福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

連載「アルコールとの付き合い方」第2回(全3回) 第1回から読む →

はじめに

「お酒をやめたいのに、ひとりではどうしても続かない」「この苦しさを、飲んだことのない人に話しても伝わらない気がする」――アルコールの問題に向き合うとき、多くの方がこうした孤独を感じます。

そんなとき、回復を支える大切な資源のひとつが「自助グループ」です。断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)という名前を、聞いたことがある方もいるかもしれません。

連載「アルコールとの付き合い方」の第2回となるこの記事では、自助グループとはどんな場なのか、なぜ回復に役立つと考えられているのか、そして参加のしかたや通院治療との関係について、患者さんとご家族に向けて解説します。

第1回をまだお読みでない方は、アルコール依存症の基礎についての記事からご覧いただくと、全体の流れがつかみやすくなります。

自助グループとは――「同じ経験をした人」が集まる場

自助グループとは、同じ問題を抱える当事者同士が集まり、経験を分かち合いながら、お互いの回復を支え合うグループのことです。アルコールの分野では、断酒会やAAがよく知られています。薬物依存症の分野にはNA(ナルコティクス・アノニマス)というグループがあり、ご家族のためのグループも別に活動しています。

活動の中心は「ミーティング」や「例会」と呼ばれる集まりです。参加者が順番に、自分の経験や気持ちを話し、ほかの参加者はそれに耳を傾けます。多くのグループでは、他人の話を批判したり議論したりせず、安心して正直に話せることを大切にしています。

医師やカウンセラーが治療をする場ではなく、当事者同士が主役である――これが、病院やクリニックでの治療と大きく違う点です。

なぜ「仲間」が回復に役立つのか

お酒の問題を抱えた方の多くは、飲んでいた時期に、家族にも職場にも本当のことを言えず、嘘を重ねてきた経験を持っています。そして「誰にも正直に話せない」ことそのものが、孤独を深め、また飲んでしまう悪循環につながります。

依存症治療の分野でよく使われるワークブックでは、「ここでは正直になれる」「素直に自分のことを話せる」という場所を、世界中で一カ所でもいいからつくることが、回復の土台になると説明されています。自助グループは、まさにそのための場所のひとつです。

秘密が守られ、責められたり非難されたりせず、自分の話を聞いてもらえる。しかも聞いてくれるのは、同じ苦しみをくぐり抜けてきた仲間です。「意志が弱いからだ」と自分を責め続けてきた方が、先を歩く仲間の姿を見て「この病気は回復できるのだ」という実感を得られることは、専門家の助言とはまた違った力を持ちます。

また、集団療法を特集した精神科の専門誌でも、グループの治療的な力の土台には「自分はここに所属している」という感覚があること、同じ困りごとを持つ人との集まりが孤独感を和らげ、対処の工夫を分かち合う支えになることが繰り返し指摘されています。

自助グループへの参加は、断酒の継続と関係している

自助グループの意義は、気持ちの支えにとどまりません。参加と回復の関係を調べた研究が複数あります。

依存症治療のワークブックで紹介されている調査では、アルコール依存症で入院した方の退院後の経過を追ったところ、自助グループに参加した人のほうが、まったく参加しなかった人よりも、2年後に断酒を続けられていた割合が明らかに高かったと報告されています。しかもこの結果には「1回だけ参加した人」も含まれており、継続して参加している人に限れば、断酒を続けられていた割合はさらに高かったとされています。

もちろん、数字だけで単純に語れるものではなく、「参加を続けられるほど回復が進んでいた」という側面もあるでしょう。それでも、依存症の治療では昔から「通院・薬・自助グループ」が回復を支える柱として並べて語られてきました。通院や薬が担えない部分――日々の孤独を埋め、正直でいられる人間関係を育てる部分――を、自助グループが担っていると考えられています。

参加のしかた――はじめの一歩のハードルは意外と低い

「参加」と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、一般的な参加のしかたは次のようなものです。

予約や紹介状は基本的にいらない

多くのミーティングは、事前の申し込みや医療機関の紹介がなくても参加できる形をとっています。「お酒をやめたい」という気持ちがあれば、それだけで参加の入り口に立てるグループがほとんどです。

本名を名乗らなくてよいグループもある

AAのように「アノニマス(匿名)」を名前に掲げるグループでは、本名を明かさずニックネームで参加できます。一方、断酒会のように家族も一緒に参加しやすい形をとるグループもあります。グループごとに雰囲気や進め方に個性があるので、ひとつ合わなくても「自助グループ全部が合わない」と結論づける必要はありません。

話したくなければ聞いているだけでもいい

多くのミーティングでは、発言を強制されることはありません。最初のうちは、ほかの参加者の体験談を聞くだけでも十分です。「自分と同じことで苦しんできた人が、こんなふうに回復している」と知ること自体が、大きな一歩になります。

オンライン参加という選択肢が広がっている

近年は、オンラインで参加できるミーティングが大きく広がりました。精神科の専門誌の報告によれば、自助グループのない地域に住んでいる方、介護や子育て・高齢・障害などで外出が難しい方でも参加でき、オンライン参加をきっかけに対面のグループへつながる「橋渡し」の効果も確認されています。当事者へのアンケートでも、多くの方がオンライン活動を今後も続けたいと答えたと報告されています。

なお、各グループの連絡先や集まりの日程は、通院先の医療機関や、お住まいの自治体の精神保健福祉センター・保健所などで案内を受けられます。主治医がいる方は、まず診察のなかで相談してみるのがスムーズです。

医療とのちがい、医療との組み合わせ

大切なのは、自助グループと医療は「どちらか一方を選ぶもの」ではない、ということです。

医療機関が担うのは、診断、離脱症状(禁断症状)への対応、体の合併症の治療、薬物療法、うつ病などの併存する心の不調の治療です。これらは自助グループでは提供できません。

一方、自助グループが担うのは、日常のなかでの支え合いと、飲まない生き方を続けるための人間関係づくりです。診察の時間だけではカバーしきれない「毎日」を支えるのは、こちらの役割です。

依存症の治療では、この2つに通院を続けることを加えて、複数の支えを組み合わせることが回復の安定につながると考えられています。実際、専門誌でも、集団での支えと個別の診察・面接は代替関係ではなく、本人の状態に応じて組み合わせる視点が重要だと指摘されています。

当院での実際

当院は精神科・心療内科の外来クリニックで、診療対象は18歳以上の方です。当院ではアルコール依存症そのものの専門治療は行っておらず、依存症を主なお困りごととするご相談はお受けしていません。実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。この記事で紹介した自助グループについても、専門外来や地域の精神保健福祉センター・保健所を通じて案内を受けるのが確実です。

ご家族のみでのご相談はお受けしていませんが、ご本人が受診に同意されたうえでの同席は可能です。ご本人がどうしても受診できない場合は、公的な相談先や、受診を予定している医療機関へ問い合わせる方法があります。

まとめ――「ひとりでやめる」から「仲間とやめ続ける」へ

自助グループは、同じ経験をした仲間と正直に語り合い、孤独をほどきながら、飲まない毎日を続けていくための回復資源です。参加した人のほうが断酒を続けられる割合が高いという報告もあり、通院・薬物療法と並ぶ回復の柱のひとつと位置づけられています。

予約なしで参加できる集まりが多く、話さずに聞いているだけでもよく、オンラインという入り口も広がっています。「いきなりは不安」という方は、診察のなかで主治医に相談することから始めてみてください。

次回・連載第3回では、「完全にやめること」だけをゴールにしないハームリダクションという支援の考え方を紹介します。また、飲酒量を減らすという治療の選択肢については、減酒についての記事もあわせてご覧ください。

つらさが強いとき、体調が急に悪くなったとき(意識がもうろうとする、けいれん、吐血など)は、迷わず救急(119)に連絡してください。治療中の方は、困ったことがあれば早めに主治医にご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 薬物・アルコール依存症からの回復支援ワークブック(松本俊彦ほか)
  • 精神科治療学 第36巻第11号 特集「再起動!集団療法」

よくある質問

自助グループには、依存症と診断されていなくても参加できますか。

多くのグループは「お酒をやめたい」「お酒の問題に悩んでいる」という気持ちがあれば参加できる形をとっています。診断の有無は参加の条件ではないことが一般的です。ただし、自分の状態が病気にあたるのかどうかは、自助グループではなく医療機関で評価を受けることをおすすめします。診断は医師が行います。

人前で話すのが苦手です。参加しても黙って聞いているだけでもいいのでしょうか。

多くのミーティングでは、話したくないときは聞いているだけでもよいとされています。まずは同じ経験をした人の話を聞くだけでも、「悩んでいるのは自分だけではない」と感じられることがあります。無理に話す必要はありません。

通院していれば、自助グループには行かなくてもいいですか。

通院・薬物療法と自助グループは、役割の違う支えであり、どちらかがどちらかの代わりになるものではありません。研究では、自助グループに参加した人のほうが、参加しなかった人よりも断酒を続けられる割合が高いことが報告されています。ただし合う・合わないには個人差があるため、参加のしかたは主治医と相談しながら決めていくのがよいでしょう。

家族だけで参加できる自助グループはありますか。

あります。アルコール依存症のご本人を支えるご家族のためのグループが、本人向けのグループとは別に活動しています。家族自身が経験を分かち合い、対応のしかたを学び、自分の心の健康を守る場として利用されています。

近くに自助グループがない場合はどうすればいいですか。

近年はオンラインで参加できるミーティングが広がっており、自助グループのない地域や、外出が難しい状況でも参加しやすくなっています。オンライン参加をきっかけに、のちに対面のグループにつながる方もいます。どんな参加のしかたが合いそうかは、主治医にもご相談ください。

このテーマの記事を探す

症状や困りごとから探し直す

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約