福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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ストラテラ(一般名: アトモキセチン)は、ADHD(注意欠如・多動症)の治療に使われるお薬です。ADHDの薬というとコンサータのような「刺激薬」を思い浮かべる方が多いのですが、ストラテラはそれとは別のタイプ——じわじわ効いて、一日じゅう穏やかに支えてくれる非刺激薬です。ここでは、どんなふうに効いて、飲み始めはどう感じるのかを、実際の診察でお話ししている感覚に近い形でまとめました。

どんなふうに効く薬か

ストラテラは、脳の中で注意や行動のブレーキに関わる「ノルアドレナリン」という物質の働きを高めて、注意の続きにくさや衝動的な行動をやわらげていく薬です。

いちばん知っておいてほしいのは、この薬は「飲んだその日にスイッチが入る」薬ではないということです。数週間かけて、土台がじわじわと底上げされていくような効き方をします。だから、飲んで数日で「全然効かない」と決めてしまうのは早すぎます。実際によくあるのは、1〜2か月経ったころにふと振り返って「そういえば最近、鍵を探す時間が減った」「うっかりミスで謝ることが減った」と、後から気づくパターンです。派手さはないけれど、朝から晩まで途切れずに効き続ける——そういう地味で頼れる薬です。

この「効いているか分かりにくい」性質は弱点でもあります。効果を確かめるには、焦らず続けながら、生活の変化を一緒に振り返ることが大切です。

では、何をもって「効いた」と考えればよいのでしょうか。ADHDの治療では、症状がいくつ減ったかよりも、生活のどこが動いたかで効果をみることがすすめられています。仕事や家事の段取りが運ぶようになったか、人との関わりで消耗しにくくなったか、一日のどの時間帯が楽になったか。自分では気づきにくいので、ご家族や職場の方から見てどうかを聞くのも一つの方法です。あわせて、ご本人の実感も大事な手がかりです。「なんとなく楽」「考えを組み立てるのが前より楽になった」「かっとしそうになったけれど、こらえられた」——数字にはなりませんが、こうした一言のほうが、続けるかどうかの判断にはよほど役に立ちます。

知っておいていただきたいのは、この薬は特性そのものを作り変えるものではないということです。変わってくるのは困りごとにつながっていた行動のほうで、その人らしさが書き換えられるわけではありません。薬で少し楽になった土台の上に、環境の工夫や自分に合ったやり方を重ねていく——それが現実的な使い方です。

なお、このページでご紹介する知見の多くは、もともと子どもの診療のなかで積み重ねられてきたものです(大人だけを対象にした研究はまだ多くありません)。薬の効き方や副作用の出方には年齢を越えて共通する面が大きいため、参考になるところを大人の生活に置き換えてお伝えしています。

どんな人に向くか・コンサータとの違い

コンサータは飲んだ日から数時間はっきり効き、夕方〜夜には切れる薬です。一方ストラテラは、立ち上がりは遅いかわりに、一日を通して切れ目なく効き、依存の心配が少なく、登録制度による処方の縛りもありません

そのため、ストラテラが向きやすいのは——

  • 朝の身支度や夜の片付けなど、一日の始まりと終わりにも困りごとがある方(コンサータは夜には切れています)
  • 刺激薬に抵抗がある方、依存性のない薬でじっくり治療したい方
  • チック症状や不安が背景にある方など、刺激薬を使いにくい事情のある方

逆に、「仕事中のここぞという時間帯に集中したい」というニーズがはっきりしている方には、コンサータのほうが実感を得やすいこともあります。どちらが正解ということではなく、生活のどの場面で困っているかを聞かせていただきながら選びます。なお、当院は18歳以上の方を対象に診療しています。

困っているのは、仕事の時間だけではない

この薬の持ち味は、実はここにあります。ADHDの困りごとは、机に向かっている時間にだけ起きるわけではありません。朝、なかなか起きられない。支度に取りかかれない。帰ってきてから家事に手がつかない。夜、動画やゲームを切り上げられないまま時間が過ぎる——こうした場面のほうが、生活のつらさとしては大きいことも多いのです。「終日効き続ける」というのは、効き目の届く時間帯が決まっている刺激薬では手の届かない、こうした場面もカバーできるという意味です。

眠りについても報告があります。ADHDのある方には、もともと寝つきが悪い、朝どうしても起きられないという方が少なくありません。ストラテラを使うと寝つきまでの時間が短くなり、眠っている時間が延びたという報告があります。ただし「誰でも眠りが良くなる」わけではなく、後で触れるとおり逆に寝つきにくくなる方もいます。

また、不安を併せもつ方を対象にした研究では、ADHDの症状だけでなく不安のほうも軽くなったと報告されています。刺激薬は不安が強い方には使いにくいことがあるため、この点もストラテラが選ばれる理由の一つです。

「飲み心地」という選び方

あまり語られないのですが、薬選びには飲み心地という軸もあります。

同じように効いていても、コンサータは「はっきりする代わりに、無理やりエネルギーを絞り出されて集中させられている感じ」「ゆったりできず、長い時間は耐えられない」と表現されることがあります。何種類も自分で試した医師が、そう語った記録が残っています。一方でストラテラにはその無理やりな感じがなく、「安心して飲める」「大事なことが自然に大事なものとして目に入ってくる」と語られています(子どもの診療の場での言葉ですが、大人の方からも似た表現をうかがいます)。

逆に、ストラテラでは「眠くてだるくてしょうがない」という方もいます。同じような困りごとでも、この人にはこの薬でなければ、という違いが確かにあるのが実際のところです。飲んでいるあいだの感じ方も遠慮なく聞かせてください。

飲み始めに知っておいてほしいこと

副作用は「出るか出ないか」より、「いつ・どう付き合うか」を知っておくほうが役に立ちます。

吐き気・食欲の低下

いちばん多いのが、飲み始めの吐き気と食欲の落ち込みです。体が慣れる数日〜数週間でやわらぐことが多く、食後に飲むことで軽くなる方もいます。食が細くなって体重が減ってきたと感じたら、量の調整も含めて相談しましょう。少なめの量から始めて、体を慣らしながら増やしていくのが基本です。

この時期の副作用は、飲み方の工夫でかなり避けられます。少ない量から始めること、食後に飲むこと、そして一度に飲まずに朝と夜に分けること。1日1回にまとめても効果は保たれるとされていますが、飲み始めのつらさが強いときは、分けて飲む形から入ったほうが続けやすいことがあります。飲む回数や時間帯は体調に合わせて調整できますので相談してください。

眠気、あるいは眠れない

昼間に眠くなる方もいれば、逆に寝つきにくくなる方もいます。どちらに転ぶかは飲んでみないと分からない面があるので、飲む時間帯をずらす(眠くなるなら夜に、眠れないなら朝に)ことで解決できる場合が多いです。車の運転など危険を伴う作業については、後の「生活の中での注意」をご覧ください。

どきどき・血圧

血圧や脈拍が少し上がることがあります。だからこそ、飲み始める前と服用中に定期的に血圧と脈を確認します。心臓の病気や高血圧のある方は必ず事前に教えてください。動悸や胸の違和感が続くときも、我慢せずご相談を。

めったにないけれど大事なこと

ごくまれに、肝臓に負担がかかることがあります。強いだるさが続く、皮膚や白目が黄色っぽい、吐き気や食欲不振がいつまでも治らない——こんなときはすぐにご連絡ください。また、じんましんや息苦しさ、顔の腫れといった強いアレルギー反応が出たときは、ためらわず受診を。差し迫っていれば救急(119)へ。

気分の変化に、周りの目も借りて

特に若い方では、飲み始めの時期に気分の落ち込みやいらいら、不安の強まりが出ることがあります。本人は変化に気づきにくいことも多いので、ご家族や身近な方に「最初のうちは様子を気にかけてほしい」と伝えておくのが安心です。「いつもと違う」と感じたら、すぐ教えてください。

気をつけたい時期には目安があります。飲み始めてからの1〜2週間に、それまでと違ってひどくいらいらする、攻撃的になるといった変化が現れる方がいると報告されています(子どもの診療での観察です)。多いものではなく、集団で調べた研究では増えなかったという報告もあるので、心配しすぎることはありません。ただ、起きるとすれば飲み始めの時期だと知っておくと気づきやすくなります。

この時期に気分がふさぐ、消えてしまいたいという気持ちが出てきたときも、我慢せずすぐご連絡ください。薬を替えれば済むことがほとんどです。ごくまれに、実際にはない声が聞こえる・気持ちが高ぶりすぎるといった変化の報告もあります。いずれも「起きたらすぐ相談する」と決めておけば対処できます。

思うように効かないと感じたら

数週間から1〜2か月続けても手応えがないとき、「この薬は自分には合わなかった」と考える前に、確かめておきたいことがあります。

ひとつは、量が十分なところまで来ているかです。ADHDの薬は、少し症状が軽くなった量で止めてしまうと、生活そのものはあまり変わらないことが知られています。忘れ物が少し減っただけで止まり、仕事や家事の回り方は前と同じ——これでは治療の目標に届いていません。海外の指針でも、目標は「症状を少し減らすこと」ではなく生活の機能を最大限まで戻すことに置かれています。「効かない」と感じたときは、いまの量が自分に合っているかどうかも、見直しの選択肢のひとつです。診察で一緒に確かめましょう。もちろん、自己判断で量を変えるのは避けてください。

もうひとつは、体質による差です。この薬を分解する速さには生まれつきの個人差があり、ゆっくりな方では同じ量でも薬が体に長くとどまります。「人より少ない量でちょうどよかった」ということが起こりうる、と知っておいてください。

そのうえで十分な量まで使っても手応えがないときは、もう一方の薬に切り替えることを考えます。片方が効かなかった方でも、切り替えでうまくいく方はかなりの割合でいます。最初の1剤を中途半端なところで見限らず、使い切って判断することに意味があるのは、そのためです。

やめるとき

ストラテラは依存になる薬ではなく、やめるときに離脱症状で苦しむタイプの薬でもありません。ただ、効き方がじわじわしているぶん、やめた影響も後からじわじわ現れます。自己判断でやめてしまうと「薬が効いていたのかどうか」を確かめる機会も失われてしまうので、続けるか・減らすかは診察で一緒に決めましょう。長く飲んでいる方は、定期的に「今も必要か」を見直すことも大切にしています。

この「見直す」は、効いていないから減らす、という意味だけではありません。長く飲んでいると、今の落ち着きが薬によるものなのか、生活が整ったことによるものなのかが分かりにくくなります。この薬の注意書きにも、長く続けるときは必要に応じて休む期間を設けるなどして、定期的に役に立っているかを見直すように、と書かれています。ただし確かめるのに向く時期と向かない時期があるので(生活が大きく動く時期は避けます)、いつどう試すかは診察で決めましょう。

生活の中での注意

添付文書では、眠気やめまいが起こることがあるため、この薬を飲んでいるあいだは車の運転など危険を伴う作業に従事しないことになっています。とくに飲み始めや量を変えた時期、眠気を感じているときは危険です。運転が欠かせない生活の方は、薬の選び方から一緒に考えますので、必ず事前にご相談ください。ほかの薬との組み合わせで注意が必要な場合があるので(一部の抗うつ薬や、パーキンソン病の薬など)、飲んでいる薬やお薬手帳は必ず見せてください。もともと尿が出にくい・出し切れない感じがある方(前立腺の病気などをお持ちの方)では、その症状が強まることがあるため、事前に教えてください。妊娠・授乳については一律の禁止ではなく、必要性と一緒に考えます。妊娠が分かったら、自己判断でやめずまず相談してください。

当院での考え方

当院では、ADHDの診断を丁寧に行ったうえで、ストラテラが合いそうかを一緒に考えます。処方するときには「すぐには効かない薬です」と最初に必ずお伝えします。ここを共有しておかないと、いちばん惜しいタイミング——効き始める直前——でやめてしまうことになりかねないからです。飲み始めは血圧・脈拍と副作用を確かめながら、少しずつ量を合わせていきます。

薬は治療の柱の一つですが、それだけがすべてではありません。環境の調整や特性の理解と組み合わせながら、生活のしやすさを一緒に目指していきます。

参考文献

  • ストラテラカプセル5mg 他 添付文書(2024年4月改訂・第2版) — KEGG MEDICUS掲載の電子添文を参照(参照日: 2026-07-07)
  • 参考書籍(本文の追記の裏づけ。要約・再構成であり原文の転載ではありません): 『注意欠如・多動症―ADHD―の診断・治療ガイドライン 第4版』『研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義』『大人の発達障害ってそういうことだったのか その後』

よくある質問

飲み始めてどのくらいで効きますか?

すぐには効きません。数週間かけてじわじわと底上げされていくタイプの薬で、しっかり安定するまで1〜2か月かかることもあります。「そういえば最近、忘れ物や探し物が減ったかも」と後から気づく方が多いお薬です。数日で「効かない」と判断せず、経過を診察で教えてください。

コンサータとどう違うのですか?

コンサータは飲んだその日から数時間「スイッチが入る」ように効き、夜には切れます。ストラテラは効き始めこそゆっくりですが、朝から晩まで一日を通して穏やかに効き続け、依存の心配が少なく、登録制度による処方の縛りもありません。生活のどの場面で困っているかによって、向き不向きが変わります。

依存性はありますか?

ストラテラは非中枢刺激薬で、依存や乱用の心配が少ないことが特徴の一つです。「刺激薬には抵抗がある」という方が、じっくり治療する選択肢として選ばれることもよくあります。ただし量や飲み方の調整は必ず主治医と一緒に行ってください。

どんな副作用がありますか?

多いのは飲み始めの吐き気と食欲の低下で、体が慣れると軽くなることが多いです。食後に飲むと和らぐことがあります。眠気が出る方も、逆に寝つきにくくなる方もいます。強いだるさや皮膚・白目の黄ばみが出たときは、まれですが肝臓のサインの可能性があるため、すぐにご連絡ください。

血圧や心臓への影響はありますか?

血圧や脈拍が少し上がることがあるため、飲み始める前と服用中に定期的に確認します。心臓の病気や高血圧のある方、家族に心臓の突然の病気があった方は、必ず事前にお伝えください。どきどきや胸の違和感が続くときも早めにご相談ください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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