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連載「症状を知る」第3回(全3回) 第1回から読む →

はじめに——「急に固まってしまった」家族の戸惑い

昨日まで普通に話していた家族が、急に一言も話さなくなった。呼びかけても目を合わせず、同じ姿勢のままじっと動かない。食事にも手をつけない——。

こうした変化を目の当たりにしたご家族の多くは、「何が起きているのかわからない」という強い不安の中に置かれます。認知症だろうか、心を閉ざしてしまったのだろうか、それとも脳の病気だろうか、と。

このような「動かない・話さない・反応がない」状態の背景には、カタトニア(緊張病)と呼ばれる状態が関わっていることがあります。名前を聞いたことがない方がほとんどだと思いますが、精神科の入院患者さんではまれではない状態で、しかも適切に治療されれば多くの場合よく回復することが知られています。

一方で、対応が遅れると体に深刻な影響が及ぶことがあるため、「知っているかどうか」が結果を左右しやすい状態でもあります。この記事では、連載「症状を知る」の第3回として、カタトニアとはどんな状態か、家族が気づけるサイン、そしてためらわず救急や主治医につないでほしい危険な兆候を整理します。

カタトニア(緊張病)とはどんな状態か

カタトニアは、体の動きや反応にかかわる症状がまとまって現れる状態です。専門書では、次のような症状が代表としてあげられています。

  • 話さなくなる(無言)——呼びかけても言葉が返ってこない
  • 動かなくなる(無動・昏迷)——じっとしたまま、周囲に反応しない
  • 同じ姿勢を保ち続ける——不自然な姿勢のまま長時間固まっている。他の人が腕を動かすと、その位置のまま保ってしまうこともあります
  • 指示と反対のことをする・かたくなに応じない(拒絶症)——食事や着替えの介助を強く拒む形で現れることがあります
  • 同じ動作や言葉を繰り返す
  • 相手の言葉や動作をそのまままねる(反響現象)

すべての症状がそろうわけではなく、目立つ症状は人によって異なります。逆に、興奮して動き回るタイプのカタトニアもあり、「固まる」だけが姿ではありません。

大切なのは、これらがわざとでも、性格の問題でもないということです。ご本人は「反応しない」のではなく「反応できない」状態にあります。回復した患者さんが「周りで何が起きているかはわかっていたのに、言葉も体も動かせなかった」と振り返ることがあると専門書にも紹介されています。反応がなくても、声は届いている可能性がある——このことは、ご家族の接し方を考えるうえでも重要です。

統合失調症だけの症状ではない

「緊張病」という言葉は、長いあいだ統合失調症の一つのタイプとして扱われてきた歴史があります。しかし現在では、カタトニアは特定の病気に限らず、さまざまな背景から起こりうる症状のまとまり(症候群)と考えられています。

背景となりうるものには、次のようなものがあります。

  • 気分障害——うつ病が重くなって動けなくなる形や、双極性障害(躁うつ病)の経過の中で現れる形。専門書では、実はカタトニアの背景として最も多いのは気分障害だと報告されています
  • 統合失調症——カタトニアを示す方のうち、統合失調症と診断されるのは一部にとどまるとされています
  • 体の病気——脳炎(若い方に起こる自己免疫性の脳炎を含む)、てんかん、代謝の異常、膠原病など
  • 薬の影響——一部の薬の開始・変更・急な中断がきっかけになることがあります

つまり、「動かない・話さない」という同じ見え方でも、その奥にある原因は人によってまったく違います。だからこそ、背景に体の病気が隠れていないかを含めて、医療機関で調べてもらうことが欠かせません。家庭で原因を見分けることはできませんし、その必要もありません。「いつもと明らかに違う」と感じたら医療につなぐ、それで十分です。

ここは緊急——ためらわず救急(119)・主治医へ

カタトニアが疑われる状態の中には、命に関わりうる緊急のサインがあります。次のような場合は、様子を見ずに、すぐに主治医へ連絡するか、救急(119)に相談してください。

  • 水分や食事がとれない状態が続いている——脱水や栄養不足は短期間でも体に大きな負担になります
  • 発熱がある——動かない状態に発熱や大量の汗、脈の乱れなどが重なる場合、「悪性カタトニア」と呼ばれる特に危険な状態や、脳炎などの体の病気の可能性があり、一刻を争います
  • 精神科の薬を飲んでいる方で、高熱・体の強いこわばり・意識のもうろうが急に出た——薬に関連した重篤な状態のことがあり、緊急の対応が必要です
  • 意識がもうろうとしている、けいれんがある、呼吸がおかしい

夜間や休日で主治医と連絡がつかないときも、「精神科の症状だから」とためらう必要はありません。上のようなサインがあるときは、体の緊急事態として救急(119)に相談してください。

また、緊急とまではいえなくても、動かない状態が長引くこと自体に危険があります。専門書では、寝たきりの状態が続くと、脱水・栄養不足のほか、血栓(エコノミークラス症候群のような状態)、床ずれ、関節が固まって動かしにくくなるといった体の合併症が起こりうると指摘されています。「そのうち動くだろう」と数日単位で待つことは避け、早めに医療につないでください。

治療はある——早くつながるほど回復しやすい

ご家族に何よりお伝えしたいのは、カタトニアには有効な治療があるということです。

専門書では、カタトニアは適切に診断・治療されれば、ほとんどの場合よく回復する、予後の良い状態とされています。医療機関では、症状をやわらげる薬物療法から始め、反応が乏しい場合には専門的な治療法へ進む、といった段階的な進め方が確立しています。あわせて、点滴などで体の状態を支えながら、背景にある病気(うつ病、双極性障害、体の病気など)の診断と治療を並行して進めます。

治療の具体的な内容は、背景の病気や体の状態によって一人ひとり異なります。ここで詳細を並べることはしませんが、「打つ手がない状態ではない」「むしろ治療への反応は良いことが多い」という見通しは、不安の中にいるご家族の支えになるはずです。

そして、この見通しを現実のものにする鍵が早さです。治療が遅れるほど体の合併症のリスクが積み上がり、早くつながるほど回復はスムーズになります。ご家族の「気づいて、つなぐ」行動が、回復への一番の近道です。

家族ができること——観察のメモと、責めない関わり

医療につなぐと決めたら、ご家族にできることが二つあります。

一つ目は、変化の記録です。ご本人が話せない状態では、ご家族の観察が診断の最も重要な手がかりになります。次の点をメモしておくと、診察が格段にスムーズになります。

  • いつから変化が始まったか(急にか、徐々にか)
  • きっかけとして思い当たること(強いストレス、体調不良、発熱など)
  • 薬の変更があったか(新しく始めた薬、やめた薬、市販薬・サプリメントも含めて)
  • 水分・食事がどのくらいとれているか
  • 熱、汗、顔色、便や尿の様子
  • もともとの病気や通院先

二つ目は、責めない・無理強いしない関わりです。先ほど述べたとおり、ご本人は反応「できない」状態であり、周囲の声が届いていることがあります。「何とか言いなさい」と問い詰めたり、体を強く揺さぶったりすることは、ご本人を追い詰めるだけでなく、あとになって傷として残ることもあります。穏やかな声かけを続けながら、食事や着替えを無理強いせず、医療につなぐ行動を優先してください。

なお、高齢の方が急に話さなくなり身の回りのことができなくなったとき、「認知症が急に進んだ」と受け取られてしまうことがありますが、認知症は通常、月・年の単位でゆっくり進みます。数日単位の急な変化は、うつ病に伴う状態やせん妄、体の病気など、治療で回復しうる別の原因を考える必要があります。急な変化については、認知症と決めつけずに医療機関へご相談ください(せん妄についてはせん妄とは?認知症との違いと家族の対応で詳しく解説しています)。

当院での実際

当院は外来の精神科・心療内科クリニックです。この記事で述べたような「飲食ができない」「発熱を伴う」「意識がもうろうとしている」といった緊急性の高い状態は、外来での対応の範囲を超えるため、救急(119)や入院設備のある医療機関への相談を優先してください。

そのうえで、当院で通院中の方に「最近、動きが極端に少ない」「口数が急に減った」といった変化がみられた場合は、次回予約を待たずに早めにご相談ください。通院の基本は2週間に一度としていますが、状態の変化があるときはその間隔にこだわる必要はありません。

ご家族のみの相談はお受けしていません。ご本人が受診に同意されたうえでの同席は可能です。ご本人が受診できない場合は、お住まいの自治体の公的相談先、または受診予定の医療機関へお問い合わせください。なお、当院の診療対象は18歳以上です。

まとめ——「知っているかどうか」が家族を助ける

カタトニア(緊張病)は、話さない・動かない・同じ姿勢のまま固まるといった症状がまとまって現れる状態で、統合失調症に限らず、うつ病や双極性障害、体の病気、薬の影響など、さまざまな背景から起こります。

  • ご本人は反応「しない」のではなく「できない」状態。声は届いている可能性があります
  • 水分・食事がとれない、発熱がある、意識がおかしい——このサインがあれば、ためらわず救急(119)・主治医へ
  • 有効な治療があり、早くつながるほど回復しやすい状態です
  • ご家族は「いつから・何がきっかけで・薬の変更は」の記録と、責めない関わりで回復を支えられます

聞き慣れない名前の状態ですが、知っていれば「様子を見ているうちに悪化する」事態を防げます。連載「症状を知る」では、第1回で幻聴、第2回で妄想への家族の接し方を取り上げています。背景の病気の一つである統合失調症については、統合失調症とはどんな病気かもあわせてご覧ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • カタトニア:臨床医のための診断・治療ガイド(Max Fink/Michael Alan Taylor、星和書店)
  • 精神科治療学 第33巻第6号 特集「カタトニア(緊張病)の診断・治療を問う」(星和書店、2018年)

よくある質問

カタトニア(緊張病)は統合失調症の症状なのですか?

かつては統合失調症の一種と考えられていましたが、現在では、うつ病や双極性障害などの気分障害、体の病気、薬の影響など、さまざまな背景から起こりうる「症状のまとまり(症候群)」と理解されています。実際には、気分障害を背景とする場合が多いと報告されています。どの病気が背景にあるかの判断は医師が行います。

急に話さなくなり、食事も水分もとれていません。様子を見ていていいですか?

様子見はおすすめできません。水分や食事がとれない状態が続くと、脱水や栄養不足など体の合併症につながるおそれがあります。かかりつけの主治医がいればすぐに連絡し、連絡がつかない場合や、ぐったりしている・発熱があるなど心配な様子があれば、ためらわず救急(119)に相談してください。

カタトニアは治るのでしょうか?

専門書では、適切に診断され治療につながれば、多くの場合よく回復する状態とされています。一方で、対応が遅れると体の合併症が問題になることがあるため、早く医療につなげることが何より大切です。

反応がない本人に、家族はどう接すればいいですか?

反応がなくても、ご本人には周囲の声が届いていて、あとで内容を覚えていたと語られることがあります。責めたり大声で揺さぶったりせず、穏やかに声をかけながら、医療につなぐ行動を優先してください。いつから・どんなきっかけで変化したか、薬の変更があったかなどをメモしておくと診療の大きな助けになります。

家族だけで先に相談に行くことはできますか?

当院ではご家族のみの相談はお受けしていません。ご本人が受診に同意されたうえでの同席は可能です。ご本人が受診できない状態のときは、お住まいの自治体の公的相談先、またはすでに通院中・受診予定の医療機関へお問い合わせください。動けない・飲食できないなど緊急性がある場合は、救急(119)への相談を優先してください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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