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市販薬のオーバードーズ――飲んだ直後の症状と、減らしたときの離脱

咳止めや風邪薬を、決められた量より多く飲んだ。飲んだ直後は少し楽になった気がしたのに、あとから吐き気やふらつきが来て怖くなった。あるいは、しばらく続けてきた薬を減らしてみたら、これまでになかった不調が出て、「これは何なのだろう」と戸惑っている――この記事は、そういう状態にいる方に向けて書いています。

先に一つだけ。いま、意識がもうろうとする、呼吸がおかしい、けいれんが起きている、呼びかけても反応が鈍い――そうした状態が自分や近くの人に起きているなら、この先を読むより前に119番へ連絡してください。飲んだ薬の箱が手元にあれば、救急隊にそのまま渡してください。それが最も確実な情報になります。

ここから書くのは、市販薬を多く飲んだとき体の中で何が起きるのか、という話です。「飲んだ直後に起こること(急性中毒)」と「使い続けたあとに減らすと起こること(離脱)」は、似たようにつらくても別の仕組みで起こります。この二つを分けて理解しておくと、自分の体に起きていることが少し整理でき、医療者に相談するときにも話しやすくなります。市販薬のオーバードーズがなぜ広がっているのか、家族はどう関わればよいのかといった全体像は別の記事にまとめていますので、この記事では体に起きることだけを扱います。なお、内容は精神科の専門誌に載った市販薬乱用の総説と、自傷・過量服薬についての解説書を下敷きにしています。

「市販薬だから安全」とは言えない理由

薬局で誰でも買える薬なのだから、多少多く飲んでも大したことにはならない――そう感じている方は少なくありません。けれど、市販されているかどうかと、多く飲んだときに安全かどうかは、別の問題です。

乱用の対象になりやすい市販薬は4種類あります。咳止め(鎮咳去痰薬)、風邪薬(総合感冒薬)、解熱鎮痛薬、そして鎮静薬です。そして、これらの多くは単一の成分ではなく、複数の成分を組み合わせた配合薬です。日本の市販薬は諸外国と比べても配合される成分の数が多く、このことが、多く飲んだときに何が起こるかを一層読みにくくしています。

たとえば咳止めの一部には、ジヒドロコデインという弱いオピオイドが含まれています。同じ製品に、抗ヒスタミン薬やカフェインが一緒に入っていることも珍しくありません。こうした組み合わせは、依存性や中毒症状を複雑にします。動物実験では、ジヒドロコデインに抗ヒスタミン薬が加わると、精神的な依存の生じやすさが著しく強まることが報告されています。両方を含む咳止めを大量に飲んで、全身のけいれんと重い代謝の異常を起こした症例の報告もあります。また救命救急の現場からは、市販薬による急性中毒で命にかかわる量に達している成分として最も多いのはカフェインだ、という報告が出ています。咳止めや風邪薬で危ないのはオピオイドの部分だけ、という単純な話ではないのです。

成分が多いということは、体に異変が起きたとき、どの成分が原因なのかを特定するのが専門家にとっても容易ではない、ということでもあります。ましてや飲んでいる本人が、「この製品のこの量なら、自分の体はこう反応するはずだ」と予測することはできません。同じ製品でも、その日の体調、お酒やほかの薬と一緒かどうかで、現れ方は変わります。お酒や処方薬との併用は、危険をさらに大きくします。「何錠までなら大丈夫」という線は、誰にも引けないものだと考えてください。

飲んだ直後に起こること――急性中毒

規定量を超えて飲んだあと、体に起こる反応が急性中毒です。

ジヒドロコデインを含む咳止めを例にとると、過量に飲んだ場合には、呼吸が浅く弱くなる(呼吸抑制)、意識がもうろうとする・呼びかけに反応しなくなる(意識障害)、けいれん、ひどい混乱(錯乱)、血圧の低下といった症状を引き起こす可能性があります。これはこの成分を含む薬についての説明であって、どの市販薬でも同じ症状が出るという意味ではありません。ただ、どの製品であっても共通して言えることがあります。呼吸と意識にかかわる異変は、家で様子を見ていて解決するものではない、ということです。

もう一つ、薬の作用そのものとは別の危険があります。嘔吐です。過量に薬を飲むと吐くことがよくありますが、意識がはっきりしない状態で吐くと、吐いたものが喉に詰まって窒息することがあります。過量服薬で命を落とす経緯として、これは決して珍しいものではありません。「薬の量はそれほどでもなかったから」という感覚と、実際の危険は一致しないのです。

さらに、薬で酔ったような状態は、判断力を鈍らせ、衝動的な行動のハードルを下げます。飲んだ時点では考えていなかった、より危険な行動につながることがあります。

急性中毒の怖さは、症状の一つひとつよりも、結果を自分で操作できないところにあります。楽になりたかっただけでも、死ぬつもりで飲んだのでも、あるいはその中間の、自分でもよくわからない気持ちで飲んだのでも――体の中で起こる化学反応は、飲んだ人の意図を汲んでくれません。だからこそ、意図がどうであれ、体に起きていることへの対応は同じです。意識・呼吸の異常やけいれんがあれば119番。そこまでではないけれど不安が残るなら、診察で相談する。それだけです。

使い続けたあと、減らしたときに起こること――離脱

急性中毒とはまったく別の時間軸で起こるのが、離脱です。

ジヒドロコデインのようなオピオイド系の成分を続けて使っていると、体がその成分のある状態に適応していきます。これが身体依存です。身体依存が生じたあとで急に量を減らしたり、やめたりすると、適応していた体のバランスが崩れて、さまざまな不調が現れることがあります。これが離脱(退薬症候)です。大事なのは、これは連用のあとに起こり得る反応だということです。一度多く飲んだだけで誰にでも起こるものではありません。

離脱で起こり得る症状は、多彩です。あくびやくしゃみが止まらない、涙や汗が出る、といった一見風邪のような症状。吐き気・嘔吐・下痢・腹痛。頭痛。眠れない、強い不安。手のふるえ(振戦)。全身の筋肉や関節の痛み。呼吸が速くなる。重い場合には、時間や場所の感覚が混乱するせん妄が起こることもあります。

ここに挙げたのは「起こり得るものの例」であって、チェックリストではありません。この中に自分の症状がないから離脱ではない、とも、この中の症状があるから離脱だ、とも判定できるものではないのです。実際、離脱の症状は、もともと抱えていた不眠や不安の悪化とよく似た形で現れますし、体の病気とも紛らわしいことがあります。いま起きている不調が、元からの不調なのか、薬の影響が残っているのか、減らしたことによる離脱なのか――この区別は、使用の経過を聞き取りながら診察で行うものです。

そして、症状の内容にかかわらず言えることが一つあります。減らすとつらくなり、再び使ったあとに変化があったことも、身体依存や離脱が関係しているかを診察で考えるための大切な情報です。それは意志の弱さの証明ではありません。減らし方そのものを、医療者と一緒に考える段階に来ていると受け取ってください。

なぜ市販薬に手が伸び、やめられなくなるのか――その背景には多くの場合、つらさを自分で手当てしようとする心の仕組みがあります。この心理的な側面は「自己治療」としての依存で詳しく書いています。

相談するとき、何を伝えればいいか

急性中毒・離脱・元からの不調は、外から見た症状だけでは区別しきれません。医療者が診察で頼りにするのは、時間の流れです。使う前はどんな状態だったか。使っている間に何が起きたか。減らしたり止めたりしたあと、どう変わったか。再び使ったとき、どうなったか。この時間軸がわかると、いま体で起きていることの見立てが立てやすくなります。

読者の側から言い換えると、伝えるべきことは4つです。使った製品の名前(覚えていれば。パッケージの写真でもかまいません)。使っていた時期とおおよその経過。飲んでいる間と、減らしたあとに起きた症状。お酒やほかの薬・サプリメントとの併用の有無。正確でなくてよく、思い出せる範囲で十分です。医療機関は、あなたを叱るためではなく、この情報から体を守るために話を聞きます。

当院は18歳以上を対象とする精神科・心療内科のクリニックです。市販薬の使用の背景にある、うつ・不安・眠れない・トラウマに関連する不調といったご相談は、当院の診療範囲ですので、ためらわずにお越しください。初診では、服用中の市販薬やサプリメントも確認しています。一方、依存症そのものが主なお困りごとである場合、当院では専門治療を行っておらず、専門の医療機関をご自身でお探しいただくことになりますが、必要に応じて紹介状(診療情報提供書)を作成します。ご本人が受診に同意されたうえでの、ご家族の同席は可能です。

過量服薬は、自傷という側面から理解したほうが見えやすくなることもあります。自傷との関係や、家族としての受け止め方は自傷の理解と回復をご覧ください。

まとめ

市販薬でも、過量摂取による急性中毒は起こり得ますし、成分によっては、続けて使ううちに身体依存と離脱が起こり得ます。服用後に意識・呼吸の異常やけいれんが現れている場合は、製品を問わず119番へ。配合薬である市販薬で何がどう起こるかを、本人が予測することはできません。それ以外の心配や「減らしたい」は、製品名と時期を添えて診察で。体に起きたことをそのまま話せる場所につながることが、いちばん安全な対応です。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『精神科治療学』第37巻7号(星和書店、2022年)市販薬乱用に関する総説
  • 松本俊彦監修『自分を傷つけてしまう人のためのレスキューガイド』(法研、2018年)
  • 松本俊彦・小林桜児・今村扶美『薬物・アルコール依存症からの回復支援ワークブック』(金剛出版)

よくある質問

市販薬なら、たくさん飲んでも処方薬より安全ですか?

いいえ。市販薬でも、過量摂取による急性中毒は起こり得ます。服用後に意識・呼吸の異常やけいれんが現れている場合は、製品を問わず119番へ連絡してください。市販薬は複数の成分を含む配合薬が多く、どの成分がどう働くかを本人が予測することはできません。「この量までなら安全」という線引きもできません。

多く飲んだのは数日前で、いまは何ともありません。もう平気でしょうか?

症状が出ていないことは、影響がなかったことの証明にはなりません。また、使い続けていた薬を減らしたあとの不調(離脱)は、時期がずれて現れることがあります。いま症状がなくても心配が残っているなら、そのことをそのまま診察で相談してかまいません。

減らすとつらい症状が出ます。自分で我慢してやめるべきですか?

我慢比べにする必要はありません。減らしたときのつらさは、体が薬に適応したあとに起こり得る反応で、意志の弱さではありません。どの製品をいつ頃からどう使っていて、減らすと何が起こるかを医療機関に伝え、一緒に進め方を考えるほうが安全です。

病院で叱られませんか? 何を話せばいいですか?

叱ることは診療の目的ではありません。伝えていただきたいのは、使った製品の名前、使っていた時期、飲んでいる間と減らしたあとに起きた症状、お酒やほかの薬との併用の有無です。正確でなくても、覚えている範囲で十分です。

意識がもうろうとしている人がそばにいます。どうすればいいですか?

意識や呼吸がおかしい、けいれんしている、呼びかけへの反応が鈍い――そうした様子があるときは、様子を見ずに119番へ連絡してください。飲んだ薬の箱やパッケージが手元にあれば、救急隊にそのまま渡してください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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