め、他院との情報交換の承諾)と、事後の備え(緊急連絡先、救急医療機関の確保、紹介状、以後の治療継続についての話し合い)も並べられています。

この文脈で用いられる薬剤はすべて保険適応外です。 同じ本が、境界性パーソナリティ障害という保険病名は存在せず、この文脈の薬剤はすべて保険適応外である旨を明記しています。適応外使用の4要件(合理的な理由・十分な説明・十分な観察・診療録への記載)が、そのまま該当します。

なおこの本は2006年の刊行で、BZ系については、適切な治療量のもとでなら深刻な依存はわずかであり、適切な使用ができない場合に限界設定をすればよい、という立場を取っています。常用量依存を前提に置く2013年以降の書籍と比べるとかなり楽観的で、年代差として扱うべき記述です。さらに真っ向から対立する方針もあり、境界性パーソナリティ障害では薬物は「悪さをしないこと」を優先し、BZ系とSSRIは避けるとする本もあります。限界設定つきで使うか、そもそも使わないか。ここは見解が割れています。

過量服薬をどう考えるか

過量服薬は自殺を目的とするものとはかぎらず、むしろ死ぬためではなく、その場を生き延びるための自傷行為として行われていることが多い、と書く本があります。同じ本は、過量服薬はほかの自傷行為と違って、どこまでの結果になるかを本人が制御できないぶん危険が大きく、「致死量未満だから」「何錠以下なら安全」という線引きはできないとしています。アルコールや他の薬物と一緒に使用するとさらに危険で、薬の作用のほかに嘔吐物による窒息の危険があること、薬物によって引き起こされた酩酊状態が衝動性を高め、二次的な行動につながる危険があることも挙げられています。

その本は処方薬依存の治療の難しさを3点に整理しています。①断薬しようとすると重篤な離脱症状が出る場合がある、②薬を断ったことで、もともと抱えていた精神疾患の症状のほうが悪化する場合がある、③減量を求める医師を離れ、希望どおり処方する医師を探して受診先を移ってしまい、治療が中断される。3点目についても、患者を非難するトーンにならない書き方が一貫して保たれています。代替案として、処方どおりの服用が難しい場合には本人以外の人が薬の使用を管理するという方法も挙げられています。

そして繰り返し強調されるのは、都合の悪い報告ほど気兼ねなく持ち出せる関係が、治療の継続を支えるという点です。減らせなかった、余計に飲んでしまった――そう打ち明けられる関係そのものが、最大の安全装置になる、という考え方です。

急を要する状態のときは救急(119)を、それ以外は主治医への相談を、という導線をあらかじめ共有しておくことも、この設計の一部になります。

出口を、始めるときに決めておく

この記事で扱ってきたことは、結局のところひとつの原則に収束します。BZ系は、外し方を決めてから始める薬だということです。目的と止めどきを決めないまま始めた処方は、あとから止めどきを探すことになりますが、そのときには常用量依存という別の問題が上乗せされています。始めるときの設計と終わらせるときの設計は、同じ一度の判断のなかにあります。

もうひとつ、実装に効く知見があります。患者向けの冊子を併用すると減薬と中止がスムーズに行える、と複数の研究で示されている、と紹介する成書があり、冊子に盛り込むべき要素も5つ挙げられています。書いたものを渡すかどうかで結果が変わりうる、という報告です。5要素の内訳は、減量を主題とする減らすとき、やめるときにまとめました。

最後に、抗不安薬に固有の事情をもう一度置いておきます。日本の抗不安薬の効能は「神経症」「心身症」という旧来の枠で書かれていて、パニック症・社交不安症・全般不安症という現在の診断名には対応していません。つまりこの薬に関しては、「どの病態に、どこまで使ってよいか」の線引きを効能欄に代行させることができない。線は処方する側が自分で引くしかなく、だからこそ出口の設計が処方設計そのものになります。上乗せの効果がはっきりするのは4週までという報告があること、外し方の案が本ごとに3通りに割れていること――この記事で並べてきた材料は、いずれもその線を引くためのものです。

減量の具体的な設計――ペース、置換、うまくいかないときの立て直し――は、この記事の範囲を超えます。連載の次回、睡眠薬・抗不安薬を減らすとき、やめるときにまとめました。睡眠薬側の選び分けは睡眠薬の選び分けにあります。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。用量・適応・エビデンスは各書の執筆時点の記載に基づいており、適応・禁忌・用法については現行の電子添文と照合しています。実際の処方にあたっては、最新の添付文書と各学会のガイドラインをご確認ください。

  • ジェネラリストのための 向精神薬の使い方(宮内倫也/日本医事新報社)
  • こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩(宮内倫也/中外医学社)
  • 本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩(稲田健 編/羊土社)
  • 研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義(功刀浩 編/金剛出版)
  • 精神科臨床Q&A for ビギナーズ(宮内倫也/医学書院)
  • 対話で学ぶ精神症状の診かた(宮内倫也・樫尾明彦/南山堂)
  • 精神診療プラチナマニュアル(松崎朝樹/メディカル・サイエンス・インターナショナル)
  • 精神科臨床ニューアプローチ5 パーソナリティ障害・摂食障害(上島国利 監修・市橋秀夫 編/メジカルビュー社)
  • 器質か心因か(尾久守侑/中外医学社)
  • 精神症状から身体疾患を見抜く(尾久守侑/金芳堂)
  • 精神症状に潜む身体疾患66 モリソン先生のルールアウト(J. モリソン/松崎朝樹 監訳/メディカル・サイエンス・インターナショナル)
  • 自分を傷つけてしまう人のためのレスキューガイド(松本俊彦 監修/法研)
  • ストレスチェック面接医のための メンタル産業医入門(櫻澤博文/日本医事新報社)
  • 自信がもてる! せん妄診療 はじめの一歩(小川朝生/羊土社)

よくある質問

もっと弱い抗不安薬に変えてもらうことはできますか。

ご希望は遠慮なくお伝えください。ただ「弱い薬」に変えれば楽になる、とはかぎらないところが抗不安薬の難しさです。効き味が穏やかな薬は、そのぶん効いた実感も出にくく、かえって飲む回数が増えてしまうことがあります。錠剤に書かれた数字の大小は、薬の強さの順番とは別のものさしなので、そこも誤解が生まれやすい点です。何がつらくて変えたいのか――眠気なのか、切れたときのつらさなのか、依存への不安なのか――を具体的に伝えていただくと、方向を決めやすくなります。

不安がなくなるまで飲み続けたほうがいいのでしょうか。

治療の目標は「不安がゼロになること」ではなく、「不安があっても、したいことができる状態に戻ること」だとする考え方が、多くの専門書に共通しています。抗不安薬は不安の原因を治す薬ではなく、身動きが取れない時期を乗り切るための薬なので、効いているあいだに何に取り組むかを決めておくことが大切になります。逆に、症状が落ち着いてきたのに薬だけが残ってしまうと、あとから減らすほうが難しくなります。減らす時期についても、早めに主治医と話し合っておかれることをおすすめします。

頓服の抗不安薬は、週に何回までなら大丈夫ですか。

実は、この回数について専門書の見解は一致していません。週2〜3回までとするもの、週4回以下とするもの、そもそも回数が多くなるなら決まった時間に少量を飲むほうが安全だとするものがあり、幅があります。一致しているのは「あらかじめ回数の目安を決めて、主治医と共有しておく」という点です。何回飲んだかは治療の大事な手がかりになりますので、多く使った週があっても、そのまま正直にお伝えください。責められることではありません。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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