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連載「検査で異常なしの体の不調シリーズ」第4回(全6回) 第1回から読む →

朝、目が覚めると顎のあたりがだるく疲れている。こめかみが締めつけられるように痛い。歯科で「歯がすり減っていますね」「歯ぎしりしていませんか」と指摘された。日中も、ふと気づくと歯をぐっと噛みしめている――。

歯ぎしりや食いしばりは、ご本人が眠っている間のことなので自覚しにくく、家族からの指摘や歯科での指摘、そして「朝の顎の疲れ・頭痛」という形で初めて気づかれることの多い現象です。

そして、その背景にはストレスや不安、心身の緊張が関わっていることがあるとされています。「歯の問題」に見えて、実はこころと体の張りつめた状態のサインになっている場合があるのです。

この記事では、歯ぎしり・食いしばりとはどんな現象か、ストレスや自律神経との関わり、歯科での対処(ナイトガード)と精神科・心療内科でできることの役割分担、日常でできる工夫、受診の目安を、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。

歯ぎしり・食いしばりとは――夜のタイプと昼のタイプ

歯ぎしり・食いしばりは、医学的には「ブラキシズム」と呼ばれ、大きく2つのタイプに分けて考えられています。

睡眠中のタイプ(睡眠時ブラキシズム)

眠っている間に、歯をギリギリとこすり合わせたり、強く噛みしめたりするものです。本人には自覚がないことがほとんどで、

  • 朝起きたときに顎がだるい、疲れている
  • 起床時にこめかみや側頭部が痛い、頭が重い
  • 家族から「歯ぎしりの音がする」と言われた
  • 歯科で歯のすり減り(咬耗)や歯の欠け、詰め物の破損を指摘された

といった形で気づかれます。睡眠中の噛みしめは、起きているときには出せないほど強い力がかかることがあるといわれており、歯や顎への負担は小さくありません。

日中のタイプ(覚醒時の食いしばり・歯列接触癖)

起きている間に、無意識のうちに上下の歯を接触させたり、噛みしめたりしている癖です。実は、リラックスしているとき、上下の歯は接触しておらず、わずかにすき間が空いているのが自然な状態とされています。ところが、緊張しているときや何かに集中しているとき、パソコン作業やスマートフォンの操作中などに、気づかないうちに歯を合わせ、力を入れ続けてしまう方がいます。これは「TCH(歯列接触癖)」という呼び方で知られるようになってきました。

弱い力でも長時間続くと、顎の筋肉の疲労やこわばり、顎関節への負担、頭痛や首・肩のこりにつながることがあると考えられています。

噛みしめが引き起こす体の不調――顎だけにとどまりません

歯ぎしり・食いしばりによる負担は、歯と顎にとどまらず、体のさまざまな不調として現れることがあります。

朝の頭痛・頭重感

こめかみから側頭部にかけては、ものを噛むときに使う筋肉(側頭筋)が広がっています。睡眠中に強い噛みしめが続くと、この筋肉が緊張し続け、起床時に「こめかみが締めつけられるように痛い」「頭が重い」と感じることがあるとされています。夕方より朝のほうが頭痛が強い、という方は、睡眠中の噛みしめが関わっている可能性を考えてみる価値があります。

顎の痛み・口の開けにくさ

顎の関節や周囲の筋肉に負担がかかり続けると、顎の痛みや、口を開けたときの音、開けにくさといった顎関節の症状につながることがあります。こうした症状がはっきりある場合は、歯科(顎関節を専門的に診る歯科もあります)での評価が優先です。

首・肩のこり

噛みしめるときに働く筋肉は、首や肩の筋肉と連動しています。慢性的な食いしばりのある方が、頑固な首こり・肩こりをあわせて訴えられることはよくあります。

歯や詰め物のトラブル

歯のすり減り、歯の欠け、詰め物やかぶせ物の破損、歯がしみる(知覚過敏)などの形で、歯科で発見されることも多い症状です。

このように、「朝の頭痛」「肩こり」「顎の疲れ」という一見バラバラな症状が、実は噛みしめという一本の糸でつながっていることがあります。ただし、これらの症状には別の身体的な原因が隠れていることもあるため、強い症状や続く症状は、まず体の側の評価(内科・歯科・脳神経の診療科など)を受けることをおすすめします。

ストレス・不安との関わり――「噛みしめ」は緊張のあらわれ

歯ぎしり・食いしばりの原因はひとつに絞れるものではなく、噛み合わせ、睡眠の浅さ、飲酒・カフェイン・喫煙、体質など、さまざまな要因が関わるとされています。そのなかで、ストレスや不安、緊張との関連は以前から指摘されてきました。

私たちは、緊張したり身構えたりするとき、無意識に全身の筋肉に力を入れます。「歯を食いしばって頑張る」という言葉があるように、噛みしめは緊張や踏ん張りと結びつきやすい反応です。仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、心配ごとが続いている時期に、日中の食いしばりが増えたり、睡眠中の歯ぎしりが目立ったりすることがあります。

また、ストレスが続くと、心身を緊張させる方向に働く自律神経(交感神経)が優位な状態が続きやすくなります。肩こり、首のこり、頭痛、浅い眠りといった症状と、噛みしめ・歯ぎしりがセットで現れている方は少なくありません。「顎だけの問題」ではなく、体全体が張りつめているサインとして見ると、つながりが見えてくることがあります。自律神経の乱れによる諸症状については自律神経失調症のページでも解説しています。

さらに、睡眠が浅い時期には睡眠中の歯ぎしりが出やすくなるという指摘もあります。ストレス→眠りが浅くなる→歯ぎしりが増える→朝から顎が疲れて頭も痛い→日中もつらい、という悪循環が生じることもあります。眠れない状態が続いている方は不眠症のページもあわせてご覧ください。

なお、一部のお薬の影響で歯ぎしりや顎のこわばりが目立つことがあると報告されています。服用中の薬がある方は、自己判断でやめたりせず、処方医に相談してください。

まず大切なのは、歯と顎を守ること――歯科との連携

ここで最初にお伝えしたいのは、歯ぎしり・食いしばりへの対処の入り口は歯科であるということです。

  • 歯のすり減り、欠け、詰め物の破損がないかの確認
  • 顎関節の状態(口が開けにくい、顎が痛い、音がするなど)の評価
  • 睡眠中の歯や顎を保護するナイトガード(マウスピース)の作製

こうした評価と処置は歯科の専門領域です。特にナイトガードは、睡眠中の強い噛みしめから歯と顎を守る手段として広く用いられています。すでに歯科でナイトガードを作っておられる方は、ぜひそのまま使い続けてください。歯や顎の症状(痛み、開口障害、歯の破損など)がある方で、まだ歯科を受診していない場合は、歯科での評価を先に、あるいは並行して受けることをおすすめします。

また、起床時の頭痛が強い場合や、大きないびき・睡眠中の呼吸の止まりを指摘されている場合には、睡眠時無呼吸などの睡眠の病気やそのほかの身体的な原因が隠れていることもあります。体の側の評価をおろそかにしないことは、この症状に限らず大切な原則です。

では、精神科・心療内科では何ができるのか

歯科で歯と顎を守る対処をしたうえで、それでも残る「そもそもなぜこんなに噛みしめてしまうのか」という部分――ここが、精神科・心療内科で一緒に考えられる領域です。

背景にあるストレス・緊張の整理

診察では、噛みしめや歯ぎしりが目立ちはじめた時期に、生活や仕事、家庭で何が起きていたかを一緒に振り返ります。「言われてみれば、あの頃から仕事が変わって」「ずっと気の張る状況が続いていて」と、ご自身の緊張の背景に気づかれる方は多くいらっしゃいます。緊張のもとが整理できると、環境の調整や考え方の工夫など、取り組める対処が見えてきます。

不安症・うつ状態など、治療できる不調が隠れていないかの評価

強い不安や心配が続く状態、気分の落ち込み、慢性的な不眠などがあると、心身の緊張は高いまま維持されやすくなります。こうした状態はそれ自体が治療の対象であり、背景の不調が良くなるにつれて、体の張りつめもゆるんでいくことが期待できます。

睡眠の立て直し

眠りが浅い・途中で目が覚める・寝つけないといった睡眠の問題があるなら、生活リズムの調整を含めて睡眠の治療に取り組みます。睡眠の質の改善が、睡眠中の噛みしめの負担を軽くする方向に働くことも期待されます。

薬の影響の確認

服用中の薬がある方では、その影響が関わっていないかも診察のなかで確認します。調整が必要と考えられる場合も、必ず処方医との相談のうえで進めます。

当院では、「歯ぎしりを必ず止めます」とお約束することはできませんが、歯科での対処と並行して、背景にある緊張・不安・不眠の側から負担を減らしていくお手伝いができます。どこまでがストレスの影響なのかはっきりしないままで構いませんので、診察のなかで一緒に整理していきましょう。

日常でできる工夫――「歯を離す」ことを思い出す

日常生活のなかでできる工夫もあります。あくまで補助的なものですが、意識するだけでも変わってくる方がいらっしゃいます。

  • 「気づいたら歯を離す」:日中の食いしばりへの基本的な対処です。ふと気づいたときに、上下の歯を離し、顎・肩の力をふっと抜く。これを1日に何度も繰り返します
  • 思い出すきっかけを作る:パソコンの縁やデスク、スマートフォンなど目につく場所に「歯を離す」と書いた付せんを貼るなど、意識を呼び戻す仕掛けが有効とされています
  • 就寝前にリラックスの時間を作る:寝る直前まで仕事や心配ごとに向き合っていると、緊張したまま眠りに入りやすくなります。ぬるめの入浴、ゆっくりした呼吸、ストレッチなど、体をゆるめてから床に就く習慣をつくってみてください
  • 就寝前の飲酒・カフェインを控えめに:飲酒やカフェインは眠りを浅くし、歯ぎしりとの関連も指摘されています。寝酒で緊張をほぐそうとするのは、かえって逆効果になりやすい方法です
  • 頬づえ・うつぶせ寝など顎に負担のかかる姿勢を減らす:顎まわりへの持続的な負荷を減らす観点から、歯科でもよく案内される工夫です

こうした工夫を試しても、「そもそも力の抜き方が分からない」「気を抜くと不安になる」という方は、緊張の背景そのものに対処が必要な段階かもしれません。

受診の目安――こんなときはご相談ください

次のような状態に当てはまる場合は、一度相談を検討してください。

  • 朝の顎の疲れ・頭痛が週に何日も続き、日中のつらさにつながっている
  • 歯科でナイトガードなどの対処をしているのに、噛みしめのもとになっている緊張感・不安感が強いまま続いている
  • 気の休まらない状態、心配ごとの反すう、イライラが数週間以上続いている
  • 寝つけない・途中で目が覚めるなど、睡眠の問題をあわせて感じている
  • 肩こり・頭痛・胃の不調など、緊張からくると思われる体の症状がいくつも重なっている
  • 気分の落ち込みや、物事を楽しめない状態をあわせて感じている

なお、ご本人ではなくご家族が歯ぎしりや強い緊張状態を心配されている場合の受診の進め方については、医療機関に問い合わせてご確認ください。

すでに通院中の方は、まず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。

まとめ――「食いしばって頑張る」体からのサインかもしれません

歯ぎしり・食いしばりは、噛み合わせや睡眠、生活習慣などさまざまな要因が関わる現象ですが、その背景にストレスや不安、心身の緊張が関わっていることがあるとされています。歯と顎を守る対処(ナイトガードなど)は歯科の専門領域であり、まず歯科での評価と処置を大切にしてください。そのうえで、噛みしめのもとになっている緊張・不安・不眠が続いているなら、そこは精神科・心療内科で相談できる部分です。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、「朝から顎が疲れて頭が痛い」「気づくといつも食いしばっている」「ずっと気が張っていて休まらない」といったご相談をお受けしています。歯科での治療と並行してで構いません。張りつめた状態の背景に何があるのか、どうすれば力を抜けるようになるのか、診察のなかで一緒に考えます。WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

よくある質問

歯ぎしり・食いしばりは精神科で相談できるのですか?歯科に行くべきですか?

まず歯や顎そのものの評価と保護(ナイトガード=マウスピースの作製など)は歯科の役割です。すでに歯科にかかっている方は、その治療を続けていただくことが大切です。一方で、歯ぎしり・食いしばりの背景に強いストレスや不安、緊張、不眠が続いている場合、その部分は精神科・心療内科で相談できる領域です。歯科での対処と並行して、こころと体の緊張の側から一緒に考えていくイメージです。

日中も気づくと歯を食いしばっています。やめる方法はありますか?

日中の食いしばりは、無意識のうちに上下の歯を接触させ続ける癖(TCHと呼ばれることがあります)として知られています。安静時は上下の歯は本来わずかに離れているものなので、「気づいたら歯を離し、顎の力を抜く」ことを繰り返し意識するのが基本的な対処とされています。パソコンや目につく場所に付せんを貼るなど、思い出すきっかけを作る方法がよく用いられます。緊張や不安が強くて力が抜けない場合は、その背景も含めて診察でご相談ください。

歯ぎしりの原因はストレスだけですか?

歯ぎしり・食いしばりの原因はひとつではなく、ストレスや緊張のほか、睡眠の浅さ、飲酒やカフェイン、喫煙、噛み合わせなどさまざまな要因が関わるとされています。また、一部のお薬の影響で歯ぎしりや顎のこわばりが目立つことも報告されています。服用中の薬がある方は、自己判断で中止せず、処方医にご相談ください。原因の見立てによって対処が変わるため、歯科と医科の両方の視点で整理していくことが役に立ちます。

朝の頭痛は歯ぎしりのせいでしょうか?

睡眠中の強い食いしばりや歯ぎしりがあると、こめかみや側頭部の筋肉が緊張し、起床時の頭重感や締めつけられるような頭痛につながることがあるとされています。ただし、朝の頭痛には睡眠時無呼吸などの睡眠の病気や、そのほかの身体的な原因が隠れていることもあります。頭痛が強い・続く場合は、まず内科や脳神経の診療科、歯科での評価も含めて確認することをおすすめします。そのうえでストレスや不眠が関わっていそうなときは、当院でもご相談いただけます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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