ラツーダ(一般名: ルラシドン)は、抗精神病薬に分類される比較的新しいお薬です。「抗精神病薬」と聞くと身構えるかもしれませんが、この薬の大きな持ち味は、双極性障害の「うつ」の時期に効くこと。ふつうの抗うつ薬が効きにくい双極のうつに、穏やかに手を差し伸べる薬です(統合失調症にも使います)。そしてもう一つ、必ず食後に飲むという大事な決まりがあります。ここでは、その効き方と飲み方のコツを、診察でお話ししている感覚に近い形でまとめました。
どんなふうに効く薬か
ラツーダは、脳の中のドパミンやセロトニンなどの働きを調整して、幻覚・妄想をやわらげたり、双極性障害のうつ症状を改善したりします。
とくに知っておいてほしいのが、双極のうつへの効き方です。双極性障害のうつは、実はとても手ごわい相手。ふつうの抗うつ薬が効きにくいうえ、時に気分を逆に不安定にして、高ぶり(躁)を引き出してしまうこともあります。ラツーダは、そうした双極のうつに、気分を無理に持ち上げるのではなく、底から穏やかに支えるように働きます。派手な効き方ではなく、数週間かけてじわりと、沈んだ気分が上向いてくる——そんな効き方をする薬です。
「引き上げる」のではなく「落ちきらないようにする」
この薬を使ってきた医師の言葉として、書籍にはこう記されています。気分を奮い立たせて押し上げるというより、下から支えて、それ以上落ちきらずに済むようにする働きのほうが強い、と。
そう考えると、効いてきたときの手ごたえも見当がつきます。「ある朝ぱっと元気になった」という形ではなく、落ちこみの底が、以前ほど深くならなくなるという形で現れることが多いのです。朝、起き上がるまでの時間が短くなった。一日のうち、何も手につかない時間帯が減った——そういう変化が先に来ます。
ですから、飲んで数日で「効かない」と決めるのは早すぎます。週の単位で振り返り、生活のどこが動いたかを診察で一緒に確かめましょう。
なぜ、双極のうつに専用の薬が必要なのか
双極性障害というと、高ぶり(躁)のほうが病気の中心だと思われがちです。ところが実際には、うつの時期に費やされる時間のほうがずっと長いことが知られています。とくにⅡ型では、経過のおよそ半分をうつで過ごしていたという報告があります。治療をしないでいると、うつの時期が半年を超えて続くこともまれではないとされます。
そして、この長いうつの時期に、ふつうの抗うつ薬だけで立ち向かうことは勧められていません。気分が反対方向に振れる、波の回転が速くなる、安全面の心配が増す——そうしたことが起こりうるためです。抗うつ薬を足す形についても、長く続けるほど上振れが増えたという報告があり、足すとしても短期間にとどめるべきだと言われています。双極のうつには、双極のうつに合わせた薬が要るのです。
どんな人に向くか・ほかの薬との違い
ラツーダが力を発揮するのは、双極性障害の、うつの時期です。当院に来られる双極性障害の方は、うつが中心のⅡ型が多く、その場合はラミクタールと並んで、ラツーダが治療の軸になります(統合失調症の幻覚・妄想にも使います)。
同じ抗精神病薬でも、セロクエルやジプレキサは体重や血糖への影響が大きく、糖尿病の方には使えませんでした。ラツーダは、そうした体重・血糖への負担が比較的軽いのが強みで、長く付き合いやすい薬です。だからといって影響がゼロではないので、そこは一緒に見ていきます。
双極性障害のうつは、もともと使える薬が限られている領域です。そのなかで効果を比べた研究でも、ラツーダは見劣りしない結果が報告されています。ただし、増やせば増やすほど効く薬ではありません。はじめのうちに量を調整していくのは治療の通常の手順ですが、双極のうつでは、ある程度より上の量になると効き目が頭打ちになるとされています。効きが物足りないと感じるときは、量のことだけで考えず、飲むタイミング(次でお話しする食後の約束)やほかの手立ても一緒に見直します。いまの量が合っているかどうかも、見直しの選択肢のひとつです。診察でそのまま伝えてください。
「どれが一番いい薬か」は、一言では決まらない
双極のうつに使える薬を横並びに比べた解析は、いくつも発表されています。ラツーダを上位に挙げる報告がある一方で、上振れ(躁のほうへ振れること)の起こりにくさという点では、クエチアピンという別の薬のほうが確かだったとする報告もあります。どの物差しで見るかによって順番は変わるのです。
だからこそ、選ぶときに見るのは効き目の強さだけではありません。これまでの波の出方、体重や眠気の出やすさ、持病、毎日続けられる飲み方かどうかを見比べて選びます。
上向いてくる時期こそ、逆方向にも目を配る
双極性障害の治療では、沈みからの回復期に、行き過ぎのサインが出ていないかを一緒に見ます。眠らなくても平気になる、考えが次々にわいて止まらない、しゃべり続ける、買い物や約束を抱えこむ、いらいらして人にあたる——ご本人には「やっと調子が戻った」としか感じられないのが、やっかいなところです。とくに気をつけたいのが沈んだ気分と高ぶりが混ざり合った状態で、つらさが強く危うさも増すと言われます。ご家族から見た変化も大事な情報です。ご本人の受診の際に、同席のうえでお知らせください。受診の間隔を待たないほうがよいと感じるときは、ご本人から受診の日程をご相談ください。差し迫っていれば救急(119)へ。
飲み始めに知っておいてほしいこと
食後に飲む——この一手間が効き目を左右する
ラツーダで、いちばん大事な約束がこれです。この薬は、空腹で飲むと体にうまく吸収されず、効きが半分ほどに落ちてしまうという、はっきりした性質があります。逆に言えば、食事と一緒に、あるいは食後すぐに飲むことで、はじめて実力を発揮する薬。「なんとなく効かない」の裏に、空腹での服用が隠れていることは少なくありません。毎日決まった食事のあとに飲む習慣にすると、効果も安定し、飲み忘れも防げます。
あわせて、グレープフルーツ(ジュースを含む)は避けてください。ラツーダの効きを不自然に強めてしまうことがあります。
なぜ、そこまで食事に左右されるのでしょうか。理由は、この薬の体への入り口がもともと狭いことにあります。飲んだ量のうち実際に血の中まで届く割合が少なく、その狭い入り口の通りやすさが、胃に食べ物があるかどうかで大きく変わるのです。空腹で飲めば、錠剤の見た目は同じでも体に届く分は目減りします。
一方で、いったん取り込まれれば体の中にとどまる時間は長めです。だからこの薬は1日1回で足ります。回数が少ない代わりに、その1回の飲み方が結果を左右する薬なのです。
朝食を抜きがちな方、食事の時間がばらばらな方は、一日のうちでいちばん確実に食べる食事に合わせるのが現実的です。ただし、飲む時刻をご自分で動かすと効き方が変わりますので、変えたいときは必ず診察でご相談ください。飲み忘れに気づいたときも、まとめて2回分を飲むことはせず、次の受診でそのまま教えてください。
そわそわして、落ち着かない(アカシジア)
ラツーダで知っておいてほしい副作用が、これです。足がむずむずする、じっと座っていられない——アカシジアと呼ばれ、飲み始めや量を変えた時期に出ることがあります。「不安が強くなった」と紛らわしいのですが、これは薬の副作用であって、あなたの心のせいではありません。量の調整などで和らぐことが多いので、「落ち着かない」と感じたら我慢せず教えてください。
見分けるコツがあります。書籍では、焦りは「こころ」のほうが落ち着かないのに対し、アカシジアは「からだ」のほうが落ち着かないと説明されています。気持ちは案外落ち着いているのに脚が勝手に動く、座っていたいのに立ち上がってしまう——そういう感じなら、アカシジアを疑う値打ちがあります。焦りが強いからと薬を増やしたら、かえって落ち着かなくなったというときは、まずこの副作用を考えるべきだとも書かれています。
もうひとつ、誤解されやすい点があります。ラツーダは、手のふるえや体のこわばりをやわらげる仕組みを併せ持つ薬です。それにもかかわらずアカシジアのほうは比較的よくみられ、その理由はまだすっきりとは説明がついていません。なお、ふるえやこわばりが出ないという意味ではありませんので、気づいたら教えてください。「手はふるえていないから副作用ではない」と考えないでください。出やすいのは飲み始めや量を変えてから数週間のうちです。
眠気、そのほか
飲み始めに眠気やめまい、吐き気が出ることがありますが、多くは体が慣れて軽くなります。
そのうえで、添付文書では、眠気があるときに限らず、この薬を飲んでいるあいだは車の運転など危険を伴う機械の操作を控えることになっています。とくに飲み始めや量を変えた時期、眠気が残っているときは危険です。運転が仕事や生活に欠かせない方は、薬の選び方から一緒に考えますので、飲み始める前に必ずご相談ください。
眠気で包み込まない薬であること——その良い面と、別の面
抗精神病薬のなかには、眠気やだるさで全体を鎮めて落ち着きをもたらすタイプがあります。ラツーダは、そうした重しをかけるタイプではないほうに入ります。日中の頭のはたらきを保ちやすく、仕事や家事に戻っていく段階では助けになります。ただし、運転など危険を伴う作業については、前の項でお伝えした注意がそのまま当てはまります。
ただ、書籍には「鎮静は悪いことばかりではなく、いくらかはあったほうが合う人もいる」という指摘もあります。不安や不眠がまだ強い時期には物足りなく感じることがある、ということです。「落ち着かない」「眠れない」が残るときは、耐えるのではなく、その部分をどう補うかを診察で相談しましょう。
めったにないけれど大事なこと
ごくまれに、高熱と体のこわばりが同時に出る重い反応、手足や口の勝手な動きなどが起きることがあります。また、のどが強く渇く・水をたくさん飲む・トイレが近い、といった血糖の乱れのサインにも注意を。気づいたら次の診察を待たず連絡・受診を。差し迫っていれば救急(119)へ。
長く飲むときに気にかけること
体重や血糖への負担が比較的軽いことは、この薬の大きな強みです。多くの抗精神病薬を横並びに比べた解析でも、体重の増えやすさはもっとも小さい部類に位置づけられています。ただし「まったく影響がない」という意味ではありません。同じ解析のなかで、ホルモン(プロラクチン)への影響は、いちばん少ない側ではなく真ん中あたりに位置しています。ですから、体重や体調の変化で気になることがあれば診察で教えてください。血糖や脂質などは、検査で定期的に確かめていくのが一般的です。
言い出しにくい変化にも遠慮はいりません。生理の乱れ、胸の張り、性の面での変化は、ホルモンへの影響として起こりうるものです。一人で抱えず、そのまま伝えてください。量の調整や薬の見直しで対応できることが多いものです。また、半年以上飲み続けている方に、口がもぐもぐ動く、舌が勝手に出るといった、自分では止めにくい動きが現れることがあります。早く気づくほど手を打ちやすいので、ご家族に口元を見てもらうのも一つの方法です。気づいたら診察で教えてください。減らす・切り替えるといった手立ては、主治医と一緒に決めます。
やめるとき
ラツーダは依存になる薬ではありません。ただ、調子が良くなったからと自己判断で急にやめると、症状がぶり返すことがあります。特に双極性障害では、落ち着いてからの継続が再発予防の要になります。やめる時期とペースは、症状の安定を確かめながら一緒に決めていきましょう。
自分でやめてほしくないのには、はっきりした理由があります。双極性障害では、やめてからぶり返しが表に出るまでに時間差があるため、「何日か飲まなかったけれど平気だった」は、やめてよい証拠になりません。うつの波は一度崩れると立て直すのに数か月かかることもあります。試しにやめて確かめる形は取らず、減らす相談は診察でしてください。
書籍にも、双極性障害では長い期間にわたって治療を続けることになる方が多いと記されています。そのうえで、置かれている状況が変わって負荷が減り、少しずつ薬を減らして治療を終えられた方もいると紹介され、続けるか減らすかは経過を見ながら患者さんと主治医が話し合って決めるものだ、とも書かれています。
ラツーダには、この薬ならではの「続けにくさ」もあります。食後に飲むという決まりがあるぶん、出張や旅行、生活リズムが乱れた時期には、飲めない日が生まれやすいのです。飲めていない日があったことは、隠さずに教えてください。困るのは飲めていないことではなく、それを知らないまま「効いていない」と判断することです。
生活の中での注意
運転など危険を伴う作業は、上に書いたとおり、添付文書では服用中は控えることになっています。必ず事前にご相談ください。食後に飲むこと、グレープフルーツを避けることは、くり返しになりますが大切です。お酒は眠気を強めるので控えめに。妊娠・授乳は一律の禁止ではなく、必要性と一緒に考えます。妊娠が分かっても自己判断でやめず、まず相談を。ほかの薬を新しく使うときは、一緒に飲めないものがあるので、お薬手帳と一緒に一声かけてください。
「一緒に飲めない薬」について、もう少し具体的に説明します。かびの病気の薬、HIVの薬、結核の薬、てんかんの薬のうち、特定のものとは、ラツーダは一緒に使えない決まりになっています。効きを大きく強めたり、逆にほとんど効かなくしたりしてしまうためです。当院では初診のときに市販薬やサプリメントも確認しています。
妊娠については、もうひとつ知っておいてほしいことがあります。妊娠の後期にこの仲間の薬が使われていた場合、生まれたばかりの赤ちゃんに、おっぱいの飲みにくさ、眠りがち、呼吸の乱れ、ふるえ、体の力が入りにくい、いらだちといった様子が現れたという報告があります。だからこそ、自己判断でやめるのではなく、産科と連携しながらお産の前後の備えを一緒に考えます。当院では、妊娠を希望される方・授乳中の方には催奇性を考慮したうえで治療を検討し、過去の病歴をもとに有益性が上回ると判断する場合は最小限の薬物療法を検討することもあります。
当院での考え方
当院に来られる双極性障害の方は、うつの時期が中心のⅡ型が多く、そのうつに対して、ラツーダやラミクタールを軸に調整することがよくあります。体重や血糖への負担が比較的軽く使いやすい薬ですが、効かせるには食後に飲むことが欠かせないので、飲み方も丁寧にお伝えします。飲み始めはアカシジアなどを確かめるために少し短い間隔で診ます。薬は回復の柱の一つですが、それがすべてではありません。休養や生活リズムの調整と組み合わせながら、一緒に進めていきましょう。
当院の通院は2週間に一度が基本です。うつの底が浅くなってきているか、逆方向への行き過ぎはないか、そわそわ感はないか、食後に飲めているか——そのつど確かめていける間隔でもあります。休養がうまくいっていない方には、当院では「休めていますか」ではなく、「休もうとすると何が邪魔をしますか」と、休めない理由のほうをお尋ねしています。なお、当院では電気けいれん療法(ECT)や反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)は行っていません。必要と判断した場合は、ご自身で実施している医療機関をお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。診療の対象は18歳以上の方です。
参考文献
- ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg 添付文書(2026年3月改訂・第10版) — KEGG MEDICUS 参照(2026-07-07)
- 参考書籍(本文の追記の裏づけ。要約・再構成であり原文の転載ではありません): 『ジェネラリストのための 向精神薬の使い方』『気分症群』『双極性障害の診かたと治しかた』『精神科薬物療法マニュアル』『専門医のための臨床精神神経薬理学テキスト』
よくある質問
なぜ食後に飲むように言われるのですか?
ラツーダ(ルラシドン)は、空腹時に飲むと吸収が大きく下がり、効きが半分ほどに落ちてしまうことがわかっています。食事と一緒に、あるいは食後すぐに飲むことで、はじめて安定した効果が期待できます。「なんとなく効かない」の裏に空腹での服用が隠れていることも少なくありません。毎日決まった食事のあとに飲む習慣にすると、効果も安定し飲み忘れも防げます。
グレープフルーツは食べても大丈夫ですか?
グレープフルーツを含む食品は、ラツーダの効きを不自然に強めてしまうことがあるため、避けてください。ジュースも同様です。ほかにも一緒に飲めない薬や飲み合わせに注意が必要な薬があるので、市販薬を使う前にもご相談ください。受診の際はお薬手帳をお持ちください。
太りにくい薬と聞きましたが本当ですか?
ラツーダは、抗精神病薬のなかでは体重増加や血糖への影響が比較的少ないとされ、長く付き合いやすいお薬です。ただし、まったく影響がないわけではありません。体重や体調の変化が気になるときは、遠慮なく主治医にご相談ください。
どんな副作用に気をつければよいですか?
比較的みられるのはアカシジア(じっとしていられない・そわそわする感じ)です。「不安が強くなった」と紛らわしいのですが、これは薬の副作用で、あなたの心のせいではありません。そのほか眠気、不眠、頭痛、めまい、吐き気などがみられることがあります。落ち着かない感じは我慢せずお伝えください。量の調整で和らぐことが多くあります。
やめるときはどうすればよいですか?
ラツーダは依存になる薬ではありません。ただし自己判断で急にやめると、症状がぶり返すことがあります。減らす時期やペースは、症状が安定していることを確認しながら主治医と相談して決めます。特に双極性障害では、落ち着いたあとも再発予防のために続けることが多いお薬です。