夜、部屋が静かになると「キーン」「ジー」という音が耳の奥で鳴りはじめ、気になって眠れない。日中も、ふとした瞬間に耳鳴りに注意が向いてしまい、仕事や読書に集中できない。「この音は一生続くのだろうか」と考えると、不安で余計に音が大きく感じられる――。
耳鳴りは、周囲に音がないのに音が聞こえる状態で、多くの方が経験する身近な症状です。一時的で気にならない程度のものも多い一方、慢性化して「音そのもの」よりも「音が気になってつらい」ことが生活の中心的な悩みになってしまう方がいらっしゃいます。
そして、この「つらさ」の部分には、ストレスや不安、不眠、気分の落ち込みが深く関わっていることが知られています。
この記事では、耳鳴りとはどんな症状か、まず耳鼻咽喉科での評価がなぜ最優先なのか、ストレス・不安との悪循環のしくみ、精神科・心療内科でできること、日常でできる工夫、受診の目安を、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。
耳鳴りとは――「音」と「つらさ」は別のもの
耳鳴りは、外に音源がないのに「キーン」「ジー」「ザー」「ピー」などの音を感じる症状です。片耳のことも両耳のこともあり、常に鳴っている方、静かなときだけ気づく方など、感じ方はさまざまです。
耳鳴りを考えるうえで大切な視点があります。それは、「耳鳴りの音があること」と「耳鳴りがつらいこと」は、必ずしも同じではないということです。
同じような耳鳴りがあっても、ほとんど気にならず生活している方もいれば、音に注意が釘づけになり、眠れない・集中できない・気分が沈むという状態に至る方もいます。この差を生むのが、音への注意の向き方、不安の強さ、疲労や睡眠の状態だと考えられています。
つまり慢性の耳鳴りでは、「音を消す」ことだけでなく、「音があっても苦痛が小さい状態」を目指すことが、現実的で大切な目標になるとされています。
まず耳鼻咽喉科へ――体の側の評価が最優先です
こころとの関わりの話に入る前に、必ずお伝えしたいことがあります。耳鳴りの評価の入り口は耳鼻咽喉科です。
耳鳴りには、難聴や耳の病気が関わっていることがあります。特に、
- 急に片耳の聞こえが悪くなった、耳がふさがった感じが出た
- 耳鳴りとともにめまいを繰り返す
- 脈打つような耳鳴り(ドクドク・ザッザッと拍動に一致する)
- 耳の痛みや耳だれをともなう
といった場合は、早めの受診が必要です。とりわけ突発性難聴のように、発症から早期に治療を始めることが重要とされている病気もあるため、「急に聞こえがおかしくなった」ときは様子を見ずに耳鼻咽喉科を受診してください。
聴力検査などの評価で耳の状態を確認し、治療が必要な病気があればその治療が優先されます。体の側の評価をおろそかにしないことは、耳鳴りに限らず、身体の症状全般に共通する大切な原則です。
この記事で主に扱うのは、耳鼻咽喉科で検査を受け、大きな異常や緊急の病気は見当たらないと確認されたうえで、それでも耳鳴りの苦痛が強く続いているケースです。
ストレスと耳鳴りの悪循環――「気にするほど大きくなる」しくみ
慢性の耳鳴りのつらさを理解するうえで、次のような悪循環がよく知られています。
耳鳴り → 不安 → 注意集中 → さらに気になる
耳鳴りに気づくと、「この音は何だろう」「悪い病気ではないか」「一生続くのではないか」という不安が生まれます。不安は、脳にとって「この音は重要で危険かもしれない信号」というラベルづけとして働き、脳は耳鳴りをより優先的に拾い上げるようになります。すると耳鳴りはさらに大きく、頻繁に意識され、不安も強まる――という循環です。
「気にしないようにしよう」と努力するほど、かえって音に注意が向いてしまうのも、この循環の特徴です。
さらに、次のような要因が循環を後押しします。
- 静けさ:静かな寝室では対比で耳鳴りが際立ち、「夜がいちばんつらい」という方が多くいらっしゃいます
- 不眠:眠れないと疲労がたまり、耳鳴りへの耐性が下がります。「耳鳴りで眠れない→寝不足でさらに耳鳴りがつらい」という二重の悪循環になりがちです
- ストレス・緊張:ストレスが続くと心身を緊張させる方向の自律神経(交感神経)が優位になりやすく、耳鳴りが気になりやすい状態が続くとされています。肩こりや頭痛、動悸など自律神経の乱れによる症状と重なって現れる方もいます(自律神経失調症のページも参考にしてください)
- 気分の落ち込み:慢性の耳鳴りに悩む方には、うつ状態や不安症が併存することが少なくないと報告されています。気分が落ち込むと耳鳴りのつらさが増し、耳鳴りがつらいと気分がさらに沈む、という関係になりやすいのです
このように、慢性の耳鳴りの苦痛は「耳」だけの問題ではなく、注意・不安・睡眠・気分がからみ合った状態として理解されるようになっています。
耳鼻咽喉科での治療と、精神科・心療内科の役割分担
慢性の耳鳴りに対しては、耳鼻咽喉科の領域で、耳鳴りの音に慣れていくことを目指すTRT(耳鳴り再訓練療法)や、環境音・補聴器などの音を利用して耳鳴りを目立ちにくくする音響療法といった方法が用いられることがあります。難聴をともなう場合には補聴器の使用が耳鳴りの軽減につながることもあるとされています。こうした治療の適応や進め方については、耳鼻咽喉科でご相談ください。
一方、精神科・心療内科が力になれるのは、悪循環の「こころの側」の要素です。
不眠の治療
「耳鳴りで眠れない」状態が続くと、悪循環全体が強まります。診察では睡眠の状況を丁寧にうかがい、生活リズムの調整や睡眠環境の工夫、必要に応じた薬物療法も含めて、眠れる状態を立て直すことに取り組みます。睡眠が整うだけでも、日中の耳鳴りのつらさが和らぐ方がいらっしゃいます(不眠症のページもご覧ください)。
不安への対応
「悪い病気ではないか」「一生このままではないか」という不安は、耳鳴りへの注意を強める中心的な要因です。耳鼻咽喉科での評価結果を踏まえて不安を整理し、耳鳴りとの付き合い方・注意の向け方を一緒に考えていきます。不安症の併存があれば、その治療も行います。
うつ状態の評価と治療
気分の落ち込み、興味や楽しみの喪失、食欲や体重の変化などがあわせてみられる場合、うつ状態の治療が必要なことがあります。うつ状態が改善すると、耳鳴りの苦痛度が下がることも期待できます(うつ病のページも参考にしてください)。
耳鳴りの音そのものを精神科の治療で消すことは難しい場合が多いのですが、不眠・不安・うつという「つらさを増幅させている部分」を治療することで、耳鳴りの苦痛度を下げていく――これが精神科・心療内科の役割です。耳鼻咽喉科での対応と並行して進めていただいて構いません。
日常でできる工夫――静寂と「聞き耳」を減らす
日常生活のなかでできる工夫もあります。あくまで補助的なものですが、悪循環をゆるめる助けになることがあります。
- 完全な静寂を避ける:静かな環境では耳鳴りが際立ちます。就寝時に空調の音や小さな環境音(自然音など)を低い音量で流しておくと、耳鳴りが目立ちにくくなることがあるとされています
- 「耳鳴りチェック」をやめる:「今日はどのくらい鳴っているか」と確かめる行為は、注意を耳鳴りに向け続けることになります。確認したくなっても、意識的に別の行動に移る練習をしてみてください
- 日中の活動・楽しみを保つ:何かに没頭している時間は耳鳴りが意識されにくいものです。耳鳴りを理由に活動を減らすほど、静かな時間が増えて音に向き合う時間が長くなります
- カフェイン・アルコールの摂りすぎに注意:眠りを浅くする要因は悪循環を強めます。特に寝酒は睡眠の質を下げるため、おすすめできません
- 疲労とストレスをためこまない:疲れている日ほど耳鳴りがつらく感じられる、という声はよく聞かれます。休息と気分転換の時間を意識的に確保してください
こうした工夫を試しても、不安や不眠が強くて実行が難しい場合は、その部分こそ治療で支えられるところです。
受診の目安――こんなときはご相談ください
耳鼻咽喉科での評価を受けたうえで、次のような状態に当てはまる場合は、精神科・心療内科への相談を検討してください。
- 耳鳴りが気になって寝つけない・夜中に目が覚める状態が数週間以上続いている
- 日中も耳鳴りに注意が向いてしまい、仕事や家事に集中できない
- 「一生このままではないか」という不安や、耳鳴りのことを考え続けてしまう状態が続いている
- 気分の落ち込み、楽しめない、食欲の低下などをあわせて感じている
- 耳鳴りのつらさから、外出や人づきあい、好きだった活動を避けるようになっている
なお、急に聞こえが悪くなった・めまいをともなう・脈打つ耳鳴りなどの場合は、まず耳鼻咽喉科(症状によっては早急に)を受診してください。
すでに通院中の方は、まず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。
まとめ――音を消せなくても、つらさは下げられます
耳鳴りは、まず耳鼻咽喉科での評価が最優先の症状です。特に急な聞こえの変化は早期治療が重要な病気の可能性があるため、様子を見ずに受診してください。そのうえで、検査で大きな異常がないのに耳鳴りの苦痛が強い場合、その背景には「耳鳴り→不安→注意集中→さらに気になる」という悪循環と、不眠・不安・うつ状態の併存が関わっていることが少なくありません。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、「耳鳴りが気になって眠れない」「音のことばかり考えて集中できない」「この先ずっと続くのかと思うと不安でたまらない」といったご相談をお受けしています。耳鼻咽喉科での治療と並行してで構いません。不眠・不安・気分の落ち込みの側から、耳鳴りのつらさを一緒に下げていきましょう。WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。
よくある質問
耳鳴りは精神科で診てもらえるのですか?まず耳鼻科に行くべきですか?
まず耳鼻咽喉科での評価が最優先です。耳鳴りには難聴や耳の病気が関わっていることがあり、特に急に聞こえが悪くなった場合は早期の治療が重要とされる病気(突発性難聴など)が隠れていることもあるため、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。そのうえで、検査で大きな異常がないのに耳鳴りの苦痛が強く、不眠や不安、気分の落ち込みが続いている場合、その部分は精神科・心療内科で相談できる領域です。
耳鳴りはストレスで悪化するのでしょうか?
耳鳴りの音そのものの原因はさまざまですが、耳鳴りの「つらさ」はストレスや不安、疲労、睡眠不足の影響を受けやすいことが知られています。緊張や不安が強い時期に耳鳴りが気になりやすくなり、気になるほど注意がそこに向いてさらに大きく感じられる、という悪循環が生じることがあります。ストレスが耳鳴りのすべての原因というわけではありませんが、つらさを増幅させる要因のひとつと考えられています。
耳鳴りで眠れません。睡眠薬で治療できますか?
静かな寝室では耳鳴りが際立って感じられやすく、寝つけない・夜中に目が覚めるという訴えは耳鳴りのある方によくみられます。診察では、睡眠の状況や生活リズム、不安や気分の状態を含めて評価し、必要に応じて睡眠に関する治療や環境調整(小さな環境音を流すなど)を検討します。お薬だけに頼るのではなく、耳鳴りとの付き合い方や不安への対処もあわせて考えていくことが大切とされています。
耳鳴りは一生治らないのでしょうか?
慢性の耳鳴りは、音を完全に消すことが難しい場合もあるとされています。ただし、「音が消えないこと」と「つらさが続くこと」は同じではありません。耳鳴りに対する不安や注意の向き方が変わり、睡眠や気分が整ってくると、同じ音でも気にならない時間が増え、生活への影響が小さくなっていく方は少なくないとされています。耳鼻咽喉科での治療(音響療法など)と、精神科・心療内科での不眠・不安への対応を組み合わせて、つらさを下げていくことが現実的な目標になります。