突然、心臓が激しく打ち、息が吸えない感じがして、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖に襲われる――パニック発作は、経験した人にしか分からないほどの怖さを伴います。そして一度経験すると、「また起きたらどうしよう」という不安が頭から離れなくなりがちです。
最初にお伝えしたいのは、パニック発作そのもので命を落とすことはない、ということです。発作は数分でピークに達し、その後は必ず治まっていきます。この事実を知っているかどうかで、発作の最中の過ごし方は大きく変わります。
この記事では、発作が起きたその瞬間にできる対処、過呼吸との関係、「逃げる」と不安がかえって強まる仕組み、周囲の人ができること、そして受診を考える目安をお伝えします。
パニック発作とは何が起きているのか
パニック発作は、動悸・息苦しさ・胸の圧迫感・めまい・手足のしびれ・冷や汗などの体の症状と、「死ぬのではないか」「気が変になるのではないか」という強い恐怖が、突然、波のように押し寄せる状態です。多くの場合、症状は数分以内にピークに達し、数分から数十分かけて自然に引いていきます。
正体は、危険から身を守るための体の警報装置(いわゆる闘争・逃走反応)が、実際には危険がない場面で誤作動している状態です。心拍が上がるのも呼吸が速くなるのも、体が「危険に備えて」全力で準備しているためで、体のどこかが壊れているわけではありません。
だからこそ、発作そのもので死ぬことはなく、心臓が止まることも、窒息することもありません。つらさは本物ですが、危険は本物ではない――これがパニック発作の最も大切な性質です。
なお、動悸や息苦しさは心臓や呼吸器の病気でも起こりうるため、初めて強い発作を経験したときは、一度は内科などで体の検査を受けておくことをおすすめします。検査で異常がないのに発作を繰り返す場合、パニック障害の可能性を考えます。病気の全体像はパニック障害の疾患ページで解説しています。
過呼吸が症状を加速させる
発作のつらさを増幅させている大きな要因が、過呼吸(過換気)です。
不安が高まると、呼吸は自然に速く浅くなります。すると体の中の二酸化炭素が過剰に排出され、手足のしびれ、めまい、頭がぼんやりする感じ、さらに強い息苦しさが生じます。この症状を「やはり体に異常が起きている」と受け取ると恐怖が増し、呼吸はさらに速くなる――この悪循環が、発作を実際以上に激しく感じさせます。
ここで知っておきたいのは、「息が吸えない」と感じているとき、実際には吸いすぎていることが多い、という点です。だから対処の方向は「もっと吸う」ではなく「ゆっくり吐く」になります。過呼吸への対処は過呼吸になったときの対処法の記事で詳しく扱っていますが、次の項で要点をまとめます。
その場でできる対処――ゆっくり吐くことから
発作が起きたその瞬間にできることは、シンプルです。
1. 「これはパニック発作で、必ず治まる」と自分に言う
発作の最中に最も怖いのは、「何が起きているか分からない」ことです。「これは発作。心臓の病気ではない。数分でピークを越える」と自分に言い聞かせることは、単なる気休めではなく、恐怖の悪循環にブレーキをかける具体的な対処です。
2. 吐く息を長くする
- 口をすぼめて、細く長く息を吐きます。目安として、吸う時間より吐く時間を長く(例えば3秒吸って6秒吐く)します。
- 吐ききってから、鼻から静かに吸います。
- 「深呼吸をしなければ」と大きく吸い込むのは逆効果になりやすいので、意識は常に「吐く」ほうに置きます。
3. 体の力を抜き、姿勢を楽にする
肩や首に力が入っていると息苦しさが増します。座れる場所があれば座り、肩を落として、握りしめた手をゆるめます。
4. 注意を外に向ける
症状に意識が集中するほど恐怖は膨らみます。目に見えるものを5つ数える、周囲の音に耳を澄ますなど、注意を体の内側から外の世界に移す工夫が助けになります。
これらは発作を「瞬時に消す」魔法ではありません。目標は、発作を消すことではなく、悪循環に燃料を足さずにピークが過ぎるのを待つことです。呼吸法は発作のないときに練習しておくと、いざというときに使いやすくなります。
「逃げる」と予期不安が強まる仕組み
発作が起きたとき、その場から急いで離れたくなるのは自然な反応です。しかし、ここにパニック障害が長引く最大の落とし穴があります。
電車の中で発作が起き、次の駅で飛び降りたとします。降りた直後、発作は(時間が経ったこともあり)治まっていきます。すると脳は、「電車から逃げたから助かった」と学習します。実際には、逃げても逃げなくても発作は同じように治まったはずですが、脳には「電車=危険な場所」「逃げること=命綱」という誤った因果関係が刻まれます。
この学習の結果、次に起こるのが予期不安の増大です。「また電車で発作が起きたらどうしよう」という不安が強まり、電車を避けるようになります。避ければ避けるほど「電車は危険」という学習は強化され、行動範囲は電車から人混み、美容室、会議室へと少しずつ狭まっていきます。これが広場恐怖と呼ばれる状態につながります。
「その場に留まる」練習の考え方
だからこそ治療では、「発作が起きても、可能な範囲でその場に留まり、治まるのを体験する」ことを大切にします。その場で発作が自然に引いていく経験は、「逃げなくても大丈夫だった」という新しい学習になり、予期不安を根本から弱めていきます。
ただし、これは根性論ではありません。
- いきなり最も怖い場面で我慢する必要はありません。治療では、薬物療法などで発作の頻度と強さをある程度抑えたうえで、負担の少ない場面から段階的に練習するのが基本です。
- 発作の最中に留まるときも、前の項の呼吸法や「必ず治まる」という知識が支えになります。丸腰で耐えるのではなく、道具を持って練習するイメージです。
- どうしてもその場を離れた日があっても、失敗ではありません。「次はもう少しだけ長く留まってみる」で十分です。
段階的に慣らしていく具体的な方法は、パニック障害の段階的曝露の記事で詳しく紹介しています。
周囲の人ができること
家族や同僚が目の前で発作を起こしたとき、周囲も慌ててしまいがちですが、そばにいる人が落ち着いていることが何よりの支えになります。
- 落ち着いた声で、短く話しかける。 「大丈夫、そばにいるよ」「発作は必ず治まるから」と、静かなトーンで伝えます。矢継ぎ早の質問は負担になります。
- 一緒にゆっくり呼吸する。 「一緒にゆっくり吐こう」と声をかけ、隣で同じペースの呼吸をして見せると、本人が呼吸を整える助けになります。
- 安全で楽な場所に誘導する。 座れる場所、風通しのよい場所に静かに移動します。人垣ができると本人の恐怖が増すため、周囲の視線からは守ってあげてください。
- 否定や叱咤はしない。 「気のせい」「しっかりして」という言葉は、本人の孤立感を深めます。本人にとって恐怖は現実です。
- 治まったあとは、普段どおりに接する。 過剰に心配し続けるより、「治まってよかったね」と普段の会話に戻るほうが、本人は楽になります。
なお、初めての発作で体の病気と区別がつかない場合や、胸の痛みが強い・意識がもうろうとするなど普段の発作と明らかに様子が違う場合は、ためらわず救急(119)に連絡してください。すでに通院中の方であれば、対応に迷ったときの相談先は主治医です。
発作を繰り返すなら受診を
発作が一度きりで、その後の生活に支障がなければ、必ずしも治療が必要とは限りません。受診を考えていただきたいのは、次のような場合です。
- 発作を繰り返している
- 「また起きたらどうしよう」という不安が頭から離れない
- 電車・人混み・会議など、避ける場所や場面が増えてきた
- 発作への不安で、仕事や外出に支障が出ている
パニック障害は、適切な治療で改善が期待できる病気です。治療の柱は、SSRIなどの薬物療法で発作の起こりやすさそのものを下げることと、この記事で触れたような認知行動療法的なアプローチ(発作の正体を知り、段階的に行動を広げる)です。避ける場所が増えて生活が狭まる前に、早めにご相談ください。
当院での実際
当院にも、パニック発作をきっかけに受診される方は多くいらっしゃいます。
初診はWEB問診にあらかじめお答えいただいたうえで、30分程度かけて、発作の起こり方や避けている場面、生活への影響を伺います。市販薬やサプリメントを使って対処されている方も多いため、初診ではその内容も確認し、治療計画に反映します。
通院は2週間に一度が基本です。パニック障害の治療は、薬の効果と副作用を確かめながら少しずつ調整し、発作が落ち着いてきたら行動を広げる練習を進めていく、という段階を踏むため、この間隔で経過を一緒に確認していきます。
外来では「薬を飲まないとだめですか」「いつまで通院が必要ですか」というご質問をよくいただきます。症状の程度や経過によって答えは一人ひとり異なりますので、診察のなかで率直にお尋ねください。予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。
まとめ
- パニック発作はつらいものですが、発作そのもので命を落とすことはなく、数分でピークを越えて必ず治まります。
- 発作の最中は「吸う」より「ゆっくり吐く」。「これは発作で、必ず治まる」と知っていること自体が対処になります。
- その場から逃げると一時的に楽になりますが、「あの場所は危険」という学習が強まり、予期不安と回避が広がります。可能な範囲でその場に留まり、治まる体験を重ねることが回復につながります。
- 周囲の人は、落ち着いた声かけと一緒のゆっくりした呼吸で支えられます。いつもと明らかに違う様子のときは救急(119)へ。
- 発作を繰り返す、避ける場面が増えてきた――そう感じたら、生活が狭まる前に受診をご検討ください。
よくある質問
パニック発作で死ぬことはありますか?
パニック発作そのもので命を落とすことはないと考えられています。動悸や息苦しさ、めまいなどの症状は非常につらいものですが、これは危険がない場面で体の警報装置が誤作動している状態で、通常は数分から長くても数十分でピークを越えて自然に治まります。ただし、心臓や呼吸器の病気でも似た症状が出ることがあるため、初めて強い発作を経験した場合は、一度は内科などで体の検査を受けておくと安心です。検査で異常がないのに発作を繰り返す場合は、精神科・心療内科の受診をご検討ください。
発作のとき、頓服薬はすぐ飲んだほうがいいですか?
頓服薬が処方されている場合、使い方は人によって異なります。発作が強く出やすい時期には早めに使うことが助けになる一方、回復が進んだ段階では「まず呼吸を整えて様子をみる」練習を優先したほうがよい場合もあります。頓服を持っているだけで安心できる方も多く、それ自体は悪いことではありませんが、「薬がないと外出できない」状態が続くようなら、使い方を主治医と相談して整理していくのがよいでしょう。自己判断で回数を増やすことは避けてください。
家族が発作を起こしたとき、救急車を呼ぶべきですか?
すでにパニック障害と診断されていて、いつもと同じパターンの発作であれば、多くの場合は数分から数十分で自然に治まるため、そばで落ち着いて付き添うことが基本になります。一方、初めての発作で心臓の病気などと区別がつかないとき、胸の痛みが強い・意識がもうろうとするなどいつもと明らかに様子が違うときは、迷わず救急(119)に連絡してください。判断に迷う場合の対応は、あらかじめ主治医と相談して決めておくと安心です。
発作が怖くて電車や人混みを避けています。避け続けてもいいですか?
避ければその場の不安は下がりますが、「あの場所は危険だ」という学習が強まり、行動範囲が少しずつ狭くなっていくことが知られています。ただし、いきなり苦手な場所に飛び込む必要はありません。治療で発作の頻度を抑えたうえで、負担の少ない場面から段階的に慣らしていく方法が一般的です。どこから練習するかは診察で一緒に計画を立てられますので、避ける場所が増えてきたと感じたらご相談ください。