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ADHD(注意欠如・多動症)のイメージ画像

ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意(集中が続かない・忘れっぽい)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考える前に動いてしまう)を特徴とする、生まれつきの脳の発達の特性(神経発達症)のひとつです。子どもの約5%、大人の約2.5%にみられるとされ、決してまれなものではありません。

かつては子どもの病気と考えられていましたが、多くの場合、特性は大人になっても続きます。就職や昇進、結婚・出産などで求められる役割が増えたときに困りごとが表面化し、大人になって初めて受診される方も少なくありません。

ADHDの特性そのものを消す治療はありませんが、特性を理解し、環境を整え、必要に応じて薬物療法を組み合わせることで、生活のしづらさは大きく軽減することが期待できます。このページでは、大人のADHDを中心に、症状・診断・治療・使える制度までの全体像を整理します。

こんなサイン・症状はありませんか

  • ケアレスミスが多く、何度注意しても同じ間違いを繰り返してしまう
  • 締め切りや約束の時間をうっかり忘れる、ぎりぎりまで手をつけられない
  • 財布・鍵・スマートフォンなど、大事なものをしばしばなくす
  • 片付けが苦手で、机や部屋がいつの間にか散らかってしまう
  • 会議や長い話に集中し続けられず、内容が頭に入ってこない
  • 順番を待つのが苦手で、人の話をさえぎって話してしまう
  • 衝動買いや思いつきの決断で、あとで後悔することが多い
  • 頭の中が常にせわしなく、じっと座っていても落ち着かない感じがある

こうした項目にあてはまるからといって、直ちにADHDと診断されるわけではありません。誰にでも思いあたる内容が多く、程度や続いている期間、生活への支障の大きさをあわせて評価する必要があります。ただ、子どもの頃から同じ傾向が続いていて、仕事や家庭で困りごとが積み重なっている場合は、一度ご相談いただく価値があります。

症状の詳しい説明

不注意

集中を保つこと、注意を適切に配分することの苦手さです。仕事ではケアレスミスや締め切り忘れ、書類仕事の先延ばしとして現れやすく、家庭では支払いの遅れや持ち物の紛失、片付けられないことなどにつながります。本人の「やる気の問題」に見られがちですが、努力不足ではなく特性によるものです。

多動性・衝動性

子どもの頃は走り回る・席を離れるといった行動面の多動が目立ちますが、大人になると外から見える多動は和らぎ、「頭の中が常に忙しい」「そわそわして落ち着かない」といった内面の落ち着きのなさに形を変えることが多いとされます。衝動性は、衝動買い、言わなくてよいひとことを言ってしまう、思いつきで大きな決断をしてしまう、といった形で現れます。

大人ならではの現れ方と二次的な問題

大人のADHDでは、失敗や叱責の積み重ねから自信を失い、うつ状態や不安が重なること(二次障害)が少なくありません。海外の調査では、成人のADHDの方の約4割に不安症、約4分の1に気分障害が併存していたという報告もあります。落ち込みや不安をきっかけに受診し、背景にADHDの特性が見つかるケースは実際によくあります。

また、女性は多動が目立ちにくく子ども時代に気づかれないまま大人になり、結婚・出産などで家事や段取りの負担が増えたときに困りごとが表面化しやすいと言われています。

原因・メカニズム

ADHDは、育て方やしつけ、本人の性格の問題で起こるものではありません。生まれつきの脳の発達の特性が基盤にあると考えられており、遺伝的な要因と、胎児期の環境要因などが関わるとされています。

脳のメカニズムとしては、注意や行動の切り替え・計画を担う前頭前野という部位の働きと、そこで働くドパミン・ノルアドレナリンという神経伝達物質の調節がうまくいきにくいことが関係している、という仮説が有力です。ADHDの治療薬がこれらの神経伝達物質に作用して効果を発揮することも、この仮説を支持する材料とされています。ただし、診断の決め手になるような脳の検査所見はまだ確立しておらず、研究が続いている段階です。

診断と、似た状態との違い

診断の進め方

診断は、国際的な診断基準(DSM-5)に沿って行います。ポイントを平易にまとめると、次のようになります。

  • 不注意、多動性・衝動性の症状が一定数以上あること(17歳以上の大人では9項目中5項目以上が目安)
  • いくつかの症状が12歳より前の子ども時代からあったこと
  • 家庭と職場など、2つ以上の場面で症状がみられること
  • 症状のために、仕事や生活に明らかな支障が出ていること

一時的な不調ではなく「子どもの頃から続く特性かどうか」が大きな手がかりになるため、生育歴を丁寧にうかがいます。通知表や母子健康手帳などの記録、ご家族から見た様子が参考になることもあります。心理検査や質問紙は補助的な位置づけで、結果の数値だけで診断が決まるものではありません。診断の具体的な流れは「大人のADHDの診断はどのように進むのか」で詳しく解説しています。

似た状態との見分け

  • ASD(自閉スペクトラム症): 同じ発達障害の仲間ですが、ADHDの中心は不注意・多動・衝動性、ASDの中心は対人コミュニケーションの特性とこだわりです。「集中できない」のか「こだわりで没頭している」のかなど、行動の背景を見分けます。両方をあわせもつ方もいます。詳しくはASD(自閉スペクトラム症)のページと「大人のADHDとASDの違い」をご覧ください。
  • うつ病・双極性障害: 気分の病気では、集中力の低下や落ち着きのなさが「ある時期から」現れます。子どもの頃から一貫して続くADHDの特性とは経過が異なりますが、併存することもあります(うつ病躁うつ病(双極性障害))。
  • 睡眠の問題: 睡眠不足や不眠症、むずむず脚症候群などがあると、日中の不注意や落ち着きのなさがADHDのように見えることがあります。
  • 身体の病気など: 甲状腺機能の異常などが似た状態を起こすことがあります。また、中高年以降に初めて「物忘れ」が気になった場合は、認知症など他の原因の評価を優先することがあります。

治療

治療の基本は、①特性の理解と環境調整、②薬物療法、③生活の工夫(セルフケア)の組み合わせです。まず環境調整などの心理社会的な支援から始め、必要に応じて薬物療法を加えるのが標準的な考え方です。

薬物療法

大人のADHDに使える薬には、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、メチルフェニデート徐放剤(コンサータ)などがあります。当院では主にアトモキセチンとグアンファシンを処方しています。

  • アトモキセチン: 前頭前野のノルアドレナリン・ドパミンの働きを整え、不注意・多動性・衝動性の改善が期待できます。効果を実感するまでに2〜4週間程度かかることが多く、吐き気や食欲低下、眠気などの副作用がみられることがあります。
  • グアンファシン: 神経の過剰な興奮を抑えるように働き、多動性・衝動性や感情の波に効果が期待できます。眠気や血圧低下、めまいなどに注意しながら使います。飲み始めの眠気は、続けるうちに慣れてくることが多いです。

薬は特性を「なくす」ものではなく、症状をやわらげて生活の工夫に取り組みやすくするための手段です。効果と副作用のバランスを診察で確認しながら、量や種類を調整していきます。種類ごとの特徴や副作用への対応は「大人のADHDの薬物療法をやさしく解説」にまとめています。

精神療法・心理社会的支援

ADHDの診療では、まず本人と周囲が特性を正しく理解すること(心理教育)が治療の土台になります。そのうえで、苦手が出にくいように仕事の進め方や環境を整える「環境調整」を一緒に考えます。指示は口頭だけでなくメモやメールで受け取る、作業を細かく区切る、静かな席に変えてもらう、といった調整が代表例です。二次障害としてのうつや不安が強い場合は、その治療を並行して行います。

生活・セルフケア

  • 予定やTo Doをスマートフォンのカレンダー・リマインダーで「見える化」する
  • 大きな仕事は小さく分けて、着手のハードルを下げる
  • 鍵や財布などの定位置を決め、置き場所を固定する
  • 高い買い物は一晩おいてから決めるなど、衝動と決断の間に「間」をはさむ

完璧を目指すより、自分に合う方法を少しずつ見つけていくことが大切です。具体的なコツは「大人のADHDの時間管理・環境調整の工夫」で紹介しています。工夫がうまくいかないときに自分を責める必要はありません。やり方の調整や薬の変更も含めて、無理せず主治医と相談しながら進めていきましょう。

経過と再発予防

ADHDの多動などの症状は、年齢とともにある程度和らいでいく傾向があります。一方で、不注意を中心とした特性は大人になっても続くことが多く、「治す」というより「特性とうまく付き合い、困りごとを減らしていく」ことが治療の目標になります。

経過のうえで特に大切なのは、二次障害の予防です。失敗体験や叱責が積み重なって自信を失うと、うつ状態や不安、お酒やゲームへののめり込みなどにつながりやすくなります。特性に合った環境と対処法を早めに整えることが、長い目で見た予防になります(参考: ADHDに重なりやすいうつ・不安と二次障害)。

薬物療法を行っている場合は、自己判断で中断せず、効果や副作用を定期的に主治医と確認しながら続けることをおすすめします。生活が安定してきた段階で、減量や中止を検討できることもあります。

仕事・生活への影響と使える制度

ADHDの特性は、業務内容や職場環境との相性によって、強みにも困りごとにもなります。行動力や発想の豊かさが評価される一方、締め切り管理や細かい事務作業の多い環境では負担が大きくなりがちです。配置や業務内容の調整だけで働きやすくなる方も多くいます。

二次障害のうつ状態などで働き続けることが難しい場合は、休職して治療に専念する選択肢があります。休職中の収入については傷病手当金の制度があり、通院や薬の自己負担を軽くする自立支援医療制度も利用できます。

診断を受けた方では、障害者雇用として合理的配慮(特性に応じた職場の調整)を受けながら働く道や、就労移行支援を利用して自分に合う働き方を探す方法もあります。発達障害者支援センターやハローワークなどの公的機関も活用できます。どの制度を使うかは状況によって異なりますので、診察の際にご相談ください。

受診の目安と当院での診かた

「ミスや忘れ物のことで注意され続けてつらい」「片付けや段取りの苦手さで家庭がうまく回らない」「落ち込みが続いていて、背景にADHDがあるのか知りたい」──そのような状態が続いているなら、受診を検討するタイミングです。困りごとを書き出して持ってきていただくと、診察がスムーズになります。

当院では、いまの困りごとだけでなく、子どもの頃からの経過を含めて丁寧にうかがい、ADHDの特性によるものか、他の病気や状況によるものかを一緒に整理していきます。診断がはっきりつかない、いわゆるグレーゾーンの方についても、「診断名をつけること」よりも「どの場面で何に困りやすいかを把握し、対処につなげること」を大切にしています。そのうえで、環境調整の助言や薬物療法、制度の利用まで、その方に合った組み合わせを提案します。

初診の流れや持ち物については「初めての方へ」をご覧ください。なお、強い落ち込みで死にたい気持ちが差し迫っているなど緊急の場合は、受診を待たず、救急(119)に連絡するか、通院中の方は主治医の医療機関にご相談ください。

参考文献

よくある質問

大人になってからADHDと診断されることはありますか?

あります。子どもの頃からの特性が、就職や昇進、結婚・出産などで役割が増えたときに表面化し、大人になって初めて受診・診断に至る方は少なくありません。診断では子ども時代の様子もあわせて確認します。

検査を受ければADHDかどうかすぐに分かりますか?

一度の検査だけで確定できる病気ではありません。子どもの頃からの経過や現在の生活での困りごとを丁寧にうかがい、必要に応じて心理検査や質問紙を組み合わせて総合的に判断します。診断まで数回の診察が必要になることもあります。

薬を飲めばADHDは治りますか?

薬は特性そのものをなくすものではなく、不注意や衝動性をやわらげて、生活の工夫に取り組みやすくするための手段です。環境調整やセルフケアと組み合わせて続けることで、生活のしづらさの軽減が期待できます。

診断がつかない「グレーゾーン」でも相談できますか?

ご相談いただけます。診断の有無にかかわらず、どの場面で困りやすいかを一緒に整理し、特性に合わせた工夫や利用できる支援を考えていくことができます。

ADHDとASD(自閉スペクトラム症)は同じものですか?

別の特性ですが、どちらも発達障害(神経発達症)に含まれ、両方をあわせもつ方もいます。不注意なのか、こだわりによる没頭なのかなど、行動の背景を丁寧に見分けながら診断します。

この病気で使われることのあるお薬

治療で使われることのある代表的なお薬です。実際にどのお薬を使うか(使わない場合も含めて)は、診察のうえで医師が一人ひとりに合わせて判断します。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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