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連載「検査で異常なしの体の不調シリーズ」第2回(全6回)

突然、息がうまく吸えなくなる。吸っても吸っても足りない気がして、呼吸がどんどん速くなる。手足や口のまわりがしびれ、めまいがして、「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖に飲み込まれる――。

過呼吸(過換気症候群)の発作は、経験した方でないと分からないほどの苦しさと恐怖を伴います。そして一度経験すると、「また起きたらどうしよう」という不安が残り、電車や人混み、会議の場面などを避けるようになってしまう方も少なくありません。

この記事では、過呼吸がなぜ起こるのかという仕組み、発作が起きたそのときにできる対処、かつて知られていた「紙袋を口に当てる方法」が今は勧められない理由、そして繰り返すときに考えたいパニック障害との関係と受診の目安を、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。

過呼吸(過換気症候群)とは――「息が足りない」のに、実際は吸いすぎている

過換気症候群は、強い不安・緊張・恐怖などをきっかけに、呼吸が必要以上に速く・深くなりすぎてしまう状態です。

ここに、この症状の分かりにくさがあります。ご本人の感覚は「息が吸えない」「酸素が足りない」なのですが、実際に体の中で起きているのはその逆で、呼吸のしすぎによって血液中の二酸化炭素が減りすぎている状態です。

二酸化炭素は「いらないもの」と思われがちですが、血液の状態を保つために一定量が必要です。これが減りすぎると、血液がアルカリ性に傾き、次のような症状が現れるとされています。

  • 手足や口のまわりのしびれ、ピリピリ感
  • めまい、ふらつき、頭が軽くなるような感覚
  • 動悸、胸の圧迫感や痛み
  • 手の指が固まって曲がってしまう(テタニーと呼ばれる筋肉のけいれん)
  • 強い不安、「死んでしまう」「気が変になる」という恐怖

そして、これらの症状がさらに恐怖をかき立て、恐怖がさらに呼吸を速める――という悪循環が発作の正体です。体は「危険だ、もっと呼吸しなければ」と反応しているのに、その呼吸こそが症状を強めているのです。

知っておいていただきたいのは、過換気症候群そのものは、通常、時間とともに自然におさまるとされていることです。あれほどの苦しさにもかかわらず、発作で命を落とすことは基本的にないと考えられています。この知識自体が、悪循環を弱める力になります。

発作が起きたら――その場でできること

発作のさなかは、冷静に何かをするのが難しいものです。だからこそ、落ち着いているときに対処の流れを知っておくことに意味があります。

1. 「これは過呼吸。時間がたてばおさまる」と思い出す

発作を強めているのは「死んでしまうかもしれない」という恐怖です。「苦しいけれど、これは過換気の症状で、体が壊れているわけではない」と思い出せるだけで、悪循環にブレーキがかかります。スマートフォンのメモに「これは過呼吸。必ずおさまる」と書いておき、発作時に読み返す方もいらっしゃいます。

2. 「吸う」より「吐く」に意識を向ける

発作中は「吸わなければ」という気持ちが強くなりますが、意識していただきたいのはむしろゆっくり吐くことです。

  • 口をすぼめて、細く長く息を吐く
  • 「吐く時間」を「吸う時間」より長くするイメージ(例えば、軽く吸って、その倍くらいの時間をかけて吐く)
  • 吐ききったら、少し止めてから、鼻から軽く吸う

うまくできなくても構いません。「完璧な呼吸法をしなければ」と力むと、かえって呼吸に注意が集中して苦しくなることがあります。「少しゆっくりめに、吐くほうを長めに」くらいの気持ちで十分です。

3. 姿勢と環境を整える

  • 座れる場所があれば腰を下ろし、楽な姿勢をとる
  • 襟元やベルトなど、体を締めつけるものをゆるめる
  • 可能なら、人混みを離れて静かな場所へ移動する

4. 周囲の人ができること

そばに過呼吸の方がいる場合、まわりの人の関わり方も回復を左右します。

  • 慌てず、穏やかな声で「大丈夫、だんだんおさまるよ」と伝える
  • 「落ち着いて!」と強い調子で言ったり、体を強く揺さぶったりしない
  • 「ゆっくり吐いてみよう」と、一緒に呼吸のペースをつくる

周囲が動揺すると、ご本人の恐怖はさらに強まります。「そばにいて、静かに待つ」ことが一番の助けになることも多いのです。

紙袋を口に当てる方法(ペーパーバッグ法)は、今は勧められていません

過呼吸への対処として、「紙袋を口に当てて、吐いた息を再び吸う」という方法を聞いたことがある方は多いと思います。吐いた息に含まれる二酸化炭素を吸い戻すことで、減りすぎた二酸化炭素を補う、という理屈です。

しかし、このペーパーバッグ法は、現在では一般的に推奨されていません。理由は主に2つあります。

  • 袋を密着させすぎると、酸素が不足するおそれがあること
  • 過呼吸に見えた症状が、実はぜんそくや心臓の病気など別の原因だった場合、酸素の取り込みを妨げて状態を悪化させる心配があること

「絶対にしてはいけない危険行為」と過度に恐れる必要はありませんが、あえて選ぶ理由のない方法になった、とご理解ください。現在の基本は、前の項でお伝えした「ゆっくり吐く呼吸」と「安心できる声かけ・環境」です。

まず身体の病気の除外を――「過呼吸だと思っていたら」を防ぐために

繰り返す息苦しさや発作を「いつもの過呼吸」と自己判断してしまう前に、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。よく似た症状を起こす身体の病気があるということです。

  • 心臓の病気:不整脈や狭心症などでも、動悸・胸の痛み・息苦しさが起こります
  • 呼吸器の病気:ぜんそくの発作や肺の病気でも、急な息苦しさが生じます
  • 甲状腺機能の異常:甲状腺ホルモンが過剰になると、動悸・息切れ・不安感・手のふるえなど、発作とよく似た症状が続くことがあります
  • 貧血など、そのほかの内科的な原因

このため、初めて激しい発作を経験したときや、症状がいつもと違うとき、胸の痛みが強いときは、内科や循環器科・呼吸器科での身体の評価を受けることが大切です。精神科の立場からも、内科的な検査を受けていただくことを否定するどころか、むしろお勧めしています。「検査で異常がない」と確認できることは、それ自体が安心の土台となり、心の面の治療を進めるうえでも重要な一歩になるからです。

なお、発作の最中に「これは過換気か、心臓の病気か」をご自身やまわりの方が確実に見分けることはできません。初めての激しい発作、強い胸の痛み、意識がもうろうとする場合、持病のある方は、ためらわず救急(119)を利用してください。結果的に過換気症候群だったとしても、それは決して「大げさ」ではありません。

繰り返す過呼吸とパニック障害――「また起きるのでは」が生活を狭めていくとき

身体の検査で異常がないのに過呼吸を繰り返す場合、背景として考えたいのがパニック障害です。

過呼吸は、パニック発作の一部として起こることが多い症状です。パニック障害では、突然の激しい発作(動悸・息苦しさ・めまい・強い恐怖など)を繰り返すことに加えて、次のような変化が現れてきます。

  • 予期不安:「また発作が起きるのではないか」という不安が、発作のない時間にも続く
  • 回避:発作が起きたら困る場所――電車、バス、エレベーター、人混み、会議室など――を避けるようになる
  • 行動範囲が少しずつ狭まり、通勤や外出、人付き合いに支障が出てくる

つらいのは発作そのものだけではありません。「また起きるかもしれない」という不安が日常を支配し、生活がどんどん窮屈になっていくことこそ、この病気の中心的な苦しさです。そして、不安と緊張が高い状態が続くほど、呼吸は浅く速くなりやすく、発作の起きやすい土台ができてしまうという悪循環もあります。

パニック障害は、精神科・心療内科で治療の方法が確立している病気のひとつです。お薬による治療や、発作と不安の仕組みを理解して少しずつ苦手な場面に慣れていく精神療法的な関わりによって、発作の頻度を減らし、行動範囲を取り戻していくことが期待できます。病気の全体像はパニック障害の解説ページで詳しくご案内しています。

また、発作というより「いつも息苦しい」「常に緊張して呼吸が浅い」という形の方では、慢性的な不安や自律神経の乱れが関わっていることもあります。あわせて自律神経失調症のページもご覧ください。

繰り返さないために――ふだんからできる土台づくり

発作は「起きたときの対処」だけでなく、起きにくい体と心の状態をふだんからつくっておくことでも減らしていけます。日常でできる工夫をいくつかご紹介します。

呼吸の練習は「落ち着いているとき」に

ゆっくり吐く呼吸は、発作のさなかにいきなり実行しようとしても、なかなかうまくいきません。おすすめは、調子のよいときに1日数分、練習として行っておくことです。寝る前や休憩時間に、口をすぼめて細く長く吐く呼吸を繰り返しておくと、いざというときに体が思い出しやすくなります。

カフェイン・エナジードリンク・アルコールに注意する

カフェインには動悸や緊張感を強める作用があり、発作の引き金や不安の底上げになることがあります。コーヒーやエナジードリンクの量が多い方は、少し減らしてみる価値があります。また、アルコールは一時的に不安を和らげるように感じられても、抜けていく過程でかえって動悸や不安が強まることがあり、「不安を紛らわすための飲酒」は悪循環になりやすい点に注意が必要です。

睡眠と疲労をためない

睡眠不足や疲労がたまっているときは、自律神経のバランスが崩れ、不安も呼吸も乱れやすくなります。発作が続く時期こそ、就寝・起床の時刻をそろえ、休息を優先してください。

発作の記録をつけてみる

いつ・どこで・どんな状況で発作が起きたか、そのとき何を考えていたかを簡単にメモしておくと、ご自身のパターンが見えてくることがあります。この記録は、受診の際にも診断と治療の大切な手がかりになります。

これらはあくまで土台づくりであり、発作を繰り返している状態を工夫だけで解決しようとする必要はありません。「気をつけているのに起きる」のであれば、それは治療の出番です。

受診の目安――こんなときはご相談ください

次のような状態に当てはまる場合は、一度、精神科・心療内科への相談を検討してください。

  • 過呼吸の発作を2回以上繰り返している
  • 内科などの検査では異常がないと言われたが、発作や息苦しさが続いている
  • 「また起きるのでは」という不安が頭から離れない
  • 電車・人混み・会議など、発作が心配で避けている場所や場面がある
  • 発作への不安から、眠れない・外出がおっくうになるなど生活に影響が出ている
  • 気分の落ち込みをあわせて感じるようになった

発作が起きてから時間がたっていても構いません。「あのときのあれは何だったのか」を整理するところからのご相談も、十分に意味があります。受診の流れや準備については初めての方へをご覧ください。

まとめ――発作は「おさまるもの」。繰り返すなら、仕組みから立て直せます

過呼吸(過換気症候群)は、呼吸のしすぎで血液中の二酸化炭素が減り、しびれ・めまい・動悸・強い恐怖などが起こる状態です。非常に苦しい症状ですが、通常は時間とともに自然におさまるとされており、その場では「ゆっくり吐く呼吸」と安心できる環境づくりが基本です。紙袋を口に当てる方法は、現在は勧められていません。一方で、心臓や肺、甲状腺の病気など似た症状を起こす身体疾患の除外は欠かせず、初めての激しい発作や強い胸の痛みがあるときは救急(119)の利用をためらわないでください。そして、検査で異常がないのに発作を繰り返し、「また起きるのでは」という不安が生活を狭めているなら、パニック障害として治療できる可能性があります。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、過呼吸やパニック発作を繰り返す方のご相談をお受けしています。発作の様子や経過、身体の検査の結果などをうかがいながら、何が起きているのか、これからどう立て直していくかを、診察のなかで一緒に考えます。WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。発作への不安を抱えたまま、おひとりで我慢を続ける必要はありません。

よくある質問

過呼吸(過換気症候群)とは何ですか?命に関わりますか?

強い不安や緊張などをきっかけに呼吸が速く浅くなりすぎ、血液中の二酸化炭素が減ることで、息苦しさ、手足や口のまわりのしびれ、めまい、動悸などが起こる状態です。症状は非常に苦しく「死んでしまうのでは」と感じるほどですが、過換気症候群そのものは通常、時間とともに自然におさまるとされています。ただし、ぜんそくや心臓の病気など似た症状を起こす身体疾患もあるため、初めての発作や普段と様子が違うとき、症状が長引くときは医療機関での評価が大切です。

過呼吸のとき、紙袋を口に当てる方法(ペーパーバッグ法)はやってよいのですか?

かつては広く知られた方法ですが、現在は一般的に推奨されていません。吐いた息を吸い戻すことで酸素が不足するおそれがあることに加え、実は心臓や肺の病気だった場合に症状を悪化させる心配があるためです。現在は、ゆっくり息を吐くことを意識した呼吸の調整や、安心できる声かけ・環境づくりが基本とされています。

過呼吸を繰り返します。パニック障害でしょうか?

過呼吸はパニック発作の一部として起こることが多く、発作を繰り返し「また起きるのでは」という不安(予期不安)が強くなっている場合は、パニック障害の可能性があります。ただし、甲状腺の病気や不整脈、ぜんそくなど身体の病気でも似た症状が出ることがあるため、診断には身体面の確認もふくめた評価が必要です。繰り返すようであれば、一度精神科・心療内科にご相談ください。

過呼吸で救急車を呼んでもよいのでしょうか?

過換気症候群であれば多くは自然におさまりますが、その場で過換気かどうかを確実に見分けることはできません。初めての激しい発作のとき、胸の痛みが強いとき、意識がもうろうとするとき、持病がある方などは、ためらわず救急(119)を利用してください。「大げさだったかもしれない」と後で分かることは、悪いことではありません。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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